【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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1.前回の続きです。


番外:ハッピーバレンタイン(2)(本編読了後推奨)

「お?」

 

 雄英での用事が終わって、個性で敵連合の代表・代表補佐室へちょちょいとワープすると、弔くんがデスクに突っ伏していた。隣には丁寧に開封されたチョコの箱が山積みに。

 

「……意外。律儀に食べるタイプなんだ」

 

「こういうのもつながりだからな。ヒーローからも贈られてきたりするから、ちゃんとしておいて損はない」

 

 弔くんのことだから「くだらねぇ」って言ってボロボロにするか、他の人にあげるかと思っていたのに。成長したなぁ。まぁ好意をいただいてるわけじゃなくて打算的な意味合いで食べてるみたいだけど、食べないよりはマシだろう。

 

「それで、本命っぽいのあった?」

 

「さぁな。ほとんどがアイドルに贈り物すんのと同じノリのやつだろ」

 

「えー、弔くんモテると思うけど」

 

「オラ」

 

「いて」

 

 言葉で返事せず、弔くんは箱を手に取って僕に投げてきた。別に避けるほどでもないから素直に当てられておいて、僕の頭で跳ね返った箱をキャッチして見てみると、ものすごくアメリカっぽいデザインの箱の右下に『オールマイトより』と書かれている。

 

「本命だと思うか?」

 

「だとしたら僕はオールマイトを通報するよ」

 

 弔くんに贈るなら僕にもくれたらよかったのに。そういえばオールマイトのお師匠さんが弔くんのおばあちゃんらしいから、その関係であげたんだろうけどそれにしても納得いかない。ここは公平に僕にもあげるべきで、それでこそ敵連合No.1とNo.2ではないだろうか。

 

「あぁ、お前も一応住所わかるやつがいたらお返し用意しとけよ」

 

「えー?ほんとマメだね」

 

「つながりは大事にしておいた方がいいんだよ」

 

「僕も大事にしてくれたしね?」

 

「死ね」

 

 こういう恥ずかしくなったら暴言を吐くところは成長していないらしい。弔くんらしくてとても好ましいが、一番子どもっぽいところがそのままってかっこつかないと思うんだけど、どうだろう。一部の人たちからは可愛らしいって人気が出そうだ。普段は口がうまいのに恥ずかしくなると途端に暴言。これは売れる。誰に?

 

「そういえば、雄英から連絡がきてたぞ。なんでも、お前の授業が評判いいらしい」

 

「お、やっぱり?僕才能あると思ったんだよね」

 

「その辺りは先生譲りだな」

 

 そうかもしれない。身近な大人と言えば先生くらいしかいなかったし、今僕が持っているほとんどの知識は先生から教えられたものだ。その時の先生の教え方がそのまま僕に受け継がれていてもおかしくない。先生って長く生きているだけあってものすごく口がうまいし、教え方もうまいし、何をしても完璧だ。個性もものすごいし。

 

「そういえば、弔くんって結婚に興味ある?」

 

「それ聞いてどうするんだ」

 

「いや、そんなにチョコ貰ってるなら、そういう話も後々出てくるのかなぁって。ほら、僕はヒミコちゃんと結婚するから心配ないとして」

 

「人の嫌がることはするなよ」

 

「それ君が言う?そもそもヒミコちゃんが嫌がるかどうかわかんないじゃん。……わからない、よね?」

 

 不安になってきた。そういえば僕のセクハラ……もとい愛情表現にヒミコちゃんがまともに応えてくれたことはあっただろうか。僕の計算なら今頃僕とヒミコちゃんはラブラブで、目があえば抱き合う関係になっているはずなのに、今は目があっても笑ってくれるだけだ。つまりヒミコちゃんは可愛いということ。ん?何の話だっけ。

 

「まぁ、好感度は低くないだろうな。証拠に、マグネとラブラバはお前の部屋にチョコを置いていったが、トガは直接渡すと言っていたらしい」

 

「それ本命じゃん。悪いね弔くん。どうやら僕の方が先に大人になっちゃうみたいだ」

 

「そういうのを大人になることだって思ってるうちはまだまだ子どもだろ」

 

「……じゃあ、僕は受け取りに行ってくるね」

 

 別に、言い負かされそうだったから逃げたわけじゃない。ただ、ヒミコちゃんからのチョコが楽しみすぎただけだ。というか、エリちゃんも一緒に作ってたんじゃなかったっけ?でも弔くんは僕の部屋にエリちゃんがチョコを置いていったって言ってなかった。

 

 つまり、今僕は二人の女の子のうち、先にどちらへ行くか決めなければいけないということである。

 

「ふむ」

 

 僕は、迷わず歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうすればいいと思う?荼毘くん」

 

「なんで俺に聞く?」

 

 僕は迷わず荼毘くんの部屋に突撃した。一日の仕事を終えたばかりの荼毘くんはセクシーにエプロンを脱ぎ、面倒くさそうに僕を見た。世の荼毘くんファンが見たら高熱が出て倒れかねない姿だ。うーん、なんというか、ずるい。男が見ても色気を感じるっていうのはものすごくずるい。僕も色気がほしい。少しだけ分けてもらうことってできないかな?

 

「いや、こういうのって落ち着いて行動しなきゃダメだと思うんだ。軽はずみな行動をとって女の子を悲しませたらいけないし」

 

「自意識過剰かよって言いたいところだが、そうだな……待てばいいんじゃねぇのか?」

 

「……」

 

「解決したな。出てけ」

 

「いやでも待って。もしそれで夕飯までに渡してもらえなかったとしたら、夕飯の時にエリちゃんとヒミコちゃんと顔合わせるの気まずくない?」

 

 あ、チョコを渡してくれる二人だ。って思いながらご飯を食べるのは少しきつい。そんなドキドキするご飯ある?いや、エリちゃんはまだ微笑ましいですむけど、ヒミコちゃんに対してはダメだ。ドキドキしすぎてその場でプロポーズしてフラれる自信がある。今僕が想像の中でフラれた。

 

「なら俺が行ってきてやろうか?さっさと渡せって」

 

「こういうのは自分のタイミングで、自分の気持ちで渡すのがいいんでしょ!」

 

「めんどくせぇ」

 

 そういうことは思っても言わないものだよ。本人からしてもめんどくさいとは思うけど。でもこういうのって本人の気持ちが大切だと思うんだ。受け取る側にしても、渡す側にしても。こう、踏み出す勇気と言うかね?

 

「大体、トガがお前のことをからかって渡してないだけかもしれねぇし、そんなに深く考えることねぇだろ」

 

「いや、ヒミコちゃんは恥ずかしがって渡せてないはずだ。だって僕のことが好きなんだから。聞くけど、僕に悪いところなんてある?」

 

「自意識過剰、ガキみたいな顔、一言多い、人を馬鹿にしたような態度」

 

「本当のことを言うのはやめてほしい」

 

 こういうときは「いや、ないな」って言って僕を気持ちよくさせるところでしょ。相手をいい気持ちにさせるのが社会なんだから。悪い気持ちにさせてくる人もいるけど、そういう人は総じて心が狭くて余裕がない人だから、こっちが積極的にいい気持ちにさせればいい。素晴らしい。

 

「大体、俺じゃなくてジェントルあたりに聞きゃいいだろ」

 

「は?ジェントルさんはラブラバさんと一緒にいるだろうから、邪魔しちゃダメでしょ。ちゃんと考える脳ある?」

 

 直後、僕は炎と一緒に部屋を追い出された。燃え広がってはいけないので急いで炎を消し、文句を言うためにまた荼毘くんの部屋に入ろうとすると、入り口に炎の壁。どうやら怒らせてしまったらしい。その気になれば炎の壁なんて屁でもないが、今の荼毘くんに会ったところでまともに対応はしてくれなさそうなので、おとなしく引き下がることにした。まったく、短気なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、僕のところにきたわけか」

 

「そう。まったく、僕がもうほとんど死なないからって容赦なさすぎだと思わない?」

 

「荼毘の言う通り、一言多いのが悪いと思うがね」

 

 荼毘くんに追い払われてしまったので、次に僕は先生を頼った。相変わらず下層ではめちゃくちゃな光景が広がっているが、先生がいることで秩序が保たれている。何かやらかした人はみんな先生のお世話になるから、そのせいらしい。

 

「しかし、凶夜が女の子からチョコを貰う日がくるとは、平和になったものだ」

 

「まだ本命って決まったわけじゃないけど。弔くんが貰ってたのは別として」

 

「あぁ、そういえばバレンタインの贈り物が届いていたとか。弔が貰ったものの中に本命らしいものがあったのかい?」

 

「あったよ。女の子から複数と、オールマイトから一つ」

 

「くっ、それはそれは。弔としては微妙なところだろうね」

 

 僕が初めて会った頃はオールマイトを殺すなんて言ってたし、今はそんなこと思ってないだろうけど心中複雑だろう。お互い自分たちがどういう関係か理解してるから尚更。仲良しこよしなんてことはしないだろうけど、お返しくらいはするのかな?だとしたら僕もファンとして何か送ろう。

 

「僕も死ぬ前に弔か凶夜の子の顔が見たいから、どちらかが頑張ってくれないとなぁ。どちらも、だと一番いいんだが」

 

「僕はその気満々なんだけどね。ヒミコちゃんさえよければ」

 

「まだ早いだろう。結婚できる年齢にはなってないはずだ」

 

「先生が法律を守れだなんて、それこそ平和になった証拠だよ」

 

 弔くんと僕を育てた悪の根源みたいな先生が、まさか法律を守れだなんて。まぁ僕もこんな大変な時期にそんなことするつもりもなかったし、そもそもヒミコちゃんにあっさり断られそうだからそんな心配はないんだけど。

 

「……そういえば、結局チョコを貰うためにどうすればいいの?それを聞きに来たんだけど」

 

「おっと。話が脱線するのは僕らの悪い癖だ」

 

 僕にその癖があるのは完全に先生のせいなのだが、その辺り先生は気づいているのだろうか。言ったところでなぜか嬉しそうな顔をするに決まってるからいちいち言ったりはしないけど。……なんとなく、先生のこういうところは弔くんより僕の方が色濃く受け継いでる気がするなぁ。

 

「そうだね。僕から助言を与えるのは簡単だが……こういうのは本人の力で成すべきことだろう。大丈夫。なるようになるさ。今までと比べたら今回のことは大したことはない」

 

「比較対象がおかしいと思うんだけど……」

 

 でも、そうか。どうやら先生も僕の助けにはなってくれないらしい。……僕こういうの初めてだからどうしたらいいかわからないのに。お茶子ちゃんには偉そうにあんなこと言ったけど。

 

 本命じゃなかったらいつも通りだからいいけど、もし本命だったらどんな顔をすればいいのだろうか。うーん、好きって言葉は日常的に言ってるものなのに、いざその言葉が向けられそうになるとこうもどぎまぎするとは。

 

 ひとまず、平常心で行こう。僕は先生に一言挨拶してから、上へ向かっていった。


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