緊張と期待の日々はあっという間に過ぎていき、僕らはその日を迎えた。
ーーー雄英高校体育祭。
現役プロヒーローもスカウト目的で観戦に来るため、ここで活躍した生徒・注目を集めた生徒は今後の進路で有利となるため、業界への個性アピールには最適の行事。
主役はやはりヒーロー科で、ここ、 1年A組控え室でもピリピリした空気が流れている。
今日はクラスメイトがライバルとなるのだから、当然といえば当然だが、少し緊張しすぎの様な気もする所だ。
「みんな準備は出来てるか!?もうじき入場だ!」
休める為に瞑っていた“目”を開けると、学級委員長の飯田君が僕らに指示を送っていた。そんな彼の動きも緊張からかカクカクしている。いや、これは関係ないか。
「緑谷」
「轟くん…どうしたの?」
そんな飯田君を横目に、轟君は緑谷君に話しかけていた。
「客観的に見ても実力は俺の方が上だと思う。ーーーーけどお前、オールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこ詮索するつもりはねぇが…お前には勝つぞ」
「…おお~クラス最強が宣戦布告?」
「おいおい急にケンカ腰でどうした!?直前にやめろって」
「…仲良しごっこじゃねぇんだ。何でもいいだろ」
そんな轟君の言葉に、緑谷君は困惑する。傍観していた上鳴君は重い空気を吹き飛ばす様に茶化し、切島君は喧嘩腰の轟君を止めている。
そんな中、緑谷君は戸惑いながら、顔を俯かせながら口を開く。
「轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのかはわかんないけど…。そりゃ君の方が上だよ。ーーーというか、大半の人に敵わないと思う」
これまで傍観を決め込んできた僕だが、思わず口を出してしまった。
「いやいや、緑谷君もそう悲観しなくてもーーー」
「でも!」
僕の言葉を遮る様に、言葉を重ねる緑谷君。その目に迷いなんて微塵も無くて、不思議とボール投げの時の様に、かっこいいと思わせる。
「みんな…本気でトップを狙ってるんだ。最高のヒーローに。遅れをとるわけにはいかないんだ」
緑谷君は一呼吸置き、俯いていた顔を上げ轟君を真っ直ぐに見据える。
「ーーー僕も本気で獲りに行く」
それを聞き届けた僕は、爆豪君に目を向ける。
「………」
轟君から“宣戦布告”されなかった事に苛立っていると思っていたが、予想に反して静かに目を瞑って意識を集中させていた。いつもの荒さは無く、真剣な様子なのは誰もがわかった。
轟君や緑谷君に興味が無いのか、2人より倒したい相手が他にいるのか。まぁ、後者な気がする。
『ーーーこっからだ!俺はこっから!俺はここで1番になってやる!』
僕は期せずして聞いてしまった彼の言葉を思い出す。
ーーーー
☆
『刮目しろオーディエンス!群がれマスメディア!1年ステージ生徒の入場だ!ーーーーつっても、やっぱ目当てはこいつらダロ⁉︎』
『敵の襲撃を受けたのにも関わらず、鋼の精神で乗り越えた、奇跡の新星!』
『ーーーヒーロー科、 1年A組ダロォ⁉︎』
そんなプレゼントマイクの解説と共に入場した僕らを包んだのは、怒号の様な大歓声だった。
会場を見渡し歩きながらも、僕は思わず呟いた。
「…うわ、人が凄いな」
「まぁ話題もってるからねー、ウチら」
耳郎さんの言う通り、僕らはUSJ襲撃事件の生還者として取り上げられている。この事件関係で見に来る、って人も多い。下手すると3年生より注目されているかもな。
予想しているよりも多い人数で少し気圧されてしまった。これ程の人数の前で『目を奪う』を使ったら大騒ぎになりそうだな。
『奪う』に関しては調整をしっかりと気をつけないと。最近は“必殺技”の為に多用していたから、調整は今まで以上にうまくできると思うけど。
『話題性では遅れを取るが、こっちも実力派揃いだァ!ヒーロー科、 1年B組!…続いて、普通科、C、Dーーーーー』
B組に関しては今日までの準備期間でそれなりに調べてきている。といっても、“必殺技”の特訓やちょっとした調べ事も並行していたので、名前と個性程度だが。もちろんプライバシーに関する事は一切触れていない。
B組担任、ブラッドヒーロー“ブラドキング”は、その厳つい風貌に反して、生徒について丁寧にまとめていた。…職員室のパソコンに。
「いや、種目に関しては調べてないからセーフ…うん、セーフ」
「…何ブツブツ言ってんの。緑谷みたいになってるけど」
隣にいた耳郎さんから冷ややかな視線を受け我に帰った僕は、耳郎さんに曖昧な微笑みを返し、ステージの上を見る。
ステージの上には爆豪君が立っていて。
「…せんせー。俺が一位になる」
ちょっとした騒ぎになった。
うん、絶対やると思った。
☆
そんな暴動から数分後。18禁ヒーロー“ミッドナイト”からの第1種目の発表が行われた。
「ーーーー気になる第1種目はこちら!“障害物競走”よ!」
こうやって、体育祭は幕を開けた。
前も言ったけど、前世の僕は病弱だった。そのせいで運動会などの行事はほとんど参加してこなかった。
だからだろうか。こんなささやかな“幕開け”というのが、僕にはとても嬉しく思える。
辛い事もまだまだあるけど、やっぱりこの世界に来て良かった。
心から、そう思えた。