【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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 歪む話、歪んだ話。


第15話 僕たちの話

 ショッピングモールを訪れた日から数日経って。僕たち敵連合も、そこそこの大所帯になってきた。初めは弔くんと黒霧さんと僕だけだったのに、今は僕たちの他に九人いる。残念ながら女の子は一人……いや、二人。二人しかいないけど。そのうち一人は本当に残念だけど。何がとは言わない。

 

 簡単に紹介しておこうと思う。

 

 まずは荼毘くん。つぎはぎのある肌が特徴で、ところどころ紫になっているクールっぽい人。弔くんからは無礼者の烙印を押されていて、実際に僕たちとコミュニケーションをあまりとろうとしない。僕たちが楽しくしていたら、ボソッと大体バカにしたような言葉を吐くだけである。そしてバカにされるのは大体僕だ。嫌いだ。嫌い!

 

 と、この前伝えたら「俺は嫌いじゃないけどな」と言われてしまった。きゅんときた。とりあえずありがとうと伝えておくと、「ん?おう」と不思議そうに頷いていた。ちょっぴり天然が入っている、僕にとっては悪い人じゃない、そんな人。あと地味にほとんどバーにいる。

 

「実は仲良くしたいんじゃない?」

 

「死ぬほど生きろ」

 

 罵倒されてしまった。

 

 次はヒミコちゃん。待ってました!僕の天使!ブラッディエンジェルヒミコちゃん!ヒミコちゃんは血が大好きなみたいで、好きなタイプはボロボロの人。僕をボロボロにして殺したいからか、弔くんの次に一緒にいることが多い。この前ついに血をチウチウされてしまった。癖になりそうだった。新たな性癖に目覚めるかと思った。ただ、僕は傷口から直接チウチウされ……していただいたが、僕たちの協力者のある人が便利な機械を作ってくれるようで、それは刺すだけでチウチウできるものらしい。製作者を許すな。

 

 最近は僕に生きたいと思わせるため、あの手この手で僕を幸せにしてくれようと色んなことをしてくれるが、大体ひどい目にあっている。簡単に言えば騒ぎすぎて弔くんにブチ切れられ、説教されたあげくご飯がなくなった。あれ、優しい?僕の不幸どこにいったの?

 

 ヒミコちゃんも僕がバーにずっといるので、ほとんどバーにいる。実は心地よくもむさくるしい空間だと思っていたので、ヒミコちゃんがいるのはすごくありがたい。

 

「ありがとうございます」

 

「?」

 

 首を傾げるヒミコちゃんもかわいい。

 

 次からは新しい人たち。最初はマスキュラーさん。血狂いだかなんだかで、ムキムキの大男。笑いながら背中をたたかれて嘔吐したのを覚えている。あのときの弔くんはめちゃくちゃ嫌そうな顔をしていた。僕が知るかよ。

 

 この人も人を殺したいと考えるおかしい人であり、内心ぐちゃぐちゃにされるんじゃないかとびくびくしている。この前それを聞いたら、流石に殺しても生き返る人形は相手にする気はないらしい。人形て。舐めてんのか。ただ、そうは言いつつも僕のことをちょっとは評価してくれているらしい。強いからじゃなくて、清々しいほどに弱いくせに絶望的だから、だそうだ。結果的にバカにしてないか?

 

 あまりバーにいることはなく、そこらへんで人殺しをして気紛れにやってくる。ここがバレやしないかとひやひやしているが、やりたいことをやらせろと話を聞かない始末。だから筋肉なんだお前は。

 

「でも表面にでてくる筋線維の感触ってくせになるんだよね」

 

「やっぱお前狂ってるな」

 

 またバカにした!

 

 次に、マスタードくん。学生服を着た中学生くらいの男の子で、ガスの個性を持つ。僕が近くにいたら間違いなく吸っちゃうね。どうか個性を使わないでほしい。無理か。

 

 なんでも学歴にコンプレックスを持っているみたいで、高学歴、名門を敵視する傾向がある。雄英なんかその代表みたいなものだしね。でも、僕なんかは小学校も行ってないし、なんなら学生服を着たことすらない。学歴は真っ白。先生に勉強を教えてもらっていたから、学歴とか勉強とか、そういう系統の挫折を知らないから、あんまり気持ちをわかってあげられないのが少し申し訳ない。

 

 マスタードくんもバーにはあまりいない。思春期特有のあれが抜けきっていないんじゃないかと思う。僕は気にしてちょくちょく話しかけるんだけど、大体が軽くあしらわれる。

 

「マスタードくん、牛乳飲む?」

 

「殺すぞ」

 

 ほら……あれ?

 

 次は、ムーンフィッシュさん。脱獄した死刑囚で、肉面が好きらしい。恐ろしすぎない?僕もこの人ばかりは敬遠……しようと思ったが、興味があったのでこの前話しかけてみると、問答無用で切り刻まれかけた。一生近づかない。

 

 次、スピナーくん。爬虫類みたいな見た目をしてるけど、先輩をリスペクトしたような恰好をしている。先輩の思想がお気に入りというか、心酔しているというか、とにかく先輩が大好き。先輩の意思にそうかどうかで物事を判断している節がある。あの演説の動画を見て、先輩を見捨てたように見えた僕が嫌いなみたいだ。口も聞いてくれない。じゃあなんでここにきたんだ、君。

 

 次はヒミコちゃん以外の女性メンバーであるマグ姉。大柄でごつごつしておひげも見えるが、女性である。間違えちゃいけない。ルールに縛られて生きにくくて、そんな人たちを受け入れる敵連合の僕たちが、彼女らしさを受け入れないなんて冗談あってはいけない。弔くんもマグ姉のことをオカマってはっきり言ってたけど、本心からバカにしたような言い方じゃなかった。その証拠に弔くんマグ姉に夜誘われてたし。僕が生贄にされてひどい目にあいかけたけど。

 

 マグ姉はその人生経験からか、とにかく優しい。人殺しだけど、身内には甘いタイプなのかなと思う。僕のことをしょっちゅう撫でくり撫でくりしてくれるし。あの瞬間だけは心の底から女の人なんじゃないかと思えてしまう。

 

 バーには結構訪れるが、友だちにも会いに行ってるらしい。彼女が彼女だから、同じようにルールで縛られたお友だちがいるんだろう。こんなに優しい人なのに生きにくいなんて、ひどい世の中だよね。

 

「ほんと凶夜くんっていいコよねぇ。庇護欲わいちゃう!」

 

「くっ、くるしい……」

 

 抱きしめられた。肺の空気が全部出そうになった。

 

 気を取り直して、次にいこう。全身黒ラバースーツがかっこいい彼はトゥワイスさん。楽しい人で、悲惨な出来事で生まれた支離滅裂な言動が不謹慎だけど面白い。その出来事が原因で普通の社会では生きられなくなって、敵連合にきた。トゥワイスさんもいい人感がぷんぷんする。ちゃんと悩めてちゃんと悲しめるような、そんな感じ。

 

 トゥワイスさんにとっては敵連合が居場所。イカレてしまった人間に居場所はない、ヒーローが救ってくれるのは正しい人間だけ。この前話したときにでてきた言葉で、そんなトゥワイスさんを受け入れた敵連合がものすごく居心地がいいらしい。

 

「そのスーツいいよねー。僕もほしいな」

 

「ハァ!?誰がやるかよ!少し待ってろ!」

 

 言い忘れてたけどトゥワイスさんの個性は二倍。物を二倍にできる。増やしたものをもらってしまった。

 

 最後に、シルクハットを被り、トレンチコートを着た紳士なマジシャンっぽいMr.コンプレスさん。エンターテイナー気質で、僕に通じるところがある。と、この前言ったら「どこがだ?」と言われてしまった。ひどいよ。

 

 敵連合の中ではしっかりしていて、ものすごく仕事ができそうだ。エンターテイナーという癖が悪い方向に働かなければ、仕事に関しては毎度の如くいい成績を残してくれるだろう。

 

 彼はしっかりしているので、バーの外にいても定期的に連絡をしてくれる。弔くんにとっての心のオアシス。

 

「これからも弔くんをよろしくお願いします」

 

「月無、お前も問題児だぞ」

 

 そんなぁ。照れるぜ。

 

 さて、そんな敵連合のみんなが今バーに集まっているのは、他でもない。雄英襲撃ならびに、爆豪くん誘拐作戦の決行が迫ってきているからである。今しがた役割、といっても大半は暴れるだけだが、それを振り終えたところで、弔くんは最終確認に入っていた。

 

「今回は俺と黒霧は出ない。お前たちだけで行ってもらう。そして、どれだけ暴れてもいいが、爆豪くんを攫うこと。これが今回の目的だ」

 

 これを達成できなければほとんど意味がないと言える。襲撃を許すだけでも雄英の評判は落ちるだろうが、押しが弱い。明確に、わかりやすい被害が欲しい。出久くんや轟くんの友だちはできれば死んでほしくないから、やっぱり誘拐が一番だろう。爆豪くんじゃなくて女の子がいいけど、ここは弔くんの判断だから文句は言えない。この前言ったけど。案の定殴られた。

 

「あとは、何をしてもいい。それぞれの意思に従って行動しろ。だが、それでも組織にとって危険と思ったやつは殺しておくべきだ、と俺は思う」

 

 弔くんが僕を見たので、私情がまざったそれに頷いておいた。

 

緑谷出久と轟焦凍(・・・・・・・・・)。見かけたらでいい。この二人は特に優先して殺害しろ」

 

 

 

 あれは、ショッピングモールから帰ってきたときのこと。

 

 バーに戻ってきた僕は、弔くんに腕を掴まれると奥の部屋へ連れて行かれた。

 

 そして腕を離され、開口一番。

 

「お前、まさか死ねるんじゃないだろうな」

 

 どこか、弔くんにしては珍しく、怯えの色を含んだ声に、僕はわかりやすいくらい戸惑った。だって、あの弔くんが。まるで、失うことを怖がる子どもみたいな声を出すなんて。

 

 きっと、きっかけはショッピングモールからワープする前の最後の言葉。僕が敵と言われ、それに対してありがとうと言ったこと。多分、弔くんはそれだけで察してしまえたんだろう。僕の歩む道に、見えない新しいレールが敷かれたことに。僕にさえ明確にわからないそれに、弔くんはひどく怯えているようだった。

 

「誰だ」

 

 弔くんは震える声で言葉を紡ぐ。

 

「お前は一体、誰に殺されるんだ?」

 

 弔くんの言葉には確信めいたものがあった。もしかしたら、僕よりもわかっているんじゃないか、このレールのこと。いや、これは、このレールに対する僕の期待以上に、弔くんは恐れを抱いているのか?

 

 弔くんは僕の胸に額をあてて、握りこぶしを作って僕の肩を弱くたたいた。あ、なんだこれ、何か知らないけど泣きそうだぞ?これ、なんだ。

 

「……出久くんと、轟くん」

 

 今、僕が殺されたいのは出久くんと轟くん。僕が本当に死ねるとしたら、僕を殺してくれるのは出久くんと轟くんだろう。だから、僕はそう答えた。

 

 僕の答えを聞くと、弔くんは額を僕の胸に預け、肩にこぶしを置いたまま、呟いた。

 

「お前が本当にあいつらに殺されるっていうなら、どんなに狙われても、どんな目にあっても、死なないはずだよな」

 

「弔くん」

 

 いつもの弔くんなら、よかったな、さっさと殺されてこいって言っていただろう。いつもの、がどのときを指すのかもう僕にはわからないけど、みんなから見える弔くんらしさが、今はない。今は、そうだ、うん。

 

「お前が、生きたいって思ってるとき。お前は、俺の隣にいなきゃだろう」

 

「うん」

 

「だって、俺たちは、そうだって思ってた。お前も、そう思ってるんだって思ってた」

 

 この「そう」って言葉の意味、多分、僕と弔くんにしか理解できないだろう。ただ、僕が不幸で、死にたがりで、弔くんのそばにいたってこと。それが結果的に不幸だっていうこと。その不幸に対する解釈が、お互い違ってたんだってだけの話。

 

「お前は、俺の隣で、生きたいって思えよ。せめて、俺の手で殺されろよ……、俺は、お前だけはって」

 

 僕が、弔くんが、泣いているのか泣いていないのか、僕にはわからなかった。でも、僕は出会ったその日から、表面上ではどう思っていても、心の奥底で理解していたことがある。

 

 弔くん、僕が生きたいって思えたその時。

 

 君は本当に、僕を、殺せるの?




 意味がわからないし理解もしにくいと思いますが、これが凶夜と弔くんだということで、ここはひとつ。

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