【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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第19話 不幸の道

 僕に注目を集めろ、何かがあることを悟らせるな。僕に注目を集めて、僕だけを警戒してくれれば、コンプレスさんが目標を達成してくれる。僕は囮になるだけでいい。どれだけ傷ついても、最悪押し付けることができる。問題なのは、さっき百ちゃんに拘束されたときみたいな状況。轟くんには路地裏で一度同じようなこと……それも、僕が任意で対象を選べなくなったということを考えると百ちゃんよりも完璧な拘束をやられたことがある。氷の柱に捕らわれて、視線を固定されてしまったあの時。あの状況になるのだけはまずい。

 

 そして、恐らく轟くんは同じ手段をとってくる。

 

 轟くんが何らかのアクションをとったその瞬間に、僕は動けるように構えていた。事実、轟くんが右手を振って生まれた地をはう氷結を、僕は先輩の真似をして回避した。氷は物体、そして轟くんの氷結は一瞬ですべてを凍らせるわけではない。氷の柱を作るなら、柱が出来上がる前にそれを足場にしていって跳べばいい。

 

 気づいたことがある。最近気づいたことだからあまり実践はできないが、僕の不幸という個性。いつどでかい不幸がくるのか、小さい不幸がくるのかわからないが、ある点だけわかっている不幸がある。

 

 それは、僕が死にたいと思っているから、死ねないこと。拘束されると幸せだから、拘束されたとしても絶対に抜けられること。または拘束されないこと。さっきの百ちゃんのときは、なぜだかわからないが拘束される方が不幸だったんだろう。轟くんのときも同様に。僕の状態、不幸には何らかの意味がある。だから、僕はこの二つの不幸においては逆手にとった行動ができる。なんだかんだ言っても、どういう状況だとしても、僕が死ぬ、拘束される、捕まる。これが幸せだってことは曲がらないから。

 

 僕のこの超人ともいえる避け方は、今の法則が関係している。拘束されることが幸せなら、理論上可能であれば僕の不幸が後押しをして拘束を避けることができるということ。先輩の戦いを見ててよかった。あれを見てなかったらこんな避け方は思いつかない。

 

 出来上がった氷の柱の上に立った僕を見て、轟くんが驚愕に目を見開いていた。いつもクールに見える分、ちょっとかわいい。

 

「お前、本当に月無か?」

 

「そう思うよね。僕自身もびっくりしてるから」

 

 多分、轟くんの中では流れで傷ついて、流れで誰かに押し付けることしかできないクソ雑魚野郎というイメージだったんだろう。あながち間違いじゃないけど、僕だって個性と向き合えば成長するさ。いや、僕のこれ成長っていうのかな?不幸に逃げてるからむしろ退化じゃない?悲しいなぁ。

 

「あんな雑魚に避けられてんじゃねぇよクソが!!おい、俺もやるぞ!」

 

「やめとけ。お前の爆破であいつが傷ついたらどうする」

 

「言い方考えろや半分野郎!!」

 

 轟くんの今の言葉、僕の体を気遣ってじゃなくて押し付けを警戒しての言葉だろうけど、確かに爆豪くんの言う通り言い方を考えた方がいい。僕がそういう趣味の人だったらどうするんだ。うっ、考えただけで吐きそう。

 

 爆豪くんに注意された轟くんは「悪い」と言いながら首を傾げていた。天然か。

 

「ごめんね。今の僕は殺されないし捕まらない。それに、今のこの状況、見ればわかると思うけどちょっとした衝撃で落下しちゃう。そしたらどうなる?」

 

「俺が助ける。お前は死なせない」

 

「わざとやってんのかテメェ!!」

 

 またも轟くんは首を傾げて「悪い」と言っていた。なんだあの子は。轟くんってモテそうだなぁ。イケメンでクールで天然ってかわいいも兼ねそろえたチートじゃない?しかも強いし。あれ、妬ましくなってきたぞ。わかってたことだけど、人はまったく平等じゃない。ていうか爆豪くん、敵を前にしてなんで味方に怒ってるんだ。

 

 ただこの状況は都合がいい。コンプレスさんが爆豪くんを攫う準備をするには、派手に動き回るよりお話する方がやりやすいだろう。幸い、なのか、不幸なのか。相手からすれば傷つけるのがマズい僕には向いている。

 

「轟くんってモテそうだよね。羨ましいよ」

 

「……なんでだ?わかるか、爆豪」

 

「知るか!何普通に敵と喋っとんだ!」

 

「いや、今思ったんだけどよ。月無のあの状況、むしろ何もできねぇんじゃねぇかって」

 

 ……はっ!!ほんとだ!僕が飛び降りたとしても、轟くんに助けられる。だってそれが轟くんの意思で、しかも僕は死ねないから。ということは飛び降りることができないっていうことで、それはここから移動できないということになる。

 

 策士……!恐ろしい、恐ろしいよ轟くん。まさかこんなに頭がよかったなんて。多分、僕が個性の新しい使い方に舞い上がってたせいだと思うけど。僕は本当に恥ずかしいやつだな。爆豪くん穴掘ってくれないかな?

 

「あ、そうだ爆豪くん。君を迎えに来たんだ。僕の名前は月無凶夜、どうぞよろしく」

 

「誰がよろしくするか!大体世界の敵とか言ってるやつがせけぇマネしてんじゃねぇよ!!」

 

「うっ、それは、ごめんなさい」

 

「おい爆豪、謝れ」

 

「いい加減ぶっ飛ばすぞ!」

 

「いや、あいつが何もできないってわかったらちょっとな。悪い」

 

 爆豪くんにものすごく痛いところをつかれた僕は座り込んで床……今は氷だ。氷をつんつんして拗ねた。いまだに世界の敵に関しては「言っちゃったなぁ」って思ってるんだ。触れないでほしい。いや、なりたいとは思ってるんだけど、なんかこう、恥ずかしいじゃん。

 

 そんな僕の姿があまりにかわいそうだったのか、轟くんが謝罪を要求すると、爆豪くんが手で小さく爆発を起こしながらキレた。そりゃそうだ。敵に謝れって正気じゃない。緩みすぎだよ轟くん。僕のせいか?僕のせいか。

 

「いやでもね、困ってない?実際。凝り固まった価値観に縛られて、その価値観に道を決められて。僕たちは生きやすい世の中のために、正義の脆弱さを示すために行動している。爆豪くん、生きにくくない?」

 

「その道選んだなら胸張っとけや!だがテメェらクソ敵は胸張んな!俺に謝罪しながら死ね!」

 

「爆豪」

 

「それにな、俺がここ(・・)にいんのはオールマイトがいたからだ!誰にだって曲げらんねぇモンはあるんだよ!わかったらおとなしく死ね!」

 

 ……正直、舐めてた。なんか似てるなぁ。爆豪くん。子どもっぽくて、大人っぽい。言動とか行動とか、そこらへんは子どもの要素が強いんだけど、軸にあるものは中々大人って感じがする。だって、今、僕は撃たれた。他でもない爆豪くんの言葉に。納得させられてしまった。そうか、爆豪くん()オールマイトか。

 

「ふふ、確かにね。じゃあ僕との交渉は不成立か。僕は無理だと諦めたよ」

 

 僕の目に映る、コンプレスさん。爆豪くんの背後にいるコンプレスさんを視界にとらえた僕は、コンプレスさんが爆豪くんを捕らえたのを見たと同時に飛び降りた。その先に展開される黒は、お馴染み僕らの黒霧さん。

 

「僕はね。また会おうよ!轟くん!」

 

「しまっ、緩みすぎた!バカか俺は!」

 

 そう、バカだよ君は。爆豪くんもとられて、僕も逃がして。

 

 ねぇ轟くん、君が何を思ってるか知らないけど、敵は敵だよ?忘れないでね。

 

 

 

 視界が明けた先、そこは回収地点にしていた場所だった。連絡をしなきゃいけないし、そのままバーにとは行かないか。

 

「では私はマグネとスピナーの様子を見に行きますので、お待ちください」

 

「ありがとー。黒霧さん」

 

「有能過ぎて逆に引くな」

 

 黒霧さんを見送った僕は、通信機が壊れていないことを確認して全体に連絡した。爆豪くんを回収できたわけだし、もうここにいる理由はない。

 

『えー、こちら月無とコンプレスさん。目標達成しました。お疲れ様。帰るまでがなんとやらということで、気を付けて回収地点までよろしく!5分以内にね!』

 

「気が抜けるな」

 

「こういうユーモアは大事だよ。わかるでしょ?」

 

「死柄木からは月無を甘やかすなと言われている」

 

 いけず。弔くん僕のこと好きすぎか?保護者かよってレベル。僕の自由はもしかして奪われつつある……?

 

 恐怖に慄いていると、荼毘くんとトゥワイスさんがやってきた。二人は回収地点から近いところでお仕事してたはずだから、当然か。

 

「お疲れだな、月無、Mr.コンプレス!働けよ!」

 

「月無がいる割に早かったな。よくやってくれた」

 

「僕もびっくりしてるよ。僕が僕じゃなくなった気分だ」

 

「まぁ、いつも通りだったけどな。それより聞いてくれ。爆豪くんの他におまけも手に入れた」

 

 そう言ってコンプレスさんが取り出したのは三つの玉。外からはあまり見えないが、中には爆豪くんと常闇くんか障子くん……コンプレスさんが嬉しそうにしているから多分常闇くんだろう。あと泡瀬くんがいるはずだ。

 

「一人は流れで持ってきちまったが、もう一人の子がめちゃくちゃいい。きっと死柄木も気に入ってくれるぜ」

 

 そうかなぁ。多分、常闇くんに関しては先生好みのそれだと思う。好みといっても、奪うとかそういう方向の好みだけど。というか泡瀬くんかわいそすぎない?攫われたのに流れでって。解放してあげなよ。

 

「そいつはいいな!今すぐ捨てろ!」

 

「三人も誘拐されたとなると、雄英どうなるだろうな」

 

「きっと大バッシングさ。社会は冷たいからね……あっ」

 

 みんなを待ちながら談笑していると、草葉の間からヒミコちゃんがやってきた。よかった、間に合わなかったらどうしようと思ってた。

 

「よかった、凶夜サマ!死んじゃってるかと思ってた!」

 

「まだ死にたいからね、僕。それはそうと何か嬉しそうだねヒミコちゃん」

 

「あ、そうだ!聞いてください凶夜サマ!お友だちができたんです!」

 

 それはよかった!すばらしい!ヒミコちゃんのお友だちってことは、多分女の子だろう。いや、絶対そうだ。そうに違いない。だから僕も紹介してもらおう。よろしくね。

 

「あと、気になる男の子いたのです」

 

「なんだって!?」

 

「トガちゃん、それって俺のこと!?ごめん!付き合おう!」

 

「うるせぇ……」

 

 ヒミコちゃんのトンでも発言に思わず劇画タッチになって驚く僕と、クソバカ勘違いをかますトゥワイスさん。荼毘くんはそんなやりとりに辟易しているみたいで、ため息を吐いていた。コンプレスさんは笑ってるからよしとしよう。ていうかごめんね。コンプレスさんの手柄の話だったのに。

 

「おいトガ、それはどうでもいい。血は何人分回収できた?」

 

「一人です」

 

「そうか。最低三人は欲しかったが、まぁ今回は複数人で行動してたみたいだから、仕方ねぇ」

 

「ヒミコちゃんの無事が第一だからね!」

 

「そうだぜ!生きててよかった!」

 

 ヒミコちゃん、荼毘くん、トゥワイスさん、コンプレスさん、それに僕。予定ではあとマスキュラーさんとマスタードくんとムーンフィッシュさんがくる予定だけど、ガスが晴れてるし、ボロボロの出久くんとあの地鳴り、マスキュラーさんもやられてると思っていい。ムーンフィッシュさんは……うん。

 

「もうすぐ5分かな、もうちょっと待って……」

 

 僅かな希望をもって、待ってみようと言おうとしたその時。

 

 空からたくさんの腕がナイスな障子くんと、その腕に抱え込まれた出久くんと轟くん、背中に張り付いている百ちゃんが降ってきた。

 

「おいおい、雄英は飛行能力のテストでもあるのか?」

 

「それよりコンプレスさん、障子くんが出てきてるのはなんで?」

 

「ちょっと、エンターテイナーの血が、な」

 

「ごちゃごちゃ言うのは勝手だが」

 

 轟くんが小さく呟くと、戦隊ヒーローよろしく四人が横一列に並んだ。

 

「返してもらうぞ、敵連合!」

 

「これ、お前のせいじゃねぇの」

 

「流石に違うでしょ……」

 

 四人を指さして言う荼毘くんに、そんな馬鹿なと思いながら言葉を返す。

 

 でも、なんでここがわかったんだろう?




 凶夜の不幸

・現状、死ぬこと、拘束、捕まることが幸せということは一貫して曲がらない不幸である。

・なので、「死ねない」「捕まらない」。または、「死んでも死ねない(押し付け)」「捕まっても抜け出せる」ということになる。

・それを逆手にとり、拘束してくるもの、殺しにくるものの回避が理論上可能であれば、度が過ぎた無茶でなければ回避できる。

・可能でなければ死ぬ、または拘束される。何らかの不幸があった後解放される。その不幸が何かはわからない。その場で起こる不幸かもしれないし、後に響く不幸かもしれない。

・痛みが不幸、という考えは薄れつつある。極論押し付ければいいため。今は自分が大怪我しようがしまいがどっちでもいい。ので、状況に応じて傷ついたり傷つかなかったりする。ただ、基本的には傷つく。理由は様々。

・ただ、凶夜自身で感覚的に避けられないと思った不幸は、ほぼ間違いなく訪れる。

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