赤目のヒーロー   作:ささやく狂人

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向上心

「“姿を消す”個性をフル活用しての奇襲。近接戦闘に強い切島さんと近接戦闘に持ち込む九ノ瀬さんのコンビネーションは見事でしたわ。上鳴さんは狭い通路だったので電気を広範囲に伝えることでまだ挽回の余地はあったと思いますわね。作戦を切り替えるという迅速な判断は良かったのですがそれに対応しようとする焦りが2人に見えてしまったのが今回のウィークポイントでーーーーー」

 

…ホントに真面目だなぁ。

 

今は僕らの戦いの講評タイム。前回と同じく八百万さんの独壇場である。オールマイトが寂しそうな顔をしてるが、気を取り直すように言葉を引き継ぐ。

 

「…まぁ、そうだね!九ノ瀬少年の個性が今回の訓練では強すぎた感じだ。Jチームが後手に回りすぎたという側面もあるが、先手を取れたとしてもこのケースで勝つことは難しい」

 

今回のMVPは九ノ瀬少年だ!と締めくくり、次のチームへ準備を促す。褒められ過ぎて照れ臭いが、悪い気はもちろんしない。口元がニヤっとしてしまいそうなのを堪え、次の組み合わせを見る。

 

ヒーローチームC;轟・障子

 

ヴィランチームI:尾白・葉隠

 

昨日少し仲を深めた轟君がヒーローチームだ。相方は怪力の障子君。対するヴィランチームは尻尾が特徴の尾白君と、透明ガールの葉隠さんだ。

 

葉隠さんがヒーローチームなら有利に事を進められたけど、残念ながらヴィラン役だ。戦闘に不向きなのは厳しいだろう。

 

そして注目は轟君だ。推薦入学者だからというわけでは無いが、昨日の個性把握テストでも本気には見えなかった。まだ力を隠している印象だ。

 

さて、お互いどんな手を使ってくるか。

 

ワクワクしていると誰かからの視線を感じる。そちらの方向を見ると爆豪君の姿。

 

一瞬目が合ったと思ったらすぐ目を逸らされた。さっきからこんな事が続いている。何か用があるようには見えないけど。

 

不思議に思っていると、スピーカーから訓練開始の音声が流れたので、モニターに集中する。

 

ーーーもっとも、勝負は一瞬でついたが。

 

 

 

 

「ーーそれじゃ、ワタシは緑谷少年に講評を伝えてくる!さらばだ!」

 

あの後も特に大怪我なく、全ての組み合わせを終わらせた。こうして最初のヒーロー基礎学は何故か急ぐようなオールマイトの背中で幕を閉じた。

 

昨日の個性把握テストに加え、今日の戦闘訓練でクラスメイトの個性を大体把握する事が出来た。今回で意外に思ったのは、緑谷君の『超パワー』と、轟君の『半冷半燃』だなぁ。2人とも想像以上のポテンシャルを秘めているし、それが成長すると僕に匹敵するレベルになるだろう。

 

ーーまぁ、それでも僕には敵わないだろうけど。

 

少し考え込んでいると今日の親友(パートナー)である切島君から声をかけられる。

 

「お疲れ九ノ瀬!あのさ、これから教室で反省会するんだけど、一緒にどうだ?」

 

反省会か、向上心はヒーローにもってこいだ。さすがヒーロー科。もちろん断る理由が無いので了承し、切島君と更衣室へ向かう。

 

 

 

 

「ーおい、爆豪?どこ行くんだ?」

 

帰りのHRも終えて反省会の準備をする中、切島君の声が教室に響く。聞かれた当の爆豪君はこちらを見ないままドアを開ける。僕からでは表情が見えない。

 

「…ぅっせぇな。帰る」

 

「お、おい?」

 

切島君や麗日さんが引き止めようとするものの、それを無視して歩きを進める。

 

ヒーロー基礎学の訓練以降、爆豪君の様子は明らかにおかしい。入試の頃の自尊心がナリを潜めているようで、恐ろしく静かだ。それに僕への対応もおかしいし、余計なお世話かもしれないが追いかける事を決意した。

 

切島君に断りの言葉をかけ、僕は爆豪君を追いかける。

 

切島君は「ダチの為なら仕方ねぇな!へへ!」なんて言ってたけどなんか違う気がする。爆豪君とは友達では無い。

 

ーーというか、僕は爆豪君から嫌われているような気がする。これまでの反応からして。

 

少し広い校舎に迷ってしまい、爆豪君は思ったより先に進んでいた。校門へ進む背中をやっと見つけ、小走りに近づき、背中に触れようとしたその時。

 

「ーーーーーかっちゃん!」

 

微かな声を僕の耳が拾って、振り向く。

そこにはギプスで右腕を固定した緑谷君の姿。リカバリーガールに治療してもらえなかったのだろうか。

 

爆豪君に聞こえていないと判断した緑谷君はさらに近づき、もう一度呼びかける。

 

「ーーーかっちゃん!」

 

後ろで身体を振り向かせる気配がする。爆豪君は無言で緑谷君を睨みつける。

 

「あぁ?」

 

…………うん?何かがおかしい。

 

緑谷君が2回も呼びかけた名前に僕が無かった事。爆豪君が振り向いた先のすぐ近くにいる僕へのノーリアクション。

 

まるで僕の姿が見えていないかのようで。

 

一体何が起こっているのかと頭をフル回転させている中、緑谷君は言葉を続ける。

 

「…僕の個性は、人から授かったモノなんだ」

 

「は?」

 

意味不明な状況で意味不明な事を告げる緑谷君。思わず僕の口から声が漏れる。

 

そしてそんな僕の声が、『隠されている』事に気付いた。

 

ーーーー悲しい気持ちだと稀に暴発する…。

 

ーーーー僕は爆豪君から嫌われているような…。

 

…何をやってんだ僕は。すぐさまその場から離れて彼らの声から耳を塞ぐ。頭が痛い。あの程度で入試の時の様に『隠す』が暴発した?そんなバカな。

 

それに緑谷君のあの表情。真剣な顔で嘘を言っているようには見えない。いや、この事は忘れろ。結果的に盗み聞きだ。そんな中どこかの公園で聞いた“個性を与える個性”というのを思い出す。

 

瞬間。僕の頭から()が響く。それは蛇の高笑い。僕の悲しい気持ちが引き金(トリガー)だったのだろうが、()()()の力も加わっていたのかもしれない。

 

ただ、『冴える』がこんな事をした意味が理解できない。そんな中でも、コイツがこの世界の真実に辿り着く材料を見つけたような感覚はする。賢くて狡猾な『冴える(ヴィラン)』には見えているものが、(ヒーロー)の目では見えていない。

 

校門を出て壁によりかかる。酷い頭痛だ。とにかく『冴える』を抑える事に集中してーーーーーー

 

『…そんだけ!』

 

口論がヒートアップしたのか、爆豪君の声が微かに聞こえる。

 

『…氷のヤツ見て敵わねぇんじゃって思っちまった!』

 

『…くそッ!ポニーテールのヤツの言うことに納得しちまった!』

 

目を押さえつけて精神を集中させる。蛇を飼い慣らせ。

 

『…入試の時も今日も!赤目野郎の個性には敵う気がしなかった!』

 

そんな彼の叫びを聞いて、僕の赤く染まった目は落ち着きを取り戻す。次第に頭痛も消えていく。

 

『くそが!くそッくそッ!てめぇもだデク!』

 

『ーーーこっからだ!俺はこっから!俺はここで1番になってやる!』

 

そんな涙声を聞いて、僕はその場を離れる。背後からはオールマイトの声が聞こえるが、僕は歩きを止めなかった。

 

ーーなんだよ。ただのライバル心か。

 

僕に対する妙な反応の納得がいき、嫌われてる訳ではないと安心する。盗み聞きになってしまったのは申し訳ないけど、僕も今ので火がついた。

 

『こっからだ!俺はこっから!俺はここで1番になってやる!』

 

…1番、か。それはオールマイトをも超えるという事。結構な向上心だ。カッコいいヒーローの本質。

 

「……ま、そこを譲る気はないけどね」

 

そう小さく呟いた僕は目を細める。ライバルの登場を喜ぶように、その目は赤く輝いていた。

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