【完結】僕の『敵連合』   作:酉柄レイム

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第24話 じゃあね

「さぁ、行こう。もたもたしていたらヒーローがくる」

 

 弔くんは「黒霧」と黒霧さんに合図を送ると、黒霧さんがワープゲートで弔くんと僕以外のみんなを別拠点に送り始めた。

 

 弔くんのヒーローがくるという発言は、ちゃんと根拠がある。謝罪会見で捜査を進めていると言っていたからではない。なぜかというと、僕の服に発信機がついていたからだ。それに気づいた時にはもう遅かった。バーにいすぎたから、既にバレていると考えた方がいい。だから、利用することにした。ここを手放すのは惜しいが、別拠点に移動することにして、発信機がついた服を脳無を保管しているところに昨日置いてきてもらい、今日回収して今はバーにある。これは、先生のためだ。

 

 きっと、このバーと保管所にヒーローがくるだろう。そして、オールマイトも絶対にくる。そうすれば先生と会う。どっちにオールマイトがくるかわからないが、今発信機があるのはここなので、ここにくる可能性の方が高い。その間に先生が保管所にきたヒーローを倒しておいて、そのあとにオールマイト。相手をする数の話だ。先生がオールマイト以外に苦戦するとは思えないけど、一応ね。

 

「みんな行ったね」

 

「あぁ、俺たちも行くか」

 

 爆豪くんと常闇くんは、みんなが移動するのを黙ってみていた。移動先をつきとめようと突っ込んでくるかと思ったのに。まぁ、自分から助かる道を放棄するわけないか。

 

「じゃあね。爆豪くんに、常闇くん。今度会うときはいい関係になった時がいいね」

 

「ちゃんと助けてもらえよ」

 

 僕たちがワープゲートをくぐっても、爆豪くんたちが喋ることはなかった。僕たちと話さないっていう選択肢は、正しいのかな?どうだろう。

 

 ワープゲートでふわふわしながら、そんなことを考えた。

 

 

 

 モニターの中では、先生とオールマイトが戦っていた。その戦場は崩れた建物の残骸だらけで、そこが本当に日本なのか疑わしくなるくらいの惨状だった。流石先生、流石オールマイト。僕たちでは、ああいう目に見えてわかりやすい絶望はまだ作れない。やっぱり、先生は先生だった。

 

「先生は、凄いな。敵わないって何度も思う」

 

「だから先生なんじゃない?」

 

 別れを決めても、僕たちはモニターから、先生の戦いから目を離せなかった。できればその場で見ていたい、先生の最後を見届けたい。でも、ダメだ。それを先生は望んでない。

 

 そんな僕らの様子を見て、要望に合わせて調達した花柄チェアーに腰かけているヒミコちゃんが疑問を投げかけた。

 

「先生って、知ってる人ですか?」

 

「うん。僕たちの先生で、恩人」

 

 何をしてもらったか、なぜ恩人なのかは語らない。先生で恩人であるという情報以外は必要ない。その中身は、僕たちだけの話だ。なんか秘密みたいで楽しいね。

 

「へぇ、先生なの。どうりでトンでもないと思ったわ」

 

 マグ姉が頬に手をあててほお、と息を吐いてから言った。どうりで、トンでもないって?どういうことだ、それは。まるで僕と弔くんがトンでもないみたいじゃないか。いや、トンでもないのか?それは敵としては正しいんじゃないのか?ここはお礼を言うべきだ。ありがとう。

 

「なんのための俺たちだって思っちまうくらいのトンでもなさだな」

 

 なんのための。だから先生はこういう選択をしたんだと思う。初めて見た荼毘くんですらそう思うんだ。先生の引き際は正しかったと思うべきかな?

 

「あぁ、オールマイト……」

 

 スピナーくんがオールマイトの劣勢を見て心配そうにしていた。そういえば先輩の熱心なフォロワーだから、オールマイトは殺す対象とか、倒すべき相手とか、そういうのじゃないのか。ごめんね、スピナーくん。でも、これからは大丈夫だから。疑問に思ってもついてきてほしい。

 

「てか二人ともなんか元気なくねぇか?落ち着けよ!」

 

 トゥワイスさんは変わらず愉快だった。ちらりとトゥワイスさんの方を見てみると、片足を上げて両手の人差し指を立たせながら、片方の手を前に出し、もう一方の手を顔の横に持って行ってちっちっちっ、と横に振っていた。元気だね、トゥワイスさん。

 

「無理はよくない。マジック見るか?」

 

 ポン、と個性でお花を出すコンプレスさん。コンプレスさんも愉快さが増してきたよね。マジックが似合いすぎて、本物のマジシャンよりもマジシャンに見える。いや、マジシャンなのかな?マジシャンに違いない。今度教えてもらおう。……なぜだろう、なんだかんだでひどい目にあう未来しか見えない。未来は見えないけど。

 

「死柄木、月無。言うまでもないですが、目を離してはいけませんよ」

 

 黒霧さんには、先生が離れるということを弔くんが話しておいた。先生の存在を知っていたし、初期メンバーだし。初期メンバーとかそういうので区別するつもりはないけど、これは伝えておかなきゃいけないことだと思ったから。ちなみに、僕になんの相談も確認もなく話した、と言っておく。

 

「弔くん」

 

 モニターには、オールマイトの、平和の象徴のしぼんだ姿が映し出されていた。オールマイトが弱っているということは聞いていたので、あまり驚きはない。弔くんも同じなようで、だが、油断もなくモニターを見ていた。

 

「わかってる。忌々しいが、先生が勝って戻ってくることは、ない」

 

 先生は、オールマイトに力を使い果たさせるように負けに行く。先生はすごい人だ。勝ち方も、負け方も知っている。そして、オールマイトは勝つ。ヒーローは必ず勝つを体現している。期待しちゃいけない。先生から離れることを納得したんだ。決めたんだ。弔くんもそれをわかってるみたいで、冷静でいてどこか興奮した表情で頷いた。今の、失礼だったかな。

 

「ありがとう、月無」

 

 失礼ではなかったみたいだ。ならよかった。僕は声を出さず小さく首を横に振る。このありがとうにはどんな意味があるんだろう。僕は僕なりの解釈をしたけど、弔くんの思いと合ってるかどうかはわからない。でも、多分合ってる。

 

 オールマイトは、右腕だけをいつものマッスルな形にして、先生は右腕を歪で凶悪な形にして、お互いがぶつかりあった。多分、もうすぐ決着する。みんなの象徴と、僕らの先生の戦いが。

 

「見てるぞ、先生」

 

「見せてよ、先生」

 

 僕たちは見てるよ。先生の姿を、知りうる限り最大の巨悪を。だから見せてよ。僕たちに先生を。最後の先生を。

 

 モニターの中の先生は、オールマイトの左腕で殴られたところだった。当たり方、喰らい方からして、通りは浅い。オールマイトの一撃とは思えない。ということは、これは囮の囮。本命は別にある。

 

 僕の予想は正しく、オールマイトの右腕がまた膨れ上がった。

 

「弔くん、見てる?」

 

「あぁ、見てる」

 

 モニターから目を離せる気がしなかったので、確認してみた。よかった。弔くんは、ちゃんと向き合えてる。これなら先生が離れても大丈夫。

 

 やがて、訪れる決着。それは、オールマイトの右腕によって訪れた。

 

 その瞬間。

 

 多分、僕らにだけだと思う。僕らにだけ、モニターの中から、はっきりと声が聞こえた。今オールマイトの手によって、地に沈んだ、僕らの先生の声が。

 

 『じゃあね』と『勝て』。短い言葉だったけど、僕たちにはとても重く、色々な意味が詰まった言葉だった。

 

 それは、僕らへの別れの挨拶。今までを完全に過去にする言葉。決意の後押し。

 

 それは、僕らへの激励の言葉。これからを期待する言葉。決意の後押し。

 

 先生の期待の証明。

 

「弔くん、聞こえた?」

 

「……あぁ、聞こえた」

 

 先生は、ずるい。与えるだけ与えて、貰うものは勝手に貰って、そして去っていった。本当は見てほしかった。弔くんが言うように、僕たちが勝つところを。僕たちがこの世界で、胸を張っているところを。弔くんと、みんなと一緒に。成長しきったところを見てほしかった。そこに僕がいるかはわからないけど。

 

 そういえば、先生、生きてほしいって言ってたなぁ。

 

「ありがとう、先生」

 

「勝つよ、先生」

 

 僕がお礼を、弔くんが決意を。それぞれ告げると、なんだろう。

 

 人間って不思議なもので、僕たちには遠くの人に言葉を告げる個性なんてないはずなのに。モニターの中の先生は全然見えないはずなのに。

 

 先生が、笑った気がした。

 

 わかってる。聞こえてる。伝わってるよ。

 

『次は、君だ』

 

 オールマイトの敵への警鐘。平和の象徴の折れない姿。

 

「わかってる。次は僕たちだけど」

 

「勝つのは、俺たちだ」

 

 オールマイトのメッセージに、静かに返す。負けないよ、この社会に。負けないよ、ヒーローに。勝つよ。僕たちは。だって、僕らは、先生の。

 

「あれ、二人とも、泣い……」

 

「今は、そっとしておいてあげてください」

 

 震える僕たちの声を聞いて、体を見て、ヒミコちゃんが心配そうに声をかけてくれたが、黒霧さんが待ったをかけた。流石、気遣いをできる男。できれば、今この時は、最後まで先生を見届けたい。

 

「あら、もうこんな時間ね。夜更かしは乙女の敵よ。ヒミコちゃん、行きましょ」

 

「……わかりました。みんな、また明日、です」

 

 うん、また明日。マグ姉とヒミコちゃんは早く寝ないとね。

 

「そういえば、武器の手入れを忘れてた」

 

 スピナーくんが、中々の棒読み加減で言う。

 

「あぁ、マジックの花が切れてることを忘れてた」

 

「俺花が咲いてるところ知ってるぜ!枯れてるけどな!」

 

 コンプレスさんがおどけた口調で言って、トゥワイスさんが愉快な調子で花を探しに行った。

 

「あー……思いつかねぇ。行くか、黒霧」

 

「あなたは……」

 

 荼毘くんはいつでもブレなかった。それがありがたかったりもするんだけど、黒霧さんは呆れたみたいだ。

 

 みんながそれぞれ別の部屋、別の場所に行って、弔くんと僕の二人になる。

 

「……ねぇ、弔くん」

 

「なんだ、月無」

 

「人の期待って、嬉しいね」

 

「あぁ」

 

「弔くん」

 

「なんだ、月無」

 

「人の優しさって、嬉しいね」

 

「……あぁ」

 

「弔くん」

 

「なんだ、月無」

 

 そこで、ここにきて初めて弔くんと目が合った。

 

「知ってたけど、わかってたけど、お別れって、悲しいね」

 

「……、あぁ」

 

 でも、いつまでも悲しんでちゃダメだ。けど、今日だけ、今日だけは。

 

 悲しむこと、許してくれてもいいよね。先生。

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