【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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蛇足編:私の『敵連合』 (2)

 先生に相談してから、数日後。

 

「勝負!」

 

「可愛い」

 

「あぁ……いや、そうじゃない」

 

「そうでしょ?」

 

「そうだが」

 

 腰に手を当て、二人に指を突き付ける。凶夜さんに「可愛い」と言われ、弔くんが同意してしまったので恥ずかしいと同時に嬉しくなって頬が緩みそうになるが、頬の内側を噛んでなんとか耐える。……どうせこうして耐えたことも二人にはバレてるだろうけど、緩んでしまうよりはマシだ。私の気持ち的に。

 

 私が頬の内側を噛んで我慢したのに対し、凶夜さんはでれでれと頬を緩ませている。……そうやって感情を表に出すから私が恥ずかしくなるのに。

 

「エリ、勝負ってなんだ?お前からの頼みなら大歓迎だが……」

 

「私が勝ったら授業参観にこないで」

 

「絶対勝つよ、弔くん」

 

「当たり前だろ。お前と俺が組んで負けるわけがない」

 

 凶夜さんは緩んでいた頬を引き締め、弔くんと拳をぶつけ合う。まるであの頃のような目をしている二人を見て、なぜここで本気を出すのかとため息を吐いた。私のことで本気になってくれていると考えたら嬉しい気はするけど、今回ばかりは本気になられても嬉しくない。

 

 そんな二人だから好き、なんだと思う。この勝負も受けずにスルーしてむりやりくることだってできたはずだ。でも、二人は私を尊重して勝負を受けてくれた。……絶対に勝てるって思ってるから受けたのかもしれないけど。

 

「で、内容は?」

 

「凶夜さんのワープはなしの、敵連合内でおにごっこ!」

 

「いいね。だけど、生徒のみんなが混乱しちゃうんじゃないかな」

 

「もう許可はとってます」

 

「流石エリちゃん!」

 

 先生に提案してもらってから、私はすぐにみんなへ凶夜さんと弔くんと勝負することを伝えた。そして、その時に協力してもらう約束もした。二人のせいで……おかげで敵連合のみんなは私に甘いので、もちろん快諾。今の私の戦力は二人を抜いた『敵連合』そのもの。負ける気がしない。

 

「ちなみに、隠れるのはありだからね。捕まえた判定は、私を抱きしめること!」

 

「え? いいの?」

 

「エリ。年頃の女の子なんだから体は大事にした方がいい」

 

「捕まえた判定をタッチにしたら喧嘩するでしょ?」

 

「……ねぇ?」

 

「……なぁ?」

 

 二人が「お前のことだぞ」と睨み合っているが、二人ともだ。二人ともあの頃と比べて随分大人っぽくなったが、根っこの子どもっぽいところは変わらない。二人が揃った時は特にだ。きっと、ふざけるクセがついちゃってるんだと思う。メディアでは二人のやりとりが人気だったりする。憧れの男同士の関係みたいな感じで。

 

 ……それにしても、抱きしめるはやりすぎだっただろうか。弔くんの個性的にやりにくいかと思ってそうしたけど、ということは凶夜さんに抱きしめてもらえるわけで、いやもらえるんじゃなくて抱きしめられるわけで、いやそもそもそれは負けたらの話で勝てば抱きしめてもらえな……抱きしめられないわけで!関係ないわけで!

 

「とにかく!開始は私が出て行ってから20分後から、18時まで!約1時間だから!」

 

「1時間も?そんなにあったら捕まえちゃうよ?」

 

「これでもハンデもらったつもり」

 

 だって、二人の相手は『敵連合』なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、あと3分か」

 

「まずはどこを探す?」

 

 エリちゃんが出て行ってから17分間は仕事をして時間を潰し、残りの3分を作戦タイムにあてた。別に舐めているというわけではなく、僕と弔くんなら仕事をしながらでも考える余裕があるからで、この3分は考える時間というよりお互いの考えを確認する時間だ。

 

「20分ってうまいよね。敵連合内ならどこでもいけるから、隠れるとしたら全部が選択肢に入る」

 

「流石にこの階層はないだろうけどな。まぁ上から順に探してやるか」

 

「だね。考えたらエリちゃんと何かするのって久しぶりだし」

 

 できればじっくり楽しみたい。授業参観の前にエリちゃんの成長を見られるなんて僕はなんて幸せなんだ。その上授業参観にも行けるというのだから、幸せ過ぎる。数年前の僕からは考えられない。

 

「よし、行くか」

 

「うん、行こう」

 

 エリちゃんには悪いけど、本気で勝ちに行こう。勝負と聞いたら負けるわけにはいかない。授業参観がかかってるから尚更だ。最近僕の威厳がなくなってきている気がするから、ここらで一度取り戻すしか……。

 

「え?」

 

「……なるほどな」

 

 3分経ったので扉を開けると、目の前には大勢のトゥワイスさん。フロアを埋め尽くすほどの数に一瞬呆けてしまうが、すぐに納得した。

 

「そういうことね……」

 

「俺たちとエリの勝負かと思っていたが、そうでもないみたいだな」

 

「いーや、お前らとエリの勝負だぜ」

 

 マスクを被ったトゥワイスさんが静かに言って、トゥワイスさんたちが全員頷いた。

 

「今から俺たちはお前らの下を離れてエリにつく!裏切りってわけだ!」

 

「そういえばマスク被ってる状態でも自分増やせるようになったんだっけか」

 

「いいねぇその向上心!好きだよ!」

 

 そういえばそんなことを言ってたっけ。マスクを被って自分を増やせるようになったのに、今までのクセでずっとマスクを脱いでタバコを吸っていたから忘れかけていた。その個性を僕たちに披露するってことは、これはエリちゃんにみんなが協力してるってことだろう。……1時間はきつくない?

 

「じゃーやっちゃうぜ!覚悟しろよ二人と、も?」

 

 トゥワイスさんが気合を入れて叫んだのとほぼ同時。弔くんが近くにいたトゥワイスさんに触れた瞬間、一人を除いたトゥワイスさんが崩壊した。目の前で塵になっていく自分の姿を見て、トゥワイスさんは硬直してしまっている。

 

「え、ちょ、俺が崩壊したらどうするつもりだったんだ?」

 

「俺がお前を見間違えるはずないだろ」

 

「まっさか。僕に頼ったクセに」

 

 弔くんが近くのトゥワイスさんに触れた時に個性を発動して、『本物のトゥワイスさんだけ崩壊しない幸福』を実現させた。弔くんならもしかしたら本当に本物のトゥワイスさんを見分けることができたかもしれないけど、できなかったらトゥワイスさんが死んじゃうから個性を使うに越したことはない。

 

「で、まだやるか?」

 

「……当然! 見て驚くなよ! 次に増やすのは」

 

「ちなみに、エリを増やしても俺はバラバラにするぞ」

 

「……! 通っていいよ!」

 

 トゥワイスさんは涙を流しながら「ごめんよ……」と言って道を開けてくれた。偽物だとわかってても大事な人だから攻撃できない、みたいなことはヒーローに任せてほしい。僕らはこんなんでも一応敵なんだから。

 

「弔くん。管制室は寄って行かないの?」

 

「エレベーターが操作されて動かなくなったら床をぶち抜けばいい。それに、カメラがあるから万が一エリの姿が映ってたらズルみたいだろ」

 

「この状況がズルみたいなものだけど……これは僕たちが確認しなかったのが悪いからね」

 

 勝手にエリちゃんと僕らの勝負だと思っていたのがいけないんだ。まさか僕ら以外の『敵連合』が寝返るなんて。本気で寝返ったわけじゃないとわかってるからちょっと楽しんでいる僕もいる。

 

「次はキッズエリアだが……」

 

「流石にあそこで戦うなんてことはしないでしょ」

 

 エレベーターに乗り込むと、勝手にエレベーターが動き出した。恐らくラブラバさんが操作しているんだろう。僕としてはキッズエリアには止まらず、自然エリアで止まると思うんだけど……そうでもないみたいだ。エレベーターはキッズエリアで止まり、ゆっくりとドアが開いていく。するとそこには。

 

「はーい、いらっしゃい! いーっぱいおもてなししてあげるね、凶夜くん!」

 

「……弔くん。僕はもうだめかもしれない」

 

 目いっぱいおめかしをしたヒミコちゃんがまるで僕に「飛び込んできて」と言わんばかりに両腕を広げていた。頬を赤く染めて首をちょこんと傾げながらの言葉に、僕はもう死にかけていた。

 

「お前の名前だけ呼ぶあたり、狙ってきてるよな」

 

「自分が呼ばれなかったからってまるでこれが作戦か何かみたいに! ヒミコちゃんは僕を純粋におもてなししたいからあぁしてるに決まってるのに!」

 

「そうだよ弔くん。私は凶夜くんとイイコトしたいからこうしてるだけなのです」

 

「なんだって!?」

 

「お前はホントダメな奴だな」

 

 僕も本当はわかってるんだ。これは作戦で、ヒミコちゃんは僕を足止めしようとしているってことは。それでも、ヒミコちゃんがこうして僕を求めてくれているというだけで作戦にはまってしまってもいいかなという気分になってしまうんだ。だって僕男の子だから。

 

「ほら、凶夜くん」

 

「ぎ、ぐぬぬ」

 

「……おい、月無」

 

「なんだい弔くん。今僕は人生で一番の選択を迫られている」

 

「一番って今までのは何だったんだ……いや、まぁいい。今お前がトガのところに行ったら、エリはどう思う?」

 

「……」

 

 そうだった。ただ単に勝負をしてるってわけじゃなくて、これは授業参観をかけて勝負してるんだ。ここで僕がヒミコちゃんのところに行ったら、僕はエリちゃんの授業参観より性欲の方が大事なんだって思われるかもしれない。あ、性欲じゃなくて愛情。別にいやらしい気持ちはまったくない。ほんとに。

 

 だから、ここは断腸の思いで断るしかない。

 

「ごめん、ヒミコちゃん。また今度お願いしていい?」

 

「あら残念」

 

 断った瞬間。グン、と引っ張られるような感覚があったかと思えば、僕はいつの間にかヒミコちゃんの腕の中にいた。いい匂い。柔らかい。可愛い。嬉しい。いや違う。これは。

 

「月無ならマグネの個性使うまでもねぇと思ったが」

 

「エリちゃんへの愛も深いってことね。素敵だわ!」

 

「あれ? 凶夜くんの髪ってこんなに柔らかかったっけ」

 

「……弔くん。助けて」

 

「……お前ならどうにかできるだろ」

 

 できればずっとこうしていたいから体が動かない。今の僕にとっての不幸を実現すれば離れられるけど、それをしたくない!

 

「ま、おとなしくしとけ。どうにかしてやる」

 

「できるかしら?」

 

「ここであまり手荒なことはしたくねぇが……仕方ねぇか」

 

「ナデナデ、です。ふふ」

 

「弔くん! 早くしてくれ、僕がダメになる!」

 

 弔くんは深いため息を吐いて、すっと腰を落とした。


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