【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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 感想をいただくたび、ドキドキしながら見ています。こういう初心って忘れちゃダメだなって思いつつ、そんな思いが吹き飛ぶくらい喜んでます。端的に言うと、お気に入りに登録してくださっている方々、感想、評価を入れていただいた方々、ありがとうございます。

 凶夜が幸福になる物語、完走させますので、どうか最後までご覧ください。


第11話 王と核

 突然だが、僕はいつものバーの床で、正座させられていた。目の前には脚を組んでカウンターを指でトントンと叩いている弔くんがいる。明らかにイライラしていた。僕何かしたっけ?

 

 と思っていると、弔くんが僕の顔に新聞を投げつけてきた。受け止めようと思って手を伸ばすが、正座でしびれていた脚に衝撃が走り、バランスを崩して仰向けに倒れてしまう。ちょうどいい感じに顔を覆った新聞を持ち上げて読んでみると、そこには素敵な僕の写真と、捕まった先輩の姿があった。

 

「なになに、保須市で暴動、世界の敵月無凶夜が率いる敵連合とヒーロー殺しはつながっていた……」

 

 写真の中の僕は、両腕を広げて楽しそうに笑っていた。確かにあの時はテンション上がってたし、世界が僕を中心に回っているような気がしてたけど、こんなに笑ってたのか。ちょっと恥ずかしい。というか率いるって何?率いてるのって弔くんじゃないの?

 

 疑問に思った僕はそのことについて聞いてみようとすると、弔くんが僕の首根っこを掴んで動画サイトを開いたパソコンの画面を見せられた。

 

 僕がいた。あの時の短い演説が、コメントによって袋叩きにあっている。中には「テンション上がってくる」といったコメントもあったが、大半は僕という存在、敵連合という存在に対して恐怖するようなコメントで埋め尽くされていた。

 

 続いて、先輩の動画を見せられた。こちらは僕のとは逆に、かっこいいやら、かっこいいやら、かっこいいやら、とても羨ましいコメントが複数あった。死ねや。

 

 見せたいものを見せ終わったのか、弔くんは僕を手放した。いきなり離された僕はろくに受け身もとれず、情けなく顔面を強打する。

 

 痛みに床をゴロゴロする僕を弔くんが足で踏んづけて止めると、4本の指で僕の頬をぺちぺちしながら話し始めた。

 

「先輩の思想、強いカリスマ、それを取り込んでいた敵連合……恐怖の象徴世界の敵、月無凶夜。動画はアップされたそばから消されるが、広まり過ぎた。これはもう覆らねぇ」

 

 どうでもいいけど踏んづけながらしゃがみこんで僕の頬をぺちぺちするのきつくない?女の子だったら大分危険でセクシーなポージングになってるよ?弔くん男だけど。おい、女の子に生まれ変われ。

 

「確か俺は勝手なことするなって言ったな?象徴は2人もいらないって言ったよな?」

 

「うん、覚えてるよ」

 

 言うと、弔くんは4本の指で僕の頬をぐにぃーと押し始めた。地味に痛い。ムカついたので頬の内側から舌で弔くんの指の感触を確かめるようにぺろぺろしていると、思い切り殴られた。今のは僕が悪かったと思う。

 

「お前、勝手なことした挙句象徴になってんじゃねぇよ!!思い通りの情報は回ったが、目立ちすぎだ!」

 

 あ、そうか。今思えばあの演説はいらなかったかもしれない。先輩だけで集客率は十分だし、僕はいらなかった。今になって恥ずかしくなってきたぞ、なんであんなことしたんだ僕。死ねよ僕。死ねないんだった。

 

 弔くんはため息を一つ吐くと、僕から足をどけ、腕を引っ張って立ち上がらせてくれた。

 

「まぁ、お前に妙なカリスマがあることは確かだ。先輩だけでも敵連合には精鋭がきただろうが、お前の演説でより高い効果が期待できる」

 

 弔くんは、怒りつつもメリットがわかっているみたいだ。僕自身僕にカリスマがあるとは思えないけど、そういえば弱い者に効くカリスマのようなものがあるってチンピラくんが言ってたし、もしかしたらそうなのかも。僕いいことした?やっぱり死ぬな僕。いや、死ね。

 

「言いたくないが、俺はお前を認めてる。だから、最低限は違えるな。ルールは守れよ」

 

「わかってる。王は君だ、弔くん」

 

 僕は上に立つ器じゃないし、下の方でみっともなくウロチョロする方が性に合ってる。それに、惹きつけるカリスマはあったとしても、引っ張っていくカリスマは僕にはない。弔くんが僕を認めてくれているように、僕も弔くんを認めている。なんか上から言うみたいで、気が進まないけど。

 

 僕の答えに満足したのか、弔くんは椅子にドカッと座って、「今後の話をしよう」と切り出してきた。静かに見守っていた黒霧さんもこちらに近寄ってきて、参加の体を表す。

 

「これからは、恐らく狙い通り精鋭たちがここに集う」

 

 弔くんは指でトントンと叩く。ここ、とは敵連合のことだろう。友だちが増えそうで嬉しい限りだ。女の子がくるといいな。

 

「ただ、どれだけ精鋭が集まっても誰かさんみたいに勝手をされると困る。組織としては目的、信念が一貫してないといけない」

 

 わかるか?と聞いてくる弔くんに、僕はとりあえず頷いておいた。何かバカにされた気がするけど、ここで反論するときっとひどい目にあう。僕の勘がそういっている。

 

「先輩は言ってたな、現在(いま)を壊す。そしてそれは変わらねぇ」

 

 これだ。弔くんがこの感じになると、ぞくぞくというか、わくわくというか、何かが始まるような気がして、目が離せなくなる。人を惹きつけ、引っ張っていくカリスマ。僕みたいなどうしようもないやつは、これに惹かれるんだ。

 

 弔くんは手をぶるぶると震えさせ、ぐっと握って言った。

 

オールマイト(いま)を壊す。象徴を壊す、壊し続ける。そして、正義の脆弱さを証明する」

 

 弔くんは僕の胸にトン、と指を置くと、あの気持ちの悪い笑顔を浮かべながら言った。

 

「その胸に刻んどけ。お前の脳には期待するだけ無駄だからな」

 

「うん、わかった。わかってる。正義の脆弱さも、その強さも。僕は、理解してる」

 

 この個性を持ったその時から、理解せざるを得なかった。助けてもらいに行く努力をしようとしても、絶対に届かないから。でもやっと、最近届くかもって思える人がいた。これは多分、迷惑な押し付け(サプライズプレゼント)を自覚したからだ。あの時点で、僕の運命はねじ曲がった。その点において、先生や弔くんには感謝している。

 

「死柄木、月無」

 

 今までだんまりを決め込んでいた黒霧さんが、僕たちを呼んだ。

 

「敵連合の核は間違いなく、あなたたち2人です。これから様々な方が敵連合の門を叩き、人数も増えるでしょうが、そこだけはブレてはいけない。理解はしているでしょうが、そこは覚えておいてください」

 

「いや、核は弔くんでしょ?」

 

「いや、王が俺で、核は俺たち2人だ」

 

 何それ、どういう意味だろう。不思議になって聞いてみると、お前は知らなくていいと返ってきた。おい、いきなりブレるぞ。いいのか。頬を膨らませていたら、黒霧さんがこっそり教えてくれた。

 

「絶対にいなくてはならない人、ということですよ」

 

「黒霧」

 

 ということは、弔くんはさっき僕にいなくならないでって言ったってこと?なんだそれ嬉しい。弔くんすき。やっぱり女の子に生まれ変われ。でもやっぱり嫌だ。だって顔に手ぇ張り付けてるんでしょ?絶対ろくな女の子じゃないよ。

 

「でも納得できないなぁ、僕なんていてもいなくても変わらなくない?」

 

「あんなことやらかしといて、まだそんなこと言うのか」

 

 お恥ずかしい。できれば触れないでもらいたい。でもそら言うよ。自信を持たないことに関しては右に出るものはいないからね。あれ、これは自信になるのかな。

 

「月無。あなたの弱さとおかしさは誇っていい。間違いなくいなくてはならない存在です」

 

「バカにしてるのか褒めてるのかどっち?」

 

「バカにして褒めてるんだよ」

 

 日本語って難しい。先生の教育だけでは理解に追いつかない。いや、これは先生が悪いわけじゃなくて僕が悪いんだろうけど。でもとりあえず弔くんはバカにしてるってことがわかった。僕は天才だからね。

 

「それはもういい。おいておけ」

 

 弔くんは鬱陶しそうに手を振った。弔くんってこういう話苦手だからね。人を褒めるのとか、さっきの認めてるとか、そういう発言。こういうことを口にするときは、大抵テンションが上がってるときって決まってる。そして、そのテンションが上がる理由は、先を見てわくわくしているときだ。

 

「精鋭たちを集めてからだが、雄英をやる」

 

「オールマイトもいるし、話題性も抜群だからね」

 

「狙うところとしては雄英以上はないでしょう」

 

 ここは満場一致。一度USJに襲撃してるし、また襲撃を許したとなれば雄英の評判は落ちて、正義の脆弱さも表れる。

 

「そして、今度は明確に被害を出す。子どもを殺すのもいいが、一番の目的はこれにする」

 

 そう言って、弔くんは1枚の写真を取り出した。その写真には雁字搦めにされた爆発頭の子がものすごい形相で睨みをきかせていた。こわすぎ。

 

 この写真の子をどうするの?と言葉に出さず目で問いかけると、弔くんは鬱陶しそうに顔をしかめつつ答えた。傷つくぞ。

 

「こいつを攫う。あわよくば敵連合に入ってもらう。社会に抑圧されたかわいそうなやつを受け止めるのが、敵連合だからな」

 

 確かに、抑圧に抑圧されているような写真だ、これは。でも、無駄だと思うけどなぁ。この子、自尊心というかそういうのが透けて見える。少なくとも僕らに染まるような人間じゃないと思う。けど、攫うことに関しては無駄じゃない。

 

「なるほど、何度も襲撃を許すゴミみたいな管理体制に、僕らみたいなのに生徒を奪われちゃあ、もう大きい顔できないね」

 

 でもそうなると出久くんや轟くんに申し訳ないなぁ。もしそうなったら親御さんが黙ってないでしょ。最悪轟くんは大丈夫だろうけど、出久くんは一般家庭のはずだから、雄英に通い続けるかどうかも怪しい。

 

「そういうこと。地道に進めて行って、正義に詰みをかける。精鋭がそろったその時、俺たちは理想へと一歩近づく」

 

「いいねいいね。そういえばそれって僕も行っていいの?」

 

 答えは右ストレートという暴力で返ってきた。うっかり死んだらどうするんだ。


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