【完結】僕の『敵連合』   作:酉柄レイム

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第29話 近い距離

 薄暗い部屋、未開封のおもちゃ、ぬいぐるみ。所謂子ども部屋そのものな内装をしているそこには、子どもという言葉から想像できる楽しげな雰囲気は一切なかった。そして、異様ともいえる存在がそこにいた。

 

「やぁ、エリちゃん。はじめまして!月無凶夜です!」

 

 いつも笑顔な不幸者。月無凶夜その人である。

 

 

 

「壊理に会わせろ……?」

 

「そう!僕なら死ぬ心配もないし、結果的に僕が大人しくなるし、いいでしょ?」

 

 居住スペースに押し込まれたままぼーっとしているわけにはいかないので、若頭に交渉してみた。核の子に会わせてくれ。僕が最初言った時若頭は何言ってんだ、みたいな顔をしたけど、今は頭ごなしに却下しようとせず、顎に手を添えて考えてくれている。

 

「……お前らが壊理を欲しがってるかもしれない今、下手に会わせるわけにもいかない。が、お前らが何をしでかすかわからないやつらである以上、ここは素直に会わせた方が賢明」

 

 若頭が僕を睨みつけた。鬱陶しそうなものを見る目。僕そういうのに敏感なんだぞ、気をつけろ。

 

「わかった。だが、お前が何かしたとわかった瞬間、お前の仲間を殺す。それでいいな?」

 

「いいよ。むしろもっと酷いこと要求されると思ってた」

 

「信頼の証さ」

 

「ありがとう」

 

 信頼って、僕たちの仲間意識のことかな。多分、人質にとるだけで僕にとっては十分枷になると思ったんだろう。正解だクソッタレ。ろくな死に方しないぞ。

 

 君も、僕も。

 

 

 

 いきなり入ってきて自己紹介した僕を、エリちゃんはきょとんとして見ていた。ぽけーっとしているその表情は、子どもっぽくて癒される。こんくらいの歳の子って、普通なら思い切り遊びたい頃だよね。普通があんまりわかんないけど。

 

「こんなに暗いと確実にこけちゃうから、電気つけてもいい?」

 

「え……うん」

 

 タメ口か。今暮らしてる環境的に、初対面、それか得体の知れない相手には敬語を使うと思ってたけど、案外そうでもない?でも、距離が近いのはいいことだ。ある程度は警戒されてないってことだし。

 

 僕は電気をつけると、入り口付近の壁にもたれかかってにこにこ笑う。安心させなきゃ話にならない。コミュニケーションは親しみを持って。基本だね。基本だよ。

 

「ごめんね、いきなりきて。僕ここじゃ自由にできなくて寂しいから、話し相手がほしくてさ」

 

 いいかな?と首を傾げながら聞くと、エリちゃんはゆっくりと、小さく頷いてくれた。よかった。断られてたらおしまいだった。ダサすぎた。きっと帰ってからみんなに笑われてたはずだ。

 

「そっちに行っても大丈夫?」

 

「、それはダメ!」

 

 わかりやすい拒絶。これは予想できてた。エリちゃんの個性上、人を近づけるのは躊躇うはず。自分の個性で人をどうにかした経験、あるはずだ。だって、何も知らない子どもを縛り付けるには、一番いい薬だから。

 

 でも、僕はどうにもならない。だって死ねない。死にたい。だから、僕が近くに行ってもエリちゃんの個性は発動しない。

 

「個性のことなら、心配しなくていいよ。僕は、そうだな……色々あって、死なない個性なんだ!大丈夫。それに、お話するのにこれだけ離れてたら、寂しいじゃん」

 

 わかりやすいようにしょぼくれてみせた僕を見て、エリちゃんは困ったように視線を彷徨わせていた。そりゃ、会ったばかりの人間の言うことなんて信じられない。僕がどんな人間かなんてわかったものでもない。ただ、エリちゃんの個性を知っていて、それでもなお近くにいようとする人物だってことはわかるはずだ。なら、死なないっていうのは信じてもらえるかもしれない。

 

 エリちゃんは個性の制御ができなくても、個性によって何がもたらされるかを知ってるから。

 

「……ほんと?」

 

 ベッドに座り込んだエリちゃんは、シーツをぎゅっと握って上目遣いで僕に聞いた。危ない、これがヒミコちゃんだったら我を失ってた。

 

「ほんと!僕は女の子に嘘はつかない主義なんだ」

 

「?男の子にはつくの?」

 

「つくかもしれないし、つかないかもしれない」

 

「なにそれ」

 

「僕は女の子に優しいってこと」

 

 今の僕、嘘ついてるように見えるかな?と聞くと、エリちゃんはすぐ首を横に振ってくれた。信じられない、信じたくない人が周りにいっぱいいたからこそのスキルだろう。危機察知能力。この数分で僕に危険はないと思ってくれたみたいだ。

 

 ゆっくり歩いていってベッドに座り、びくっとしたエリちゃんを抱っこして膝の上に座らせる。怖がっている子への荒療治。一気に距離をつめて大丈夫だってことを証明する。効果は他でもない僕が保障する。僕もそうだったから。

 

「ごめんね。びっくりした?」

 

「んー、んーん。したけど、いい」

 

 エリちゃんの髪を撫でると、エリちゃんがくすぐったそうに身をよじった。ふわふわの感触は触れていてクセになる。親が子どもをかいぐりかいぐりする気持ちが今わかった。こりゃ人をダメにするぞ。僕はもうダメになってるからいいけど。

 

「月無さん、どこからきたの?ここの人って感じ、しない」

 

 僕を見上げたエリちゃんのほっぺをぷにぷにしながら、にっこり笑って答えた。どこからきたのって、地球人じゃないみたいで面白いね。

 

「んー、どこって言えばいいかなー」

 

「んー?」

 

 僕が首を傾げると真似をして一緒に首を傾げたエリちゃんに、思わずふふっ、と笑ってしまうとエリちゃんも真似してふふっ、と笑った。僕に気を許しすぎじゃない?大丈夫?エリちゃん。悪い人についていったりしてない?いや、今悪い人のところにいるのか。

 

「楽しいとこ、かな。みんな笑顔で、みんな優しくて、みんな大好きになれる、そんなところから」

 

「楽しいとこ?」

 

「そう、楽しいとこ」

 

「いいなぁ」

 

 エリちゃんは僕の胸にぽすん、と体を預けて、拗ねたように言った。

 

「私も行ってみたい」

 

「じゃあ行こう」

 

 僕の言葉に、エリちゃんはまた僕を見上げた。

 

「したいことを我慢して、行きたいところに行けなくて、言いたいことを言えなくて。そんなのつまらない、楽しくない。子どもはもっとワガママでなきゃ」

 

 僕も子どもだけど、と付け足す僕に、エリちゃんは何か言いたげな表情で口をもごもごしていた。

 

「でも、今のままじゃエリちゃんも僕も自由になれない。だから、自由になれるそのとき」

 

 僕と一緒に、楽しいとこ行ってみる?と聞くと、エリちゃんは少し迷った後。

 

「うん」

 

 と、しっかり頷いた。

 

「そっか」

 

 我慢して縛られて、何もできなくて。あんまり、そういう子どもは見たくない。できれば僕が自由にしてあげたい。傲慢かな?傲慢さ。でも、僕は知ってるから。

 

「エリちゃんって、楽しい何かを想像したことある?」

 

「あるよ、毎日。どんなことが楽しいか、あんまりわかんないけど」

 

「僕もさ、エリちゃんみたいな時があったんだよ」

 

「月無さんに?」

 

 不思議そうに首を傾げるエリちゃんに、にこやかな笑みを浮かべながら頷いた。

 

「うん。今は制御できてるけど、僕の個性って人をどうしようもなく傷つけるものだったんだ。だから、自分から一人になった。頼りになる大人の人が助けてくれたから今はこうしていられるけど、そうなってなかったらどうなってたかと思うと」

 

 今、個性に縛られているエリちゃんにする話じゃないと思うけど、エリちゃんは僕の服をぎゅっと握ってくれた。お返しだと頭をぽんぽんすると、エリちゃんが僕を見上げた。心配そうな顔をしてたから、安心させるように笑顔を浮かべる。

 

「そんな僕でも今は楽しいとこにいられるんだ。エリちゃんみたいな優しい子なら、絶対に楽しいとこにいけるよ。毎日が笑顔で、明日が待ち遠しいそんなところに」

 

「優しいよ」

 

「?」

 

 エリちゃんは腕をぐっと伸ばして、僕の頬にその小さくて柔らかい手をそっと当てた。

 

「月無さんも、優しいよ」

 

「……ほんといい子っ!」

 

「わぷっ」

 

 感極まった僕はエリちゃんを抱きしめると、柔らかい髪をわしゃわしゃした。きゃー、とくすぐったがるその声は、僕には確かに、楽しそうに聞こえた。

 

 

 

「あいつ、俺が見てること知ってるよな?」

 

「ごめんね、若頭くん。あの子わかっててやるタイプだから」

 

「清々しくていいよな!最低だと思うぜ!」

 

「あそこ、私も行っていいですか?」

 

「お前はダメだ」

 

 凶夜が壊理とじゃれあっているその頃、モニター越しにその様子を見ている人物がいた。若頭と、ヤクザ組のトガ、トゥワイス、マグネである。何かあったら仲間を殺すと言って様子を見ていたものの、何かはあったが気の抜ける内容だったため、若頭は疲れたように息を吐いて文句を言った。

 

 ただ、壊理とあそこまで距離をつめる手腕。その一点だけに若頭は注目していた。堂々と連れ去る発言をしていたが、そこはもう気にするところではないと首を振る。

 

「あいつ、いつもあぁなのか?」

 

「あぁって……んー、仲良くなるのは上手ね。あと、他人にナメられるのも上手」

 

「私たちみたいにマイナス要素を持ってる人にとっては、安心感みたいな何かを与えるって弔くんが言ってました」

 

「実際俺もそう思うぜ!気が気じゃねぇけどな!」

 

「なるほどな……」

 

 凶夜はその人生経験からか、はたまた教育者の指導の賜物か、人の気持ちがわかってしまう。時々鈍いが、特にある種のシンパシーを感じる相手とはすぐに距離をつめてしまう。口調も柔らかく、笑顔を絶やすこともない。

 

「あいつがトップじゃない組織、恐ろしいな」

 

「あら、褒めてくれてるの?」

 

「やっと良さがわかったか!」

 

「でも、凶夜サマがトップならそれはそれで恐ろしいです」

 

「何をするかわからないから、か」

 

 だから俺もこっちに入れたくなかったんだ、と若頭は頭を抱えた。

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