【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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 やっぱりなんか評価がついたりお気に入り登録が増えたりすると嬉しいから、つい見ちゃうんですよね、ランキング。
 
 20位でした。駆け抜けるなら今しかないと思い、頑張ります。


開闢行動隊
第12話 おいでませ、敵連合(ヴィランアカデミア)


 僕は一生女の子と触れ合えず死ぬと思ってた。死ねないけど。そりゃ僕にだって人並みの性欲というかなんかそういうものがあるから、女の子が好きだ。できるなら青春したいし、いい関係になりたいとも思ってる。でも僕は不幸だから今までそんな機会なかった。出会いを求めて出歩いても死にかけるだけだし、結構女の子に関しては諦めかけてたんだ。

 

 でも、そんな僕の前に。

 

 金髪のかわいい女子高生がいた。いつものバーに。あとなんかつぎはぎの男が横にいる。何しにきたんだお前は。

 

 僕が内心ニコニコ、というか実際にニコニコしていると、女の子が手をぶんぶんと振りながら話し始めた。つぎはぎの男は僕をみて「こいつら気色悪ぃな」と言っていたのは聞こえてる。覚えとけよ。結構繊細なんだ僕は。

 

「いた!生凶夜様!かっこいい!気持ち悪い!ねぇ、私も入れてよ!敵連合!」

 

 結構繊細だって言わなかった?いや、かっこいいて言ってくれたのはいいけど、気持ち悪いはないでしょ。そこのつぎはぎと合わせて2票入っちゃったよ。弔くんが1気持ち悪いで僕が2気持ち悪い。結果僕の方が気持ち悪いということになっちゃうじゃないか。くじけそうだ、僕。

 

「……また、個性的なのがきたな」

 

 弔くんは頭が痛いと言わんばかりに頭を押さえた。弔くんの頭を2つの手が覆っていて申し訳ないけど面白い。初対面の人と打ち解けるための一発ギャグか何か?

 

「まぁ、初対面でゴミみたいな臭いさせてたお前よりはマシか」

 

「不可抗力だよ。好きでああなったんじゃないんだ」

 

「不可抗力でも普通の人はああなりませんよ」

 

 あれは猫が悪いんだ、猫が。あそこに猫がいなければ、弔くんと黒霧さんとは最高の初対面でいられたんだ。多分。

 

「おいおい、こっちのこと無視して喋りだすなよ。個性的だが、きっと役に立つ。紹介だけでも聞いときなよ」

 

 僕がいじめられていると、タバコの煙を吐き出しながらブローカーさんに注意されてしまった。確かに、客人がいるのに放置するのは失礼だ。僕としたことが、礼儀に欠けたことをしてしまうなんて。割と日常のような気がするが、気のせいだろう。

 

 ブローカーさんは一歩前に出て、女の子を指さした。

 

「まずはこちらのカワイイ女子高生。名も顔も未成年だから世間には割れてねぇが、連続失血死事件の犯人として追われている」

 

 あ、なんか青春できるかもと思ったけどダメそうだ。そもそも敵連合にくる女の子がまともなはずなかったんだ。なんだよ連続失血死事件の犯人って。めちゃくちゃ苦しそうな殺し方してるじゃないか。カワイイ顔して恐ろしい。でもそこも素敵!

 

 女の子はキラキラした目で僕を見て、自己紹介を始めた。

 

「トガです!トガヒミコ!生きやすい世の中を求めて、ここにきました!」

 

 じゃあ人殺すなよと思ったのは僕だけじゃないはず。いや、ここの人みんなおかしいから僕だけなのか?まいった。まともなのが僕だけなんて。日本の教育はこんなところまで落ちていたのか。そういえば弔くんって教育受けてたのかな?

 

「ステ様になりたいです!ステ様を殺したい!でも今一番殺したいのは凶夜様です!だから入れてよ弔くん!」

 

 よし。誰がトップかを間違えていないようでよかった。でもよくない。なんだ僕を殺したいって。女神かよ。でも怖いからできればやめてほしい。殺されたらヒミコちゃんが死んじゃうかもしれないしね。そんなことになったら弔くんに叱られる。

 

「はは、そりゃいい。演説の効果があったな、殺されてもらえよ凶夜サマ」

 

「殺してくれるならありがたいけど、そんなことしたら他の人が死ぬからやめといた方がいいよ」

 

「いい薬になるだろ」

 

「死体に薬は効かないでしょ」

 

「……仲いいなおたくら」

 

 僕たちの楽しい会話を遮るように、つぎはぎの男が口を出した。どこか呆れの色を含んでいるそれに、弔くんの眉がぴくりと動く。

 

「こんなんじゃ大義があるか不安になってくる……が、そこの月無凶夜の演説は、嘘に聞こえなかった。実はそこはあんまり心配してない。問題はこのイカレ女みたいなやつがいることだ。こいつまさか入れるんじゃねぇよな?」

 

 僕って結構有名人なの?ヒミコちゃんも様づけで呼んでくるし、つぎはぎの男も一応は僕を評価してくれてるみたいだし。でも、弔くんはいまだ子どもっぽいところがあるので、イラついているみたいだ。僕と先輩の話題しか出ないからだろう。カワイイやつだな。

 

 まぁ、イラついているのはそれだけじゃなくて、このつぎはぎの男の態度が気に入らないんだろう。一応トップだから、舐められた態度をとられるのはまずい。僕はものすごく舐めた態度をとることがあるけど、僕は核らしいからいいのだ。いいのかな?

 

「おいおい、そのJKのことをイカレ女っていう資格はお前にはないぞ。大人の癖に名乗れもしないのか?」

 

 なんか、弔くんがJKって言うと面白いよね。俗っぽい言葉は弔くんに絶望的なほど似合わない。そういえば弔くんとそういう下ネタ的な会話したことないけど、興味あるのかな?でも弔くんは触った瞬間にボロボロになるかもしれないから、女の子はたまったもんじゃないよね。僕の方が断然マシだ。目の前でいきなり死ぬかもしれないけど。

 

 つぎはぎの男は弔くんの言葉を気にした様子もなく名を告げる。

 

「今は荼毘で通してる」

 

「……まぁ、いい。この際本名は必要ない」

 

 弔くんは僕を一瞥した。だって弔くんも黒霧さんも、それに僕だって本名じゃないからね。これに関しては人の事を言えない。

 

「そこのトガとかいう女は生きやすい世の中を、凶夜サマを殺すことを。荼毘、お前は何を求めてる?どんな意思がある?」

 

 簡単な面接みたいなものだろう。人を殺して生きやすい世の中を求めているヒミコちゃんは紛れもなく立派なクズだ。弔くんは荼毘くんも立派なクズか確かめたいんだろう。というか凶夜サマって言い方、もしかして気に入ってたりする?

 

 弔くんに聞かれて、荼毘くんは瞳にほの暗いものを宿らせて言った。

 

「ヒーロー殺しの意思を、全うする」

 

 ここでも先輩か。弔くん自身はあんまり目立った行動をしていないとはいえ、他の人の名前ばかり出てくるのは気分良くないよね。証拠に弔くんは数秒固まった後、重く長いため息を吐いた。先輩を利用すると決めたとはいえ、先輩の意思を全うする集団になるかもしれないことを危惧しているんだろう。

 

 そこを軌道修正するのが弔くんの仕事だ。なんていったって、弔くんは敵連合のトップだからね。

 

 弔くんはゆっくりと立ち上がって、言い聞かせるように言った。

 

「お前らが何をしたいのか、どんな意思があるのか、俺はそこに文句は言わないし、邪魔するつもりもない。ただ、この組織に入る以上、方針には従ってもらう」

 

 これは当たり前だろう。いくら敵だとはいえ、組織は組織。これでもやりたいことを邪魔しない分ルールがゆるゆるだし、優しい方だ。僕は好き勝手しすぎだけど。

 

「俺たちは、現在(いま)を壊す。そして正義の脆弱さを証明する。『救われなかった人間などいなかった』とへらへら笑ってる、この社会(いま)を」

 

 両腕を広げて言う弔くんに、ヒミコちゃんと荼毘くんの視線が釘付けになった。今日も調子いいな、弔くんのカリスマ。先生もすごい才能だよね、弔くんみたいな人を見つけるなんて。あれ?僕も先生に見つけてもらえたから、僕もすごい人ってこと?すごいかわいそうな人ってこと?うるさいよ。

 

「これだけは忘れるな。それさえ守れるなら、こいよ」

 

 僕の演説動画が流れたその日から、密かに流行ってるフレーズ。僕は先生に影響されて使ってたけど、結構テンション上がる言葉だと思うんだ。僕の演説も、この部分だけ評価されていた。結構バカにした言い方だったけど。

 

「ここがお前らの敵連合(ヴィランアカデミア)だ」

 

 これで弔くんの手をとらない敵なんているのだろうか?いや、手を取ったらボロボロになるんだけど。

 

 僕の思いの通り、ヒミコちゃんは弔くんの手を取りに行って避けられ、荼毘くんは気味悪そうにしながらも弔くんの手を叩いた。あ、暴力的なやつじゃなくてハイタッチみたいなやつね。あと弔くんの手っていっても顔についてる手じゃないからね。ややこしいんだよ弔くん。手って言ったら普通腕についてるやつのことだけを指すだろ。

 

 弔くんは2人の反応を見て、満足そうに笑っていた。僕と黒霧さんは目を合わせて、静かに笑った。黒霧さん笑ってるよね?

 

 今日、敵連合(ヴィランアカデミア)に仲間が増えた。ヒミコちゃんとはぜひ仲良くしたいと思う。


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