【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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蛇足編:私の『敵連合』 (4)

 三人は、バリバリの戦闘タイプ。小細工したところで勝てる相手じゃない。正面から戦えば弔くんはともかく僕は負けるし、相性は最悪だ。僕の個性は何でもできるが、何でもできるからこそとる手段に困る。

 

 ただ、僕が弔くんと一緒に戦うなら僕がとるべき行動は一つだ。僕が弔くんに合わせる、ただそれだけ。今までそうしてきたし、これからもそうするつもりだ。それに、戦い以外でも弔くんに合わせるのは慣れている。

 

 まず初めに僕たちを攻撃してきたのはスピナーくんだった。武器の連結を解いて鞭のようにしならせて、無数の刃が僕たちを襲う。弔くんの個性は一度触れてしまえば崩壊させることはできるけど、まったくダメージがないわけじゃない。スピナーくんが手入れしている武器なら、触れた瞬間すっぱり斬られるってこともありえる。といより、そうなるだろう。

 

 それなら、弔くんが斬れない様にすればいいだけだ。

 

「いけるよ、弔くん」

 

「遅い」

 

「文句言うならやってあげないよ!?」

 

 せっかくご飯を作ったのに文句を言われ、じゃあ食うなって言う奥さんのようなセリフを言う僕を無視して、弔くんはスピナーくんの刃に触れた。斬れるかと思われたその刃は弔くんに容易く受け止められ、それと同時に一瞬で崩壊する。スピナーくんは弔くんが受け止めたのを見た瞬間に途中で刃を切り離したからちょっとは無事だけど、スピナーくんの武器は長さが半分ほどになってしまった。スピナーくんの反応も早かったけど、弔くんの崩壊させるスピードも大概だ。

 

「つまり先にテメェをぶっ潰したら早いんだろ!?」

 

「まぁくるよね」

 

 突然くると弱いが、くるとわかっていれば避けるのは容易い。いや、容易いのは嘘。余裕を持って避けれるから攻撃はあまり受けない。向こうで一番機動力があるのはマスキュラーさんだから、僕たちがスピナーくんの刃を対処してる間に詰めてくると思ってた。そして、狙われるのは僕だとも。

 

 僕はマスキュラーさんが振るった腕をしゃがんで避けて、ボールを蹴り飛ばすかのように振り上げられた脚を横っ飛びで避ける。戦いとは相手を知ること。それは癖。こうやった次はこうやる、というような癖だ。マスキュラーさんはとにかく攻撃のチャンスがあれば無理やりにでも攻撃してくる。となると、横っ飛びした僕への次の攻撃は、

 

「ハァ!」

 

「だよね!」

 

 マスキュラーさんは地面を砕いて、その破片を僕に飛ばしてきた。その間に自らが作り出した破片を砕きながら僕に突進してくる。恐ろしい、が。

 

「弔くん!」

 

「あぁ、俺は二人の相手で忙しい」

 

 マスキュラーさんの奥に見えた弔くんは、明らかに笑っていた。コイツ、僕がやられてる状況を楽しんでるな!?

 

「ぶへっ」

 

 大きな破片が僕の腹に当たって、思わず間抜けな声を出してしまう。そんな僕をマスキュラーさんが見逃すはずもなく、凶悪に笑いながら容赦なく僕を殴りつけてきた。

 

「バリアー!」

 

「ん、だコレ!」

 

 子どもの頃に憧れた、腕をクロスさせると張れるバリアー。それを個性によって実現させてみたものの、一瞬で割られて殴り飛ばされる。僕は殴られた勢いのままボールのように跳ねて、びちゃ、と地面に打ち付けられた。

 

「おいおい、大丈夫か月無?」

 

「ばか! なんで助けてくれないのさ!」

 

「あぁ、どうもあいつらが強くてな」

 

 蹴り飛ばされたのか、空中に投げ出されていた弔くんはふわりと一回転して僕の隣に華麗に着地した。僕はボールみたいに跳ねてたっていうのに、なんだそのカッコよさ。僕もそれやりたい!

 

「おうおう、なんだ。随分弱いじゃねぇか?」

 

「当たり前でしょ。弔くんはともかく、僕が強いわけないんだから」

 

「確かに、強いというより厄介というイメージだな。弱いのは間違いない」

 

「あぁ、弱い」

 

 拍子抜けだと言わんばかりにマスキュラーさんが息を吐いて、それに対して僕が文句を言うとスピナーくんと先輩にボコボコに言われた。涙目になって弔くんを見ると、その通りだと頷かれる。

 

「僕が自分のこと弱いっていうのはいいけど、人から言われると傷つくんだぞ!」

 

「慣れろよ」

 

 弔くんのもっともな指摘に黙ってしまった僕は、そっと自分の怪我を治した。むなしい。これが味方がいないっていうことか。こんな感覚は数十年ぶりだ。あの頃はもっと酷かったけど。

 

「そんなに言うなら、弔くんはそこで見ててよ。僕一人で三人をやっつけちゃうから!」

 

「へぇ、できんのか?」

 

「できないかも!!」

 

 言いながら、僕は走り出した。僕以外が呆れ顔なのは気のせいだろう。ふふ、今に見てろ!

 

「僕の個性は不可能を可能に、可能を不可能にできる! その神髄、とくとご覧あれ!」

 

 身構える三人を見て、僕は思いきり息を吸った。

 

「『強制幸せ自慢(幸せなら手を叩こう)』!」

 

「……?」

 

 叫んで、拍手し始めた僕を見て、三人はとうとう首を傾げた。そりゃそうだろう。三人からすれば、僕は走りながらいきなり叫んで拍手し始めた頭のおかしな人なんだから。

 

 ただ、それは僕を舐めている。僕の個性は『幸福、不幸の実現』。やろうと思えば『幸福な個性』『不幸な個性』のどちらも作り上げることができる。これを知っているのは、弔くんと先生、エリちゃんだけだ。それ以外のみんなには「僕の個性はなんでもできるよ!」としか言っていない。なぜなら、僕にも僕の個性が何ができるか、未だに全部わかり切っていないからだ。

 

「覚悟!」

 

「何してんのか知らねぇが、ぶっ潰れろ!」

 

 拍手しながら迫ってくる僕を、マスキュラーさんが思いきり殴ってくる。しかしその拳は僕に当たることはなく、マスキュラーさんらしくもなく何もないところで躓いてこけた。

 

「何をしてるんだマスキュラー!」

 

「ハァ……月無にあてられたか?」

 

 こけてしまったマスキュラーさんを見てスピナーくんと先輩が動いた。先輩は刀を振るい、スピナーくんはギチギチに縛り上げた無数の刃を振り下ろす、が。そのどちらもがすっぽ抜けて明後日の方向に飛んでいった。二人は目を丸くして驚いている。

 

「はっはっは! 驚くのも無理はない! どうしてそうなったか教えてあげよう! それは、この中で僕が一番幸せだからに他ならない!」

 

 武器を失った二人とこけている一人の前で拍手しながら高らかに告げる。あぁ、まさかこうして僕が幸せだと言える日がくるなんて。見てるかい、数年前の僕。なんか状況がおかしいけど、今の僕は幸せだと言えてるよ。

 

「……幸せなら手を叩こう、というのはそういう意味か」

 

「なるほどな。手を叩いた回数が一番多いやつが、一番幸せになれるってとこか?」

 

 先輩とマスキュラーさんが流石の洞察力で僕の『強制幸せ自慢(幸せなら手を叩こう)』が見破られてしまった。けど、もう僕が一番幸せであることは揺らがない。僕の手を叩いた回数に今から追いつくことなんて不可能だ。

 

「見たか! これが僕の『強制幸せ自慢(幸せなら手を叩こう)』だ! 君たちも幸せなら手を叩いてみたらどう? 僕には追いつけないだろうけどね!」

 

 そうやって勝ち誇っていると、パチパチパチパチ、と高速で手の平を打つ音が聞こえた。その音の主はスピナーくん。スピナーくんの両手が高速で動き、その手の平を打っていた。

 

「な、なんだその拍手の速さ! 尋常じゃない!」

 

「テレビで観た」

 

「あ、あの拍手世界チャンピオンの……! まさかあんなくだらないものをマスターしてるなんて!」

 

 マズい、この速度なら追いつかれる! スピナーくんの拍手の速度は僕のおよそ二倍。いや、それ以上あるかもしれない。でも、面白いじゃないか。僕とスピナーくんのどちらが幸せか、今ここで決めよう!

 

「お前ら、平和ボケしすぎじゃないか?」

 

「あ」

 

 僕とスピナーくんが睨みあって拍手していると、三人の背後からすっと弔くんが現れて、先輩とマスキュラーさんに四本指で触れた。

 

「これ、俺たちの勝ちってことでいいよな?」

 

「……」

 

 スピナーくんは拍手しながら、納得のいかない顔で渋々頷いた。もう拍手やめていいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「個性を作り出す……か」

 

「どうしたの? 先生」

 

「いや、ますます僕に似てきたな、と思ってね」

 

 それは、先生と凶夜さんが、だろうか。確かに歳を重ねるごとに凶夜さんは先生と重なっていくように思える。先生は凶悪な敵だったらしいから、その部分は重なっていかないけど。いや、一応凶夜さんも敵だし、個性で考えれば凶悪とも言えるから、やっぱり重なってるのかな?

 

「僕と似ていないのは、平和な形で自分のペースに持って行ける、というところくらいか」

 

「あと顔」

 

「ハッハッハ! 確かに、僕はあんなにカッコよくないからね」

 

 凶夜さんは私と出会った頃は童顔だったけど、最近になってカッコよくなってきた。それこそ、元からいたファンが急に増えちゃうくらいに。メディアへの露出が増え始めてからは特に。私はそのことに対して密かに危機感を覚えている。……凶夜さん、女の子に弱いから。

 

「そういえば、先生も女の子に弱いの?」

 

「ん? あぁ、そこも似ていないか。そう考えると結構似ていないところが多いな」

 

 そう言う先生はどこか寂しそうで、どこか嬉しそうだった。きっと、人を育てる人独特の感情なんだろう。私にはまだわかりそうにもない。でも、凶夜さんならわかるはずだ。だって、私は凶夜さんに育ててもらったから。

 

「エリも凶夜に似てきたね」

 

「わ、私が、凶夜さんに?」

 

「結構言われるだろう?」

 

「……」

 

 言われているみたいだね、という先生の言葉に、私は黙るしかなかった。確かに、よく言われる。私としてはあんなちゃらんぽらんに似てるって言われると思うところがあるんだけど、きっといいところが似てるんだろうと自分で納得して、いい風に捉えている。

 

「そうやって考え込むところもよく似ている」

 

「わ、私考えてないよ! まったく!」

 

「だとしても似てるね」

 

「なんなの!」

 

 怒る私を見て、先生は愉快そうに笑っていた。まったく、ひどい。先生は私をいじるのが好きなんだ。……そういえば先生、この前凶夜をいじるのが楽しいって言ってなかったっけ?


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