時はさかのぼり、凶夜とMr.コンプレスが去った後、轟は緑谷、八百万、障子、更に途中で緑谷たちと合流したであろう個性:
だが、やることをやるためにはどうすればいいのか。敵の姿は既に見失っており、ただ手掛かりもなく探し回って見つけられるとは思えない。現状それしかないのは確かだが、他に手はないかと頭を抱えようとしていたその時、八百万が何かを創造した。
携帯型のレーダーのような何か。それを全員に見えるように掲げながら、八百万ははっきりと通る声で全員を呼び掛けた。
「みなさん、これをご覧ください」
「八百万、それは」
「時間がありませんから端的に言います。これは発信機の信号を受け取る受信機で、発信源は月無凶夜。見る限りここから離れてはいませんから、場所についてはクリアしていますわ」
八百万が創造したのは受信機。その発信機はいつ取り付けたのかといえば、凶夜が八百万に乗られてご満悦だったその時、泡瀬の個性:溶接で凶夜の服の裏に取り付けていた。八百万が凶夜の不幸という個性をその情報から『自分が不利になるものは無条件で受け付ける』レベルだと考え、更に
途中で気づかれて服を捨てられる可能性も考えられたが、世界の敵を自称する凶夜の不幸を信じた形になる。
「なら、後はそこまでどう行くかだ」
障子が腕を組んで静かに言うと、緑谷は瞬時に答えを出した。ヒーローの個性の考察を普段から行ってきた緑谷は、こと個性の考察においては優れており、自分の学友の個性の考察さえ怠っていなかった。
「麗日さんは僕らを浮かして!蛙吹さんは浮いた僕らを舌で思いっきり投げて!障子くんは空中での軌道のコントロール!八百万さんは準備してる間にもう一つ麗日さんに受信機を!あと僕らが持っておく用の発信機をお願い!麗日さんは二つの信号が近づいたら個性を解除して!」
「お任せを!」
「おい待て緑谷。いや、それで移動すること自体は問題ない。ただ、その怪我でまだ動く気か?」
轟は作戦を聞いて麗日に背負っていた男子生徒円場を預けながら、緑谷を見た。骨と筋肉がボロボロで、どう見てもまともに動ける状態じゃない。恐らくもう動ける状態ではないが、何か強い意志だけで意識を保っている状態。
「そうだよデクくん!そんな怪我で行っちゃ何があるか……」
「痛みとか怪我とか、気にしてる場合じゃない!今動けるんだ、今なら届くんだ!ここで行かない選択肢なんて、僕にはない!」
麗日は明らかな無謀とわかりつつ、その意志に押された。せめてと思い緑谷の腕に添え木をするが、これからやることを考えれば恐らくあまり意味はない。その後、蛙吹の下に巻き付けられている緑谷、轟、障子、八百万に触れて行って無重力状態にすると、蛙吹に合図を出す。
「いいよ!つゆちゃん!」
「ええ、任せて。みんな、必ず三人を助けてね」
そして、蛙吹は力の限り、空に向けて四人を投げ出した。
「こいつら知ってるぜ!お前ら誰だ!?」
トゥワイスさんはこんな時まで愉快な人だ。本当に知らなかったら弔くんの話を聞いていなかったことになるから、それは大問題だけど。
トゥワイスさんの愉快な発言をスルーして、荼毘くんが一歩前に出て、青い炎を放出した。荼毘くんが一歩前に出たその時に回避行動をとっていたのは流石雄英生、というべきだろうけど、轟くんと百ちゃんの二人は避けていた。多分、障子くんはボロボロであまり動けない出久くんのカバーだろう。涙ぐましい連係だ。
でも、僕らも連係に関しては負けていない。と思う。
「死柄木が殺せって言ってたやつだなお前!言ってなかったけどな!」
トゥワイスさんがメジャーを引きながら轟くんの背後に回る。荼毘くんの炎を見て轟くんの回避先、そしてその裏をとれるように動けるのは素直にすごいと思う。でも、トゥワイスさんって直接的な戦闘力なかったよね?
「あっつ!」
案の定轟くんの氷結にやられかけていた。というかこういうときも逆なんだ。知れば知るほど面白いな。
出久くんの方にはヒミコちゃんが向かって行った。チューブでつながれた刺さればチウチウできる注射器のようなものを投げると、ボロボロながらもなんとか動けたのか出久くんがそれを回避する。その隙にヒミコちゃんが跳んで、出久くんに馬乗りになった。は?何してんだ。
「トガです!出久くん!もっと血だそうよ!きっとカッコいいよ出久くん!」
ヒミコちゃんは出久くんを刺そうとナイフを振りかぶった。馬乗りのまま。あぁ羨ましい。百ちゃんに心惹かれたことは謝るからどうか僕にも乗ってほしい。クソ、腹立ってきたぞ。そうだ。僕も行こう。百ちゃんもいるし、もしかしたらもう一回乗ってくれるかもしれない。
そんなことを考えていたら障子くんがヒミコちゃんを殴り飛ばしていた。
「この野郎!」
「あ、お前は行くな……って、遅かったか」
「俺が行くよ荼毘」
思わず走り出してこけた僕をコンプレスさんが回収しにくる。なんだ、僕を笑いにきたのか!どうせ僕は女の子一人守れないクズなんだ!うぅ、呪ってやる、あの六本腕。障子くんのせいで僕がこけてコンプレスさんに情けないって笑われるんだぞ。
「月無は大人しくしておこう。ほら、オジサンの手を取って」
「うぅ……何回もごめんねー」
ただ百ちゃんに乗ってほしかっただけなのに。……そういえば、百ちゃんは何してるんだろう?
そう思ったちょうどその時、百ちゃんが声を張り上げた。
「皆さん、手筈通りに!」
手筈通り?ということは何かしらの作戦があるってこと?みんながバラバラで、百ちゃん以外は戦っている敵がいるのに?いや、むしろこの場を打開できるからこそのタイミングだと考えた方がいいのか?
僕がコンプレスさんに引き起こされて目に映ったのは、百ちゃんがこけしを投げた姿。百ちゃんでこけしと言えば。
「みんな!このこけし、スタングレネードだ!」
「マトリョーシカだろ」
そんなことはどうでもいいんだよ荼毘くん。どうでもいいんだよ!僕はスタングレネードの効果を緩和するために目を瞑って耳を塞ぐ。その後、ふと気づいた。
味方すらスタングレネードの対策をしていないのに、この場面で使うか?
「バカ月無!その女止めろ!」
コンプレスさんはスタングレネードではないことに気づいていたのか僕から離れていた。そういえば、向こうは攫われた子たちを回収できればいいのか。だとすれば狙いはコンプレスさん。百ちゃんの接近を防げたはずの僕は間抜けにも視界と音を自ら断っていたため、結果的にコンプレスさんは襲われてしまった。
荼毘くんが慌てて炎を出そうとするが、轟くんの氷結に牽制される。トゥワイスさんなにしてるの?あと僕も何してるの?
流石にこのままでは大戦犯になりかねないので、慌てて百ちゃんを抑えに行こうとしたが、僕も轟くんに牽制されてしまった。また柱かよ!上に乗っちゃう癖できちゃったよクソ!
僕は内心悪態をつきながら、柱の上からトゥワイスさんの名前を呼ぶ。何してんだという意味を込めて。
「トゥワイスさん!?」
「無理言うな!こんな攻められ続けちゃ増やせねぇ!増やせるけどな!」
そんなトゥワイスさんは「あつっ」と言いながら氷結を避けていた。そんなに避けられるなら増やす余裕くらい……ないのか。ここは轟くんを流石だと褒めるべきかな?なんで偉そうなんだ僕。こんな間抜けの役立たず他にいないぞ。
でも柱の上からだと戦況がよく見える。ほら、今ヒミコちゃんと障子くんが戦っていて、出久くんはコンプレスさんと百ちゃんが戦っているところに向かって……。
「荼毘くん!コンプレスさんのサポート!出久くんきてる!」
「わかってる!少し待て!トゥワイス!」
「わかってる!二度と迷惑かけねぇよ!」
よし、今のタイミングなら荼毘くんの炎が間に合う。あとはコンプレスさんが自分を圧縮すればいい。
「避けろ!Mr.!」
「了か、い!?」
コンプレスさんが自分を圧縮しようとしたその時、出久くんがその場で跳躍し、コンプレスさんを上から押さえつけた。
「返せよ!三人はお前らのものじゃない!」
「おかしな話だなぁ、まるで君らの物みたいな言い方だ……!」
「緑谷さん!お怪我お辛いでしょうが、しばらく抑えていてください!」
あぁマズいマズいマズい。何がマズいって僕が何もできていないのがマズい。仕方ない、ここは飛び降りて出久くんをやる、しか!
そう決めた僕が柱の上から飛び降りたその時、僕を掬うように氷が現れた。僕の決死の飛び降りは、ただ氷の上に着地しただけのクソ雑魚ジャンプに早変わりしてしまう。
「と、っどろきくぅぅぅうううん!?」
「言ったろ、死なせねぇって」
「ごめん月無!土下座しろ!」
なんでだよ!君が土下座しろ!準備できてなかったら戦闘力あんまりないから仕方ないけど、仕方ないけども!というかマズい!百ちゃんがコンプレスさんをまさぐってる!あの状況じゃ荼毘くんも手を出せないし、なにより羨ましい!僕のこともまさぐれ!
奇しくも、戦況を確認する僕の姿は土下座のような姿だった。満足かよトゥワイスさん。
「お願い出久くん!そこどいて!百ちゃんはその行為を僕にして!間違えた!今すぐやめて!」
「やめるか!何言ってるんだよお前!」
「ありましたわ!小さな玉が三つ!皆さん、すぐに離脱しましょう!」
あー見つかった!この百ちゃんのまさぐり上手!
「あー逃げるな!いいのか轟くん!死ぬぞ僕!死んでやるぞ!ここから跳ぶだけで簡単に死ねるんだ僕は!」
「仲間を殺すのか?」
「きぃー!!」
悔しい!なんか轟くん可愛くなくなったぞ!というか出久くん百ちゃんに背負われてって恥ずかしくないのか!恥ずかしいのは僕だ!
「クソッ、やるだけやって逃げんじゃねぇよ!」
荼毘くんが言えたセリフじゃないと思うけど、同意だ。
「やっちゃえ荼毘くん!」
「いや、行かしてやれよ荼毘、月無」
コンプレスさんは落ち着きを持って立ち上がり、コートについた土を払いながら楽しそうに言葉を紡ぐ。
「エンターテイナーを自称するからには、人を喜ばせなきゃ話にならない」
「いや、僕たちの立場で喜ばせたまんまじゃダメでしょ!」
「あぁ、それとエンターテイナーはマジックも達者なんだ」
コンプレスさんは舌をべろ、と出した。
そこには、百ちゃんが持って行ったはずの三つの玉。あれ、それってつまり。
「いい
「コンプレスさぁぁぁああん!!」
なんて仕事ができる人なんだ!無駄に焦って損した!
「回収できたようで何よりです。五分は既に過ぎているので、戻りましょう」
コンプレスさんのかっこよさが振り切ったと同時に、黒霧さんが僕たちを迎えに来てくれた。おい、いたんなら手伝えよ。
「すみません。月無の邪魔はするなと言われておりまして」
「なにそれ。なんで?」
「さて、なぜでしょう」
一気に安心した僕は黒霧さんのワープゲートに飛び込んだ。これ、倒れ込むように入ると気持ちいんだよね。なんか新感覚。宇宙空間にあるベッドに飛び込むみたいな。そんな感覚。
「じゃあ、また会おうね!」
今度会ったらまた百ちゃんに乗ってもらおう。
呑気にそんなことを考えながらコンプレスさんの方を何気なくみると。
コンプレスさんの仮面が男の夢、レーザーに吹き飛ばされていた。
「コンプレスさぁぁああん!?」
僕は倒れ込むようにワープゲートに入っていたので助けに入ろうとも入ることはできず。宇宙空間のベッドへと旅立った。