「ーーっがぁぁぁっ!!」
生意気なガキが脳無に蹂躙され始めたのを愉快に見ていると、隣に黒霧がワープして来た。
脳無達から目を離し、黒霧に話しかける。
「黒霧、13号はやったのか」
「行動不能にはできたものの散らし損ねた生徒がおりまして…1名逃げられました」
「……は?」
黒霧の言葉の意味を咀嚼する度に苛立ちが増していく。無意識に首をポリポリと掻いていた。
「オマエ…ワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ…!…さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。あ~あ、今回はゲームオーバーだ。帰ろっか」
ーーーーその前に、白髪のガキでも殺して、平和の象徴としての矜持でもへし折ってやろう。
そうやって脳無に指示を送ろうと目を向けた瞬間。
「………あ?」
叫び声をあげて一瞬固まった脳無を蹴り上げる。そのまま蛇の様に足を脳無の頭に絡み付け首からゴキリと鈍い音を出させる。
すぐさま脳無から離れたガキは右足で脳無を蹴り飛ばし脳無は壁に打ち付けられた煙で見えなくなった。
赤く目を光らせて着地したガキは俺と黒霧に向き直る。その顔は“俺の大嫌いなヒーローの様な、貼り付けたニヤケ面”で、さらに俺を苛立たせた。
「おいおいおい…。対オールマイト兵器だぞ?こんなガキに負けててどうすんだよ…!」
「…死柄木弔。この少年は?」
「知らねぇよ、バケモンだろ」
黒霧の問いに適当に答えている間、白髪のガキはニヤケ面を保ったまま呟いていた。
「…なるほどなぁ。
その内容が意味不明過ぎて、俺は顔をしかめる。
そんな手に隠れて見えない表情を読み取ったのか、笑みを深くするガキ。
「ーーーあぁ。もうオレはお前らに興味無いから、好きにやっテくれよ」
「ーーーーーー餓鬼が」
俺は黒霧に手を突っ込み、黒霧のワープがガキの背後に現れる。そこから出てきたオレの手のひらが奴の肩を掴み、オレの個性が発動する。
ガキの肩の表面は崩れ落ちていき、筋繊維が露わになる。そんな事を気にもとめず、ますます笑顔になるガキに吐き気がしてくる。
そんな中、有能な黒霧が吹き飛ばされていた脳無を正面にワープさせる。その勢いで脳無が繰り出した拳を、溜息吐きながら躱す。
「ーーーなるほどねぇ。“崩壊”か」
一瞬で俺の個性を看破した驚きの中、ガキの崩された肩が治っていく。俺は思わず呟く。
「…お前、“超再生”か」
「ざァんねん。お前は不正解だな」
そう煽りながらも脳無の攻撃を躱し続けるガキ。何故か攻撃に転じないものの、完全に脳無の動きを見切っている事は確かだ。
俺の苛立ちが最高潮に達した時、冷静に黒霧がオレに告げる。
「死柄木弔。幸いな事にあの少年の攻撃は“脳無”に効いていません。“ショック吸収”と“超再生”の賜物でしょうが、時間をかければ少年を倒す事は可能かと…」
そう。たしかに脳無は腹の風穴も首の骨折も完全に修復している。奴が“超再生”に対応出来ないのなら、スタミナ切れを待てばいい。
「へぇ。鋭いなぁ、黒霧…だっけ?いいセンいってるよ」
こちらに話しかける余裕がありながらも、脳無の攻撃を躱すだけと言う事は、自分の攻撃が脳無に効いていない事を把握しているのだろう。
「…けど、時間使ってる間にプロヒーローの応援が来たらゲームオーバーだ。…コイツを無視して帰るぞ」
「はい。少年はこちらに危害を加える気は無さそうですし、それが最善かと」
先ほどの俺の“崩壊”に対して反撃する事は無かった、ということは先程の「興味無い」発言は真実なのだろう。
「…イラつくな。俺らを見逃すってのが。何が目的かもわかんねぇのが気持ち悪い」
脳無をまたも蹴り飛ばし余裕の表情でガキは告げる。
「アぁ?逃げんのかよ。そいつは勿体ねぇだろ。ーーーほら、遅れたヒーローの登場だぜ?」
その瞬間、何かが破壊された音が鳴り響く。その“何か”とは入り口の扉で、砂埃が舞う中その正体が露わになる。
「もう大丈夫…!ーーーー私が来た!」
「…あーあ、コンティニューだ」
脳無との戦闘でウィッグが取れたのか、いつのまにかガキの髪色は白から黒へと変化していた。
そんな妙に似合う鮮やかな黒髪と赤い目を光らせるガキは、耳障りな声で嗤いながら呟いた。
ーー“それだよ、目的は”。
自分の言った言葉を思い出し、“それ”が“コンティニュー”の事だと気づくのに、時間がかかった。
コンティニュー(continue)
継続すること。続くこと。