「思ったんだけど、開闢行動隊ってクソダサくない?」
僕は雄英の林間合宿の地を崖の上から見下ろして、ぽつりと呟いた。弔くんが現場の判断は荼毘くんに任せるって言って、その荼毘くんがつけた今回この作戦に参加する僕たちの団体名。開闢行動隊って、我ら開闢行動隊!って言った後に、火薬をふんだんにつかった爆発が背後で起きるようなそんなダサさがある。いや、そういうのがかっこいいと思う人もいるかもしれないけど、僕たちはダークでクールな敵連合。こういうところがダサいのはよくない。ダークでクールだって。ちょっと穴に埋まってきます。
僕の言葉を聞いて、荼毘くんがゆっくりと僕を見た。あれが「じゃあお前に何か考えがあるのか」の眼差しというやつか。ふん。自分に考えが無いのにただただ否定する僕じゃない。時々するけど。
僕はふん、と鼻を鳴らして、自信満々に言い放った。
「ない。ただダサい」
今回がその時々だったというだけである。
僕の言葉でキレたのか、荼毘くんは不吉な炎を宿して叩きつけようとし、マグ姉に止められていた。僕を殺す=僕以外が死ぬ、というのはみんな知ってる。だから手をあげるのはナンセンス。
「あいたぁ!?」
のはずだが、思い切り頭を殴られた。なんだよ!ちょっとセンスをバカにしただけじゃんか!大人げないぞ!
「痛いよー。ヒミコちゃん、なでなでしてー」
「わかった!任せて凶夜サマ!」
ヒミコちゃんはナイフを振りかぶっていた。いや、待って。撫で斬りしてってことじゃない。僕はそんな物騒な言葉を「なでなで」なんて可愛い表現をした覚えがない。大体どこの世界に撫で斬り撫で斬りしてっていう狂人がいるんだ。それに応える人間もそう多くはいないはず。
僕がみっともなくしゃがみこむと、コンプレスさんがヒミコちゃんのナイフを圧縮して助けてくれた。やっぱり頼りになるぜ、コンプレスさん。
「おいトガ。今回の目的に月無の殺害があった記憶はないが?」
圧縮したナイフを掲げ、ぴょんぴょんと跳んで取り返そうとするヒミコちゃんを回避するコンプレスさん。どうかもっとやってほしい。僕に癒しを提供してくれ。
ヒミコちゃんは取り返すのを諦めたのか、唇の先を尖らせて文句をたれた。
「ちょっとした冗談です。敵連合は好きだから、殺すわけないです」
「あれ?でもヒミコちゃんって僕を殺したいんだよね?」
「殺したい!でも、殺したくないの。敵連合、好きだから」
……あー、そういうのやめてほしい。そういう言葉、今の僕にすごく効く。ちょっと前ならへらへら笑って聞けたのになぁ。
気まずくなったので頬をぽりぽり掻いていると、マグ姉が僕の脇に手を入れて立ち上がらせてくれた。くすぐったかった。立った僕の頭をぽんぽんすると、マグ姉が優し気な声で語りかける。
「凶夜くんと弔くんがいての敵連合よ。あなたたちがいるだけで、私たちスゴク生きやすいんだから。みんな形は違えどそう思ってるわ」
まぁ、それは、生きにくい人を受け止めるのが敵連合だし、僕と弔くんは核らしいから、その核がそれを否定してちゃ話にならない。って反論してみたけど、マスキュラーさんが口角を大きくつりあげて笑いながら僕の反論を否定した。
「お前らからは『そうしなければならない』っていう無理した感じはしねぇ。お前らは俺たちみたいなろくでなしを受け入れるようにできてるんだろうな。このガキどもも、お前を嫌ってるがそう思ってる」
「……ふん」
「待て、ガキというのはもしかして俺もか?」
マスタードくんが不機嫌そうに鼻を鳴らし、スピナーくんが自分を指さしながらマスキュラーさんに確認する。が、マスキュラーさんは「さぁな」と言って笑っていた。マスキュラーさんって筋肉ダルマに見えて、結構落ち着いてるっていうか、落ち着いてるって言っていいのか……?衝動的に人殺すような人だぞ?
「俺も感謝してるぜ!好きだ!敵連合!」
トゥワイスさんが両手でサムズアップをしながら高いテンションで答える。いつもは言葉の後に逆のこと言ったりするけど、今回に関してはその言動が消えていた。多分、これは一貫して思っていること、っていうことだろう。トゥワイスさんって本心の本心がでるときわかりやすいから、それだけに結構響く。うん、僕も好きだ。敵連合。
……普通にいい人たちじゃないか。この人たち。ダメダメ、こんなのダメだ。恥ずかしい!僕は知らず知らずのうちに集まった頭の熱を、ぶんぶん首を振って払い飛ばす。マグ姉が「あらあら」と言ってお上品に笑っていたが、気にしない。
「おう、終わったか?なら、最終確認しよう」
「荼毘くん、君ってブレないよね」
でも今はそのブレなさがありがたい。弔くんは荼毘くんのこういうところを評価して今回のリーダーにしたんだろう。ちなみに、弔くんが荼毘くんを指名したときに「僕は?」と聞いてみると、「できると思うか?」と言われてしまった。思いません、とすぐに引き下がったのは我ながら賢かったと思う。
荼毘くんは指をぴっ、と立てて確認を始めた。
「まず、マグネとスピナー。お前らはプロヒーローをやってもらう。マグネは純粋な戦闘力。スピナーは……ステインの意思がな」
「はーい。任せて!」
「俺はステインの仰る主張を通すまでだ」
本来の目的とは外れたサブミッション的なやつ。それを達成するのに、スピナーくんは向いてない。だから、森を動き回るのは他の人の方がいい。マグ姉は普通に強いから、大丈夫だろう。それにやさしいし。あれ、僕マグ姉好きすぎ?
「次、俺とトゥワイス。俺たちは雄英のプロヒーローの足止めに回る。俺の分身を作って足止めをすることになるから、実質楽な仕事で悪いが」
「気にするな!プロの足止めは必要さ!誰かがやらなきゃいけねぇ!プロなんて怖くないけどな!」
荼毘くんとトゥワイスさんが組むのは当たり前と言えば当たり前。誰かを足止めする役で、勝手な行動をせず足止めをできる戦闘力を持つ人。一番はリーダーである荼毘くんだろう。それに、足止めにはその方法が一番いいってわかってるから、誰からも文句はない。
荼毘くんは「そうだな、プロは怖くない」とトゥワイスさんを軽くあしらうと、マスタードくんに目を向けた。
「マスタード。お前は生徒に被害を出すってことに関しては一番やりやすい個性を持つ。それに、俺の炎とお前のガスで回収地点を見えづらくする意味もある。重要な役割だが、お前にしか頼めない」
「わかってる」
荼毘くんの声に、マスタードくんはぶっきらぼうに答えた。実際、雄英の評判を落とすのに一番手っ取り早い手段を持っているのはマスタードくんだろう。直接的な戦闘力よりも広範囲に及ぶ被害を出せるのは、何が起こるかわからない僕を除けばマスタードくんが一番だ。次点で荼毘くん。
「マスキュラー、ムーンフィッシュ、トガの三人は好きに動いてくれていい。やりたいことやってこい。ただし、トガはできるだけ多くの血を回収しろ。無理な戦闘はしなくていい」
「太っ腹だなぁおい!だが安心しろ、仕事はちゃんとしてくるからよ」
「肉……仕事……」
「荼毘くん、それ私だけ矛盾してません?」
好戦的なマスキュラーさんと、歯をがちがち鳴らすムーンフィッシュさん。むくれるヒミコちゃんの三人は個人行動だ。マスキュラーさんは血狂いだし、ムーンフィッシュさんは肉面狂い。誰かが一緒にいてリードするより、一人で暴れてくれた方がかえって効率が良かったりする。ヒミコちゃんは血さえ手に入れればその人に変身できるから、組織として考えるのならヒミコちゃんが優先するべきは血の回収だろう。楽にチウチウできる機械も持ってるし、申しわけないけど、頑張ってもらいたい。
「最後に、Mr.と月無は一緒に行動して、目標の回収にあたれ。嫌に目立つ月無と、回収に向くMr.が一緒なら、回収は容易いはずだ。無駄な接触や戦闘は極力避けろ」
「任せろよ。月無のどうしようもなさをもコントロールするのがエンターテイナーだ」
「よろしくねコンプレスさん。何かあったら見捨てていいからね!」
最後に僕とコンプレスさんが一緒。なぜか僕はいやに目立つから、人から注目されやすい。コンプレスさんの個性は静かに回収するのに向いてるから、こと誘拐において僕たちの相性は抜群だ。僕が何も起こさなければだけど。
「で、忘れちゃいけねぇのが今回の目標。爆豪ってガキの誘拐だ」
言いながら、荼毘くんは懐から雁字搦めにされた爆豪くんの写真を取り出す。写真の中の爆豪くんはもうすでに誘拐されているかのような格好だ。これ、体育祭の表彰式でしょ?どんな学校だよ。
荼毘くんは爆豪くんの写真をしまうと、一拍おいて言った。
「あと、好きに殺していいが、あまり無理な殺しはしなくていい。が、死柄木からは緑谷出久と轟焦凍は優先して殺しておけと言われている。できればでいい」
これに関してはあまり殺してほしくないんだけど、この人たちが相手なら危ないかもしれない。かといって、その殺しを僕が邪魔するわけにはいかないしなぁ。それを知ったら弔くん不機嫌になりそう、だし。
荼毘くんは崖下に目を向けながら、「行くぞ」と呟いた。
「各自指定の位置に。目標を確認したら連絡しろ。その他にも各自連絡すべきと判断したことは積極的に連絡、覚えとけ」
みんなの表情は様々だった。いきいきしていたり、ものすごい笑顔だったり、何かを期待していたり。荼毘くんはみんなの表情を見回すと、小さく、でも響く声で言った。
「開闢行動隊。正義の脆弱さを証明するぞ」
……そのネーミングで決定したんだ。いいけど。