【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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第1話 わくわく入学式

 最近思うが、どうやら僕は落ち着いた行動というのがどうも苦手らしい。先生のおかげで周りの人に迷惑をかけることはなくなり、鉄骨が落ちてくることも、車が突っ込んでくることもなくなった。これは、僕が不幸の範囲を制御しているからであり(僕自身は変わらず不幸であるが)、鉄骨を落とすこと、事故を起こすことは僕以外にも不幸が及ぶため、そんなことは起こらなくなる……というのが先生談。

 

 しかし僕は不幸なので、このようにゴミ捨て場の中心に頭から突き刺さっている。なぜこうなったか僕にもわからない。最近は何かの拍子で始まった不幸に「あ、こんにちは。いつものやつさん」といつものやつに心の中で挨拶し、後は何も考えず流れに身を任せているため、始まりと終わりしか把握できていない。

 

 ちなみに、始まりは野良猫を可愛がっていたら突然牙をむかれたことだった。それがなぜゴミ捨て場に突き刺さることになるのか。おかしい。しりとりでりんごと言ったらその拍子で国会議員になるくらいおかしい。なんの拍子だ。

 

 そんなことを考えながらゴミ山から抜け出していると、不意にスマホが震え、たった一つの連絡先から電話がきた。一応言っておくと、僕が不幸な割にこのスマホは壊れたことがない。先生曰く、「連絡がくるほうが不幸だから」とのことだ。そりゃ、凶悪な敵だし、一般論からすればそうかもしれないが。

 

 それは一般論なので、個人的には恩がある先生を待たせるわけにはいかないと通話の文字をタップした。

 

「もしもし」

 

『もしもし。元気そうだね、凶夜』

 

「うん、元気だよ」

 

 今しがためちゃめちゃに臭くなったところだけど、と心の中で付け足す。

 

『確か、君は今年で16歳になるのかな?ということは一般的に言えば高校生というわけだ』

 

 そういえば、と言われて思い出す。

 

 先生が与えてくれる住処でだらだらと過ごしていたため実感がわかないが、恐らく僕は今年16歳になる。違っていてもおかしくないが、先生が16歳になるというのであればそうなのだろう。

 

 しかし、僕に対して高校生とはおかしなことを言う。ボケる個性でも手に入れたのだろうか。

 

「高校生といっても、僕義務教育終わってない……というかそもそも受けてないからなれないよ?」

 

 そう、僕は中学校はおろか、小学校にも通っていない。個性の制御ができていない僕が通えばどうなるかは想像に難くないし、個性の制御と一緒に先生が勉強を教えてくれたため、特に不自由はなかったからだ。

 

『はは、普通の学校じゃないよ。君を拾ったとき言っただろう?君に相応しい居場所を用意してあげようって』

 

 そんなこと言っていただろうか。あの時の僕はボロボロ……とはいっても途中でなぜかきれいさっぱり治ったんだけど、精神まではきれいさっぱりというわけにはいかなかったからあまりあの時のことを覚えていない。が、恩人に覚えてませんというのは失礼なので、覚えているということにしておこうと思う。

 

「そういえば。ということは先生が居場所を作ってくれたってこと?」

 

『あぁそうさ。ちゃんと君の学友もいるよ。数は少ないけどね』

 

 先生はうまく騙されてくれたみたいだ。人とろくに話したことがないのに人を騙すことがうまいとは、自分の才能が怖くなる。まぁ僕にそんな前向きな才能があるとは思えないので、スルーしてくれたんだろうけど。

 

「それは、なんか、嬉しいな。僕も個性が制御できてるし、あとは僕が迷惑をかけなければいいんだ」

 

 先生が学校を用意してくれたのは素直に嬉しい。僕は人生が人生なだけに、普通というものにものすごく憧れる。僕だってこんな個性がなければ普通に学校へ通いたかったし、友だちと遊びたかったし、なんならカワイイ女の子と青春したかった。「桃色の」がつくとなおよし。

 

 ここで僕はもしかして、と思った。

 

 先生は全知全能な(気がする)ので、僕の願望を細かく理解し、そのための学校を用意してくれたのではないのか。そうであれば僕は一生先生を尊敬する。僕が憧れているのはどっちかというと先生ではなくオールマイトだが、それがひっくり返るくらい尊敬しちゃう。

 

『そうか。喜んでくれて嬉しいよ……さて、君に場所を教えて向かってもらってもいいが、無事に辿りつけるとは思えないからね。迎えを用意しているから、そこで大人しくしていてほしい』

 

「おーけー先生。愛してるよ」

 

『僕も君の不幸を愛してるよ』

 

 はは、つれないな。と笑っていると、僕はいきなり黒に飲まれた。

 

 

 

 真っ暗な視界が明けると、そこは薄暗いバーで、そこにいたのは手を顔面にはりつけた痩せた男と、僕の後ろからするりと現れた何やら黒いやつだった。

 

「嘘つき!先生の嘘つき!」

 

「なんだお前、臭いぞ」

 

 先生は嘘をついていないとか、手の男から発せられた自分に対する言葉が「なんだお前、臭いぞ」という無礼オブ無礼だったことはどうでもいい。

 

 ただ、人は相応に夢を見なければ、と再学習したところである。

 

 

 

 ともあれ。

 

 コミュニケーションは挨拶から、自己紹介から始まる。それすらできないやつは人として終わっている。つまりこの論からいくと、手の男は人として終わっているということになる。なんだいきなり臭いって。性根ねじ曲がってんのか。確かに臭いけど。

 

「どうもこんにちは、初めまして!月無凶夜と申します!個性は不幸で、自分と周りを不幸にします!今は制御できているので僕だけが不幸なので心配しないでください!月無だけに、ツキがないんです!よろしくお願いします!」

 

 まず挨拶から入り、名前を告げ、個性を明かすことで僕はあなたに対して警戒心を抱いていませんアピールをする。そしてトドメに爆笑ジョーク。これは手をたたいて爆笑するに違いない。あれ?そういやあの手の男ってどの手叩くの?顔の手外して両手で挟むようにして叩くの?ぜひ見せてほしい。

 

 そんな願いと裏腹に、手の男の指の間から除く目は、ものすごく冷ややかだった。そういえば僕は不幸なので、どんな爆笑ジョークでも人にウケるわけがなかった。決して面白くないわけではない。

 

 手の男は呆れたようにため息を吐くと、背のモニターに向かって話しかけた。

 

「おい先生。使えるやつがくるって言っていたが、これなんだ?」

 

 そう言って指を指してくる手の男。どうでもいいけど顔の手の印象が強すぎて君が手を使って何かしらする度笑いそうになるんだよやめろ。あと人を物扱いするな。

 

『おいおい、いけないじゃないか。あれが自己紹介をしたんだから、君もしないと』

 

 モニターの男は、なんと先生だった。あとナチュラルに先生にも物扱いされた。僕何かした?何もしてないのに何かされるこの僕が?ツキなしジョークの次に面白い冗談だな、それ。

 

 先生の言葉を受けて小さく舌打ちすると、手の男は「……死柄木弔」とボソッと呟いた。個性は?爆笑ジョークは?

 

 弔くんの次の言葉にわくわくしていると、何か黒いやつが「私は黒霧です、よろしくお願いします」と挨拶をしてくれた。ワープゲートという個性を持っていて、名の通りワープできるらしい。僕がその個性を持てばうっかり火口にワープしそうだなぁ。

 

 先生は仕方ないなぁ、といった風に小さく笑うと、「さて、」と言葉を切り出した。

 

『ここに集まった、もしくは集まる君たちは少なからず社会に反感を持っている。中には犯罪を犯してしまったり、思想を持っていたり。そんな人たちの居場所がここ、敵連合(ヴィランアカデミア)さ』

 

敵連合(ヴィランアカデミア)……?つまり、敵の卵ってこと?」

 

 僕が疑問を口にすると、先生は「いや」と言って、

 

『正確には、巨悪の卵さ。君たちには、世界の敵になれる可能性がある。僕になれる可能性がある』

 

 僕に、ねぇ。いや、なりたいといった覚えもないし、僕は僕だし。というか、こんなに不幸な先生がいたら嫌だ。あと顔に手がついた先生も嫌だ。ん?そういえば先生は顔がないから手があった方がいいのか?

 

「こいつに?」

 

 どうでもいいことを考えていたら、弔くんが僕を見ていた。手をふりふりしておく。

 

 僕のキュートさに嫉妬したのか、鬱陶しそうな目をすると弔くんはモニターに向き直った。僕の扱いがひどい気がする。

 

『そう。凶夜は下手をすればオールマイトにだって勝てるかもしれない。凶夜の個性は、幸せな者に対する切り札なんだ』

 

「説明しろ」

 

「なんか、僕の個性って不幸な人には薄い効果で、幸せな人にはエグイ効果なんだって。実際、僕の周りにいたいい人はみんないなくなっちゃったし。その点、君たちとは友達になれそうでよかったよ」

 

「エグイ効果っていうのは、どの程度だ?」

 

 友達のくだり無視するなよ。

 

「最高で死ぬ程度。この場合最悪っていうのかな?」

 

 僕にとって個性で誰かを殺すことは最悪だし、殺される人にとっても死ぬことは最悪だし、最悪の方が適切か。

 

 弔くんは僕の言葉を聞くと、僕の前で初めて笑った。とはいっても明るい笑い方ではなく、にたり、という音が似合うような気持ちの悪い笑い方だったが。

 

「なんだ、それ。使えるな」

 

 使える、とはまた僕のことを道具扱いしているのか。僕がいくら道具扱いされて然るべき地位にいるとはいえ、少しは気をつかってほしい。僕だって人並みに傷つくんだ。でも使えると言ってくれたのはうれしい。やっぱり友だちになれるかもしれない。というかもう友だちかもしれない。友達だ。

 

「好きに使ってよ、弔くん。先生からもよく言われるんだ。『君は幸せな人を不幸にする天才だ』って」

 

 となれば、握手だ。いい関係は身体的コミュニケーションから生まれる。こう言っておけば合法的に女の子に触れる気がする、なんてことはこれっぽっちも思っちゃいない。ただ、僕はオープンな人間になることを目指している。

 

いい(悪い)個性だな、月無。あと、握手はやめておこう。俺の個性は崩壊。5本の指で触れたその瞬間、触れたものを粉々に崩す」

 

「そうか!なら4本指で握手しよう!」

 

 ごちゃごちゃ言っているのが正直鬱陶しかったので、手首をひっつかんで無理やり握手した。慌てて親指をピン、と伸ばしたのが面白かった。

 

「あぶねぇだろお前……!話聞いてなかったのか!」

 

「え?聞いてたよ。聞いてたから、僕に個性を使う気がないって判断して、こうした。っていうか君人の事気遣う性格なの?意外」

 

 顔に手つけてるのに。

 

 なんとなく地雷な気がしたので心の中で呟くと、弔くんは小さく息を吐いた。

 

「使えるってわかったやつを、わざわざ壊すやつがいるか」

 

 あ、なるほど。気遣ったわけじゃないのか。そりゃ誰だって買いたてのゲーム機を真っ二つにしないもんね。僕はゲーム機ほど高性能じゃないけど。

 

 「いつまで手ぇ握ってんだ気持ち悪い」と手を振り払われ、自分の服でごしごし手を拭いていることから、僕に気を遣ったわけじゃないっていうのが本当だということがわかる。というか、今思えば僕ゴミの中にいたから臭いのか。だから拭いてるのか。なるほど。

 

「そうとなれば。黒霧さん、お風呂行かせて」

 

「私をタクシー代わりに使うのやめてもらえます?」

 

『連れて行ってあげなよ。二度と帰ってこなくなるよ?』

 

「……やっぱ使えねぇんじゃねぇか、お前」

 

 僕だって好きで帰らないわけじゃないが、言っても聞かなさそうなので無視して弔くんの腕をひっつかみ、黒霧さんへと飛び込んだ。

 

 なぜか弔くんがブチ切れていたが、僕にとってはブチ切れられるのも新鮮なので、もっと嫌がらせをしようと思う。おい、臭いとか言うな。

 

 

 

『あ、言うの忘れてた。ようこそ、ここが君の敵連合(ヴィランアカデミア)だ』


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