【完結】僕の『敵連合』   作:酉柄レイム

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 なんだかんだ1話通して凶夜出てこないのは初めてかもしれない。


第10話 ヒーロー

 とある病室。そこには雄英の生徒3人がいた。ヒーロー殺しステインと戦った3人、緑谷出久、轟焦凍、飯田天哉である。誰かのおかげ……あるいは誰かのせいでというべきか、ステインは途中で目が潰れ、脚を負傷したが、それでも強く、結果重傷とはいかずとも病院へ運ばれるに至った。

 

 結果的に死者2名がステイン以外の者の手によって出たこの事件。その重さと、個性の不正使用の隠蔽のために3人の功績は明るみに出ないこととなった。それ自体に文句はないが、問題はそのヒーロー2人を殺害した人物にある。

 

 自分のことを「世界の敵」と称した敵、月無凶夜。ステインの思想が社会に広まることが予想される中、更に「敵連合」の名前を出して演説をしてみせた狂人。彼の演説の中には、明らかに「ステインとのつながりがあること」が示唆されていたことから、社会に蔓延る悪意や思想を持つ者たちが敵連合に集うことは想像に難くない。

 

 ステインにはそれほどのカリスマもあり、同時にあの演説も「救われない者」からすれば魅力的で、救いであった。

 

 というのが多くの人に知られていることだが、轟は事情聴取において、いまだ伝えていないことがあった。それは緑谷も同じであり、2人にとっては口にすることが憚られるもの。

 

「緑谷、飯田、少しいいか」

 

 轟の言葉に緑谷は体を固くし、飯田は不思議そうに首を傾げた。死者が2名出ているため談笑という気分にもなれず、警察から「ありがとう」の言葉を受けて少し気持ちが軽くなったその後に、轟がどこか緊張した声色で話し始めたのだ。

 

 緑谷はその意味を知っていた。

 

「月無のことだね」

 

 月無凶夜。近く、ステインとともに話題性ナンバーワンを争うであろう存在。不幸と迷惑な押し付け(サプライズプレゼント)の個性を持つ、今注目の凶悪敵。

 

「あいつは、異常だった。俺たちと同じようで、すべてが狂っている、という印象を受けた。理解できないという言葉が一番近い」

 

 少しおかしな表現になるが、この場では月無との距離が一番遠い飯田。彼の月無に対する思いは、恐らく一般の人が月無と相対した時に思うことと同質のものだろう。「同じようで、狂っている」。知っている、わかっている常識があって、敢えて潰しているような存在。

 

「今からする俺の話を聞いて、率直な意見を聞かせてほしい。これをヒーローに話すかどうか」

 

「そういうことを言うってことは、路地裏で何かあったんだね」

 

 緑谷の言葉に轟は小さく頷いた。何かあったなんてものじゃない。あれは月無凶夜の目指す先、目的、行動理念。そのすべてであった。

 

(相手が普通の敵なら、迷いなく話すべきなんだろうが)

 

 こと月無凶夜においては、普通の敵という表現はあてはまらない。このことを伝えると、逆に被害が増える可能性があるからだ。あらかじめ対策をしようとしても対策のしようがなく、真正面から理不尽に押しつぶされる。

 

「一体何を言われたんだ?」

 

「あいつは、俺と緑谷と、友だちになりたがってた」

 

「友だちに?」

 

 轟は思い出した。月無が友だちという言葉を口にするとき。今まで見た中で一番純粋な表情をしていたことを。

 

「あぁ。それ、なんでかって聞いたんだ、あいつに。そしたら、あいつ、俺たちに殺してほしいから、って答えたんだ」

 

「殺してほしい……」

 

「自ら世界の敵と称した敵が、そう言ったのか?」

 

 明らかな異常だろう。凶悪な敵が「自分を殺してほしい」と言っているという事実。死にたがりな最凶敵など聞いたことがない。

 

「あいつの個性、押し付ける以外にあるって言っただろ?」

 

「うん、『不幸』だよね。自分が不幸になるっていう完全なデメリット個性。ただ、敵側に回るならこれほど怖い個性はない。だって月無には押し付ける個性があって、これ多分、傷とか死とか以外にもこの不幸だって押し付けられる可能性があるから。あれほどの身体能力を誇ったステインがドジともいえるあの負傷をしたとき、おかしいと思ったんだ。あれは月無が何かしていたのかって」

 

「緑谷くん、申し訳ないが今はその癖を控えた方がいいと思うぞ」

 

「あ、ごめん」

 

 緑谷は個性を分析することに長け、咄嗟の判断にも優れている。が、このように話の途中でもぶつぶつと考え出すのが玉に瑕。緑谷の友人である2人は気にしないが、初対面でこれをやられると普通に引いてしまうレベルだろう。

 

 轟は緑谷の癖を見ていつも通りだと小さく口の端を上げると、再び話し始めた。

 

「そう、不幸だ。俺はそれを事情聴取のときにただ不幸になるだけの個性って伝えたが、実はそれだけじゃない。いや、個性に関してはそれだけだが、月無の中核に関わるものだっていうことを伝えてないんだ」

 

 月無凶夜の行動理念、その原点。それは間違いなく不幸にある。

 

「それは、不幸が原因であいつが死にたいって思っていること」

 

「それが、殺してほしいってことにつながるのか」

 

「ただ、それだと死を押し付けている意味がわからない。実際俺たちも見ていたはずだ。月無が他人に自分の死を押し付けているところを」

 

 飯田の言葉に、緑谷は顎に手を当てて考え始めた。何か、意味とかそういうものではなく、もっとどうしようもない何かがある気がして、不幸というキーワード、死にたいと考えていること。その2つを考えて、もしかしたら、と思いつく。

 

「……いや、飯田君、あんまり当たってほしくない考えだけど、こう考えたら辻褄があう」

 

 緑谷は轟をちら、とみてから言った。

 

「死にたいって思ってるから、死ねない。死んだ瞬間に、不幸が働くんだ。月無は『生きている方が不幸』なんだと、思う」

 

 知らず知らずのうちに、緑谷の額に汗が浮かんでいた。気持ちのいいものではなく、質としては最悪のもの。それがどういう気持ちか、どういうことなのか。それを考えてしまった緑谷は、当人でもないのにひどく絶望した気持ちになった。特に寒いわけでもないのに、身体が震える。

 

「何!?そんなことが……いや、そうなのか?轟君」

 

 飯田の言葉に、どこか否定してほしいと訴えかける緑谷の目に、轟は頷いた。

 

「そうだ」

 

「それで、その、つまり、死にたいって思えば思うほど死ねなくて、でも死ねる時には生きたいって思ってることで、でもそう思ってると不幸だから、死ぬ?なんだ、なんだそれ」

 

「大丈夫か!?緑谷君!?」

 

 緑谷は、誰がどう見ても優しい少年だ。友だち思いで、正義感が強く、ある場面では誰よりもヒーローになれる。同時に、報われないものが報われる、報われたことを身をもって知っている。だからこそ、これは、月無のこれは、誰よりも重く捉えてしまった。

 

「そんな報われない話、あっていいのかよ……!」

 

「……俺の個性は、あいつの行動を封じるのに向いてる。だから、俺と一緒に生きることはできねぇかって聞いたんだ」

 

「……いいよ、わかってる。月無が死んでほしくないって思う人ほど、死んでしまう。それが月無にとっての不幸だから」

 

「人殺しだという事実は変わらないが、それだけでは収まらないな」

 

 多分、この話を聞いた大半の人は月無に同情する。実際に月無がどう思っていようとも、仕方なく死んで、仕方なく他の人が死んでしまうという風に見えてしまう。そうなれば月無は敵ではなく、恵まれない個性の被害者として扱われてしまう可能性がある。

 

「俺がそう聞いちまうくらいだ。この話をしたら、なんとか月無を助けようとする人がでてきてもおかしくねぇ」

 

「そして、月無は絶対に救われない。だから、助けようとする人に不幸が牙をむく」

 

「なるほど、それで話すべきかどうか、か」

 

「あいつは、確信していた。今俺と緑谷に殺されたいって思ってるってことは、いつか生きたいって思えたその時、必ず俺と緑谷に殺されるって」

 

 轟の拳に、力が入る。「月無が生きたいと思える時を待って、そうなったときに殺すしかない」という現状に、己の無力に腹を立てるように握る拳は、いつしか手のひらを傷つけて血を流させていた。

 

 重たい沈黙の中、緑谷は静かに、泣きそうな声で「駄目だ」と呟いた。

 

「だって、死にたいから死ねなくて、人を殺して、生きたいってなったら死んで、勝手すぎる、そんなの。そんな敵、許しちゃダメだ」

 

「緑谷君……」

 

 事実、緑谷は泣いていた。「絶対に救われないかもしれない個性」を持っている人物がいるという事実に。その人物を、もしかしたら自分の手で殺さなければならないという事実に。そして、己の無力に。

 

「でも、もし本当に月無が苦しんでるなら、助けてほしいって思ってるなら。殺さない、生きて、償わせなきゃ、報われなきゃダメだ」

 

「……そうか、緑谷。安心した。同情だけじゃないんだな」

 

 緑谷は溢れる涙を乱暴に拭って、力強く頷いた。

 

「月無は敵だ。だから、捕まえるのが当たり前。そうでしょ?」

 

「……あぁ、そうだな」

 

 緑谷の選択が、どういう影響を及ぼすか、どういう結果になるかはまだわからない。ただ、ヒーローの本質は余計なお世話。緑谷は、緑谷と轟は、その本質を全うするだけである。

 

 今、この時。

 

 世界のヒーローが、産声をあげた。

 

「……それで、結局、話すのか話さないのかは聞いていいのかい?」

 

「「あ」」

 

 協議の結果、満場一致で話さないに決定した。

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