【完結】僕の『敵連合』   作:酉柄レイム

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※番外編は前書きを読んでください。

タイトルに「番外」とついているものは本編をある程度読んでから読むことをお勧めします。ネタバレになりますので、この位置まで読んでいれば読んでも問題ないですよ、というのをタイトルに(第○○話読了後推奨)といった風に記載します。それを参考にしてください。

さらに、番外編は本編を無視して書くことがあるので「1.~」「2.~」といったように注意書きを記載している場合があります。そちらを見て問題ないと思った方は読んでいただけると幸いです。

1.前回の続きです。


番外:突撃、敵連合の実態(2)(本編読了後推奨)

 三人掛けの長机がいくつも用意されており、何人もの生徒が埋め尽くすように座っている。みんな大人しく、教壇に立つ人の話を聞いている姿はもはや社会人のそれと言ってもいい。

 

 そして、教壇に立っているのは、

 

「今教壇に立っているのはジェントル・クリミナルさんです。ここでは一般常識、社交等社会で役立つ知識を身につけます。講師はジェントルさんと、黒霧さんとコンプレスさんの三人で受け持っています」

 

「真面目ですね」

 

「たとえそれが望まれないものだとしても、彼らは本気で社会復帰を目指していますから」

 

 更生して、人のために動くということを知り、社会に出ることを目指す。受け入れる側は元敵が怖くて仕方ないだろうけど、ここで誠意やらなんやらを学ぶことで徐々に受け入れてもらえる。そんな簡単にはいかなくても、時間をかけて認めてもらうしかない。前提として、僕たちは一応悪いことをしたんだから。

 

「このような授業を受けて、こちらが社会に出ても問題ないと判断した人を協力者さんのところに連れて行って、そこで完全に大丈夫だとわかれば社会復帰させます。その協力者さんのところに人の本音を引き出せる個性の人がいまして」

 

「慎重ですね」

 

「元敵を社会に送り出すわけですから、慎重すぎるくらいがちょうどいいんです」

 

 正直、受け入れる側としてはまだ足りないくらいだろう。若頭のとことデトネラット社はよくても、他が不安になる。まだ敵連合に全幅の信頼を寄せてるわけじゃないし、その辺りはこれからの働きで信頼を得ていくしかない。

 

「授業内容自体は何の変哲もないので、次行きましょう。次は下層ですね」

 

「下層、ですか」

 

 下層と聞いて取材班の全員がまた緊張し始めた。ここから先は更生した、と完全に言えない敵の集まり。それでも安全であることは間違いないと胸を張って言い切れる。

 

「つきましたよ。一応僕から離れないでくださいね」

 

 言うと、わかりやすいくらい僕に寄ってきた。そこまで寄られると逆に動きづらいんだけど、まぁ僕の個性ならほとんど関係ない。男の人はむさくるしくていやだから、女の人はもっと寄ってきてくれると嬉しいんだけど。

 

「楽しいだろコラァ!!?」

 

「ハン!どこが!?俺らが考えた遊びの方が楽しいに決まってんだろ!」

 

 エレベーターの扉が開いて聞こえてきたのは言い争い。にしては内容がちょっと可愛らしい。初めびくっとしていた取材班も、目を丸くして驚いている。

 

 それもそのはず。この階層にいる凶悪そうな敵たちが持っているのは風船だったり、お菓子だったり、その風貌にとても似合わないもの。第一、パッと見では何をしているかがわからない。

 

「あ、月無さん!お疲れ様です!」

 

「どうっすかこの風船!なんと手を離しても飛んで行かない!これで子どもが泣くこともないでしょう!」

 

「え、すごっ!あとで教えてもらっていい?キッズエリアに持っていきたいから」

 

「もちろんっす!」

 

「あの、これは……?」

 

 困惑した様子でディレクターが口を開いた。暴力的な見た目をしているのに口を開けば「子どもが泣くこともない」。そりゃ困惑する。

 

「つーか、キッズエリアに持ってくようなものなら俺が楽しめるわけねぇだろ!」

 

「あ?ガキみてぇな頭脳してっから楽しいかと思ってな!」

 

「ンだとコラ!?」

 

「はいストップ」

 

 ディレクターの質問に答えようか、二人の喧嘩を止めようか悩んでいると、二人の間に先生が割って入った。そう、下層の責任者は先生であり、しかも一人で全員の指導を行っている。本当に先生には頭が上がらない。

 

「どうも、わざわざこんなところまでありがとうございます」

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 かつてオールマイトと戦った凶悪敵を前に、取材班がめちゃくちゃ緊張している。見た目も怖いしね。安心してって口だけで言っても無駄だろうから、ここは先生に任せよう。

 

「ここは、そのまま下層エリア。上層に行くため各々が課題に挑むエリアです」

 

「課題、とは?」

 

「例えばこの二人」

 

 先生は先ほど喧嘩していた二人を指して、

 

「この二人は『相手を楽しませること』。脅し、暴力等の行為以外で相手の口から『楽しい』を引き出せれば上層に行けます」

 

「きょ、凶悪敵がそんなもので更生するんですか?」

 

「ここにいるのはうちの代表と代表補佐に惹かれた者たちですから。社会復帰できないレベルの者はもっと下層にいますし、問題ありません」

 

 もっと下層、と聞いて僕を見たディレクターに首を横に振る。

 

「流石に見せられない部分です」

 

「です、よね」

 

 あはは、と乾いた笑いから取材魂と安堵感が混ぜられたような色が出ている。見に行ってもいいけど、お茶の間に届けられるような映像は一つも撮れない。絶対に。

 

「ここでは、『誰かのために』ということを学びます。ここの人間は代表、代表補佐、職員には従順ですが、お互いの事となるとそうもいかない。まず素直ではないですし、さっきのように喧嘩しようとすることも日常茶飯事。ですが、そういう人間だからこそ『楽しい』と言ったときは心からのものです。そして、それを言わせることのできる人間は既に『誰かのために』を学べている。まぁ課題をクリアしたとして、我々職員の検査があるのですが」

 

 要は、思考テストと人間性診断、そして上層でのルールの確認。破れば下層行きということを了承させてから上層行きとなる。今のところ下層に戻ってきた人はいないのは喜ばしい。

 

「私の仕事は『学びの見極め』とさっきのような『仲裁』ですね。あと、彼らが欲しがるものを調達する役目もあります。楽しませたいからこの道具が欲しい、という要望があれば上に伝えたり、私が直接調達したりと、ですね。もちろん調達する前に使用用途は聞きますよ」

 

 ここで爆発音が聞こえてきた。また誰かが何かやらかしたらしい。怪我人とかいないといいけど、爆発の規模的に難しそうだなぁ。仕方ない、こっそり個性を発動しておこう。

 

「ま、『誰も怪我してないといいね』」

 

「あぁ、そうだね。誰も怪我をしていないだろうが、責任者だから行くことにするよ。では、失礼します」

 

 言って、先生は去っていった。いやぁ、下層にいさせるのが申し訳ない。でも、癖のある敵を一度にまとめ上げられるのは先生くらいしかいないんだ。もうちょっと楽な体制を考えられればいいんだけど、難しい。

 

「では、行きましょうか」

 

「はい。ちなみになんですが、代表補佐はすべての階層に顔を出しているのですか?」

 

「出してますよ。これでも代表補佐なので、現状の把握は大事です」

 

 ただでさえ代表の弔くんが忙しいんだ。補佐の僕が動かなくてどうするという話である。楽しくてやっているところもあるが、現状の把握が大事だと思っているのは本当だ。

 

「次は上層四、職員が集まる階層ですね」

 

 エレベーターの扉が開くと、慌ただしく動き回る人、人、人。その中にいる一人に声をかけて呼び止める。

 

「トゥワイスさん!」

 

「お、月無か」

 

 トゥワイスさんには自分を増やしてもらっているのでマスクはしていない。現状何人かが生徒から事務員になってくれたが、それでも人手が足りないのでトゥワイスさんが補っているという形だ。

 

「と、テレビか。タバコは大丈夫ですか?」

 

「えぇ、個性の関係だと聞いていますので」

 

「すみませんね。ややこしい条件でして」

 

 周りに気を遣いながら煙を吐き出し、僕を一瞥してから説明を始めた。

 

「ここは職員エリア、と言えばいいんでしょうかね。職員それぞれの部屋や管制室、応接室などがあります。基本的に生徒はここへきませんが、別にきてはダメというわけでもありません。授業の質問とかあるでしょうし」

 

「管制室とは?」

 

「主に監視カメラをチェックしたり上、代表からの連絡を届けたりですね。正直全員いい子なんでやることないです。管制室以外は今んとこ書類整理とか他雑務とかで忙しいですね」

 

「管制室を見たりとかは」

 

「ダメですね。セキュリティ的な問題で」

 

 そうですよね、といいつつ肩を落とすディレクター。そこを映されちゃうと管理の穴を見つけられちゃうから、流石にね。

 

「ま、雑務内容は語っても仕方のないことなんで、後は代表に。では、失礼します」

 

 やることないと言いながらも、トゥワイスさんは忙しそうに去っていった。一応この階層の責任者みたいなものだから忙しくないわけがない。管制室にいるラブラバさんだけに負担をかけられないしね。

 

「さ、行きましょう。ここをまっすぐ行ったところにある部屋に代表がいます」

 

 すれ違う職員と挨拶を交わしつつ、弔くんが待つ部屋に向かう。ちなみに、普段僕が待機する場所は弔くんと一緒のところだ。だから、『代表・代表補佐室』となっている。カッコいいな、おい。

 

「弔くん、開けるねー」

 

 そして軽いノリで扉を開けた。するとそこには、

 

「あ」

 

「え?」

 

 デスクの向こう側で膝にエリちゃんを乗っけている弔くんの姿があった。なんだこれ?

 

「なんでここにいんのエリちゃん」

 

「ち、ちがうの!私、そんなつもりじゃ」

 

「え、そんな不倫現場が見つかった妻みたいな狼狽え方しなくても」

 

「あぁ、最近それにはまってるんだよ。エリのやつ」

 

 なんてものにはまらせてくれてんの?

 

「すみませんね、あんな代表で」

 

「あ、そうですね」

 

「すみませんね、そんな代表補佐で」

 

「いえいえ」

 

「もう、テレビさんに気を遣わせちゃダメ」

 

 まさかのエリちゃんに怒られてしまった。弔くんといるといつもの調子が出てしまうからいけない。ここは気を引き締めなおして、代表補佐としての自分に切り替えよう。

 

「改めまして、私が『敵連合(ヴィランアカデミア)』の代表死柄木弔です。わざわざこんなところまですみません。迎えを出せればよかったのですが、何分まだ忙しいもので」

 

「いえ、お気になさらず。むしろそんな忙しい時に受け入れて頂いてありがとうございます」

 

「市民のみなさんに安心して頂くというのは大事なことですから。これから結果を出して徐々に信頼を得ていければと思っています」

 

 なにか質問は?と聞く弔くんに、ディレクターは首を横に振った。

 

「後日、撮影したデータを編集しそれを送りますので、気に入らない点がございましたらご連絡ください」

 

「いいんですか?それ」

 

「はい。敵連合を見ると、我々も真摯に向き合うべきだと感じましたので」

 

 聞いて、弔くんは嬉しそうに笑った。あ、あれは僕に「よくやった」って言ってる顔だな?僕にはわかるぞ。だって親友だし。

 

「では、その方向でお願いします。まだ撮影したいところがあれば月無を使ってやってください」

 

「そうしたいところですが、代表補佐は随分人気のようですから。私どもはこのあたりで失礼しようかと」

 

「人気、ですか。わかりました。それではまた機会があればお越しください。その時は私がご案内いたします」

 

「ええ、それでは本日はありがとうございました」

 

「こちらこそ、ご連絡お待ちしております」

 

 挨拶を終えて、取材班が頭を下げて部屋から出て行く。送っていこうと僕も部屋を出ようとしたその時、弔くんに呼び止められた。

 

「おい」

 

「なに?」

 

「さっきの俺の態度見て『おもしろっ』って思ってただろ」

 

「え?そんなこと」

 

「わかるんだよ。親友だからな」

 

 僕は脱兎のごとく駆け出し、部屋から逃げ出した。うーん、これは取材班と一緒に編集作業をした方がいいかもしれない。帰ったら弔くんにやられるし。いやぁ、親友というのも楽じゃない。

 

 後々、この場面が撮られていたことを知り、弔くんに追いかけまわされた。ほら、敵連合の実態と言えば実態だから許して?

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