【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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第14話 世界の敵とは

 フードを取ってくれ、とメガネの子から言われた僕は、どうしようかなぁと半ば諦観の念を抱きながら考えていた。だってこれ、どう言い逃れすればいいの?フード取りたくないんだ。何故?コンプレックスがあるから。あぁそうですか申し訳ございませんでした。そんなうまくいくか?大体コンプレックスがあるならショッピングモールなんていう人が大勢いるところなんてこないでしょ。いや、これは偏見か。よくない。

 

 でも他に思いつかないから、これでいこう。

 

「ごめん。あんまりこのフード取りたくないんだ」

 

 できるだけ悲しそうな声で、沈みがちに。普通の人と比べてかわいそうといってもいい僕は、この手の演技は中々様になっている。この前弔くんと喧嘩したときにこの演技をすると、舌打ちしながら殴られたし、完璧だ。殴られてるじゃねぇか。

 

 弔くんと同じく、メガネの子は僕を疑っているみたいだった。

 

「お願いします。勘違いだといいのですが、知人の声によく似ていまして」

 

 その知人は、捕まえないといけない人なんです。と、メガネの子ははっきり言った。間違いなくバレてる。というか思い出した。あの時メガネしてなかったから思い出せなかったけど、この子路地裏にいた子だ。しかもあの演説を生で聞いてた子。バレないはずがないだろ。バカか僕は。

 

 いや、でもまだチャンスはある。相手は優しい子だ。そして今はメガネの子しか気づいてない。うまくやってメガネの子以外を味方につけよう。

 

「ほんとに、ダメなんだ。コンプレックスってやつ。このフードの中にろくな思い出がないから、触れないでほしい」

 

「おい、どうしたんだよ飯田?一般人に詰め寄るなんてらしくないなんてもんじゃねぇぞ」

 

 メガネの子は飯田くんというのか。いいぞチャラい子。君がバカそうでよかった。そのまま押し切れ。正義の味方だろ?

 

「では、顔を正面からみせていただけますか?フードの中ではないならいいでしょう?」

 

 まずい、これはまずい。確かに僕はフードの中としか言っていないし、顔にもコンプレックスがあるならきちんと隠しているはず。でも僕は顔には何にも細工してないし、自慢の爽やかフェイスそのままだ。気づかれなかったのはあの演説動画の言葉が強烈だったからで、僕の姿はそれほど重要視されていないから。顔がよく見えなければ、まだ誤魔化せる範囲にある。

 

 ここで顔も見てほしくない、はあまりにもおかしい。困った。僕はものすごくバカだ。自分で逃げ道塞いで得意気になってた。恥ずかしすぎる。

 

「……」

 

 相手にバレるかもしれないこの状況で、しかも相手はヒーローの卵。正義の味方。対して僕は名前だけなら知れ渡っている敵。どうしよう。弔くんもまだこのショッピングモール内にいるから迷惑はかけられない……いや?

 

 そういえば僕はとんでもないクソ個性の持ち主じゃないか。ただ立っているだけで誰かを人質にとれるような飛び切りのクソ個性。誰かが周りにいるこの状況なら、僕は最凶だった。そして僕は敵だった。ならそれらしいことをして切り抜けるしかないじゃないか。こんなことにも気づかなかったなんて僕は正真正銘のバカだ。

 

 いや、気づけたからやはり天才だ。

 

 僕は女の子とのふれあいに名残惜しさを感じつつも背を向けて、人がたくさんいる中央の方へ目を向けた。

 

「待て!」

 

 当然僕の正体に気づいている飯田くんは待ったをかけるが、もう遅い。なぜなら、だって。

 

「飯田くんっていったっけ」

 

 僕の迷惑な押し付け(サプライズプレゼント)は目に見えている人、位置が分かっている人が対象だ。そして、僕の目には多くの一般人が映っている。

 

「ここって、いっぱい人がいるよねぇ(・・・・・・・・・・・)

 

「!」

 

 賢そうな飯田くんなら、僕の個性を知っているであろう飯田くんなら、このセリフの意味がわかるはずだ。ちら、と後ろを見ると飯田くん以外はわけのわからなさそうな顔をしているが、飯田くんはものすごく悔しそうな顔をしている。どうやら、人質ができたという状況を理解できたようだ。ここは二階だし、僕はこの高さでも十分死ねる。

 

「……何が目的なんだ」

 

 飯田くんの問いに、僕は首を傾げた。別にここでの目的なんて何もないんだけどなぁ。強いて言うならヒミコちゃんとのデートだったけど、ここにたどり着く前にそんな目的吹っ飛んだし。でも、普通の敵ってこういうところに現れたら目的があるものなのかな?

 

「いや、別に、目的なんてないよ」

 

 あ、弔くんいた。出久くんと仲良さそうに話してる。いいなぁ、友だちになったのかな?首に手ぇ回してるけど。あれは弔くんなりのスキンシップなのかもしれない。

 

「ただ、ここにきたかっただけなんだ。僕は、本当に」

 

「っ」

 

 僕の言葉に飯田くんは悲しそうな顔をした。なんで?まさか今の言葉で僕がデートしたかったけどなぜか男ときてしまった哀れなクソ野郎だってことを察したの?天才かよ。

 

「君は……本当に」

 

「ごめんボス!見つかっちゃった!!」

 

 僕は飯田くんの言葉を遮って、叫んだ。黒霧さんとの連絡手段は僕も持ってるけど、弔くんがやる方が確実だろう。僕がやれば何が起こるかわからない。

 

 僕の声が届いたのか、弔くんがこっちを見て、ため息を吐いた。いや、元はといえば君が僕を放置したんじゃないか!僕を放置するとこうなるんだ、覚えておけ!

 

 弔くんはゆっくり立ち上がって、出久くんに手を振った。近くではもちもちの子がどこかに電話をかけている。あれ、弔くんもバレてない?これヒーロー来ない?

 

 となると、僕の行動は一つだ。混乱を引き起こして、それに乗じて逃げる。これに限る。僕はフードに手をかけて、一気に取っ払った。そして、振り返る。

 

「あ……」

 

 飯田くん以外の子も気づいたみたいだ。はっきり素顔を晒せばわかってもらえるなんて、僕も有名になったなぁ。感動するよ。なんか怖がってるけど。いいんだ、女の子に怖がられてへこむなんて、僕がそんな小さいメンタルの持ち主なわけがない。……さっきまで優しそうな顔してたのになぁ。

 

「どうもこんにちは。初めましての方は初めまして!世界の敵を自称する、爽やかボーイの月無凶夜と申します!以後よろしく!」

 

「月無……凶夜!」

 

 僕の名前は、名前だけは有名だ。世界の敵、不幸の象徴。僕がいるというだけで、その場の平和は脅かされる。

 

 僕の自己紹介が聞こえていたのか、一人、また一人と僕の名前が伝わっていく。小さい波から、大きい波へ。やがてショッピングモール内に広がった月無凶夜の名前は、災害の如き大混乱を生んだ。そらそうだ。僕はあの演説で敵連合の名前を使った。僕がいるということは、組織の誰かがいるかもしれない、僕一人だけじゃないという可能性があるということ。まぁ、僕と弔くんしかいないんだけど。

 

 でも、報道の仕方も悪いよね。僕を見かけたらとりあえず逃げてください、なんて。

 

 マナーもへったくれも、恥も捨てて逃げ回る人たちを見降ろして、小さく笑った。多分こういうの弔くん好きだろうなぁ。

 

「君は、君たちは僕に顔を晒させちゃダメだった。だって、僕は世界の敵で、月無凶夜だから。こうなるってこと、わからなかった?」

 

 出久くんは必死に落ち着くよう呼び掛けている。あー、悪いことしたなぁ。僕という影響力が嫌になる。なんであんなことしちゃったんだろ、僕。定期的に後悔するぞ、あれは。

 

「でも、飯田くんは悪くないよ。こういう状況になったのは僕のせいで、つまり僕が悪い。君は気にしなくていい。ただ、ちょっとばかり正義に素直過ぎたんだ」

 

 僕はこちらへ歩いてきた弔くんに手を振りながら、動けなくなっている飯田くんに告げる。うーん、お友だちも動けてないし、僕ってそんなにすごいやつなの?そらあの演説をしたけど、それだけじゃないか。飯田くんは僕の醜さを実際に目で見て知ってるけど、他の子は知らないんじゃない?……あれ、透明の子ってもしかしてUSJの時の……見えないからわかんないよ。見えろ。

 

 弔くんが話せる位置にきたかと思うと、下の惨状を指さして一言。

 

「お前って、ほんとに時々いいことするな」

 

 と、心底愉快そうな顔で言った。いい性格してるね。

 

 機嫌がよさそうな弔くんが僕の頭を弱い力でこつん、と叩いたと同時、黒霧さんが現れた。飯田くんたちが身構えるが、僕たちに戦う意思はないんだよね。敵だから警戒されるのは当然だけど、もっと楽に生きてもいいと思う。僕のせいで無理なんだけど。

 

 でも、下であんなことになってるのに僕たちに釘付けはあんまりなので、僕は下を指さしながら言った。

 

「いいの?避難誘導。ヒーローの卵なんでしょ?」

 

「……!!」

 

 飯田くんは悔しそうに歯ぎしりしている。僕を、僕たちを無視するわけにはいかないもんね。何をするかわからないから。まぁ何かしたとしても、僕の個性は目に見えてわかりにくいんだけど。

 

 黒霧さんのワープゲートに半身を飲み込まれたとき、飯田くんがゆっくりと口を開いた。

 

「……話したいことは、山ほどあったが」

 

 飯田くんはちら、とお友だちの方を見た。聞かれたくないことなのかな?でも、僕飯田くんと話したの今日が初めてだぞ。なんで話したいこと山ほどできるんだ。

 

「これだけは言っておく。お前は、敵だ」

 

 ……うん。そうか、そういうことになったのか。そういえば飯田くんと出久くんと轟くんは同じ病室になってもおかしなことじゃない。多分、その時に僕の話を聞いたんだろう。だとしたら、今飯田くんが言った「敵」という言葉は普通の敵という言葉と少し異なった意味を持つ。

 

 だとしたら、そうだな。

 

「ありがとう」

 

 やっぱり好きだ。出久くんと轟くん。

 

 僕は怪訝そうな表情を浮かべる弔くんを見ながら、ワープゲートに飲まれていった。


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