赤目のヒーロー   作:ささやく狂人

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今日二話目です


必殺技

敵情視察やら宣戦布告が飛び交う教室前から抜け出た僕は、今日の今後について考える。

 

相澤先生にハッキングは禁止されたし、過去の体育祭のデータでも見ようかな。

 

廊下を歩きながら考え込んでいると、人とぶつかり、よろける。

 

しまった、ボーっとしてた。

僕は慌てながらも、相手に頭を下げる。

 

「…あっ、すいません、僕の不注意で…」

 

ところが、当のぶつかった人から特に反応が返ってこなく、不思議に思った僕は下げていた頭をあげる。

 

「…‼︎」

 

“ぶつかられた人”は目を細め、眼力の強さを感じさせる目で僕を見ている。口をパクパクさせながらも言葉が出ないようで、僕は困惑する。

 

「…えっと…?」

 

「困惑してる所に俺がDOOON‼︎‼︎」

 

「ーーうわっ⁉︎」

 

すると、廊下の横の壁から金髪をオールバックにした、デフォルメされたような童顔がヌッと出てきた。いや、怖い怖い。

 

「ハハ!君、驚いたよね⁉︎いやー、良かったよ、お返しできて!」

 

壁に浮かんでいる顔はそのまま口を開き、嬉しそうに笑う。僕は後ずさりながら言葉を返す。

 

「そりゃ驚きましたけど…お返し?」

 

「いやー、キミ、突然そこに現れたから、俺らビックリしちゃってさ!ほら、そこの彼、天喰環(あまじきたまき)っていうんだけど、驚きすぎてほぼ死んでるよね!」

 

「突然?…あ」

 

そういえば、『隠す』を教室前から発動したままだったような。だから天喰って人は気付かずぶつかり、触れた事で『隠す』が解除。

 

たしかに、彼らから見れば突然現れた様に見える。これは申し訳ない事をした。とりあえず謝り倒そうとして2人を見る。

 

「正直隣にいたオレもビックリして、悔しかったからすぐに“透過”してこのサプライズをしちゃったよね!ハハ!」

 

「すいません、反省してるのでとにかく出てきてくれませんか」

 

「うんうん!じゃあ服着るからちょっと待ってね!」

 

なんで服着てないんだよこの人。もう怖すぎる。でもごめんなさい。

 

 

 

 

「気分転換に廊下歩いてたら、こんな面白い一年生に会えるとはね!」

 

そういって快活に笑うのは、通形ミリオ先輩。横にいる天喰環先輩はまだ僕を睨みつけている。ホントごめんなさい…。

 

互いに自己紹介をした結果、2人とも三年生だった。怖い先輩じゃなく本当に良かった。

 

「個性無意識に使ってまして…。すいません…」

 

「ハハ!いーよいーよ!体育祭も近いし、個性の特訓も必要だからね!」

 

別にそういう訳じゃないのだが、許してくれたのはありがたい。

 

普通ならここで謝罪の言葉を述べて立ち去る所なのだが、これは大チャンスだ。偶然にも雄英キャリアの長い三年生に出会えたのだ、ダメ元で聞いてみる事にする。

 

「その体育祭の事なんですけど…先輩、少しだけ時間貰ってもいいですか?」

 

敵情視察や宣戦布告も大事だけど、情報収集も大切だよ、普通科の人。

 

通形先輩は笑顔でOKの返事をくれた。この人ホントに笑顔絶やさないなぁ…オールマイトみたいだ。

 

仕返しの発想がえげつないけど。

 

 

 

 

「種目か…。去年は確か、徒競走だったね!まぁ、オレは服が落ちて結果が散々だったけど!ハハ!」

 

通形先輩の苦い思い出も交じりつつ、話を聞く。もっとも、本人が笑って話すので苦い思い出には聞こえないけど。

 

「でも一昨年はパン食い競争だったからね!やっぱり前例は参考にならないと思うよ!…でも、最終的にはトーナメント戦なのは確かだよね」

 

「なるほど、参考になります」

 

1vs1のトーナメント戦かぁ…。厳しいなぁ。

 

少しだけ体育祭へのモチベーションが下がったところで、僕は質問を変えた。

 

「それじゃ、先輩の主観でいいんですけど…体育祭のこの期間にするべき“準備”って何だと思います?」

 

これは数値化などはできない、先輩自身の感情論とか、そういったものだ。経験豊富な三年生からの、違った視点も必要だろう。

 

「ふむ、中々向上心があるようだし、3年生の今の状況を教えようかな?」

 

つまり、3年生の準備とやらを教えてくれるらしい。まだ 1年生の僕が3年生と肩を並べようなんておこがましい考えだけど、3年生の真似をするかどうかは自分で考えろ、ということだろう。

 

「…はい、参考までに」

 

少し真面目な雰囲気を出しながらも笑顔を絶やさない通形先輩は口を開く。

 

「3年生は今ーーーー」

 

その瞬間。僕の頭に何かの記憶が流れ込んでくる。

 

それはどこにでもあるような公園。

僕の視線は低く、まるで子供になった感覚を味わう。視界には黒髪の少女。かつての後輩の面影のある少女はナイショ話をするように辺りを見渡し、声を落として口を開く。

 

『ーー必殺技だよっ。必殺技の練習』

 

「…へぇ、必殺技…」

 

僕は流れてくる記憶を見ながらも、通形先輩の言葉に反応を返す。ちょっと頭がクラクラしてきた。

 

「ーーといっても、仕上げの段階だけどね!手の内を明かしているクラスメイトが敵となるから、それを超える“進化”を見せないと!って話さ!オレでいうとブラインドタッチめつぶーーーーって、大丈夫かい?」

 

僕の様子がおかしい事に気付いた通形先輩が心配そうな声色になる。ずっと黙っていた天喰先輩が僕の肩を支える。

 

「…だ、大丈夫です。必殺技について、詳しく…」

 

「ミリオ、そろそろこの辺で。とにかく保健室に」

 

 

天喰先輩の声を初めて聞いた事に反応もできず、僕は『欺く』で“元気な九ノ瀬遥”を演じようとする。

 

けど、2人はまだ心配の表情を浮かべている。…『欺く』が発動できてない?

 

“『欺く』の蛇の記憶”が流れている影響だと理解する前に、僕は口を開く。

 

こんなに優しい先輩2人の手をこれ以上煩わせる訳にはいかないだろ。

 

「ホントに大丈夫ですから…!貴重なお話、ありがとうございました。では、失礼します」

 

納得のいっていない2人に一礼して、僕は振り返り歩き出した。そんな僕の背中に通形先輩は声をかける。見えないけど、その表情はきっと笑顔だ。

 

「体育祭、頑張ってね!一年生!」

 

その日の夜。今日の事を思い返していると、僕は必殺技を思いついた。

 

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