【完結】僕の『敵連合』   作:酉柄レイム

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第9話 雨降って地ぐちゃぐちゃ

「せんぱーい、せんぱーい?」

 

 轟くんが作った氷の柱に捕らえられながら、先輩の安否を確認する。目が潰れようと脚にガタがこようと執念でなんとかしそうな人なので、まだやられてないかもしれない。むちゃくちゃな打撃音が聞こえたけど、まだ大丈夫かもしれない。僕なら打ちどころが悪くて死んじゃうかもしれないけど。

 

「お前の言う先輩なら、気を失ったぞ」

 

 そんな僕の儚い思いは、轟くんの無慈悲な一言によって一蹴された。そうか、負けちゃったか。短い付き合いだったけど、好きだったよ、先輩。ウソだけど。僕なら何の未練もなく送り出せる自信がある。会ったばっかの人間にそこまで入れ込めるかよ。ビビらせるな。

 

「じゃあじゃあ。僕下ろしてよ。ちょっと寒さと冷たさが尋常じゃないレベルになってきてさ」

 

「悪いが、得体の知れないお前はプロヒーローがくるまでそのままにしておく。どうやら人が見えない位置に目線を固定していれば、押し付ける個性は使えないみたいだからな」

 

 人を氷にはりつけて放置って、むしろこれ敵側の所業じゃない?鬼畜すぎでしょ。まぁ、僕の人生ではマシな方だから全然許せちゃうんだけど。それに、これは友だち同士のじゃれあいだろうしね。轟くんの声色が友だちに向けるそれじゃないけど。あれ、ていうか。

 

「出久くんたちは?」

 

 そういえばいつの間にか出久くんたちの声が聞こえない。もしかして僕の耳死んだ?いやいや、轟くんの声が聞こえるからそれはないはず……ないよね?

 

「お前の先輩を縛って、一足先に路地裏から出て行ってもらった。俺を残していくの、すげぇ渋ってたけどな」

 

「もしかして僕と友だちになりたかったからかな?嬉しいなぁ出久くん!もう一人は知らないけど!」

 

「単に、俺とお前の間で何があったか知ってるからだろ」

 

 何そのいやらしい言い方。ドキドキしちゃう。それってカップルに気を遣う人のそれに聞こえない?僕は男で轟くんも男だからそれはないけど。でも僕は世間一般で言うと可愛らしい顔をしているらしいから、もしかしたらがあるかもしれない。轟くん相手なら僕は受け入れるぜ!嫌だけど!

 

 その状況になったら死んでやると決意していると、轟くんが迷いのある声色で僕に話しかけた。

 

「それに、聞きたかったことがある。お前が俺と……緑谷を友だちって言いたがる理由はなんだ?」

 

 あれ、これって友好的な何かを築こうっていう感じのやつ?いやいや、そんなことはないはずだ。嬉しいけど、世間一般的に言うと僕は人殺しで、許されていいような人間じゃない。許されなくてもいいんだけど。むしろそれがいい。

 

「ふふふ、それは簡単なことさ。君にだから教えるけど、他の人に教えないでね?」

 

「それは内容による。事情聴取でお前がこのことについて喋らねぇかもしれねぇからな」

 

 ん?事情聴取?轟くんの中ではもう僕が捕まること決定してるのか。ふーん。まぁいいや。

 

「うん、まぁいいや。それで、僕が轟くんや緑谷くんを友だちって言いたがる理由だよね?」

 

 それに関しては僕にしては珍しく一貫している。僕自身の目標のためだ。この個性が発現したその時から、僕がずっと叶えたかった願いのため。

 

「僕の個性は迷惑な押し付け(サプライズプレゼント)だけじゃなくて、もう一つある。それは、どうしようもなく不幸になる個性。メリットは何もなし。ただただ不幸になる」

 

 死にたくなるほどにね、と付け加えると、轟くんは押し黙ってしまった。弔くん曰く、僕が不幸について語るときはものすごくかわいそうに見えるらしい。でもそれはプラスな見え方じゃなくて、「どうしようもない」っていう諦観とか、恐怖に近いなにかとか。つまり、嫌な気持ちにさせてるっていうこと。

 

 轟くんをそんな気持ちにさせるのは気が重いけど、轟くんが知りたがってるんだ。話すのを止めることはできない。

 

「そして、僕は生きてる方が不幸だから、死ねないんだ。死にたいって思っている限り、僕は死ねない」

 

 いつも考えてた。不幸な目にあうたび、ひどい目にあうたび。表面上ではどうでもいいと諦めつつも、心のどこかで諦めきれない不幸からの脱却。

 

「君たちは、何か、僕を殺してくれる気がしたんだ」

 

 多分僕は笑っていた。一生で一番の歓喜だったかもしれない。轟くんと初めて会ったあのとき、轟くんの中に僕のそれ(・・)と似たような絶望的な何かを感じた。幸せなはずなのに、不幸せ。轟くんは、ちょっと普通だっただけで、ちょっと道を間違えれば僕になれる可能性があるように思えた。出会う人が違えば、歩む道が違えば。

 

 僕のこういうかわいそうな人を見る目は間違いない。

 

 緑谷くんには、希望的な何かを感じた。僕がオールマイトに感じているそれと同質のもの。みんなのヒーロー、世界の味方。未知の期待値。それに、緑谷くんは雄英なんて勝ち組の道を歩みつつも、「弱い人の気持ちがわかる」気がする。報われないその気持ちを、成したいことが成せないその気持ちを。

 

「だからさ」

 

 そう、だからなんだ。僕が君たちを友だちと言いたのは、仲良くしたいと思ったのは。

 

「友だちになれば、助け(殺し)てくれるでしょ?君たちはヒーローだから、どうしようもなくお節介だから。心のどこかで否定しつつも、僕の気持ちがわかってしまうから」

 

「お前」

 

「だから仲良くしよう(僕を憎んで)友だちになろう(僕を助けて)。……でも、君たちはヒーローだから、殺すなんてことはできないと思った。だから、殺さなきゃだめだと思われるような理由(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)がほしかった」

 

「君!大丈夫か!?」

 

 その時、僕と轟くんとは別の声が聞こえた。多分、プロヒーローの誰かだろう。

 

 ヒーローなんていう幸せな人が僕の周りに増えたんだ。僕の不幸はこういう時に必ず発揮される。

 

 プロヒーローの足音が近づくたび、僕を拘束している氷の柱に異変が訪れる。轟くんは、プロヒーローに意識がいっていてその異変に気づかない。

 

「うん、そうだ」

 

 そして、プロヒーローが僕たちの近くにきたその時。

 

「だから僕は、世界の敵になることにした」

 

 氷が割れて、偶然一緒に凍らされていた先輩のナイフが僕と一緒に宙を舞った。

 

「っ!?なんで!」

 

「簡単さ」

 

 僕は迫りくるナイフの気配を感じながら、プロヒーローの姿を確認した。あぁ、せっかくヒーローなんて幸せな仕事につけたのに、この人はツキがなかったんだろう。今このとき、僕のところへくるなんて。

 

「僕がこのまま拘束されて捕まるなんて、そんな幸福ないだろう?」

 

 その言葉の直後。

 

 僕は死んで、生き返って、プロヒーローが死んだ。体はぐちゃぐちゃで、胸にナイフの形をした穴が開いていた。僕が落下してナイフで突かれて死んだからだろう。むごすぎて、すごくかわいそうだ。

 

 僕に刺さっていたナイフはきゅぽんと抜けて、僕の手に収まる。血まみれで汚いが、先輩の形見だ。もらっておくとしよう。

 

 裏路地を出て通りに出ようとする僕に、轟くんが待ったをかけた。

 

「っま、待て!何しに行く気だ!」

 

「心配しなくていいよ、もう殺しはしない」

 

「行かせると思うか?」

 

「僕は、君が凍らせるよりも早く僕を殺せる」

 

 対象は設定しないから、誰が死ぬかはわからないけどね?と笑顔で言うと、轟くんは苦虫を嚙み潰したような表情で舌打ちした。僕もこんなこと言いたくないけど、僕は敵だから。ごめんね。まぁ僕が自殺なんてできるわけないけど。僕が死ぬのは殺されるか、事故死のみだ。自分で死ねるなんて、それは幸せだろう。誰も認識できない場所でひっそり死ねるんだから。

 

 でもそんなことを知らない轟くんは、手出しができない。USJの件もあるし、あまり僕に対して危害を加えたくないんだろう。

 

「……なら、これだけは言わせてくれ」

 

「なに?」

 

 お前には響かねえかもしれねぇけど、と轟くんは小さく呟き、

 

「どれだけ不幸でも、どんなに死にたいと思っても、自分の意志で他人を巻き込むのは間違えてる。……だから、ヒーローなら、お前が友だちになりたいっていう俺なら」

 

 轟くんの表情に迷いはなかった。

 

「お前を生きたいって、思わせられる。誰が死ぬこともなく、助けられる。考え直してはくれねぇか?俺のこの個性なら、他の誰よりもお前をどんな状況からも助けてやれる」

 

 確かに、実際、轟くんと二人きりで氷漬けにされていた時、僕の不幸は起こらなかった。轟くんの言っていることは間違いじゃない。でも、間違いだ。

 

「轟くん」

 

 轟くんは見落としていることがある。僕は既に人殺しで、君と一緒にいられるような人間じゃない。人殺しを学生の隣に置くなんて、それは絶対に無理だ。その上できたとしても「僕と轟くんの二人でいなければならない」という条件がある限り、轟くんは学生生活を棒に振ることになる。それに、人の道を外れた僕にだって。

 

「僕にだって、殺したくない人はいる」

 

 弔くんたちは不幸だから平気だろうけど、轟くんは幸せだ。そして、生きていた方が世界にとっていい人だ。僕が殺したくないと心の底から思ってしまったその時、僕の不幸は作用する。

 

「君たちはどうか、僕を憎んでくれ。僕が生きたいと思ったそのとき必ず、君たちの前に現れる」

 

 僕が死ねるとしたら、生きたいと思えたとしたら、僕は轟くんと緑谷くんの手で殺されると確信している。だって、生きたいと思えたそのとき、殺してほしいと思っていた相手に殺されるのは、そのとき一番不幸だから。

 

 ゆっくり歩いていた僕は、通りに出た。数人のプロヒーローと、雄英の子がいる。なぜか緑谷くんと先輩が近くにいて、更にその近くでは脳無が死んでいた。

 

 僕はプロヒーローと雄英の子を無視して、緑谷くんに向かって歩き始める。先輩の隣を通るときにお疲れ様、と一言呟くと、なぜかへたり込んでる緑谷くんに視線を合わせるようにしゃがんで、言った。

 

「どうも、さっきぶり」

 

「え……あれ、お前は」

 

「轟くんなら生きてるよ。こっちにきてたもう一人は知らないけど」

 

 今この瞬間、僕の運命が決まるこの時、僕は場を支配していた。敵がヒーローでもない子どもに話しかけるというこの状況で、誰も動いてこなかった。それは、僕のこの行動が何より僕が不幸になるという証拠。

 

 それがどういうことかは、わかりつつもあんまり考えないようにした。

 

「詳しいことは轟くんに聞いてもらうとして、僕は君に期待してる。ねぇどうか、いつの日か、僕が生きたいって思えたその時に、僕を幸せに()してほしい。誰よりもヒーローで、優しい君にも頼みたいんだ」

 

 僕は返事を待たずに立ち上がり、両腕を広げ、歌うように叫びだす。

 

「みなさんお初にお目にかかります、僕は敵連合の月無凶夜!世界の敵になる男!」

 

 叫びながら先輩の隣に移動する。

 

「僕たちは思想を、信念を、弱者を歓迎する!クソったれな社会に警鐘を!」

 

 ここで初めてヒーローたちが動き出した。でも遅くない?僕はもう見覚えのある黒に包まれかけている。僕を助けて先輩を助けないあたり、しっかりしてるなぁ。

 

 黒に完全に飲まれる前に決め台詞。さぁみなさん声高に。

 

「こいよ!ここが君の敵連合(ヴィランアカデミア)だ!」

 

 そしてこの時。

 

 世界の敵が産声をあげた。

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