波乱の初ヒーロー基礎学の翌日。もう慣れた通学路をいつものように歩き、校門前に着くと、何やら騒がしい。というか人が集まっていて邪魔である。
「オールマイトの授業はどんな感じですか?」
「あっ…すみません僕保健室に行かなきゃいけなくて…」
「平和の象徴が教壇に立っている様子を聞かせてくれる?」
「え~っと…筋骨隆々!です」
うわぁ…。どうやらマスコミの人が教師としてのオールマイトについて質問攻めしているようだ。もう既に囲まれている緑谷君と麗日さんには申し訳ないが、見捨てさせてもらおう。
マスコミは幸いまだこちらに気づいていない。というわけで僕は『目を隠す』を発動し、他人から視認されない状態となった。
あとはマスコミに触れられない様に気をつければ特に問題なく教室まで辿り着けるはずだ。と、そこでうんざりした顔でマスコミを遠くから見ている耳郎さんを見つけた。
どうやら彼女も困っているようだったので、一旦『隠す』を解除して話しかける。
「おはよう、耳郎さん。一緒に教室まで行かない?」
こちらに気づいた耳郎さんは挨拶を返す。
「おはよ、九ノ瀬。それはいいけど、マスコミが邪魔なんだよね…」
それに関しては問題無い。時計を見るとそろそろ教室に着いておきたい時間だ。
「えーっと、それじゃ、僕から離れないでね」
「ーーちょっ⁉︎」
僕は耳郎さんの腕を軽く引っ張り密着する形を作る。頰を赤く染めて慌てる耳郎さんの目が、僕の赤く光る目を見る。それを見て素早く理解した耳郎さんは黙って僕の隣で歩き出した。やはり頭が良い。
まぁ、声すらも遮断するから黙る必要は無いんだけど、なんとなく気恥ずかしいので、ちょっとこれは仕方ない。鼓動が速まる感覚はあるが、それも気にしない。
一定範囲『隠す』事ができる『目を隠す』でも、実はこの一定範囲というのが狭いのだ。僕を中心として1m弱と言った所だろうか。1人2人程度しか隠せない上に密着しなければ使えないように“僕の身体”ではなっている。
心の中でそんな言い訳をしながらも僕らは教室へ向かった。…飯田君がしっかりと答えているので記者の注目はほとんど向こうだ。助かった。
☆
無事教室へ辿り着き相澤先生による朝のHRが行われる。
「昨日の戦闘訓練、お疲れさん。VTRと成績見させて貰った」
そして爆豪君を見て言葉を続ける相澤先生。
「爆豪。お前もうガキみたいな真似するな。…能力あるんだから」
「…わかってる」
ぶっきらぼうな爆豪君の返事を確認した相澤先生は、後ろの緑谷君を見る。
「で、緑谷は。また腕ぶっ壊して一件落着か。“個性の制御”。いつまでも出来ないじゃ通させないぞ。俺は同じ事を言うのは嫌いだ。そこさえクリアすればやれる事は多い。…焦れよ、緑谷」
「…!はいっ!」
緑谷君の嬉しそうな返事を確認した相澤先生は更に後ろにいる僕を見る。え、僕?問題児2人の流れで僕?
「そして九ノ瀬。昨日勝手に帰っただろ。今日の昼休みにでも“個性”について詳しく教えろ、わかったな」
あ。すっかり忘れていた。個性把握テストの時教えるって言ってたなそういえば。
「了解です」
聞き分けの良い返事をしてこの話題は流れる。
「そんじゃ、HRの本題だ。急で悪いが今日は君らにーーーー」
嫌な予感を感じ取らせる一拍。また何か臨時テストかと身構えた僕らに、相澤先生は告げる。
「ーーーー学級委員長を決めてもらう」
嫌な予感を裏切られて安堵したのも一瞬。1番後ろの僕の視界は、沢山の腕で埋め尽くされた。立候補の嵐だ。
……これはちょっと収集がつかないな…。
☆
「僕、3票⁉︎」
他を牽引する立場だから信頼ある者というわけで“自分投票アリの投票形式”となった。飯田君の発案でやっと話が進む。
ちなみに僕は自分投票しておいた。
そして明かされた投票結果。緑谷君3票、八百万さん2票という事で決定したようだ。まぁ悪くない人選だろう。
「良いんじゃないかしら」
「緑谷は何だかんだアツイ男だしな!八百万は講評の時かっこよかった!」
他の面々も特に不満はないようで、今日のHRは問題なく終了した。
☆
そして昼休み。
朝のHRで言われた通り僕の“個性”ーーー『能力』について教える時間だ。相澤先生に呼び出された会議室へ行くと、そこにはオールマイトと相澤先生がソファに座っていた。
「やぁ九ノ瀬少年!私が来てるよ!」
「あ、はい。オールマイトも一緒に聞きますか?」
自分で聞いといてそりゃそうか、と納得する。グラントリノさんとの件もあるし、僕の『能力』について聞きたがるのは当然だ。オールマイトが頷き、僕が向かいのソファに座ったのを見て相澤先生は僕に話を促す。
「そういうこった。座っていいぞ。…そんじゃ、早速説明してくれ。お前の個性、『目を
ーーちゃんとどこまで打ち明けるかのラインは決めてある。学校側が僕の『能力』を把握しておきたいのと同時に、僕も
「はい。『目を
“蛙”の例で言うと舌を伸ばしたり壁にくっついたりするなどの多様な可能性を持っている。それが異形系。
だからここでは、そのパターンとして説明する。とりあえずここを理解してもらわないと話が進まないのだ。
「…“蛇”の出来ることが消えたりハッキングしたりするって事かい?納得はできないね」
一瞬。「あなたには納得が必要なんですね」という喧嘩腰な発言が思い浮かぶがオールマイトは何も間違ったことは言ってない。たとえ向こうから何も教えてくれないとしても。
「…厳密に言えば細かい違いはありますが、その類いと納得してほしいです」
いつものにこやかな表情を崩さないオールマイトに、相澤先生が言う。
「…俺の『抹消』が効かないって事は“異形系”と見ていいでしょ。オールマイトさん。話進めていいですか?」
オールマイトが僕について疑ってる事を知らなかったのか、不思議なモノを見るような目で相澤先生がオールマイトを見る。
てか『抹消』使っていたのか。幸運にもそれで信憑性が増した。異形系が消せないのも新たな情報だ。
なんにせよ相澤先生の助け舟はラッキーだ。遠慮なく話を進めてもらおう。
「…つまり、『目を
僕は相澤先生にメモを差し出す。メモにさっと目を通し、『能力』の多さを見た相澤先生が口を開く。
「なるほど、合理的だな」
「えぇ、全部説明してたら昼休み終わっちゃいますし」
というか、まだ昼食をとってないのだ。早く本題を終わらせて食堂へ行きたい。
オールマイトもそのメモを覗き込み、驚きの表情を貼り付ける。それを確認した僕は本題に入る。相澤先生の目的は達成したが、僕はこっからだ。
「…この『冴える』ってのは他と違うようだね?」
オールマイトが僕に聞く。そう、それが本題。自我を持つ蛇。
「はい。簡単に言えば、僕は二重人格で、もう1人の僕は
多分この説明が1番手っ取り早い。
オールマイトと相澤先生の表情が変わる。流石プロヒーローだ。
「…まだ僕はこの『冴える』を完全にコントロールできていません。だからもし、『冴える』が現れた時には、僕をヴィランとして扱ってください」
これが、本題。最近の『冴える』は頻繁に行動している。多分いつか、本格的に目を覚ます。その時にプロヒーローに僕の事情を知ってもらわないと、対応に遅れる。人を傷つける。それじゃダメなんだ。
雄英高校という数多のプローヒーローを輩出してきたと同時に、数多のプローヒーローが在籍しているここは、『冴える』にとって檻同然だ。
「できれば他の教師の方にも伝えて欲しいです。端的に言えば、監視して欲しいです」
オールマイトをちらりと見る。“監視して欲しい”発言は、僕の本心であると同時に、僕の疑いを晴らす事にも意味する。
入試の時、『冴える』は僕を助けた。それはつまり、雄英高校でやりたい事があるわけだ。その望みは予測できないが、
雄英高校。冴えるにとってここは、下手な刑務所よりよっぽど地獄なはずだ。
伝えたい事はこれで終わり。これで安心、というわけではないが、少し肩の荷が下りた。
僕の話を理解し受け入れた様子の相澤先生が口を開く。
「…俺は同じ事を2回言うのは嫌いだ。今日の朝緑谷に言った事を覚えてるな?」
『“個性の制御”。いつまでも出来ないじゃ通させないぞ』
僕は相澤先生の朝の言葉を思い出す。
「わかってますよ」
いつかこの“蛇”を飼いならす。手遅れになる前に。
そして話したい事はお互いに終わったようなので、帰る素ぶりを見せる。
「あ、それじゃあそろそろーーー」
その瞬間。警報が鳴り響く。
相澤先生とオールマイトは立ち上がって顔を見合わせた。
『セキュリティー3が突破されました。生徒の皆さんは、速やかに屋外に避難してください。繰り返しますーーー』
放送によって流された避難命令。ここはプロヒーローの指示に従おうと思って先生方の言葉を待つ。すると、マイク先生が会議室のドアを開けて入ってきた。
「イレイザー!確認したらただのマスコミだったゼ!対応するからついて来てくれ!」
…なんだ、ただのマスコミか…。
一安心した僕を横目に、相澤先生とプレゼントマイク先生は去っていく。
オールマイトと会議室で2人きりになるも、特に話す事は無い。
一礼してその場を離れる事に決めた。
「えーっと、それじゃ、食堂で昼食とってきますね」
オールマイトはいつもの爽やかスマイルで告げる。
「いや、避難中だから食堂は使えないよ?」
あ、マスコミが原因でも避難はするんですね…。お腹減った…。
☆
トボトボと歩き避難していく青年の背中を見る。
「んー!やっぱり、悪い人には見えないよな〜」
そう呟いて、ワタシは彼と反対方向へ走り出し、騒ぎの沈静化に尽力した。