【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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※番外編は前書きを読んでください。

タイトルに「番外」とついているものは本編をある程度読んでから読むことをお勧めします。ネタバレになりますので、この位置まで読んでいれば読んでも問題ないですよ、というのをタイトルに(第○○話読了後推奨)といった風に記載します。それを参考にしてください。

さらに、番外編は本編を無視して書くことがあるので「1.~」「2.~」といったように注意書きを記載している場合があります。そちらを見て問題ないと思った方は読んでいただけると幸いです。

1.内容に年齢操作が含まれますので、苦手な方はお気をつけて。


番外:こども (第65話読了後推奨)

 個性犯罪で溢れ、ヒーローがそれを解決するということが多いこの時代。当然その個性犯罪に巻き込まれることも少なくない。一般人はヒーローが戦っているところを呑気にスマホで撮りに行くくらいだし、一般人の危機管理能力の低下もその一因となっていることは間違いない。

 

「うーん、みんな子どもに、ねぇ」

 

 そんな個性犯罪がまた行われているらしい。弔くんとソファに並んで座って観ているニュース番組では、元々大人であったであろう被害者が子どもの姿で何かを訴えかけている。曰く、変なビームをすれ違いざまに撃たれて縮んでしまったのだ、と。ただ、こうやって状況説明ができているってことは知能まで子どもにはならないということだ。個性も問題なく使えてることから、体だけ縮める個性、らしい。

 

「弔くんなんかリーチが短くなるから困るんじゃない?」

 

「……あぁそうだな」

 

 弔くんは掌で触れないと個性を発動できないため、小さくなってしまうとその触れるまでの時間が遅くなってしまう。触れてしまえばほとんど一撃必殺なんだけど、小さくなった体に慣れるのも難しいだろうし。荼毘くんのような個性なら関係なく反撃できちゃうけど。

 

「まったく、子どもの姿にして何をしたいのか。女の人だけが被害に遭ってるならわかりやすいんだけど、男の人も被害に遭ってるし。しかも何をされるってわけでもなく小さくされて終わりだよ?」

 

「あぁ、みたいだな。ところで月無」

 

「なに?」

 

 子どもになるって大変だなぁ、とのんびり考えている僕に弔くんは心底呆れたような目を僕に向けて、

 

「お前、いつもより小さく見えるんだが、これは俺の気のせいか?」

 

「敵のせいだよ」

 

 チョップされてしまった。いたい。

 

「さっきちょっと出かけてくるって言って出て行ったと思ったらこんな姿で帰ってきやがって。お前敵連合としての自覚あるのか?一応No.2なんだぞ、お前」

 

「ごめんって!いや、でも『幸福』を持ってるとはいえ不測の事態に対してはランダムに『不幸』か『幸福』のどちらかが働くから、あとはわかるね?」

 

 そんなの、ほとんど不幸が発動するに決まってる。だって僕だよ?不測の事態で幸福が発動するような人間なら今頃真っ当な人生を歩んでる。

 

「そういうことじゃないんだよ。のこのこと散歩に出て行って個性をくらって戻ってくる間抜け加減に俺はキレてんだ。なぁ?」

 

「うぅ……だって仕方ないじゃん。エリちゃんに何か買ってってあげようかなー、あ、財布忘れてきたって絶望してたところを狙われたんだから。常に気を張っておくのってきついよ」

 

「お前常にだらけてるだろ」

 

 言って、弔くんはため息を吐いた。まぁ僕だって情けないとは思う。世界の敵を自称したやつがあっさり個性をくらって子どもになるって、そんなやつにどう恐怖するって言うんだ。僕ならあまりの間抜け感に親近感を覚えちゃうね。

 

「エリの個性でもどうなるかわからないしなぁ。ヒーローが子ども化敵を捕まえるのを待つしかないか?」

 

「だねぇ。これだけニュースになってるならヒーローも捕まえようと躍起になってるだろうし」

 

 エリちゃんの個性は巻き戻す個性。時間的な巻き戻しが可能だから大丈夫だとは思うけど、万が一がある。待っていて解決するならそれに越したことはないだろう。

 

「弔くーん。凶夜サマ知りません?」

 

 弔くんも僕を責めるのをやめ、二人でのんびりしていると天使の囁きかと聞き間違えるほど心地のいい声が僕の耳を癒した。この声はもしや?

 

「って、あれ?なんか可愛くなってる」

 

「小さい……」

 

 声の主は天使であるヒミコちゃんであり、エリちゃんを抱いたヒミコちゃんは僕を見て目を丸くした。そりゃびっくりするよね。ヒミコちゃんもエリちゃんも小さい僕を僕と認識しているのは通じ合っている証拠と喜ぶべきことか、それとも小さい頃から大して変わっていないと遠回しに言われていることを悲しむべきか。いや、そんなはずはない。確かに僕はちょっと童顔だけど、小さい頃と比べると流石に大分違っているはずだ。今肉体年齢六歳くらいだし。元と比べたら十年も違うし。

 

「へーぷにぷに。凶夜サマって小さい頃からまったく変わらないんですね」

 

「ぐぅっ」

 

「お前、何て残酷なことを……」

 

 ヒミコちゃんにほっぺを突かれて喜んでいたところにとんでもない暴言を吐かれてしまった。まったく変わらないって、そんな、ひどい。どれくらいひどいかって言うと弔くんが珍しく僕を庇うくらいひどい。

 

「一緒くらいだ。ね、凶夜さん」

 

 大ダメージを受けていじける僕の隣に、ヒミコちゃんの腕からするりと抜け出したエリちゃんがちょこんと座った。僕がエリちゃんと同じくらいになって嬉しいのか、やたらにこにこしている。かわいい。

 

「だねー。そう考えたら悪くない気がしてきた」

 

「どんだけポジティブなんだお前」

 

「だって、ほら」

 

 ヒミコちゃんが僕を抱き上げてソファに座り、僕を膝の上に置いて嬉しそうに鼻歌を歌っている。

 

「小さいっていうのは何かと得なんだ」

 

「男として見られないっていう欠点もあるがな」

 

 僕に対抗してか、膝によじ登ってくるエリちゃんをそっと抱えながら言った弔くんに、まさかそんなわけないとヒミコちゃんを見上げた。母性の塊のような笑顔だった。

 

 というか待て。小さい僕とエリちゃんを膝にのせている弔くんとヒミコちゃん。これってめちゃくちゃ親子に見えない?

 

「あら、可愛い家族ね。ママが制服着てるのが気になるところだけど」

 

「……マジかよ」

 

 そう考えていると通りがかったマグ姉が何でもないように言って、ひらひらと手を振り「楽しんでねー」と言って去っていった。去り際に「そういえば凶夜くん小さかったわね」と言っていたのは、僕は別に小さくても大きくても然程変わらない人間だということだろうか。聞き捨てならない。

 

「こんなにカァイイ子が二人なら大歓迎です。ね?弔くん」

 

「エリはいいが、そっちの生意気なガキは別に」

 

「なんだと!?もし仮に弔くんとヒミコちゃんの子どもだったとして、僕は弔くんの遺伝子が濃いって断言できるよ!」

 

「俺はお前みたいに子どもじゃない」

 

「そうでもないです」

 

「子どもっぽいよ?」

 

「……」

 

 弔くん、撃沈。わかるよわかる。男の子は女の子から子どもっぽいって言われると結構ダメージ大きいんだ。女の子は結構何でもない風に言うけど、それがどれだけ男の子を傷つけているかわかってない。一部子どもっぽいって言われて喜ぶ男もいるけど、それは男であって男じゃない。

 

「言われてやんの。大人の癖に」

 

「お前も大人だろ」

 

「僕は今子どもだし」

 

 弔くんが鬼の形相になったところで一旦煽るのをやめる。危ない危ない。恐らく今僕が子どもじゃなかったらボコボコにされてた。弔くんはエリちゃんと触れ合って「子どもには優しくしよう」っていう心が芽生えてるはずだから今は平気だけど。多分。

 

「まぁでもなんだかんだ言って、いつまでもこのままは困るかなぁ。ほら、ヒミコちゃんも大人でナイスな僕じゃないと困るでしょ?」

 

「?」

 

「とても不思議そうな顔で首を傾げられた」

 

「そらそうだ」

 

 僕を膝にのせているヒミコちゃんがうっきうきな時点でなんとなく察しはついてたけど。いや、でもこんな態度をとりつつ内心早く戻ってほしいと思っているに決まってる。そう信じておかないとやってられない。

 

 そうやって僕が拗ねつつヒミコちゃんとエリちゃんと遊んでいると、のそのそとあくびをしながら荼毘くんが歩いてきた。最近遅くまで頑張ってるから起きる時間が安定していないのでちょっと心配。そんな荼毘くんはやはり僕を見て目を丸くすると、不思議そうに首を傾げた。

 

「なんだ、まだ戻ってなかったのか」

 

「あれ、僕が小さくなったって知ってたの?」

 

 聞くと、荼毘くんは弔くんを指して、

 

「いや、さっき死柄木が黒霧に『月無を子どもにしやがったふざけた敵を探し出せ』っつってたから、もう戻ってるもんかと。結構隠れるのうまいみたいだな」

 

 言いながら荼毘くんはヒミコちゃんの隣に座って、僕のほっぺを突き始めた。やめろ!僕のほっぺは男に突かれるためにあるんじゃない!

 

 というか。

 

「弔くん、僕のために動いてくれてたんだ。何?僕のこと好きすぎじゃない?」

 

「仲間がやられたんだ。当然だろ」

 

「え、カッコいい」

 

「見習ってね、凶夜さん」

 

「え?」

 

 エリちゃんの前ではカッコいい僕であり続けていたつもりなんだけど、エリちゃんからすれば全然足りていないらしい。そりゃそうだ。だって今の僕カッコ悪いし。ちょっと待て、エリちゃんにとって僕と弔くんなら弔くんの方がカッコいいって思ってるってこと?ははは、そんなまさか。

 

「弔くんはいつもカッコいいけど、凶夜さんはやる時だけカッコいい」

 

「いや、それはほら。ギャップ的な感じで?いいじゃん」

 

「あ、でも凶夜さんといるときの弔くんはかわいい」

 

「ふっ」

 

 荼毘くんが噴き出した。珍しい。

 

「あ、確かに。屈託のない笑顔ってああいうのを言うんですよね」

 

「ふっ、確かにな。二人とも子どもみたいに笑うんだ」

 

「……」

 

「ぷぷぷー。弔くんかわいいー。そんなに僕といるのが楽しいんだー?よかったね。僕という親友がいて!」

 

「死柄木」

 

 みんなで楽しく煽っていると、黒霧さんがふっと現れて弔くんに耳打ちした。そしてまたふっと消える。なんかできる人感半端ないな。僕もあぁいう仕事人ポジションやりたい。カッコいい。

 

「……どうやらその子ども化は三日は元に戻らないらしい」

 

「え、そうなの?三日はこのままかー」

 

「えー、三日で戻っちゃうんですか?」

 

「えー」

 

「月無。お前一生そのままでいたらどうだ?」

 

 荼毘くんの提案に全力で首を横に振る。確かに今居心地いいけど、それとこれとは話が別だ。一生子どもなんてそんなの男として負けを認めたとしか思えない。

 

「うん、で、だ。俺ちょっと試したいことがあってな」

 

「なになに?なんでも相談してよ。僕たち親友だろ?」

 

 弔くんを煽りつつ、優しい僕は相談に乗ってあげる。なんせ僕たちは親友だから。僕といると弔くんは楽しいらしいし。ふふふ。これでしばらく弔くんをおちょくれる。

 

「子どもにする拷問を試したいんだが」

 

「たすけてー!!大犯罪者がここにいるよ!!」

 

 神速の反射神経で逃げ出したが、子どもの足では大人には敵わなかった。子どもに優しくしようなんて心弔くんにあるわけなかった。この人でなし!


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