【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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第26話 あっち、どっち、こっちの話

 ヒミコちゃんが出久くんの血を手に入れたらしい。そう聞いたのは、仮免試験が終わってすぐ、他でもないヒミコちゃんからの連絡からだ。それを聞いた時、弔くんは珍しく「よくやった!」って大声で褒めてた。電話の向こうのヒミコちゃんはうるさそうにしてたけど。ただ、弔くんが喜んでるのを聞いて嬉しそうにしていた。かわいかった。

 

 勢力拡大とはいかないが、ヒミコちゃんが出久くんの血を手に入れたなら随分やりやすくなる。ということはヒミコちゃんの仕事量が増えるっていうことだけど、そこはごめんなさい、お願いしますというしかない。申しわけないけど。いや、この場合申し訳ないって言う方が失礼なのかな?お礼を言う方がいいか。

 

 定期連絡でみんなからちょくちょく話を聞くが、いつも元気な声を聞かせてくれて安心する。や、普通に会えるんだけど、どうしてもね。離れていると心配にならない?信じてないわけじゃないんだけどね。

 

 そういえば、定期連絡一つとっても、みんなの個性が……これは能力的な話じゃなくて、性格とかそういうの。その個性が色濃くでる。

 

 荼毘くんは落ち着いた声で淡々と。でもしっかり連絡してくれる。どこにどんな人がいた。どこでどんな人が喧嘩を売ってきた。この地域は弱い気がする。時々主観が入っているが、そういうのは大事だ。この地域は弱いって、それ荼毘くんが蹴散らしてるから言えることなんじゃないかって思うと暴れすぎじゃない?って思ったりもする。尻尾は掴まれていないみたいで安心したけど、ひやひやするのは間違いない。

 

 ヒミコちゃんは定期連絡関係なく結構連絡してくれる。何かあったら連絡してくれる、という感じだ。それが重要なものでも重要なものじゃなくても。便りがないのは元気な証拠というが、便りがあっても元気な証拠だ。それに隠れる、見つからないのが上手いみたいで、それは仮免入試に潜入できたことから嘘じゃないということがわかる。心配だけど安心できる子だ。

 

 スピナーくんは意外にも、というと失礼かもしれないが、ちゃんと定期連絡をしてくれる。ぶっきらぼうで不機嫌そうな声だけど、伝えてほしいことは伝えてくれる。「ちゃんとご飯食べてる?」と聞くと、「言われるまでもない」と返してくれたりする。相変わらず先輩の思想に心酔しているようで、スカウト基準もそこらしい。

 

 マグ姉はスカウトや勢力拡大などに精を出しつつ、お友だちに会ったりしてるみたいだ。会った後は本当に嬉しそうで、それを聞くたびに友だちっていいなぁって思う。マグ姉はそれを感じ取ったのか、「凶夜くんのことも大事よ!」と言ってくれた。本当にいい人なのになぁ。あと、集まった時にはなぜか抱き着いてくる。マグ姉は僕のファンらしい。

 

 トゥワイスさんはマスクを被らないまま定期連絡をしてくれるときがあるけど、ものすごく心配になる。マスクを被るとあんなに愉快なのに、マスクを脱ぐとああなるなんて、想像もつかない。ただ、マスクを被るといつも通りになるので、ちょっとびっくりする。トゥワイスさんの定期連絡はびっくりしたり面白かったりするので、楽しみでもある。

 

 コンプレスさんはいつもきっかり定期連絡をしてくれる。時間になると一番最初に、時間ちょうどに。怠慢になるけど、そのおかげで僕たちは時間を確認しなくてもコンプレスさんのコールで定期連絡の時間だと気づける。離れていてもしっかりさ加減で助けてくれるコンプレスさんには本当に助かっている。

 

 そして今、定期連絡とは別の連絡がトゥワイスさんからきていた。愉快な調子なのでマスクを被っているみたいだ。ただ、その内容までは愉快かどうかは、どうだろう。

 

『死穢八斎會の若頭と会ってな、話をさせろってさ!いいわけないよな!』

 

 僕はちらりと弔くんを見た。貸せ、らしい。

 

「トゥワイス、俺だ。会うのはいいが、場所はこっちが指定する。あの不衛生なゴミ廃工場だ」

 

『了解、日時はどうする?』

 

「できるなら早い方がいい。今夜……そうだな、22時は空いてるかどうか聞いてくれ」

 

『……大丈夫らしい。後は俺に任せろ!期待するなよ!』

 

 言って、電話はブツリと切れてしまった。

 

「……どうするの?」

 

「あー、まぁ、遅いか早いかの違いだ。いつかは会うと思ってた」

 

 弔くんは疲れたように椅子に深く腰掛けた。どちらも目立つ勢力だから接触があるのは当然といえば当然だが、こういうのは気が滅入るっていうのは、まぁわかる。ただそうも言ってられないのがリーダーの辛いところだよね。

 

「今日今すぐに全員集めるのはキツイか……仕方ない。俺たちだけで行くぞ」

 

「仲間になってくれるかなぁ」

 

「なってくれるといいな、としか言えないな」

 

 なんかこうしてると弔くんって普通の人みたいに見えるなぁ。いや、それはありえないんだけど。普通の人が敵連合のリーダーなんてできるわけがない。むしろ普通の人だからできるのか?

 

「まぁ、利用できるようなら利用させてもらうさ。ヤクザなんだし、色々いいことはあるだろう」

 

「弔くん、怖い顔してる」

 

 子どもが見たら大声で叫びながら逃げ出すであろう笑顔を見せる弔くんに、流石の僕もドン引きした。気が滅入るか気合が入るかどっちかにしてくれない?

 

 僕たちは22時に備え、情報収集もそこそこに仮眠をとった。もしもがあったときに疲れていたらいけないからね。

 

 

 

 22時、見るからに埃っぽい不衛生でゴミみたいな廃工場。その中で僕と弔くんは人を待っていた。死穢八斎會の若頭。きっと一筋縄ではいかないというか、人の下につくような人じゃない。むしろ僕たちを下につけようとしてくる気がする。それくらいじゃないと若頭なんて務まらないだろう。

 

 僕らは利用しようとしているが、誰かの下につく気はない。先生の生徒だから。これは意地の話だ。多分、下についたほうが上手くいくこともあるとは思う。でも、そうすると生徒として何かが終わる気がする。勘だけど。

 

「来たみたいだな」

 

 鈍い金属音をたてて、廃工場の扉が開いた。開けたのはトゥワイスさんで、その後ろには嘴みたいなデザインの……おしゃれな、おしゃれなマスクをした人がいた。この人が若頭だろう。随分なおしゃれさんらしい。

 

「まずは、こんな場所にきてくれて感謝する。本拠地はもっと綺麗なんだけどな」

 

「いや、いい。会いたいと言ったのはこっちだからな」

 

 それで、と若頭は言葉を繋いで、

 

「お前らだけで全員か?てっきり警戒してフルメンバーでいるかと思った」

 

「そうしようかと思ったが、出払っていてな。もちろん、警戒っていう意味じゃなくて、これからいい関係を築くであろう若頭との初顔合わせ、その場に居合わせないのはどうかな、と思ってな」

 

「いい関係ね。俺もそう思ってるよ」

 

 お互いよく口が回ると思う。ほら、トゥワイスさんなんか二人の顔を見比べて、ちょっと泣きそうな顔をして僕を見てる。大丈夫だよ、トゥワイスさん。喧嘩してるわけじゃないから。……ないよね?

 

「正直に言うと、俺たちヤクザには金がない。投資しようとする物好きなんていない。……だが、お前たちの名前があれば話は別だ」

 

「傘下に入れという話ならノーだ。そこはお前も俺も譲れないところだと思ってたが」

 

「ならどうする」

 

「提携という形ならいい。俺たちは名前を貸すために人材を寄越し、俺たちは勢力拡大ができる。ただ、俺たちの名前はでかすぎると思うんだが、どうだ?」

 

「あぁ、だから俺も興味を持った」

 

 僕たちの名前は膨れに膨れ上がっている。知らない人はいないくらいに。そろそろ教科書に載ってもいいんじゃないだろうか。言い過ぎか。ただ、ヤクザの若頭が興味を持ってくれるほどの名前になったというのは、少し誇らしい。

 

「だから、俺たちが名前を貸すメリットがあるかどうかが知りたい」

 

「……お前たちに教えるのは不安だが、いいだろう」

 

 若頭は胸の内ポケットあたりをごそごそと探り、あるものを取り出した。

 

 針が付いた弾丸のようなもの。針ってことは、何かを注入するもの?ということはなんだろう。偏見だけど、ヤクザってクスリのイメージがある。

 

「それがメリットって?」

 

「あぁ。これは、個性を壊すクスリだ」

 

「個性を」

 

「壊す……?」

 

 若頭がいることも忘れて、弔くんと僕は顔を見合わせた。個性を壊すってもしかして。

 

「おい、それ人体への影響は?」

 

「個性を壊す。個性因子を傷つけるだけだ。痛みはほとんどないと思ってもらっていい」

 

 それって……いや。

 

「無理だ、弔くん。きっと、それを使おうとしたら不幸が暴走する」

 

「……そうか」

 

 多分、それを使って僕の個性を壊そうとすれば、僕の不幸が暴走する。絶対に不幸な個性を壊させることはさせないだろう。それに、どっちの個性が消えるのかもわからないのに。個性因子を傷つけるから、どっちも消えるのか?わからないけど、それを使わない方がいいってことはわかる。

 

「?どうした」

 

「いや、こっちの話だ。悪かった」

 

 弔くんは首を横に振って、若頭に謝罪する。そして。

 

「協力するよ若頭。寄越す人材については別途連絡を取り合おう」

 

「……いきなりだな」

 

「言ったろ」

 

 弔くんは一瞬だけこっちを見て、薄く笑った。

 

「こっちの話さ」


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