【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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 歪んだ友情を表現すると、ホモと言われてしまう。凶夜の不幸は現実にも干渉する……?

 なぜこの断りを入れなければいけないのか疑問ですが、凶夜も弔くんもホモではないので、もしそういう期待がある方はそういうことは一切ないので、ご了承ください。


第23話 先生から生徒へ

 いつものバー、いつものみんな。その中に、いつものとは違う光景があった。

 

 椅子に縛られている爆豪くんと、常闇くん。そして、モニターに映し出されている雄英の謝罪会見。敵に襲われた雄英に、今度は世間の冷たさが襲い掛かっていた。

 

「確かにさ」

 

 弔くんは謝罪会見の様子が映し出されたモニターを背に、爆豪くんと常闇くんの二人に語りかける。

 

「謝罪会見ってのは、必要だ。君たちを預かっている学校には責任がある。だって、まだ自立していないんだから。君たちがどう思っていようと君たちは本来守られる立場だ」

 

 でもさ、と弔くんは一拍置いて、二人を指さした。

 

「君たちは今捕まっていて、謝罪会見で頭下げてるのは君たちの先生で、ヒーローだ。まだ助けられる。まだ手が届く。なのにヒーローを謝罪会見で縛って、動けるヒーローの数を減らして、正義を悪者扱い。生徒に被害が出たってことに目を向けて、大事なことを無視してないか?」

 

 弔くんは二人を指すのをやめ、両腕をバッ、と広げる。そして僕たちを見回して、少し首を傾げながら言った。

 

「一番に責められるべきは俺たちじゃないのか?俺、何かおかしいこと言ってるか?」

 

 人を攫っておきながらこんなことを言うのはおかしいとは思うが、確かに僕もそう思う。国民は、みんなは、まず第一に僕たちを責めるべきなんだ。この謝罪会見の間に二人がどうにかなってたらどうする?プロヒーローが二人増えるだけで変わるんだ。そう思ったから林間合宿の時に足止めしてた。

 

 この謝罪会見は、謝らせることだけが目的のように思える。世間の思想は固まっちゃってるから、こんな言い方もなんだけど「犯罪をして当然の敵」より、「わかりやすく失敗した正義」を責める。そういう風にできている。この謝罪会見は「皆さん、この方々は失敗したんですよ」というマイナスの要素しか伝えていない。僕たちの力は、強大さは、厄介さは?一切説明せず、「失敗」のところだけピックアップして、そりゃあ国民は責めるしかない。

 

 なぜ失敗を責めるのか。それは、「助けてもらえて当然、ヒーローは助けて当然」だと思っているからだ。ヒーローからすれば助けるのが当然だが、助けてもらう方からすれば、それはどうだろう?いるよね、お客様は神様だって自分から言う人。

 

 実際に、何か事件が起こっても、どんな敵が街中で暴れても。それが凶悪なネームド……みんなに知られている敵でない限り、やじ馬が集まりやすい。スマホを取り出して写真とか動画とかも撮り始める。その被害が我が身にくることなんて、ちっとも考えちゃいないような間抜け面をしている。

 

 弔くんは、そういうことが気に入らないらしい。特に、助けてもらえて当然って部分。

 

 弔くんは椅子から立ち上がって、ゆっくりと二人のところへ歩いていく。

 

「正義ってなんだと思う?謝罪会見で頭下げれば正義なのか?」

 

 弔くんが僕を見て、目があった。何か知らないけど真面目な雰囲気なので、きりりとした表情で弔くんの目を見る。

 

「俺たちみたいなやつが生まれるような世の中を作るのが、正義なのか?」

 

 自業自得、因果応報。そんな言葉があるけど、そんな言葉にあてはまらないまま敵になった人だっているだろう。そんな人は決まって社会に縛られて敵になってしまった人ばかりだ。そしてそういう人はどこかおかしくなる。やがて敵として完成する。そうなれば世間から見れば立派な敵だ。生まれた理由なんて考えやしない。敵だから。それは当然なんだけど、そういう人は敵にならない可能性があったはずだ。

 

「俺たちの戦いは、社会への警鐘、及び問いだ」

 

 正義とは何か、今生きているこの社会が正しいのか。疑問に思う人はいるだろう。ただ、それを考えることがないだけで。

 

「俺たちは、勝つつもりだ。ルールで縛り、生き方を縛るこの世の中に」

 

 言って、弔くんは二人の拘束をその個性で崩壊させた。どういう意図があって、拘束を解いたのか僕にはわからないが、きっと皮肉だろう。弔くんはちょっと趣味が悪いから。

 

「もう一度聞く。俺たちの仲間になる気はないか?」

 

「ねぇよ」

 

 常闇くんからは返事が聞こえなかったが、爆豪くんははっきりと断った。椅子から立ち上がって、弔くんを正面から睨む。

 

「テメェらは、一度負けてんだろ。だからそうなる、だからこうする。テメェのザコを他人のせいにしてんじゃねぇ」

 

強い(・・)意見だな。こう言っちゃダサいが、君ならそういうと思ってた。だが、心のどこかでわかりあえると思ったから勧誘したんだ。それを覚えておいてほしい。……さて」

 

 弔くんは自分を睨んでくる爆豪くんをちょん、と押して、再び椅子に座らせた。爆豪くんが個性を使って暴れないのは予想外だが、そうなるくらい、口では何と言っても考えることはあったってことかな?いや、ただ単に隙を窺っているだけか。

 

 爆豪くんを座らせた弔くんは、いまだに黙っている常闇くんに視線を移し、問う。

 

「君はどうだ?常闇くん」

 

 声を聞いて、常闇くんは伏せていた目をあげ、弔くんと目を合わせた。何に対して迷っているのかはわからないが、迷いがある瞳。困惑した表情。クールで落ち着いている印象があったので、どこか年相応なその表情を意外に思った。

 

「正直、わからない」

 

 言うと、目線を下に向ける。

 

「理解できないというわけではなく、単純に困惑している。ただ、考えさせられると、そう思った」

 

 普通は、爆豪くんのように意思を貫き通すことは難しい。だって常闇くんは雄英に通っているとはいえ子どもで、世間から見れば守られるべき存在だ。そんな子が、誘拐されてこんなことを言われたら、困惑するのも無理はない。そして、この話に対して何か思うことがあるのも。

 

「あぁ、十分だ。君とは気が合いそうだな」

 

 弔くんは嬉しそうに笑っていた。少しとはいえ、自分の気持ちが伝わったことが嬉しいんだろう。二人は仲間にはならないけど、受け入れる準備はできた。芽吹くかはわからないけど、種も植えた。誘拐犯にしては十分すぎる結果だろう。

 

 上機嫌な弔くんは二人に背を向けて、いつの間にかモニターに映っていた先生に話しかけた。

 

「先生、俺さ、らしくないが、感謝してる。だから、勝つよ。俺が、俺たちが」

 

『あぁ、知っている』

 

 弔くんは「敵わねぇな」と笑った。

 

「できれば先生に見ていてほしかった。俺たちが勝つところを、生きる(・・・)ところを。でも、ダメなんだよな」

 

『あぁ、あの時言った通りだ』

 

 

 

「今、何て言った?」

 

 申し訳ないけど爆豪くんと常闇くんを眠らせて、二人でバーの裏に引っ込んだ後。僕たちは先生と話をしていた。突然連絡をとってきたから何事かと思ったが、何事だった。

 

『ある程度体が治ったから、終わらせるよ』

 

 終わらせる。その言葉だけでは「何を?」と聞きたくなるが、僕たちには不思議とすんなり意味が分かった。ここでのその言葉の意味は。

 

「先生を終わらせるってこと?」

 

『やはり、凶夜は察しがいいな』

 

 今まではしょっちゅう連絡をとってきたのに、最近はあまりなかったから不思議に思ってたんだ。同時に嫌な予感もしていた。僕の嫌な予感は、よく当たる。いつも当たってほしくないと思ってるんだけどね。

 

「それ、どういうことだ」

 

『君たちは、僕から離れるべきだと思った』

 

 こういうのって、普通離れさせようとする本人には言わないもんじゃない?大丈夫だって思って言ってくれたなら嬉しいけど。

 

『弔、凶夜。君たちは僕の予想を超える早さで成長してくれた。それを見て、僕はもう必要ないかと……いや、僕がいては成長の妨げになると判断した』

 

「勝手に決めんなよ」

 

『なるよ。そして、今のままでは僕が上だという考えも消えることはない。君たち(・・・)にとっての王は誰だ、と言えばわかるかい?』

 

 先生の存在は、その強大な力からは信じられないほど知られていない。世間から見れば敵連合の主犯格は弔くん……もしくは僕で、敵連合内のリーダーの立ち位置にいるのは弔くんだ。先生じゃない。先生は、僕たちの手助けをするという位置に居続けた。

 

『わかってくれ。弔、凶夜。君たちを想う僕の気持ちを』

 

「わからない」

 

「弔くん」

 

「わからないよ、先生。だって、俺まだ」

 

 弔くんは震えていた。弔くんの抜けきっていない子どもが震えていた。先生と話すとき、時々子どもっぽい口調になるのは、そういうことだと思う。僕は納得したくなくても理解はできる。ずっと『先生』と一緒何て、ありえないんだから。引き際とか見送る時とか、そういうの大事だって、理解できる。

 

「俺まだ、何も返せてない」

 

 弔くんだって人だ。喜ぶし、怒るし、悲しむし、何かに喜んだり楽しんだりする。そして、感謝だってする。いくら敵とか犯罪者とか言われたって、気持ちがなくなるわけじゃない。

 

『弔、僕は信じてるんだ。君の勝利を、君たちの勝利を、生きる未来を。この信頼は君たちに貰ったものだ。先生にとって、生徒の成長が一番のお返しさ』

 

「勝手だ」

 

『あぁ、勝手だね』

 

 弔くんは歯を食いしばって、何かを耐えるように目を伏せると、絞るように声を出した。

 

「……いいよ」

 

 しばらくして、弔くんは顔を上げた。モニター越しの先生を見る目は、強い力が宿っていた。

 

「俺だって、わがままだって思ってる。先生の言ってることが正しいってことも、そうしなきゃならないほど俺が間抜けだってことも。だったらそんなの、納得するしかないじゃないか」

 

 弔くんは、笑った。さっきまでの感情を隠すように、心配するなと言うかのように。二本の脚で堂々と立つ姿は、まさしく大人だった。

 

『ありがとう……凶夜は、何も言ってくれないのかい?』

 

「あれ、寂しいの?」

 

『あぁ、かわいい生徒に何も思われていないかもしれないと思うと、とてつもなく悲しいよ』

 

「ふふ、何それ」

 

 でも、そうだな。先生のこれは冗談だろうけど、ちゃんと言葉にしなきゃいけないっていうのは僕にでもわかる。

 

「じゃあ、先生。これだけは言わなきゃって思ってたんだ」

 

 僕は、モニターから目を離さない弔くんをちら、と見てから先生を見た。モニターの中の先生からは優しい雰囲気がして、世間から見れば恐怖を与える凶悪な敵であるはずなのに、僕には安心感を与えてくれる。僕は、誰が何と言おうと先生が好きだった。

 

「どうしようもない僕に居場所をくれてありがとう。あの時僕を拾ってくれてありがとう。心配だろうけど、安心して。僕たちは弱いけど、弱くない。勝つよ。先生」

 

『今生の別れみたいに言うね。助けにきてはくれないのかい?』

 

「先生はそれを望まないでしょ?」

 

『どうかな』

 

 先生は何かにつけて考えさせるような何かを言ってくる。簡単なものから難しいものまで様々だけど、今回は簡単なものだった。「じゃあ行かないよ」という弔くんの言葉を聞いて、先生は愉快そうに笑った。

 

 やがて笑いを収めると、ゆっくりと、言葉を紡ぐ。

 

『最後に、先生らしいことをさせてほしい。僕の手で古い時代は終わらせよう。今の平和の象徴は僕が終わらせる。そして、今のうちに伝えておこう。弔』

 

 名前を呼ばれた弔くんはぴく、と反応すると、気持ち背筋を伸ばした。

 

『君はリーダーとして成長した。だが、まだ子どもっぽいところがある。それは悪いところばかりではないが、きちんと自分と向き合って、周りとも向き合おう。見失ってはいけないよ。君の進む道を、みんながいることを。そしてもう一度言わせてほしい。君が最高のリーダーになることが、僕にとっての最高の幸せだ。……凶夜』

 

「はーい」

 

 名前を呼ばれたので、元気よく返事する。こんなときに心配かけちゃダメだからね。

 

『君は、優しい子だ。いつだって自分の周りの人のことを考えられる。残酷にも聞こえるが、僕が拾ったから君はこうなったということを覚えていてほしい。そして、そういう性質を持つ君だからこそ、君は境遇が違えば、ヒーローになれる素質もあった。君は否定するだろうけどね』

 

「うん。この個性でヒーローってなんの冗談だって思うよ」

 

『はは、世間から見れば君が優しいというのも冗談に聞こえるだろうね。だけど、そんな君だからこそ、世界の敵になれる素質がある。僕とはまた、別の方向に行ってるけどね。そして、これが一番君に言いたいことだ』

 

 目のない先生が、弔くんを見た気がした。

 

『君にはどうか、生きてほしい。不幸になれって意味ではないよ』

 

「それは、どうだろ。わかんないや」

 

『そうか。これも覚えておいてほしいんだが、先生より先に死ぬのは、とんでもない不幸者だ』

 

「なら生きないとな、月無」

 

「うー、どうしよ。やっぱなしで」

 

『はっはっは!君は本当に不幸だなぁ』

 

 そうでしょ。と僕がいうと、弔くんが呆れたようにため息を吐いた。なんだよ、僕の不幸にケチ付けるのか。

 

『それじゃあ、今のうちだ。君たちに贈れる最後の言葉を』

 

 先生は、僕たちを指さして言った。

 

『今日からここが、君たちの敵連合(ヴィランアカデミア)だ』

 

 今日からと、君たちの、という言葉の意味は。僕たちはすぐにわかった。


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