暗闇に放り込まれた感覚も一瞬、僕の身体は投げ出されて、うつ伏せに倒れる。
“火災ゾーン”である事を確認した僕はそこに配置されていた大勢のヴィランを確認した。
『散らしてなぶり殺す』
つまり黒い靄の個性は“ワープ”や“転送”の類。そう判断した僕は咄嗟に『目を奪う』を使いワープさせる対象を僕に集中させた。あのタイミングなら救えても数人だろうが、僕に集中した分“ワープ”される人数は減らせた筈だ。
多人数との戦闘は時間がかかる。ここは撤退の一手。精鋭揃いならまだしも、この程度の有象無象に構っている暇は無い。
「あぁ?なんだよ、ガキ一人か?」
「物足りねぇな」
口から火を吐くヴィラン達が残念そうな顔でこちらを見る。
「…さぁね。黒い靄の人に期待されてないんじゃない?君ら」
ため息をつきながら答える僕。案の定そんな挑発で怒った面々が僕に炎を吐いてくる。
その瞬間に『隠す』を使って彼らからは見えなくなる。そして見えない姿の僕は炎をギリギリで躱して、彼らは僕の姿を見失う。
“火山ゾーン”に有利な個性という事は“火”や“炎”を扱う可能性が高い。炎の使用中はそもそも眩しいので、彼らの視界から外れて『隠す』事は容易だ。
僕の姿を簡単に見失ったヴィランが「燃やし過ぎたか⁉︎」と変な勘違いをしている間に僕は走り出す。
目指すべき場所はセントラル広場。間にある水難ゾーンも気になるけど、広場にいた死柄木って奴とその隣にいた得体の知れないデカブツは危険だ。そんな気がする。
それ以外のヴィランに構ってる暇は無いだろう、主犯を捕らえれば
火災ゾーンのヴィランが慌てふためく声を聞きながら、僕は広場へ向かって走り続けた。
「相澤先生…!」
☆
「ーー教えてやるよ。イレイザーヘッド。そいつが対
抑え付けられた俺の腕をいとも容易くへし折る“脳無”。堪らず叫び声をあげる。
「ーーぐあぁぁっ!」
主犯と思われるガキがそれを見て楽しそうに告げる。
「…個性を消せる。素敵だけどなんて事ないね。圧倒的な力の前では、つまりただの無個性だもの」
“個性”を消してるのにこのパワー。つまり、素の力がこれか…。オールマイト並じゃねぇか…!
そんな事に絶望しながらも脳無は動く。俺のもう一方の腕を砕こうと、太い腕を振り上げる。
……。
衝撃に目を瞑るが、いつまで経っても俺の腕は砕かれなかった。何が起こっているのか確認する為に目を開くと、その視線はある一点に引きつけられた。
会議室で貰ったメモに書いてあった、『目を奪う』
脳無は白髪の少年の姿に“目を奪われ”、俺への攻撃を中断していた。そんな事出来るのはただ一人。
思わず俺は呟く。何故、来たんだ。
「九ノ瀬…!」
「もう大丈夫ですよ、相澤先生。…僕が来ましたから」
そんな事を告げる九ノ瀬の両目は、怒りを表現するような真っ赤な色をしていた。
☆
耳障りな笑い声がする。死柄木弔。
「ーーおいおいおい。この状況を見て飛び込んで来たのかよ…。流石ヒーローの卵。死にたがりだなぁ」
そう告げて僕に拍手をする。そしてどこかを指差す。
「けど馬鹿だな。そこの隠れてる3人の方がよっぽど頭が良い」
死柄木が指差した先に目を向ける。そこにはこちらの様子を伺っていた緑谷君、蛙水さん、峰田君の姿があった。中々早い到着なので、近くの水難ゾーンにいたんだと思う。
その3人の姿を確認した僕は脳無から目を離さないまま叫ぶ。
「安全な場所へ!とにかく僕から離れて!」
あまり3人を庇っている余裕は無い。むしろ、大ピンチだ。
オールマイト並の身体能力を持つ“脳無”と不自然に肘の皮が剥がれている相澤先生から、その類いの個性を持つ死柄木。
この2人を僕1人で捌き続けるかどうか。答えはNOだ。
「…自分1人で何とかなるってか?ナメられたもんだなぁ、カッコいいよ、ヒーロー」
途端に不機嫌になった死柄木。イラついた様子で口を開く。
「脳無、やれ」
ーーー来る。
相澤先生から離れて僕に向かって走ってくる脳無。その動きは速すぎて、目で追えるレベルじゃない。
なので、死柄木の命令の言葉を聞いた瞬間に横っ飛び。さっきまでいた地面が抉れるのを確認する暇もなく、脳無の位置を確認する為に体勢を整える。
顔を上げた先にある大きな拳を身体を捻ってスレスレで躱し、左足を軸にして回転し右足の踵を剥き出しの脳へ直撃させる。
ーーーーーーそれを全く気にした様子も無く、脳無は上がった僕の右足を掴み上げ、僕は逆さまになって宙ぶらりんの状態になる。
脳無は右足を掴んだ手に力を入れて僕の足からメキメキと骨が軋む音がする。
…痛い。痛い。痛い。
途端、右足を掴む手の力が強まる。手加減していたのか、相澤先生が脳無に“抹消”を使っていたのかはわからない。
「ーーーっがぁぁぁっ!!」
小枝を折るように僕の片足を砕いた“脳無”は掴んだ右手とは逆の左手で拳を作る。
それを激痛の中確認した瞬間、拳は振り抜かれ、僕の腹を貫通した。血を口から吐き出す。
「ーーーーーーー」
もう、声も出ない。僕の腹に風穴を開けた脳無は腕を引っこ抜き、僕を投げ捨てる。もう勝負はついたと思ったのだろう。
ーーーーあぁ、確かに。もう、限界だ。
考えることをやめたくなるような痛みの中、僕はそれでも頭を回転させる。
ーーーー使わなくても、勝てたのかな。
最初から、結果がこうなる事はわかりきっていたのだ。『能力』を使わせない程のスピードと反応力、小細工で勝てる筈が無かった。
けど、勝ちたかった。勝てば、
ーーーーけど、もう限界だ。
本当に、つまらない意地を張った。僕はまだまだ子供で、何一つわかっちゃいなかった。
でも、もうなりふり構ってられないだろう?
だって、ヒーローはどんな手を使ってでも人を救うんだから。
そんな言い訳の中、僕の目は赤くなっていく。僕の周りに広がっていく血の色の様な、赤を。
『とにかく僕から離れて!』
ーーーー緑谷君達はちゃんと避難しただろうか。この後危険なのは“脳無”や“死柄木”じゃない、僕だ。
『自分1人で何とかなるってか?カッコいいよ、ヒーロー』
ーーーー違うよ、死柄木。何とかするのは僕じゃない。
『圧倒的な力の前では、つまりただの無個性だもの』
ーーーー“圧倒的な力”に対抗するには、それすらも上回る、“圧倒的な力”が必要だ。
僕は覚悟を決めて、『能力』を発動する。
ーー『目を醒ます』
“目を醒ました”瞬間、僕の身体は
『醒ます』は“身体を“造り直す”能力。僕はこの時、《強い身体》を望んだのでその追加効果として超パワーが生まれる。
そして『醒ます』は、僕の腹にあいた風穴も、粉々に砕けた右足も、全てを“造り直した”。簡単に言えば再生能力だ。
ーーそんな風に僕の身体が元通りになっていくのを確認した、『醒ます』を使ってから4秒ほど経った頃。
僕の思考は唐突に途切れ、蛇に飲み込まれて行く。
『じゃーな、主サマ』
そんな忌まわしい声を聞きながら、僕は久しぶりにあの世界へと辿り着く。