赤目のヒーロー   作:ささやく狂人

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騎馬戦決着

 

540ptのハチマキを頭につけた轟君が騎手。その右側を支えるのは八百万さん。左側が僕で、真ん中は飯田君。

 

これが僕らの騎馬形態だ。

待機場所で騎馬をつくりあげた僕らはそれぞれ他の騎馬を観察し、準備する。

 

『さァー行くぜぇ!残虐バトルロイヤル!ーーーースタートォ!』

 

大歓声が湧くその瞬間。あらゆる騎馬が動き出す。

向かうはーーー当然、緑谷君だ。

 

遠くで叫ぶ緑谷君の声が微かに聞こえる。

 

「ーーーもちろん、逃げの一手!」

 

こちらの予想通り、やはり彼は1000万を保持する作戦だ。まぁ、当たり前だけど。

 

右翼側を担当している八百万さんが轟君に聞く。

 

「…本当に私達は向かわなくていいんですの?緑谷さんがハチマキを取られてしまう可能性も当然ーーー」

 

「さっきも言っただろう」

 

前で聞いている飯田君が、こちらを振り返らず答える。その目は緑谷君を真っ直ぐに見据えている。

 

「ーーー彼はそこまでヤワじゃないさ」

 

「同感だね、それに、緑谷君以外でも対応出来るはずだよ」

 

飯田君の言葉に賛成し、僕は八百万さんを安心させるよう言葉を投げかける。

 

「…その事だが、本当に大丈夫なのか?」

 

「大丈夫だよ、最前線にいた君らとは違って僕はB組の個性も把握してる」

 

もし緑谷君以外の手に1000万が渡ったとしても、僕らの力なら取り返せる。

 

「とにかく、序盤は緑谷君の近くには近寄らないように、混戦状態は避けたいからね」

 

「…あぁ、そうだな。動くのは緑谷が逃げ切ってからだ」

 

 

 

 

“障害物競走”で強さを見せつけたからか、轟君が騎手の僕らには敵が寄ってこなかった。

 

一瞬、“宣戦布告”してきた普通科の人ーーー心操人使君と目が合ったが、他のチームへと向かっていった。

 

彼の騎馬は尾白君と青山君、そして上鳴君だった。

 

それを見て僕は悟る。

 

…まぁ、初見殺しの“個性”だからなぁ。

 

B組の“個性”について調べるついでに、印象に残っていたので彼の個性は一応調べておいた。

 

それはかなり強力で、ヒーローというには歪な個性だ。それでも、予選を勝ち上がってこの場に来ているって事は、つまりそういう事なんだろう。

 

僕らが敵と交戦する事ないまま、プレゼントマイクのアナウンスが流れる。

 

『さぁ!7分経過した現在の順位を、スクリーンに表示するぜぇ!ーーーーって、あれ?』

 

交戦状態から抜け出している僕らはスクリーンを見る。一位は1000万を保持している緑谷君。しかし、他の2〜4位を独占してるのは、どれもB組だった。僕らは5位に入っている。

 

『なーんか…A組緑谷以外パッとしてねぇっつーか…爆豪⁉︎あれっ⁉︎』

 

「…!」

 

僕は爆豪君の方に思わず目を向ける。

 

そこにはB組の生徒、物間寧人にハチマキを奪われた爆豪君の姿があった。

 

「…単純なんだよ、A組」

 

物間君はあざ笑うかのように爆豪君を見る。

 

「…ミッドナイトが“第1種目”と言った時点で、予選段階から極端に数を減らすとは考えにくいだろう?」

 

物間君は更に言葉を続ける。笑みを深くする彼とは対照的に、爆豪君の顔は険しくなる。

 

「B組のほとんどは、“障害物競走”では後方からライバルとなる者たちの個性や性格を観察させてもらった」

 

そう言われて見ると、今この段階でB組がA組のハチマキを奪ってる事には納得できる。A組の個性を把握し、対策はあらかじめ練られていたんだろう。

 

「ーーーその場限りの優位に執着したって仕方ないだろう?」

 

…つまり、僕と同じ考えだったって訳だ。

この言い方だと、立案者は物間君なんだろう。もしかすると、この高校で1番気が合うかもしれない。

 

「切島ァ…予定変更だ…!デクの前に、コイツら全員ぶっ殺す!」

 

ただそれでも、今一番仲良くなりたいのは君なんだよね、爆豪君。

 

だから、こんな所で負けないでくれよ。

 

爆破音を耳にしながら、ついに僕らは動き出した。

 

 

「くっ…轟か」

 

B組の拳藤一佳さんが嫌そうに呟くのを見ながら、僕は轟君に告げる。

 

「騎手の人の個性は“大拳”。リーチが長いからもう少し離れよう」

 

「…!」

 

個性がバレてると悟った拳藤さんは先手必勝と言わんばかりに“個性”を発動し、轟君の頭に手を伸ばす。

 

「八百万!伝導の準備を!」

 

八百万さんの肩から“創造”された棒は轟君と地面をつなげる橋だ。棒を通じて氷結される床。拳藤さんは騎馬の人達に氷結の回避の指示を送るが、僕はそれを妨害する。

 

「九ノ瀬!」

 

轟君の呼びかけに応えるように、僕の目が赤く染まる。

拳藤さんの動きが完全に止まり、そのせいで騎馬も動くに動けなくなる。

 

その隙を見逃さず騎馬を氷結させる轟君。無防備な状態の拳藤さんの頭と首からハチマキを奪い取り、僕らは2位に浮上する。

 

「…悪りぃな。一応貰っとく」

 

拳藤さんの悔しそうな声を背中で聞きながら、僕らは緑谷君達のいる場所へ向かった。

 

 

「ーーーーそろそろ獲るぞ」

 

 

 

 

発目さんのサポートアイテムで一時的に空中に逃げた僕らは、麗日さんの“無重力”のサポートで何とか着地する。

 

B組の作戦なら、他のA組を狙っても上位4位には入れる。つまりーー

 

「僕らに固執する可能性が少なくなる…!これなら…!」

 

逃げ切れる、と言おうとした瞬間。前騎馬の常闇君が急停止する。

 

よろけた態勢を整え、僕は顔を上げる。

 

「ーーーーそろそろ獲るぞ」

 

「そう上手くは…いかないか…!」

 

騎手の轟君がこちらを真っ直ぐに見据える。その下にいる八百万さん、飯田君、九ノ瀬君もこちらを見る。

 

ーーそんな九ノ瀬君の瞳は真っ赤に染まっていて。

 

「ーーみんな!九ノ瀬君の方は極力見ないように!動けなくなる!」

 

「うん!わかっとるよ!」

 

麗日さんからの返事を聞きながら、僕はこれからの対応を考える。ちょっとでも気を抜くと九ノ瀬君へ視線が引きつけられる。

 

タネが割れてるのにこの威力…!

 

意識の片隅に置かなければいけない九ノ瀬君の存在は、いるだけで厄介な存在だ。

 

「もう少々終盤で相対するモノだと思っていたが…随分買われたな、緑谷」

 

「残り時間はあと半分!足止めないでね!」

 

そう言って周囲を確認する。

 

「…もう失うものは何もねぇ…!障子!フルアタックモード!行けぇ!」

 

「行くよーーみんな!」

 

すると、轟君の後方から向かってくる多数の騎馬。

 

目的は僕だろうけど、轟君達もこれに対応せざるを得ないはず…!この隙に一旦距離を…!

 

その瞬間。冷たい風が強く吹く。

思わず閉じた目を開けると、轟君達の背後にある大氷結が、僕らを閉じ込めるような壁を作り上げていた。

 

僕らの逃げ場を封じると同時に外部からの妨害を防ぐ。

 

残り6分程度で、僕らは完全に一騎打ちに持ち込まれた。

 

「…轟さん!相手は空を飛べるのですし、もう少し氷結を高くした方がいいのでは?」

 

八百万さんの疑問に答えるように、反対側にいる九ノ瀬君が口を開く。

 

「ーーーー大丈夫!さっきの峰田君の攻撃のダメージがあるから、相手はもう空を飛べない。“覚ます”も使わずに済むよ!」

 

「…くそ、よく見てるな…!」

 

九ノ瀬君の言う通り、峰田君の“もぎもぎ”でサポートアイテムの片足が破損している。着地に不安が残る以上、空を飛ぶのは厳しい。

 

厄介な存在の九ノ瀬君を()()()()()と、その赤く染まった目を真正面から見ることとなった。

 

それはつまり、彼の“個性”が発動している事を意味していて。

 

「ーーーッ!麗日さん!」

 

 

 

 

 

 

気づけば、僕は宙に浮いていた。いや、浮いていたという表現はあまり正しくない。

 

常闇君の個性、“黒影”(ダークシャドウ)によって抱えられていたのだ。それも僕ら4人全員が。

 

麗日さんの苦しそうな顔を見ると、“黒影”でも抱えられるよう咄嗟に4人を“無重力”にしたのだろう。

 

どう考えても“容量超過(キャパオーバー)だ。けど、お陰で動ける。

 

僕らが行える最大の回避手段。それをこんな中盤で使ってしまうなんて…!

 

「ごめん固まってた!着地するよ!」

 

どうやら固まっていたのは僕だけだったようで、発目さんや常闇君は迅速に動き出した。

 

余計な重さの“バックパック”を取り外し、轟君達の進路を妨害するように投げつけ、何とか着地する。

 

そして改めて、状況を確認する。

 

轟君は頭に540ptのハチマキをつけており、首元には2本のハチマキ。

 

「デク君…。やばいかも…」

「あぁ!私の発明品(ベイビー)がぁ!」

 

「ーーー常闇君!黒影!」

 

『アイヨ!』

 

サポートアイテムは使用不可能。麗日さんもコンディション最悪。

 

そんなピンチに、僕は笑う。

 

この高校の校訓を思い出せ。まだやれる。

 

今度はこっちが仕掛ける番だ。

残り6分弱。確かに轟君達の騎馬は強い。

 

けど、黒影の弱点…“光”を持たない以上、まだ勝機はある。

 

オールマイトの為にも、ここで負けるわけにはいかない。

いや、目指すのは優勝だ。だからここで轟君達を脱落させれば、一気に優位に立てる…!

 

 

 

正直、これに関しては完全に誤算だった。

 

常闇君…ひいては、黒影が強すぎる。

 

残り2分といったところで、まさかの緑谷くんは攻撃に転じてきた。もっとも、攻撃してくるのは黒影だが。

 

予想以上の黒影の中距離攻撃力に、僕らは防戦一方という状況に陥っていた。

 

「…チッ!」

 

轟君の苛立った声と同時に、八百万さんの方向から氷結を繰り出す。けど、緑谷くんは轟君から見て左に位置するよう動いているので、前騎馬の飯田君が邪魔で最短距離の氷結は繰り出せない。

 

『ヨッシャア!』

 

遠回りした所で、黒影が対応してきて終わりだ。現に今も、氷結を難なく壊している。

 

更に黒影が狙ってくるのは防御の(すべ)を持たない僕と、炎を使わないと明言している轟君の左側だ。

 

確かにこれでは黒影に対応出来ない。

 

それにしてもこの場面、逃げ切り確実の状況で攻めに転じてくるってのは…。

 

「強気だな…緑谷君…!」

 

『さぁさぁさぁ!残り2分を切ったゼイ⁉︎まさかの轟チームが苦戦という予想外の展開だが、このままだとハチマキ取られて0ptもあり得るぜぇ⁉︎まさに“攻撃は最大の防御ォ”‼︎』

 

プレゼントマイクの言う通り、ここでハチマキを取られるのは最悪のパターンなのだ。僕らが不利の状況に陥った以上、ここは撤退も考えて、2位をキープするのもアリだ。

 

「ーーーいや!奪るぞ!」

 

けど、轟君は全く退く気はない。まるで意地を張っているかのようで、なぜそこまで緑谷君に固執するかわからなかった。

 

ただ、飯田君も同様に退く気はないようで、その目は闘志に燃えている。

そんな飯田君にこっそり話しかける。

 

「…そろそろ時間もない。あの技の準備して欲しい」

 

「ーーあぁ、そうだな」

 

けどその瞬間、ただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、焦った緑谷くんは黒影に指示を飛ばす。

 

「ーーー()()()!」

 

今まで黒影の中距離攻撃で、騎馬を接近させる事無かった緑谷君が、ついに動く。

 

その事に動揺した僕らは黒影の攻撃により騎馬をよろめかせる。

 

『モラッタ!』

 

僕の側から攻めてきた黒影が轟君の頭に近づく。咄嗟に発動させた『奪う』で黒影の動きを鈍らせる。凍らせた右腕で応戦する轟君と、反対側から“創造”された盾で何とか攻撃を防ぐ。

 

攻撃を防がれた黒影と入れ違いに接近してきたのは、騎手の緑谷君だった。

 

…まだ攻めてくるのか…⁉︎

 

接近してくる緑谷君と対照的に、飯田君は後ずさる。一旦距離をとろうという魂胆だろう。

 

ただ、それでも緑谷君の腕は伸びる。その腕には“超パワー”が流れ込んでいるようで、思わず僕らは気圧される。

 

このパワー…!まるで、オールマイトの…!

 

その瞬間、僕の頭上には熱気が立ち込める。それは轟君の左腕…つまり、炎を。

 

「ーー相手の防御を…崩して!」

 

緑谷君は右腕を振り切り、その余波で、轟君の左腕も流れる。つまり、完全な無防備の状態。

 

まずい…!

 

“炎を使った事に動揺している”轟君は、緑谷君の右手によって首元のハチマキ2本を奪われ、頭上から攻めてきた“黒影”によって頭の540ptまで奪われてしまった。

 

つまり。

 

『おぉーーーっとここで轟チーム‼︎まさかの!返り討ちで0ptダァーーーー‼︎』

 

「何やってるんだ僕は…!」

「……!」

 

思わず呟く僕と、自分の左腕を呆然と見ている轟君。

 

今の攻撃、緑谷君の首元に伸びる腕はともかく黒影の攻撃は防げたはずだ。なのに防げなかったのは単純、…臆したから。

 

「反省している場合ではありませんわ!とにかくここは他のチームからーー」

 

「いや、ダメだ!他のptの散り方を把握できてない!ここで1000万を獲る!」

 

時間は残り1分。まずい…!

 

もうなりふり構っていられない。

 

「ーーーー飯田君!」

「あぁ!わかってる!」

 

奪ったハチマキを首元につける時間と、余裕ができた事による油断、使い時はここしかない。

 

「ーーしっかり掴まっていろよ!」

 

瞬間、目にも留まらぬ速さで緑谷君達とすれ違う。仲の良かった緑谷君も知らない、飯田君の必殺技。

 

「“トルクオーバー…ーーーーレシプロバースト”‼︎」

 

“間違った使用法”なので言うつもりは無かったらしいが、僕が『能力』について説明しているのを見て、打ち明けてくれたこの技は、初見で対応する事はほぼ不可能だ。

 

「…な、今のは…」

「言っただろう緑谷君。ーーーー君に挑戦すると」

 

緑谷君の警戒が薄れた頭の1000万のハチマキを奪い取った轟君は、首元にそれをつけ、氷結で緑谷君との間に壁を作る。

 

モニターの順位が目まぐるしく変わる。画面に表示された一位の横には轟チーム。緑谷チームは一騎打ち時点での僕らのpt数で、2位になっていた。

 

瞬間、爆破音が耳に届く。

轟君が作った氷結の壁を爆破で乗り越え、上空からこちらの様子を確認する…爆豪君。

 

僕は思わず呟いた。

 

「それアリなんだ…」

 

「クソナード…!いや、1000万は…!」

 

轟君の首元にあるのが1000万と瞬時に判断した爆豪君は単体でこちらへ向かう。爆風に乗って近づく爆豪君を迎え撃つように、僕らの周りは冷気で覆われる。

 

爆豪君の登場から、緑谷くんは先程までの攻めの姿勢から一転、僕らを遠くで見守る形となっていた。“爆破”を見て前騎馬にいる常闇くんの個性、“黒影”が退いた形になっているのに気付いた僕は電撃が走ったかのような感覚を味わう。

 

ーーー何で今まで気づかなかったんだ…!黒影の弱点に…!

 

繰り出された氷結を爆破で破壊しながら、接近した爆豪君は、ついに僕らの頭上を取る。

 

と、そこで。

 

『タイムアップ!!第二種目・騎馬戦終了!』

 

ミッドナイトから終了の言葉が告げられ、最終トーナメントへの通過者が決定した。

 





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