【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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※番外編は前書きを読んでください。

タイトルに「番外」とついているものは本編をある程度読んでから読むことをお勧めします。ネタバレになりますので、この位置まで読んでいれば読んでも問題ないですよ、というのをタイトルに(第○○話読了後推奨)といった風に記載します。それを参考にしてください。

さらに、番外編は本編を無視して書くことがあるので「1.~」「2.~」といったように注意書きを記載している場合があります。そちらを見て問題ないと思った方は読んでいただけると幸いです。

1.本編終了後、同じ年の二月あたりの話です。


番外:ヴィランから学ぶヴィラン学(本編読了後推奨)

 いつも通り登校し、いつも通り授業を受けようと思っていた時、ふと時間割を見て違和感を覚えた。

 

「ヴィラン学……?」

 

 今日こんな授業あったかな、と首を傾げると同時に、相澤先生が教室に入ってきた。恐らく説明があるだろうと思い考えるのをやめ、先生の話に集中することにする。

 

「えー、おはよう。連絡は色々あるが、まぁ一番初めに言っておくべきことがある」

 

 入れ、という相澤先生の言葉と同時、教室に入ってくる影があった。

 

「月無凶夜が今日学校をうろつくが、気にするな」

 

「気にするって!!」

 

 呑気に「おはよー」と手を振っている月無に、1-A全員の声が重なった。

 

 

 

 

 

 

「つまりね。僕は敵連合(ヴィランアカデミア)と社会の間に橋をかける足掛かりとして雄英にきたってわけ」

 

「へー。代表補佐ってのも大変なんだな」

 

「いやぁ、雄英の方が大変だったと思うよ。今でもなんで受けてくれたのか不思議だもん」

 

「なんで馴染んでるの……」

 

 今回僕が雄英にきたのは、敵連合(ヴィランアカデミア)と社会の間に橋をかける足掛かりが目的。僕たちに危険がないということを世間にアピールするためのものだ。散々迷惑をかけた雄英にその話を持っていったときは我ながら図々しいなと思ったが、「ヴィランから学ぶヴィラン学って面白そうだね!」という校長の一声で許可が下りた。反対する職員はもちろんいたが、「月無はやろうと思えばすぐにでも世界を壊せるんだから、雄英の中にいようと外にいようと一緒さ!」と男前な意見で一蹴した。暴論すぎじゃない?と思ったけど許可が下りてるからよしとしよう。

 

「ま、すぐに仲良くっていうのは無理だと思うけど、これからちょくちょく雄英にくるからよろしくね!」

 

 と、締めたところでチャイムが鳴る。僕が受け持つ『ヴィラン学』は一時間目、1-Aで行われる。ちょうどいい。雄英が知り合いのいるクラスに、と配慮してくれたのだろう。気遣いできるのっていいなぁ。弔くんにも学んでほしい。

 

「よし、チャイムが鳴ったところで早速始めよう!まずは自己紹介!僕の名前は月無(つきなし)凶夜(きょうや)(ヴィラン)更生施設『敵連合(ヴィランアカデミア)』の代表補佐で、今日から時々『ヴィラン学』を受け持ちます。まぁ講師は僕だったり弔くんだったりするけど、実際の敵から学べるからヒーローになるなら結構有意義になると思うよ!というわけでよろしく!」

 

「死柄木はいやだなぁ……」

 

「大丈夫!弔くんって見た目怖いし言動も怖いし行動も怖いけど、教えるのはすごく上手だから!」

 

 妙に弔くんを恐れる峰田くんにフォローを入れる。確かに嫌がる気持ちもわかるけど、敵を学ぶならこれ以上ない講師だと思う。先生、弔くん、僕の順でためになるんじゃないかな。

 

「はーい、質問」

 

「はい、上鳴くん」

 

「なんで月無先生は敵としてオーラがないんですか?」

 

「うーん、そうだね。じゃあ爆豪くん。どんな観点からでもいいから、敵を二種類に分けてくれる?」

 

「ザコとカス」

 

「ほぼ一種類じゃない?それ」

 

 爆豪くんの授業態度が悪いのであててみると、暴言を吐かれてしまった。それって僕のことを指してるのと一緒だよね?確かに僕はザコでカスだけど。

 

「上鳴くんの質問に返すよう敵を二種類に分けるなら、『バレる敵』と『バレない敵』だね」

 

 バレる敵、というのはそもそも視線からしてなっていない。「今から犯罪行為をします」と言わんばかりに目が不自然にきょろきょろしてるし、行動を起こす前に敵だと目星をつけられる。隠れるのがへたくそなんだ。こういうのは決まって小心者だけど、例外もいる。

 

「さてなんでしょう。わかる人!」

 

「隠れる必要がない、とか?」

 

「それは何で?」

 

「例えば、逃げ切れる自信があるとか、ただ単純に自分の実力に自信がある、とか」

 

「正解!出久くんに三十ヴィランポイント進呈!」

 

 「ヴィランポイント……?」と首を傾げる出久くんを無視して話を続ける。

 

「まぁそういう敵って少ないんだけどね。バレないように犯罪行為をしてバレちゃったから犯罪者に、っていうのが普通なんだけど、例えば弔くんは自身満々にUSJ襲撃して初めて敵として認識されたから、『隠れる必要がない』っていう考えの敵になるかな。あ、その節はどうも」

 

 数人に睨まれたので頭を下げておく。そういえば僕も襲撃に参加してたんだった。

 

「ただ、真に狡猾な敵は潜むもの。人にバレないように生活して、人にバレないように犯罪行為をする。『バレない』っていう能力を身につけてる敵って、案外多いんだ。街を歩いてるときに隣に敵がいたって不思議じゃない」

 

 そこで僕は梅雨ちゃんに目を向けて、

 

「梅雨ちゃんはこの前僕と戦ったときに一番実感したんじゃないかな?」

 

「ええ、あまりにも自然すぎて反応できなかったわ」

 

 人の意識の隙間をつく能力。これを身につけている敵っていうのは案外多い。バレないように、バレないようにと生きていくうちに自然と身に付くものだ。その能力に長けているのは弔くんと僕とヒミコちゃん。

 

「言ってしまえば、人の思考を読むというか、油断したところをつくというか、いやらしい手が得意なんだ。そうしなきゃ生きていけないっていうのもある」

 

 敵はなにもヒーローだけが相手じゃなくて、敵同士が争うこともある。そんな中で見つからないようにするっていう能力と、隙をつくっていう能力は重要だ。出し抜く、っていう言い方が一番かもしれない。

 

「ヒーローは抑止力としてコスチュームを身に纏ってパトロールする。安全に見えるけど実はこれって敵からすると嬉しいんだよね。だって少なくともパトロールしてるところ以外はヒーローの目がない可能性が出てくるんだから。ヒーローがコスチュームを身に纏ってなかったらどこにいるかわからない、ってなって行動しにくいけど、わざわざ身に纏ってパトロールしてくれるならそりゃそこ以外を狙うよねって話で」

 

 敵っていうのは臆病だ。自信家もいるけど、心の底ではヒーローに勝てないってわかってる。だから戦わなくていいようにヒーローを避けたいって思って、パトロールしているところから、或いはヒーロー事務所から離れたところで活動する。

 

「逆を言えば、パトロールしてるところは安全だから敵は現れないって言えるんだけど……まぁそうとも言い辛くて。敵も人間だからそれぞれに思想というか目的というか色々あって、中にはヒーローを対象にしたやつもいる。そういうのはパトロールしてるヒーローに狙いを定めたりするから、確実に安全とは言い難いね」

 

 あと重要なのが一つある、と指を立てて、

 

「わかってると思うけど、一般市民の避難は最優先。野次馬させるなんてもっての外。敵は追い詰められたら一般市民を人質に使うし、追い詰められてなくても人質に使う。いつだって敵は弱者を見極めようと必死なんだ。ヒーローは世間の目とか立場とか色々あるけど、敵には基本的にそれがないからなんだってするよ」

 

 犯罪行為をしてでも成し遂げたいことがあって敵になるものと、自暴自棄になって敵になるもの、大きく分けるとこの二通りがあるが、目につきやすいのは後者だ。そして、後者は自分を弱いと自覚しているからこそ厄介であり、一番気を付ける必要がある。

 

「実際にあったことから説明すると、あの僕たちが大暴れした日、僕は出久くん、爆豪くん、お茶子ちゃん、梅雨ちゃんの四人と同時に戦ったんだ」

 

「エグッ」

 

「エグイよね。出久くんと爆豪くんはもちろん強いし、梅雨ちゃんは周りをしっかり見て適切な行動ができるし、お茶子ちゃんに触れられるとそれだけで終わりになっちゃう。そうでもなかったけど」

 

 眉間に皺を寄せたお茶子ちゃんに手を振っておく。嫌そうな顔をされた。

 

「で、ここで敵からするとどうするかっていう話。そのとき周りには人質にできそうな市民はいなくて、僕とその四人、あとは手出しをしない敵が複数。手出しは絶対しないからこの人たちは除外するとして、さて僕はどうしたでしょう?」

 

「命乞い?」

 

「上鳴くんが僕をどう思ってるのかよくわかった」

 

 みんな黙ってじっと考え込んでいる。何人かは気づいてそうだけど、内容が内容なだけあって言い難いのかな。仕方ない、僕の口から言ってあげよう。

 

「僕は、真っ先に梅雨ちゃんを狙った。反撃されても一番ダメージが少なくて、もしもの時は人質に使えそうだから。その場で一番狩りやすそうだと判断した」

 

 気まずそうな顔をした子たちは、どうやら当たっていたみたいだ。別に恥じることでもないし、気まずくなることもないのに。敵の心理を少しずつわかってきた証拠だ。ヒーローになるなら敵を知るっていうことはすごく重要なことで、むしろ誇っていい。

 

「さて、これを教訓とするのなら、敵と相対したときは真っ先に周囲の確認、弱者の見極め、その敵の目線、仕草、言動、それらに注目するのが重要ってことだよね。弔くんとか僕とかみたいに卓越した技術を持つ人ならあまりにも自然に動けるけど、一般的な敵はそうじゃないから案外目線、仕草、言動で次の行動がわかったりするんだ」

 

「自画自賛してる……」

 

 冷たい目で見てくる耳郎ちゃんに興奮するが、はっ、と我に返る。今の僕は講師だ。そんな不純なことダメだ。ところで響香ちゃんって呼んでいい?ダメ?そう。

 

「で、その周囲の確認と敵の行動の割り出し方なんだけど……そろそろ時間だね。じゃ、今から紙配るから、そこに簡単な感想と質問があれば書いてね。僕自身授業が初めてだし、色々反省もあると思うから。君たちの目線から思ったことを言ってくれれば次に活かせるし、お願いね」

 

 反省というのは必要なことだ。僕が足掛かりとしてここにいる以上、上質な授業をしなければならない。有能さを示すことが重要なんだ。

 

「あ、そうだ。『敵連合(ヴィランアカデミア)』の見学にきたいなら言ってね。なんとかするから」

 

 みんな微妙な顔をしていた。敵を知るなら行きたいところだけど、敵の本拠地みたいなものだから、という葛藤が透けて見える。難しく考えるんだなぁ。


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