ーーー僕は、偽物だ。
赤く目を輝かせながら、白い世界にポツンと立ち尽くす。
なんだか夢心地のようで、頭がフワフワする。頭がうまく回らない。
真正面にあるのはテレビだ。この真っ白な空間にあるテレビは、一際異質だった。
うまく思考できない僕の耳に、テレビから流れる“声”が届く。
『ーーーだから、“醒ます”を使えばーーー』
そんな嬉しそうな声を発しているのは、僕だった。これは、僕が『目を醒ます』しか持っていない時の話だ。
『
今となっては本当に懐かしい。
『醒ます』ーーー身体を造り直す能力。
僕は、コレを使って、“
ーーーそうすれば、悲劇は終わる。
現に、悲劇は終わった。世界はループを止め、時は動き出した。
これでみんなが報われる。
そう信じて疑わなかった僕だけど、本当にこれが正解だったのかはわからない。結果的に僕は苦労しているし、『能力』も完全に扱えている訳ではない。当たり前だ、元々僕のモノじゃないのだから。
だから、僕は偽物なんだ。
それでも、あの8月中盤よりは幸せだし、そこまで不幸とは言えないんじゃないだろうか。
きっと誰にもわからない。
画面内にいる赤いジャージを着た僕の親友は睨みつけるように、僕を見ている。どう考えても怒っているのは明らかだ。
頭の良い彼だけど、彼にもきっとわからない。
『…お前1人に背負わせる訳ねぇだろ!』
ーーー僕にしかできないんだから、僕がやるべきだよ。
僕の思考と画面内の僕の発言が被る。当たり前だ、同じ人間なのだから。まぁ、何も考えが変わっていないって事なんだろうけど。
本当に、“自分にしか出来ないこと”という、存在証明に似通ったモノに憧れていた。まだまだ子供だなぁ、と苦笑してしまう。
それを頭で理解しながらも、結局は僕はみんなの反対を押し切ってこの案を実行する。これが結末。
もう見るまでもない光景だ。ただ、画面は説得しているシーンがまだ続いている。少し喧嘩になっているようで、唯一のクラスメイトである少女は僕の胸ぐらを掴んで、叫んでいる。
それをガタイのいい嘘が嫌いそうな青少年が抑える。彼の後ろには怯えた様子の白髪の少女。その目は赤く輝いている。
まだ、エンドロールは遠い。
主演は僕の友達の名前が並ぶだろう。
それでも
画面に映る白い床に、赤い血が飛び散った。
それを見て思わず僕は目を瞑る。
そしてもう一度目を開く。
そこは白い世界ーーー“カゲロウデイズ”ではなく、コンクリートの壁がそびえ立っていた。
☆
「…は?」
いつのまにか近くにいたセメントス先生に声をかけられる。
「九ノ瀬君ですね。話が終わったのなら、向こうに集まってもらえますか?…けが人の確認などもしたいので」
訳もわからず頷いて、僕は言われた方向へ歩き出す。周囲を見渡すと、多くのプロヒーローが右往左往している様子だった。スナイプ先生とも目が合う。
現実世界では確か、脳無にボコボコにされて『醒ます』を発動した筈だ。あの状況なら『冴える』が脳無と敵対する事は間違いないし、ボコボコにされるのは必要な工程だった。かなり痛かったけど。
あいにく、『冴える』に乗っ取られた時の記憶は残っていない。よって、『冴える』が脳無を倒したのかはわからないけど、雄英教師がこんなに集まっているという事は…。
少し考え込み、結論を導き出す。
つまりこれは
「…終わったのか?」
ヴィラン連合を制圧、もしくは撃退したのだろう。それを読み取り、息を整える。
なんにせよ、良かった。一安心した僕はみんなの所へ走り出す。『冴える』がした行動についても誰かから聞いておかないとな。
なんとなく振り返るとまたスナイプ先生と目が合ってしまい、不思議な感覚がした。
ヘトヘトに疲れているみんなの所へ戻ると、僕を見ると安心したような笑顔を浮かべる。
この反応を見るに、僕が腹を貫かれた光景などは見ていないのだろう。若い少年少女にトラウマを植え付ける事が無くて本当に良かった。
と、そこに興奮した様子の切島君が話しかけてきた。
「おぉ九ノ瀬!オールマイト凄かったよなぁ!流石No.1って感じで!」
「あ、あぁ、うん。そうだね」
まったくもって何の事かわからないけど、話を合わせるために困惑の表情を見せずに頷いておく。オールマイトの戦いを見て興奮しているのかな。
…当のオールマイトの姿が見当たらない事を不思議に思いつつ、もう1人欠けている少年について尋ねる。
「…そういえば、緑谷君ってどこにいったの?」
見渡しても、この面々の中には見当たらないのだ。そんな問いに切島君はまたもや興奮した様子で話す。
「後ろに下がってたから見えなかったのか?今は多分オールマイトとそこにいるぜ。そーいや緑谷も凄かったよなぁ!すげぇスピードだったぜあれ!」
指をさした方向は僕が目を覚ました時にいたコンクリートだった。そこにオールマイトと緑谷君がいるって事か。
すごいスピード…か。“超パワー”を使いこなせてない彼なら、足を負傷してしまったのかもしれないな。それならここにいないのも納得だ。
とりあえず、これで全員無事なことがわかった。
僕は本心からの笑顔を浮かべて、切島君にこれまでの経緯を聞くことにした。
☆
ーーーそして、あるビル。
「ーーいってぇ…。両腕両足撃たれた、完敗だ…!脳無もやられた…手下どもは瞬殺だ…子供も強かった…!」
ワープされ、手足がうまく扱えないまま倒れこむ死柄木。血だまりを作りながら、苛立ちを隠さぬまま呻く。
「平和の象徴は健在だった…!ーーー話が違うぞ先生!」
それに答えて、狭いバーに声が響く。
『違わないよ。ただ見通しが甘かったねぇ…ところで、脳無はどうしたんだい?』
黒霧がそれに悔しそうに答える。黒い靄はユラユラと揺れている。
「…吹き飛ばされました。位置情報を把握してワープする時間もなく、回収はできませんでした…」
『ふぅん…せっかくオールマイト並のパワーにしたのにねぇ。まぁ、仕方ないか。残念だ』
「パワー…」
その会話を聞いて、思いついた様に呟く死柄木。
「そうだ、1人…いや、2人か。オールマイト並の速さを持つ子供がいたな。…それに一方は、完全に脳無と渡り合っていた」
『…へぇ?』
それを聞いた機械越しの声は、興味深そうに呟く。
「…最後の邪魔が無ければ、オールマイトを殺せたかもしれないのに…!アイツによる脳無の消耗も多少はあった筈だ。ガキどもが…!」
『消耗…ねぇ。回復もできる筈だけど、それすらも上回る深いダメージだったのかな。ーーーちょっと、興味深いね』
ーーーーそれに、僕の周りを嗅ぎまわるネズミの存在も気にかかる。
『忙しくなりそうだよ、死柄木弔。まずは、精鋭集めだ』