事の始まりは中国軽慶市。発光する赤児が生まれたというニュースだった。
以降人々に『個性』という超常が確認され、やがてそれは日常になり、
ただし、その夢はいい夢だけではなく悪い夢を見せる場合もある。
日本における総人口一位の東京都では珍しいことに、一人の
が、この少年自身は自分以外誰もいないこの場所が自分に相応しいと思っているし、誰にも迷惑がかかることのないこの場所が好きだった。
ふらふらとした足取りで路地裏を歩いていた少年は、ぐにゅ、と何かもわからない物体を裸足で踏んで顔から地面に倒れ込む。嫌な臭いが余計に鼻をつくが、生気を帯びていない目をしている少年はまったく気にしていない様子であった。
ここで、少年の一生--とはいっても現在5歳だが--について説明しておこうと思う。
東京都のある一般家庭に生まれ、その個性が発現する4歳までは平和な暮らしをしていた。収入が多いわけではないが明るくたくましい父親、そんな父親を支える笑顔が素敵で綺麗で優しい母親。そんな両親のもとに生まれた少年は、元々の可愛らしい容姿も相まって大層可愛がられていた。
その個性が発現する4歳までは。
ある日、少年の個性が発現すると一瞬で平和な暮らしは崩壊した。
少年が4歳になった誕生日、その当日寝静まった頃に少年の個性が発現し、その当日にたまたま家が連続放火魔の
が、その親戚の下に預けられて温かく接してもらい、少し心を開いたその日に。
その家は強盗にあい、少年以外は殺された。
流石に2つ家庭で自身以外が亡くなっているという経歴を持つ少年を引き取る親戚はおらず、とある施設に放り込まれた少年は、その経歴を知ってなお温かく接してくれる施設の人に助けられ、すくすく育っていくかと思いきや、巨大化する敵に少年以外が踏みつぶされてまたも一人だけ生き残った。
しかし、少年は
施設の全員が殺されたその瞬間、自分の周りに長くいすぎると死ぬということを直感的に理解し、誰の目にも触れることがないようその場から逃げ出した。道中、なぜか工事中の現場から鉄骨が落ちてきたり、通りすがりの敵に攫われたり、その敵が事故で死んだり、その拍子に橋から投げ出されたりしたが、少年はなんだかんだで生きていた。そこからなぜか色々死にそうな目にあい、今に至る。
語った通り、少年の体はボロボロだった。ここにくるまで何も口にしておらず、更に度重なる事故で骨が折れ、腕や足が曲がってはいけない方向に曲がっており、背中に至っては全面はがれていた。
もうすぐ死ぬのか、薄れゆく意識の中、少年はそう考えながら目を閉じていく。
だが、それに待ったをかけた人物がいた。
「少年、もう大丈夫だ。僕がいる」
声を聞いて、少年は「あぁ」と絶望した。自分に近づくすべての人は例外なく酷い目にあう。だから一人になるようここまできたのに、また人に会ってしまった。
「みたいなことを考えているんだろうけど、僕は大丈夫。君の個性を考えれば、僕が影響を受ける理由がない」
「……?」
少年に話しかける男はまるで無邪気な子どものように、ショーを行うマジシャンのように楽し気で、少年を引き付けるような口調だった。今まで何回も聞いてきた嘘の大丈夫とは別の、心の底からの大丈夫に聞こえた気がして、少年は生気のない目を声のする方へ向けた。
どうやら男はしゃがみこんでいるようで、少年には足元しか見えていないが傍から見れば少年の身を案じているように見える。
「それに、君は死なないし、死ねない。どんな事故が起きても、どんなに殺されても、最後には綺麗さっぱり元通りさ」
ほら、ワン、ツー、スリー、とやはりマジシャンのようにカウントすると、少年の傷や骨が元通りになり、空腹さえもなくなっていた。
「……え?」
「今まで辛かっただろう?だが大丈夫、君は居場所を間違えてしまっただけで、そんな
少年は戻った腕にぷるぷると力を込めて四つん這いになると、男の顔を見上げた。
「こいよ。そこが君の
男は
7月4日生まれ
個性:不幸
自分が不幸になる。不幸の振れ幅は大きく、果ては死に至るものまである。周りに幸せな人が多いほどその効力が増す。