意味のわからない問いだった。
『誰から与えられたのか』
それはつまり、個性の譲渡が可能という事を意味している。そんな事今まで聞いた事がない。
No.1ヒーローの顔をうかがう。グラントリノさんに怒った様な表情で、しかし真剣な顔だ。この問いに関する僕の答えを待っている事がわかる。
僕は今、重要な事を聞いてしまったのだろう。彼らの真剣さを見てわかる。ただ、今の僕にはこの問いでどうこうしようなんていう気は全くない。むしろ意味がわからない。
出来る事と言えば、正直に答える事だけだ。
「おっしゃっている意味がわかりません。僕は確かに特殊な個性の複数持ちですが、与えられた、なんて事はありません」
グラントリノさんの顔が曇る。
「…それが通じれば良いんだがな。個性の複数持ちは異常だ。そしてそんな事が起きるとしたら、オレらにとってお前は敵になりうる」
ますます意味がわからない。僕の理解力が足りないのか。ただわかる事と言えば、彼らは『個性を与える個性』を敵視してる事。
グラントリノさんは続ける。
「仮にお前さんが自然な個性複数持ちだったとして、それには原因があるはずなんだ。お前さん、中学の時にかなりの欠席があっただろう?その時に何かあったんだとオレは予想してるんだ」
僕には欠席したという記憶は無い。しかし結果的に欠席は確かにあった。けど僕はそこに疑問を持っていない。『冴える』の体の乗っ取り、飼いならす事が今よりも出来てない頃の話だ。
だから、この話には全く関係無いし、そもそも僕の『能力』の生い立ちなんて忘れる訳がない。あの夏の日に彼らから『奪った』のだから。あの夏の日の光景は、今でも僕の目に『焼き付いている』
僕が『能力』を持つ理由は前世があるから。その一言が信じられる訳もなく、この問いに答える術を僕は知らないのだ。
あの無限に続いた地獄を思い出し、僕は苛立ちを隠せなかった。
「…この世界で個性を複数持っているのが異常なのは分かっています。ただ僕には、自分が個性を2つ持っている理由を知っています。そしてそこには、あなた方が警戒している『誰かさん』の介入なんて全く無い」
こんな支離滅裂な意見で納得する訳がなかった。それでも僕の心は情けない事に荒んでいた。
ーー僕の『能力』に“原因”なんて表現を使うな。僕のヒーローの力を否定するな。
「その理由とやらを知りたいんだ。お前さんに記憶が無くてもヤツが個性を与えてお前さんを利用してる可能性だってーーーーー」
「嫌です」
僕は食い気味に答える。
『能力』の生い立ちを話すのならば、僕は『冴える』についても話さないといけない。ヴィランの人格を持つヒーロー、そんな事まで言わないといけない。
ーー僕が自分のヒーローを殺した事も言わないといけない。
「…これ以上、僕の個性について話せる事はありません」
グラントリノさんから目を逸らし、オールマイトを改めて見る。
彼は困ったように笑っている。失礼な態度を取っている僕な怒っている様子はあまり見られない。僕はそんな彼に軽くおじぎする。
「…合格通知、ありがとうございました。また、学校で会いましょう。失礼します」
僕はそう告げた後、グラントリノさんの手元を少し見てから背を向け歩き出した。
今日の会話から、オールマイト達は“個人的な理由”で僕を警戒している事はわかった。会話の内容に加え、グラントリノさんは僕の買った缶コーヒーに口をつけなかった。毒物でも警戒したのだろうか。そしてそれはまるで、監視する為の雄英合格、なんて悪い想像までさせてくれた。
苛立ちを隠せず早歩きになってしまう中、頭の中に声が響く。それは忌々しい、僕の中にいる蛇の声。
『…なるほどナ。“個性を与える個性”ねェ…それがヴィランの親玉の個性ってコトだ』
足を止める。そして思い返す、事の発端を。
『冴える』による『能力』複数アピールが無ければ今日の会話は無かった。No.1ヒーローレベルしか知らない重要な事実を偶然知ってしまったのだ。いや、偶然じゃなかった。
全て『冴える』の手のひらの上だった、という事を思い知らされ、どうしようもなく悔しかった。
悔しさで歪んだ顔を隠す為、フードを被って帰路についた。