【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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スマホから。


第28話 ヤクザの面接

「地下をぐるぐるぐるぐる30分。ここまで生き延びてきたヤクザは流石、工夫が違うね」

 

「簡単に見つかるわけにもいかないし、客が何を考えているのかもわからないからな」

 

 死穢八斎會の本拠地、その地下。そこにある応接間に、僕たちヤクザ組はきていた。レディに優しくということでヒミコちゃんとマグ姉にソファーに座ってもらうと、その後ろに僕とトゥワイスさんが立つ。それを見た若頭が眉をピクリと動かして、僕に問いかけた。

 

「……お前ら四人のリーダーは、お前かと思っていたが」

 

「ヤクザになっても、僕らのリーダーは弔くんだ。それに女の子には優しくしないと」

 

「女?にしては随分ガタイがいいな」

 

 若頭の隣にいるちっちゃいマスコットみたいなやつがマグ姉を見て言った。おいちょっと待て、僕たち仲良くしにきたんだよな?

 

 マグ姉をバカにされたと感じたのか、何だかんだで一緒に生活することが多かったヒミコちゃんが少し身を乗り出した。仲間意識の強いトゥワイスさんも睨みつけながら、頭を下げて威嚇する。

 

「マグ姉はマグ姉です。バカにしてます?」

 

「随分な挨拶だなテメェ!よろしくお願いします」

 

「やめなさいヒミコちゃん、トゥワイス。私たちは仲良くしにきたのよ?」

 

 マグ姉はヒミコちゃんと僕と過ごすことが多かったからか、本来の性格なのか、面倒見がいい。こういうときのストッパーにも率先してなってくれる。でも、今はダメだ。

 

「仲良くしにきたからこそだよ。ジョークで済むことと済まないことがあるんだから」

 

 アイデンティティ、生き方。双方どんな思惑があろうと、一時的であろうと、手を取り合って協力しようっていうときに、それを否定するかのような物言いはよくない。ちゃんと教育してるの?若頭。

 

 咎める意味も込めて若頭を見ると、「すまない」と言って少し頭を下げた。

 

「せっかく足を運んでくれたのに、これはない。謝るよ。女性に優しくという点では、連合の方が上のようだ」

 

「そうでしょ」

 

 褒められて嬉しくなった僕はにこにこしながら頷いた。トゥワイスさんが僕の肩を叩いて首を横に振ってるけど、どうしたんだろう。お腹痛いとか?

 

 ヒミコちゃんはまだ何か言いたげだったが、僕の「そうでしょ」を聞くと僕をちら、と見て乗り出していた体をソファーに落ち着けた。それを見た若頭が僕に目を向けて、「やっぱりリーダーか」と呟き、その呟きを振り払うかのように「本題に入ろう」と切り出した。

 

「まずは、個性の詳細を教えてほしい。もしものときに連携がとれないと困るからな」

 

「いいよー」

 

 僕がそう答えると若頭がマグ姉を見た。マグ姉は首をふるふると振っている。何さ?

 

「僕の個性は不幸と迷惑な押し付け(サプライズプレゼント)。不幸はその名の通り不幸になるだけで、周りに幸せな人がいればいるほど不幸が強まる。逆に、悪人が近くにいれば不幸は弱まる」

 

 ヒミコちゃんがソファーにもたれて、僕を見上げた。

 

迷惑な押し付け(サプライズプレゼント)は僕が耐えられないと思った傷とか不幸とか、死を押し付ける。対象は任意で選べて、選ばずに死んだりしたら周りにいる生物の誰かに押し付ける。死を押し付けられるのは、生きてる方が不幸だから死なないってことで」

 

「……考えようによっては頼もしいな」

 

 ありがとう。僕の個性は敵向きで、平和を殺すのに向いている。若頭もそれをわかってくれたみたいで、僕の個性を褒めてくれた。それでも嫌そうな顔をしてるけど。

 

「じゃあ、次は私ね」

 

 マグ姉は気持ち姿勢を正して、若頭と目を合わせた。

 

「私の個性は磁力。人に磁力を付加させる個性で、範囲は大体半径4.5m、全身でも一部にでも付加できるし、その強さも調整できるけど、私自身にはムリ。男の子はS極で、女の子はN極。今日は持ってきてないけど、普段は大きい棒磁石を持ってるわ」

 

「便利だな、連携しやすそうだ」

 

 マグ姉は実際、連携することに長けている。黒霧さんの次、それか並ぶくらいには。磁力を付加させる、大きな棒磁石を持っているということは反発させて距離をとらせることができるってことだし、半径4.5mの範囲なら、その磁力で仲間を助けることができる。轟くんみたいな範囲攻撃を避けにくいってことが黒霧さんとの違いかも。

 

「次は俺だ!」

 

 トゥワイスさんは左手首につけているメジャーを伸ばしながら、元気よく説明を始めた。

 

「あらゆるものを二つに増やす!必要なのは明確なイメージ!しっかり見てしっかり測って初めて一つのものを二つにできる!本物と違うところはその耐久力!ものによって異なるが、一定のダメージが蓄積されると崩れ去る!同時に増やせるのは二つまで、二つ目は耐久力が更に下がる!そして一身上の都合で俺は俺を増やせない!」

 

「おい月無、お前だけ不便が過ぎないか?」

 

「僕は毎日思ってるよ」

 

 トゥワイスさんの個性のすごいところは、人を増やしたとき、その個性すら再現できるというところ。若頭が欲しがったのも頷ける。僕が若頭でもトゥワイスさんは絶対指名する。戦闘身代わりなんでもござれ。指名しない人はアホだ。

 

「最後は私です」

 

 ヒミコちゃんは舌をぺろ、と出して話し始めた。かわいい。

 

「血を摂るとその人に変身できます。摂取量が変身時間と比例していて、コップ一杯で大体一日くらい。一度に色んな人の血を飲めばそれだけ色んな人に変身できます。服も含めて変身できますが、元々着てる服と重なって裸んぼにならないといけないから恥ずかしい」

 

「……月無?」

 

「ブラボー!ブラボー!」

 

 ヒミコちゃんの個性の説明に興奮した僕は、拍手をして喜んだ。興奮っていうのは別に性的な意味じゃなくて、こう、昂ぶるものがあるというか、なんというか。特に最後の方はものすごく昂ぶった。

 

「凶夜くん、ダメよ?」

 

「恥ずかしいです……」

 

「最低だな月無!最高だけどな!」

 

 しょうがないなぁと言わんばかりの表情のマグ姉に、縮こまるヒミコちゃん、僕の肩に手を置いてぐっ、とサムズアップするトゥワイスさん。最高ってそれ、本心じゃない?

 

「僕としたことが。ごめんね、ヒミコちゃん」

 

「んー、気にしてないよ、凶夜サマ」

 

 言って、にこっと笑ってくれた。天使。ヒミコちゃんのためなら死ねる。いや、生きれる?生きれる。

 

 落ち着いた僕は「いやぁお恥ずかしい」と言いながら若頭を見た。頭を抱えていた。

 

「……悪いが、お前を受け入れたのはいまだに失敗だと思ってる」

 

「いいよ。それに関しては君が正しい」

 

 連携も取りにくい、何があるかわからない、何をするかわからない、おまけに変人。こんな人を失敗と言わずなんて言うんだ?失敗が正解だろう。そんな失敗を受け入れるしかないんだけどね。僕も若頭も。

 

「でもまぁ、月無凶夜の名は便利だ。そこに関しては有難いが、それを打ち消すくらいの何かがあるのも事実。失礼な物言いにはなるが、大人しくしててくれ」

 

「えー、僕大人しくしてろって言われてできるような人間じゃないんだよね」

 

 どのタイミングで個性が発動して、どんなことを引き起こすかわからないから。それに、大人しくできない別の理由もあるし。

 

「あ、そうそう。裏切るわけじゃないけど、僕らも君たちを使う気でいるってことは覚えておいてほしい。若頭の計画のメリットを聞かされたこっちとしては当然の判断だって思ってくれると助かるな」

 

「俺たちもお前らを使う気でいる。利用され合う関係でいよう。何も、本気で懐柔できるなんて思ってない」

 

 若頭は僕たちを見回して、小さく息を吐いた。

 

「それに、敵連合ともあろうやつらが、他の組織につくわけがない」

 

「あら、わかってるわね若頭。惚れちゃいそう」

 

「惚れるのはやめてくれ」

 

「いーじゃねぇか若頭!お似合いだぜ!お前にマグ姉は似合わないけどな!」

 

「それは褒めてると受け取っていいのか?」

 

「貶してるんですよ」

 

 さっきの若頭の発言を聞いて褒められたと勘違いしたのか、みんなが騒ぎ出す。若頭は笑っても怒ってもいないから、別に騒いでもいいってことだろう。今この時から僕たちは仲間だ。きっといつかどちらかが利用されて、どちらかがいなくなるんだろうけど、そういう関係でいいんだっていう言質はとった。なら、好きにするのが僕たち流。何かに縛られるなんて、らしくないしね。

 

「こちら側の人間の個性は後でデータとして送る。気になる個性のやつがいれば会ってもいい。特に分倍河原……トゥワイスは積極的に。増やすと役に立つやつも多いからな」

 

「誰が会うかよ!どこにいるの?」

 

「まー、わかりやすい乱打戦ができる人を測っておいたほうがいいと思うよ。壁になりやすいし」

 

 できれば大きい人がいいよね。速くて、力が強くて大きい人。今回は荼毘くんみたいな広範囲攻撃を持つ人はあまりよくない。だって、相手が見えなくなると危険だし、トゥワイスさんちょっと油断しちゃう癖があるから。なんだかんだ生き残れるんだけど。

 

「お前らは手配犯。だから自由にするわけにもいかない。しばらくはこの居住スペースから出ないように頼む……というのも、地図も案内もなしに出歩かれると、迷うかもしれないからな」

 

「おっけー。連絡したいときは?」

 

「内線がある」

 

「部屋は一緒?」

 

「男女別だ。……旅行かなにかと勘違いしてないか?」

 

「そんな、まさか」

 

 目をそらす僕に、若頭がため息を吐いた。

 

 これから僕たちのヤクザ生活がスタートするっていうのに、随分気の抜けたやつである。


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