【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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 前話で脳無の話がなかったのは、そもそも今回脳無がいないからです。


第17話 僕とエンターテイナー

『始まったか』

 

 僕の隣……ではなく木の上にいるコンプレスさんが、森を覆うガスと炎を見て呟いた。僕は見つかってもいいけどコンプレスさんは見つかっちゃいけないから、この配置である。それだけではなく、僕の見えない場所を木の上から見てカバーしてくれている。僕は一応ガスマスクをしているが、万が一があるからあまりガスの方に近づかない方がいいからね。

 

『月無、勝手に離れちゃいけないよ』

 

『うん、わかってる。いざというときは僕を圧縮してね』

 

 そして、バレないように離れているのに、喋るときに大声を出すなんてカッコ悪い真似はバカオブバカなので、僕とコンプレスさんは常に通信でつながっている。どちらかがどちらかを見失ったとしても、これなら安心だ。どんなに激しい動きをしても壊れない優れものらしいので、僕がボロボロになっても通信機だけは無事な可能性だってある。かなしすぎない?それ。

 

 いちいち雄英の子に会ってたらキリがないので、木々の間を抜けつつ人影を探す。ツンツンの爆発頭が特徴なあの子は見つけやすいと思っていたが、中々見当たらない。というか人影一つ見当たらない。誰とも出会わない。なんで?

 

 でも、焦る必要はないか。弔くんから聞いた爆豪くんの性格を考えると、誰かと接敵して大人しくしていられるタイプではないはず。それに、個性が爆破となればその音はものすごく派手なものだろう。僕が頼るべきは視覚じゃなくて、聴覚だ。見るのはコンプレスさんに任せたほうがいいかもしれない。もちろん、最低限は見渡すけど。

 

『しかし、ほんとにいないね。こりゃ誰かにとられたかな?』

 

『もしかしたらそうかもな。爆豪くんは個性使えないだろうし、見つけるのは骨が折れそうだ』

 

 ん?個性を使えない?あ、そういえば。

 

『そっか。森の中で、ヒーロー志望だもんね』

 

『ここで使ってくれる子なら、とっくに敵になってただろうよ』

 

 ちょっと感覚狂ってた。普通は森の中で爆破なんて、使えないよね。もしかしたら自分で逃げ道なくしちゃうかもしれないし、他の子の逃げ道をなくしちゃうかもしれない。そう考えたら、ヒーロー志望の子が使えるわけなかった。あれ、ということは爆豪くんが一人でいたらチャンスってことか。肝試しだから、誰かと一緒にいるだろうけど。ガスで倒れてたら楽なのになぁ。

 

『ガスを避けて施設に向かってると思ったが、案外ガスで倒れてるかもしれないな』

 

『いや、それはないよ。爆豪くんがその程度の人なら、弔くんが勧誘しようって言うはずがない』

 

『どういう根拠だ?それ』

 

 簡単に言えば信頼かな。他の人からすると根拠にならないだろうけど、僕からすれば立派な根拠だ。弔くんの目が間違えるわけがない。多分。信頼してるんじゃないのかよ。

 

 周りに注意を払いつつ、ちょっと暇なので静かに話しながら歩いていると、遠くの方で地鳴りのような音が聞こえた。自然的な何かじゃなくて、明らかな破壊音。

 

『これは、マスキュラーさんかな』

 

『誰か殺したか?早いな。かわいそうに』

 

 確かに。仕事……って言っていいのかな。とにかく早い。そんなにたまってたのかな。それとも、初めての仕事でテンション上がってるとか?落ち着いてたように見えたけど、実は内心ワクワクだったのか。

 

『あと、いいか?』

 

『何?』

 

 ……あれ、返事が返ってこない。無視?いきなりいじめ?

 

 不思議に思っていると、少し遠くから木がなぎ倒される音がした。木をなぎ倒す……?ムーンフィッシュさんは裂くって感じだし、マスキュラーさんは地鳴りの方だろう。ヒミコちゃんも無理だし、じゃあ一体誰が?雄英の子?

 

 はは、そんなまさか。ここまで派手な破壊を雄英の子がするわけない。だって、場所を教えているようなものじゃないか。それに、ヒーローの卵なら逃げるべきだし。

 

 僕が音に気づいたことを察したのか、コンプレスさんが話し出した。

 

『あれ、雄英だ。それも飛び切りいい個性。並みの敵なら相手にならないとんでもない暴力性だ。月無には見えていないだろうが、俺の目には見えている。独断で悪いが、あいつも貰おう』

 

『そんなにいいの?』

 

『あぁ。あれは化け物だ』

 

 化け物か。そんな子雄英にいたっけ?腕六本の子はいた気がするけど、その子かな?じゃあなんで今?逃げもせずに交戦して、尚且つ居場所が割れるような真似を?可能性としては個性の暴走か。

 

『お友だちがどうにかしてくれるのを待って、落ち着いたところをいただこう。俺が見える範囲で移動する』

 

『了解。でも忘れちゃダメだよ?第一目標は爆豪くん。今コンプレスさんが欲しがってる子はあくまでおまけだって』

 

『あぁ。わかってる。ついでさ。ついで』

 

 にしては、声色がものすごくワクワクしてるように感じるけど。まぁコンプレスさんだし、心配ないか。僕と組むような人なんだ、心配されるような人じゃ務まらない。自然と自虐しちゃった。

 

 コンプレスさんの誘導に従ってゆっくり進む。貰うと決めたからには慎重にならなきゃいけない。静かな行動静かに行動。爆豪くんを攫う予行演習みたいなものと思えばいいか。人を何だと思ってるんだ?

 

『ストップだ。しばらく様子を窺って、暴走が止まりそうにないなら爆豪くんを探しに行こう』

 

『おっけー。ここからなら僕にも見えるよ……確かに、すごいね』

 

 僕の目に映ったのは、巨大な黒。影って言った方がいいのかな。とにかく巨大な何かが一撃で木をなぎ倒すほどの力を軽々と振るい、六本腕の子を攻撃していた。確か、障子くんだったか。それで影ということはあの巨大な黒は常闇くんだろう。影の個性とは聞いていたけど、ここまですごくなるものなのか。

 

『どうやら、音に反応してるみたいだね。気を付けないと』

 

『……悪いが、月無が気を付けるって言葉を使うとろくなことないイメージがある』

 

『ハハハ、そんなわけ……』

 

「敵!?」

 

 ないでしょ。と言おうとしたら、後ろから可愛い声が聞こえてきた。どうやら、一瞬常闇くんの個性に目を奪われ、その一瞬で周りへの注意が散漫になっていたらしい。

 

『こっからは別行動で。ごめんね』

 

『いや、俺も悪かった。爆豪くんを見つけたら連絡する』

 

『了解。またね』

 

『いざとなればフォローに回る。捕まるなよ』

 

 安心して。それはない。

 

 短く言葉を交わすと、コンプレスさんは木々を飛び移り、やがて見えなくなってしまった。常闇くんを気にしていたみたいだから近くにはいるだろうけど、ここらへんの隠密スキルは流石である。いざとなれば自分を圧縮すればいいしね。

 

 さて、僕は僕の仕事をしよう。こんなに思い切り見つかったんだから、言い逃れはできない。

 

 ゆっくりと振り向くと、おっぱ……確か、百ちゃんだっけ。どこがとは言わないけど大きい女の子、百ちゃんと、バンダナを被っている男の子、泡瀬くんがいた。やはり僕のことを知っているのか、目を大きく開いてびっくりしている。

 

「初めましてかな。僕は月無凶夜。世界の敵で、つまり君たちの敵だ」

 

「月無凶夜……!」

 

 僕が自己紹介をすると、百ちゃんが肌からこけしを生み出した。何それ?不思議すぎない?いや、確か個性は創造だっけ。恐らく肌からしか創造できないんだろう。そういえば弔くんに見せてもらった写真は大胆な恰好をしていた気がする。おい、今もしろ。

 

 ただ、こけしが何になるっていうんだろう。勢いよく投げてきたから、何かしらの細工があると考えるべきだ。僕の個性は知ってるはずだから傷つけることはしたくないはず。だとしたら、選択肢は絞られる。例えば、僕の動きを封じるもの。そして投擲物となれば。

 

「スタングレネードか、何かかな」

 

 僕は耳をふさいで、目をつむった。そしてこけしから距離をとる。耳を塞いでいても緩和できる音はごく微量だろう。閃光も厄介だから背を向けて、走り出した。見えている脅威に対するレスポンスなら、自信がある。

 

 やがて、塞いだ耳越しにスタングレネードが弾けた音がした。ちょっと耳がキーンとするけど、我慢できる。問題は今百ちゃんたちに背を向けているっていうこと。スタングレネードを投げた以上向こうもすぐには追撃とはいかないはずだが、それでも今不利なのは僕の方だ。

 

 さぁどうするかと考えていると、通信機越しに焦ったようなコンプレスさんの声が聞こえる。耳の機能が万全とはいえないからあまり聞こえないけど、焦りの感情だけは伝わった。なんで?まさかもう追撃が来てるとか……いや、待て。

 

 確か、スタングレネードってすごい音を……。

 

 直後。

 

 僕は巨大な影に吹き飛ばされた。

 

「いっ、!?」

 

 ガスマスクが外れ体が宙を舞い、そのまま地面に叩きつけられる。まずい、音に反応するなら、吹き飛ばす威力の攻撃を連続でくらうと自然と音が鳴る。つまり、逃げるのは難しいってこと。ここでとれる最善はなんだ。コンプレスさんに助けてもらう?ナンセンス。僕たちの目標は爆豪くんの誘拐で、コンプレスさんはそれが一番やりやすい。僕を助けるために姿を晒すのはよくない。じゃあなんだ、押し付ける?位置がわからない。そして僕が近くにいる人で今一番殺したくないのはコンプレスさんだ。任意に死を押し付けられないなら無差別に押し付けることになって、つまりそういうことになる。

 

 ……常闇くんの弱点は光。百ちゃんのスタングレネード。だったら、僕の個性を知っているということを最大限に利用する。

 

 叩きつけるような攻撃をしてきた影を転がって避け、腹の底から叫んだ。

 

「いいの!?百ちゃん!僕が大怪我するぞ(・・・・・・・・)!ここで誰かが死ぬことを、君はよしとするのかい!?」

 

 正義の心、優しい心。僕の個性を知っているなら、誰かが大怪我して、もしかしたら死ぬかもしれないという現実を自分が止められるとわかっているなら、ヒーローの卵がそれをやらない理由がない。

 

 僕に巨大な影が振り下ろされる直前、視界は強烈な光に包まれ、鼓膜に鋭い音が突き刺さった。

 

 これで死ぬことはなくなった。あとは無事に逃げるだけ……だったんだけど。

 

 やはり、百ちゃんは見た目通り賢かった。身動きが取れない僕の隙をついて、創造したであろう枷で両手両脚を拘束されてしまう。捕まった。

 

「そのくらいの怪我であれば、押し付けられても我慢できますわ」

 

 百ちゃんは僕をうつ伏せにして背中に乗り、僕の頭を押さえつける。なぜだか知らないけど僕の背中をまさぐっていた。こんなときにいうのもなんだけど、ありがとうございます。

 

「発動条件は怪我、そして対象が視界に入っているか、対象の位置がわかっているかのどちらか。無理やりの拘束はしたくありませんので、目隠しをする間はどうか抵抗なさらないでください」

 

 うーん、これは、どうしようもないか。不幸には頼りたくないし、仕方ない。

 

「ごめんね、コンプレスさん」

 

「さっきも聞いたな、その謝罪」

 

 頼るしかない。本当にごめんなさい。僕がいない方がスムーズだったよね、これ。

 

 僕のそんな思いを察したのか、コンプレスさんは「いや」と言って、

 

「月無のおかげで、欲しいもの(・・・・・)が手に入った。謝る必要はない」

 

「その、玉の中……!」

 

「常闇さんと、障子さん!?」

 

 常闇くんに動きがあったその時に障子くんを圧縮して、スタングレネードで常闇くんが弱った瞬間に圧縮したのかな。鮮やかすぎて逆に怖い。あと泡瀬くん今までなにやってたんだ。百ちゃんの隣から声が聞こえるし、君百ちゃんの隣にいたいだけじゃないの?離れろよ!!

 

「さぁ、取引といこうか、ヒーロー……いや、卵だったか」

 

 大丈夫、コンプレスさんはエンターテイナー。なんの心配もいらない。

 

「二人と一人。どっちが多いかなんて、聞かれなくてもわかるよな?」

 

 ……エンターテイメントは?


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