赤目のヒーロー   作:ささやく狂人

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本物として

『Bチーム対Jチーム。訓練開始』

 

訓練開始を告げる無機質な音声を敏感なウチの耳が拾う。

 

ウチが今ここにいるのは最上階の一室。壁を登ってくるなんて方法は取れないだろうし、単純に入り口から最も遠い場所に置いて時間を稼ぐ。

 

ただ、ウチらの狙いは時間切れじゃなく“ロープでの拘束”。せっかく瀬呂という有利な個性持ちがいるのなら拘束も視野に入れて行動できる。核の周辺にはテープが張り巡らされて、一応の為の時間稼ぎにもなっている。

 

こちらの作戦は潜伏しているであろう九ノ瀬は放置。ウチが切島を見つけて2人ががりで拘束。その間にテープによる時間稼ぎで九ノ瀬を抑え、3対1の構図に持っていく。これが、勝ち筋。

 

部屋の入り口付近に立つウチは試験開始と同時に行動を始める。“イヤホンジャック”を壁にくっつけ些細な音でも拾う。テープで罠を張っている2人の足音は瀬呂と上鳴だ。作戦通り共に行動してるのを確認して他の音を探す。これがウチの出来る精一杯の索敵。

 

…。

 

『どうだ?耳郎?』

 

索敵に期待する瀬呂からの通信。耳を澄ませている時だったので少し響くが、何とか返す。

 

「…ダメ。アンタら以外には聞こえない。これ、まずいかも」

 

薄々嫌な予感はしていたが、ウチの個性が通用しなかった事を認めざるをえない。『姿を見えなくする』と聞いていた時は何とかなると思っていたけど、考えが甘かった。

 

「…作戦変更!帰ってきて!」

 

思わず歯ぎしりしながら、撤退の指示を送る。

 

『姿を見えなくする』個性じゃなかった。正確には、『周りのモノ全てを隠す』なんだろう。

 

ウチの個性で音が拾えないって事は、多分九ノ瀬は()()()()()()。さらに、パートナーである切島の足音も聞こえない。それはさらに、()()()()()()()も隠す事もできる事を意味している。判断が早すぎるかもしれないが、切島の個性は“硬化”。音が出ないのは不自然過ぎる。

 

未だ底が知れない九ノ瀬遥の個性に怖気づきそうになる。索敵不可能の『隠す』個性。はっきりいって強すぎる。

 

“触れれば解除される”らしいので質量を持つ。つまり透過とは違う事から、バリケードを作り通り道を塞げば対策はできるが、その為の瀬呂は撤退せざるを得ない。有効な対抗策は思いつかない。

 

バリケードを作りに入り口方面へ進んでいた2人が撤退を始めているのを確認する。

 

『瀬呂、バリケードの調子は?』

 

『…3階から4階の階段には貼ってある。絶対通る道だから、一瞬だけでもテープを破壊する音が鳴るかも知れない』

 

“切島の足音すらも消す”個性だ。“テープ”を破壊する音すらも聞こえない可能性は充分にある。あまり期待できそうにない。

 

とにかく部屋の入り口に瀬呂が置いていったテープを貼りバリケードを増やす。時間を稼いで3対2に持っていくのが最優先。

 

くそ。『見えなくなる』個性が想定していたよりも上をいく。考えていた対策が意味をなさない。九ノ瀬だけでなく切島すらも探せないのはかなり痛い。

 

その瞬間。突如として耳に届く4つの足音。4つーーーーそれはつまり。

 

『ーっ!しまっーー!』

 

『ーーー先手取られたからって焦りすぎだよ…ねぇ?耳郎さん?』

 

 

 

 

お茶目な通信を終わらせ、ロープで縛られた瀬呂君を見下ろす。

 

「…ふぅ」

 

僕の考えた作戦は至ってシンプル。『目を隠す』で切島君と一緒に核の元へ突っ走る。これだけだ。

 

前も言ったが、『目を隠す』は、自分や一定の範囲内にいる対象者の存在感を極限まで薄くし、周囲から認識されないようにすることができる能力だ。そしてこの隠す対象というのは“音”も同様。耳郎さんの個性で索敵するのは不可能だ。

 

比較的早い段階で瀬呂君と上鳴君を見かけた時はその時に奇襲するのも良かったが、核の元へ戻るような素ぶりが見えたのであえて泳がせておいた。核を探す時間短縮にもなるだろう。

 

4階に向かう時点で最上階の5階にある事は予想がついたので奇襲をしかけた。

 

もちろんヴィランチームで最も厄介な個性『テープ』を持つ瀬呂君を優先。個性の関係で懐に潜り込まれたら抵抗が難しい彼は為すすべなくロープによって手首を拘束された。その間上鳴君は切島君が抑えてくれている。といっても、瀬呂くんの拘束は一瞬で終わったが。

 

残りの上鳴君は後退しながらも切島君の猛攻に耐えている。“硬化”という近接戦闘に強い個性による奇襲だ。それでもまだ耐えているというのは中々感嘆する所がある。

 

僕はトドメに上鳴君に向かって『目を奪う』を発動させる。僕に“目を奪われた”上鳴君は大きな隙ができる。よそ見という大きな隙を切島君が見逃すはずもなく、大振りの拳で気を失わせる。

 

確実に気を失った事を確認した僕はロープで彼の手首を縛る。意識が無いのなら電気を恐れる必要もないから、この作戦は正解だった。

 

そこで、口を開こうとする瀬呂君の姿を目にする。僕はそれを彼の“テープ”で阻止する。皮肉な事に自分の“テープ”で口を塞がれ目を白黒させる瀬呂に向かって、僕は笑う。

 

「…戦闘不能扱いだよ、ヴィランさん」

 

耳郎さんの援軍が来るかも、とは思ったが、こちらに向かう途中で『目を隠す』を使われたら詰むのは確実だ。中々に聡明だな。

 

しかし、これで3対2から1対2。見事な形成逆転だ。

 

ヴィランチームは僕の個性が姿だけでなく音を消すことに気づいて撤退したのだろう。しかしそれは悪手だ。

 

『最初から最後まで核のある部屋で数の利を生かす』僕が敵ならそうする。『目を隠す』の対策はそれしかないのだ。テープを破壊する瞬間をリスクなく確認できるのは核のある部屋だ。つまり、『隠す』を認識できる最大のチャンス。

 

これをせずに核から遠ざかった理由。それは多分、()()()()()()()()が無意識に残っていたんだろう。

 

 

ーーーー「核を本物として見ているなら」

 

ーーーーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

“帯電”という電気を完全にコントロールできない個性。

まぁ、これを無意識に思い込んでしまったのか単純なミスかどうかはわからない。ただ、このお陰で上鳴君は核から離れる。そしてそれは絶対的なチャンス。

 

「…さぁ、行こうか切島君」

 

「奇襲なんて卑怯だと思ってたけど、良い作戦だな!」

 

「単純だね」

 

悔しそうな瀬呂くんの視線を受け流し、僕らは核のある部屋を目指す。

軽く話しながらも小走りに5階へ向かう。そして、僕らはテープが入り口に貼られている部屋を見つける。

満遍なく貼られているから部屋の様子は見えないが、これでは『隠す』でこっそりと突破する事は不可能になる。

 

というわけで、やってやれ。切島君。

 

「ーーーーオッシャァァ!」

 

『硬化』を発動させながらテープの壁に突っ込む切島君。

 

続けて部屋に入ると耳郎さんの悔しそうな顔を目にする。たしかに、この戦力差では手の打ちようが無いだろう。ただ、目は死んで無い。まだ諦めてないことを悟り、油断を無くす。

 

僕の姿を見た途端、視線を僕に集中させる耳郎さん。不覚にもちょっとドキッとした。しまった、油断した。

 

…じゃなくて、多分『目を隠す』対策だろうか。どこから聞いたかは知らないが、こちらの『能力』の情報はある程度知っているようだ。まぁ、もう『隠す』必要はないのだけども。

 

…それに、現状では好都合だ。男2人で耳郎さんをリンチする趣味は無い。なので、僕はその耳郎さんの視線を真っ直ぐに見返し、『能力』を発動させる。

 

ーーーー『目を合わせる』

 

真っ赤に染まった瞳が耳郎さんの目を見据える。その瞬間、耳郎さんはピクリとも動かなくなる。固まったように。まるで石になったかのように。

 

これが、『目を合わせる』だ。

究極的に言えば目を合わせた者を石化させる。ただこの『能力』の本当の持ち主は()()()()()だ。“偽物”の僕では本当の効果は発揮できない。

 

僕の劣化版『目を合わせる』は約4秒、相手の動きを止める。持続時間が短い上に()()()()()()()()()()()()()()()のが1番の難点だ。

 

ただ、この場合だと最適な『能力』だ。『隠す』を防ぐ為に自ら目を合わせて来る耳郎さんとは楽に『目を合わせる』事ができる。そしてこの部屋で唯一動く事の出来る人物は僕の心強い味方だ。

 

見つめ合う僕らの沈黙の4秒間の間に、切島君は核に触れる。

 

ーーそして、訓練終了を告げる無機質な音声が、僕の耳に届いた。

 

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