改めて、評価、並びにお気に入り登録をしていただいている方々、これを読んでいるかはわかりませんが、一度でもこの作品を読んでいただいた方々に感謝を。凶夜の物語、ぜひご覧ください。
思ったんですけど、私前書きでいつも感謝してません?しつこすぎてゲボ吐きました、今。
「やだやだ行きたい行きたい!死にたい!」
僕はみっともなく駄々をこねていた。バーの床に転がり、両腕両脚をばたばたさせながら僕は意思を曲げないぞとアピールする。
そんな僕を弔くんは絶対零度の視線で射抜いていた。そういう飾らないとこ、素敵だと思うよ。ただちょっと恥ずかしくなるし、情けなくなるし、正直めちゃくちゃ怖いからやめてほしい。弔くんって、表情で物を語るのが得意なんだよね。言葉も上手だけど、僕からすると表情の豊かさはそれ以上だと思う。
大抵僕を蔑む表情なんだけどね。
「おい、もう一度どこに行きたいのか言ってみろ。お前のそれに、意味はあるのか?」
「意味はあるよ!弔くん、やりたいことは邪魔しないんでしょ?僕のやりたいことは死ぬこと!死にたいんだ僕!だから生きたいと思わなきゃ!というわけで」
僕は床に転がるのをやめ、正座し、姿勢を整えてから土下座した。なんか、僕って土下座似合いすぎる気がする。
「ヒミコちゃんと、ショッピングデートさせてください!!」
「今ほどお前という存在を後悔した日はない」
僕の渾身のお願いは無慈悲な一言で一蹴された。そこまで言わなくてもよくない?むしろ今までと比べるとかわいいほうでしょ。勝手に人殺しとデートのお許しをいただくこと、どっちがどれだけひどいかなんて、バカでもわかる。つまり弔くんはバカ以下だ。反省しろド底辺。
しかし、このまま振り切って出ていくと自力で帰れなくなる。挙句、弔くんは烈火のごとくブチ切れる。それは嫌だ。それなら死んだ方がマシだ。いや、死ぬことが最高なのか。じゃあ生きた方がマシだ?
諦めかけて落胆の息を吐くと、面白そうに僕の周りをちょろちょろしていたヒミコちゃんがしゃがみこんで、ナイフで僕をぺちぺちしながら言った。
「私からもお願いします!生きたいって思わせないと凶夜サマを殺せないんです!」
そう、これは別に僕だけが行きたいからお願いしてるわけじゃない。利害の一致というやつである。僕は生きたいと思いたいからカワイイ女の子とデートしたい。ヒミコちゃんは僕を殺したいからデートしたい。ほらね。どちらもハッピーになれる双方合意のお願いだ。
それを聞いた弔くんは「バカかお前」と吐き捨てるように言うと、
「いいか?ショッピングって言ったら確実にへらへらと鬱陶しいいかにも幸せそうな一般人がごろごろいる。そんな中にお前を放り込んだらどうなるか、お前自身が一番理解してるだろう?」
「大丈夫だよ!ヒミコちゃんは正真正銘最低最悪超ド級のクズだから、僕の隣にいれば不幸が緩和されること間違いなし!きっと死にかけ程度で収まるよ!」
もし死んじゃっても、それはそれでそこら辺の人に押し付ければいいし。申しわけないけど、僕はもう世間から見れば立派な敵だしね。それに、こんなことで躊躇してたら轟くんと緑谷くんが殺してくれなくなってしまう。それはだめだ。
「あのなぁ、お前、もう有名人なんだぞ?百歩譲って普通にしてたらバレないとしても、お前の不幸が発動すると嫌でも目立つ。自覚しろよ世界の敵」
そう言われるとそうか。そういえば僕とんでもないことしてたな。さっき自分でも世間から見れば立派な敵だって言ってたのに失念してた。バカだなぁ僕は。でもそういうところが魅力的だと思うんだよね。お茶目っていうか、隙がある方が好ましいっていうか。まぁ僕は隙だらけなんだけど。
弔くんがイライラしながら吐き捨てた言葉に、ヒミコちゃんはぷくーっと頬を膨らませた。かわいい。
「弔くん、言ってること違います。したいことの邪魔思い切りしてる」
そうだそうだ!邪魔しないって言ってたじゃないか!でも弔くんの言うことも一理あるんだよね。万が一何かあったら弔くんも困るだろうし、今は組織だからあんまり好き勝手するのもよくない。ちょっとわがままが過ぎたかな?
弔くんはガシガシと頭を掻いて、面倒くさそうに言った。
「あー……したいことってこういうことじゃないんだよな……でも、そうだな。部下の鬱憤はため込むのもよくはない。俺も譲歩しよう」
もしかして、と期待していると弔くんが黒霧さんを呼んだ。え、優しすぎない?ほんとに弔くん?
「何かあったら戻ってくる。これが許せる最低ラインだ。だが、お前らなら何かあったとしても戻ってこない可能性がある。そこで」
弔くんは僕の腕をガシッと掴んだ。おいまて違う。それは違う。僕の予想が正しければ、それは一つたりとも譲歩していない。
「俺とデートしようぜ。凶夜サマ」
「うわああああああああ!!!」
恐怖の言葉とともに、僕と弔くんは黒に飲まれた。黒霧さん覚えてろ。弔くんの言うことばっかり聞きやがって!
「……行っちゃった」
「何してんだお前ら……」
飲まれる直前、荼毘くんの心底呆れたような声が聞こえた。
僕も好きでこうなったわけじゃないんだよ!!
「ではお気をつけて」
黒霧さんはニタニタと憎たらしく笑う弔くんと、わかりやすいくらい不満な顔をしているであろう僕を置いて帰って行ってしまった。弔くん別になんの用もないはずなのに僕を引っ張ってきたのは、確実に嫌がらせのためだろう。
不機嫌なまま舌をべー、と出して弔くんをバカにしていると、弔くんは僕を無視してすたすたと歩いて行ってしまった。あれ、本当に行くの?僕もう行く意味ないんだけど。
でも弔くんの顔を見る限り、どうやらそうじゃないみたいだ。なんでだろうと首を傾げていると、僕の疑問を察したのか弔くんが教えてくれた。
「お前の個性は不幸だ」
「バカにしてんのか」
いきなりの罵倒に憤慨すると、弔くんは「褒めてんだよ」と言って指で僕を小突く。
「そんなお前が行きたがった
どういうこっちゃ。えっと、つまり、不幸という個性を持つ僕が行きたいと行ったところには、必ず僕がひどい目にあうであろう何かしらがあるかもしれないってこと?確かに、僕が願望を口にするとろくなことがない気がする。いや、思うだけでも大抵願望とは逆のことが起きるから、僕はヒミコちゃんとデートすることは不可能だった……?
知れば知るほど嫌になるな、この個性。ムカつく。
「でも、それなら僕を連れてくる理由なかったんじゃない?」
「あの状態のお前をトガと放置させられるか。絶対面倒くさいことになる」
「僕と一緒にこういうとこ行っても面倒くさいことになると思うけど、へー、ふぅーん」
弔くんはやはり僕のことが好きらしい。いやぁ、照れちゃうな。でも今ばかりはその好意が死ぬほど鬱陶しい。ヒミコちゃんと一緒にいさせろ。ぶち殺すぞ。いや、殺さないけど。
「うるさいぞ。おら、フードぐらい被っとけ」
弔くんは鬱陶しそうな表情を隠そうともせずに言うと、僕のフードを掴んで強く被せた。少し痛い。いくら折れ慣れてるとはいえ、首が折れるかと思った。冗談だけど。
弔くんもフードを被ると、僕たちは無駄に足をそろえてショッピングモールに入った。今回までは弔くんがこういうところにくるのを嫌がっていたので来たこと自体あんまりなかったからか、目に入るすべてが真新しく見える。個性を持つ様々な人のことを考慮しているのか、どう考えても大きすぎる服とか、逆に小さすぎる靴とか、おとぎ話の世界に入ったようだ。ここは現実で、おとぎ話にしては機械的すぎるけど。
僕があっちへふらふら、こっちへふらふらしていると、見知った緑の頭を持つ子と、もちもちで明るそうでかわいい女の子がいた。
「でっっ、!!?」
思わずルンルン気分で駆け寄ろうとすると、あっちへふらふらこっちへふらふらしていた僕に、保護者かよと思うくらいぴったりくっついてきていた弔くんに肘鉄をもらった。出かけた言葉がそのまま嘔吐感に変換されるが、ありもしない意地でぐっと飲み込むと、何すんだと言わんばかりに弔くんを睨みつけた。
すると、そこには、味方ですら恐怖するような邪悪で凶悪な笑みを浮かべた弔くんがいた。え、何?何故?あ、そういえば弔くん、出久くんのこと「クソムカつく」って言ってたっけ。何かオールマイトに似てるとこあるもんなぁ、出久くん。弔くんにこの顔をさせるなんて、ご愁傷様。
弔くんは僕を放置してゆっくりと出久くんに近づいて行った。僕は?放置しちゃまずいんじゃないの?おーい。
「うるさい。ちょっとちょっかいかけてくるから、好きにしとけ」
弔くんは本当にどうでもよさそうな感じで吐き捨てると、今度こそ出久くんのところへ行ってしまった。マジかよ。僕のこと好きじゃないの?いや、いいんだけど、いいの?何するかわかんないよ?後悔するなよ?
よし。
「靴を見に行こう!」
せっかくだし、ショッピングモールを楽しみたいよね!
「すみませんでした!!」
僕は靴屋の店員さんにがっつり土下座していた。すんなり辿り着けたと思ったら、こういうことだったのか。
まさか靴を試着していたピンク色の肌をした女の子と、透明でありながら、いや、透明であるからこそのどことないエロスに見惚れていたら、走り回っていた子どもが僕の脚にぶつかり、巻き込むわけにはいかないと身をよじると目の前には高く積まれた靴の箱。そして僕の犯行をばっちり目撃できるであろう位置にいる店員さん。これはダメだと思う暇もなく、僕は壁を打ち崩す砲弾と化した。
現状が、箱に入っていた靴の大半をぶちまけ、挙句その箱を僕の体重で押しつぶし、なぜか両手に靴をはめるという間抜けな恰好。とりあえず謝ろうと思ってそのまま土下座したけど、これ逆効果じゃない?
事実、僕が恐る恐る顔を上げたら、明らかな無の表情をした店員さんがそこにいた。あ、よく見るとこれ僕が履いてるメーカーと同じ靴じゃん。へへ、このメーカーを贔屓にしているということでどうかここはひとつ。
「いや、許さないけど」
まぁダメですよね。僕だって逆の立場なら絶対ダメだっていうもの。だってこれ営業妨害レベルだし。なんだよ靴をぶちまけて箱を潰して両手に靴はめるって。一発ギャグにしちゃ大がかりすぎだろ。一発ギャグ『靴屋にて積まれていた靴の箱をブチ崩し、飛び出てきた靴を両手にはめる男』ってなんだ。どこに需要があるんだよ。
ないから許してもらえないのか。
「あーもうどうすんだよこれ……もちろん片づけは手伝ってもらうとして、売り物にならなくなった物は弁償かなぁ」
「えぇそんな!それだけは勘弁してください!そんなことになったらと……と、父さんに数十分ぶん殴られた上、体中をボロボロにされたあとカラスの餌にされちゃいます!」
「君の家庭バイオレンスすぎないか?」
危ない危ない。危うく弔くんって言うとこだった。どこで誰が聞いてるかわからないからね。目立たないように、言動にも気を付けよう。めちゃくちゃ目立ってるけど。
「あのー」
僕が内心でどうしようかなーと思いつつ壊れた赤べこのように何度も土下座していると、可愛い声が僕の鼓膜を震わせた。
声の方へバッ、と振り向くと、そこにはピンクの女の子と透明の女の子がいた。あとうしろにおまけの男2人。ていうかメガネの子見たことあるような……。
「流石に弁償はどうしようもないけど、片づけなら手伝いますよ?流石にこの量を一人では……」
「それにドジそうだし!見たことないですよ、こんなことする人!」
女神だった。あぁ、ヒミコちゃんがいなくて絶望してたけど、こんなカワイイ女の子たちが僕を助けてくれるなんて。一人透明だけど、この子絶対カワイイでしょ。あれ、透明って何かひっかかるな。まぁいいか。
「ほんとに!?ありがとう!お礼は僕とのデートでどうかな!」
「お礼はいいですよ!私、ヒーロー志望なんです!」
「それになんかバイオレンスなこと聞いちゃったし、そんな人からお礼なんてもらえませんよー」
体よく断られた気がする。いい子たちだけど、それが余計に僕の胸にきた。うぅ、ヒミコちゃんはあんなに僕を慕ってくれるのに。殺そうとしてくるけど。
僕がニコニコしながら「さぁ片づけよう!」と意気込んでいると、メガネの子が「少し、いいですか」と声をかけてきた。俺たちも手伝いましょうっていうやつかな?同じグループだろうに、律儀に言ってくれるなんてこの子もいい子に違いない。
「何かな?」
こんなにいい子たちが世の中にはいるのかとニコニコしながらその子の方へ顔を向けると、メガネの子は険しい顔をしていた。あれまて、これ嫌な予感ってやつだ。この場合の僕の不幸ってなんだ?この女の子たちが実は男の子二人の彼女ってこと?いや、それは仕方ない。第一学生だろうし、それは残念だけどあってもおかしくない。じゃあなんだ、今の僕の立場から考えよう。敵。この前すごい演説をした敵。話題性ナンバーワン。
「フード、取っていただいてもよろしいでしょうか」
あ。これバレてるやつじゃない?