【完結】僕の『敵連合』   作:酉柄レイム

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 凶夜がおかしいのはいつも通りと思って読んでいただければ。


第30話 すること、やること、やったこと

「ん……」

 

 目を覚ますと、子どもっぽい空間、ふわふわのベッド、暖かい体温。それらの情報が、まだ覚醒しきっていない僕の脳にじんわりと入り込んできた。そうだ、確か僕、部屋から出て行こうとしたらエリちゃんが悲しそうな顔したから、思わず一緒に寝てしまったんだった。

 

 珍しくベッドから転げ落ちなかったことに感謝しつつ隣を見ると、静かに寝息をたてるエリちゃんがいた。僕の服をぎゅっと握って、まるで行かないでって言ってるみたいだ。

 

 ……懐かれたなぁ。子どもらしくていいけど。

 

 僕はエリちゃんの頭を撫でながら、これからどうしようかと考えた。エリちゃんが離してくれるといいんだけど。……もしかして、若頭は僕がこうなることがわかってたからエリちゃんと会わせてくれたのか?だとしたら、天才に違いない。恐れ入った。ただ、この先若頭の思い通りになるかどうかは別だ。

 

 僕は、エリちゃんを連れて行くつもりでいるから。

 

 

 

「ほんとに?絶対きてね。絶対だよ」

 

「うん、絶対。ごめんね、ほんとは連れて行ってあげたいけど」

 

 エリちゃんが目を覚ましてからしばらくして。

 

 流石にヒミコちゃんたちとずっと別行動はまずいし、このままだと外の状況もわからないから部屋から出ようとすると、案の定引きとめられてしまった。僕の服を掴んで離さないエリちゃんをなんとか宥め、またくることを約束することでようやく許して貰えた。

 

 エリちゃんの部屋から出た僕は、手下くんの案内でみんなのところに辿り着いた。戻ってきた僕に対する反応は様々で、ヒミコちゃんは笑顔でおかえりなさい、トゥワイスさんも笑顔でおかえりなさい、マグ姉は熱い抱擁。

 

「凶夜くん、私感動しちゃった!」

 

「マグ姉待って!締めないで!出る、なんか知らないけど出る!」

 

「やだ、ごめんなさいね。盛り上がっちゃって」

 

 やだもう私ったら、と自分の頭をコツン、と叩いて舌をぺろ、と出すマグ姉が、今の僕には殺戮兵器に見えた。エリちゃんとの約束があるのに、仲間の手で殺されるなんて。いいけど、よくない。

 

「でも確かに、見てて微笑ましかったぜ。怒りっぱなしだったけどな!」

 

 顔の右半分を顰めながら左半分で笑うトゥワイスさんは、僕が今まで見た中で一番辛そうな表情をしていた。どうなってるのそれ。顔の筋肉発達しすぎじゃない?表情が豊かにも程があるでしょ。

 

「凶夜サマ、いつもより優しく見えました。羨ましいです」

 

 優しげな表情でありつつ、どこか拗ねた様子のヒミコちゃんは今日も可愛かった。君が望むならいくらでも優しくしよう。優しく色んなことしよう。絶対できないけど。

 

「まぁ、いつもより優しくっていうのはその通りだと思うよ。相手は子どもだしね」

 

「ホント、和んじゃった!カワイイわね、あなたたち!」

 

「お兄ちゃんみたいでした」

 

「いつもはガキっぽいのにな!大人だけどよ」

 

 なんか、大絶賛されてる。僕としては優しく接しただけなのに。それだけでも何か感じるところがあったんだろうか。あったからこうなってるのか。

 

 こういうことで全力で騒ぐみんなを見ると、なんとなく帰ってきたなぁって気持ちになる。いや、ここヤクザの家だから帰ってきたっていうのはちょっとおかしいんだけど。なんか、気持ち的に。そう、楽しいとこにきたってやつ。

 

「そうだ、若頭何か言ってた?」

 

 そうそう、これは聞いておかないといけない。イライラしてたなら控えなきゃいけないってことだから。そうしなきゃ、ヒミコちゃんたちに何をされるかわからない。何ならぶち殺してエリちゃんを連れて行ってもいいんだけど、四人に対して相手がデカすぎるから無理。

 

 顔色窺うのは嫌だけど、仕方ない。

 

「若頭?うーん、凶夜くんはいつもあぁなのか、とかかしら。基本的に呆れてる感じだったわね」

 

「頭いたそうにしてました」

 

「ストレス抱えてたぜ。すっきりしてたけどな!」

 

「ストレスかぁ。自由すぎってことかな?」

 

 自分の家で、見られているのにも関わらず核の子どもにガンガン距離をつめて一緒に寝る始末。そりゃ呆れるし、ストレスにもなる。どこで何をやるかわからないって思われても仕方ない。今度会ったら謝っておこう。謝ったところで好きにするのは変わりないんだけど。

 

「あぁ、そういえばここが攻められたときの行動も聞いたわ」

 

 そんな重要なことを僕がいない間に?僕に言っても無駄だと思われてる?……というか、攻められたときってまるでこれから攻められますって言ってるようなものだよね。何かあったのかな?

 

「私と凶夜くん、ヒミコちゃんとトゥワイスが一緒に行動で、状況によるけど基本的にヒミコちゃんたちが遊撃、私たちは若頭の護衛、らしいわ」

 

「へぇ、他の組織からきた僕たちを護衛にって、随分思い切ったことするね」

 

「一番何をするかわからないコを近くに置きたかったんじゃない?」

 

 わかってたよ。僕でもそうする。ただでさえエリちゃんと距離の近い僕は、それだけで警戒対象になるはずだ。見えないところで暗躍されるより、見えるところに置いて行動を制御したほうがいい。ヒミコちゃんたちへの内緒の連絡もとりにくいしね。

 

 それに、僕たちを近くに置くってことは何かあったときいつでも始末できるっていう自信の表れでもある、と思う。結局僕は殺されるけど、マグ姉は普通に死んじゃうから、どうしたって行動は制御される。

 

「この分だと、エリちゃんも若頭と一緒っぽいね」

 

「凶夜サマばっかりズルイです。私もエリちゃん可愛がりたい」

 

「どうにかして連れてこいよ!置いてきていいぜ!」

 

「任せて。そのための私なんだから」

 

 盗聴器とかカメラとかあってもおかしくないのに、堂々と攫う宣言するって大分肝が据わってるよね。いや、そういえば僕も似たようなことしてた気がするけど。あれ、僕の方がひどい?見ようによってはその場のノリと捉えてくれるかもしれないけど、エリちゃんと話してるときの僕は死ぬほど本気だったし。死なないけど。

 

 エリちゃん可愛がりたいって言ってるけど、ヒミコちゃんエリちゃんの血見ようなんてこと思わないよね?大丈夫だよね?嫌だよある日突然ヒミコちゃんがエリちゃんに変身しだしたら。絶叫して倒れる自信がある。でもなんだかんだ姉妹みたいになりそう。なんだこの妄想気持ち悪いな。

 

「できれば優しく攫いたいんだけど、チャンスが誰かに攻められたときか、壊滅したときだもんねぇ。マグ姉に頼るしかないか」

 

「優しくキャッチしてみせるわ。若頭から逃げ切れるかどうかが問題だけど」

 

「攻めてきた誰かを囮にしましょう」

 

「十中八九ヒーローだから、きっと俺らのことも追ってくるぜ。逃げないけどな!」

 

 三人の言うことはもっともで、僕とマグ姉には機動力がない。つまりヒミコちゃんが言ったように囮を用意するしかないんだけど、トゥワイスさんの言うように攻めてくるのはヒーロー。そして僕らは敵。絶対素直に逃してはくれない。いっそ善良な市民と勘違いしてくれないかな?無理か。完全に顔割れてるし。

 

 僕は部屋にあるソファーにダイブして、うー、と唸った。そのときにならなきゃ状況はわからないとはいえ、エリちゃんを連れ出すのは中々難しい気がする。

 

「悩んでる?凶夜サマ」

 

 ソファーにダイブした僕に視線を合わせるようにしゃがみこんだヒミコちゃんが、僕を顔を覗き込みながら言った。ちょっと、可愛いからやめてほしい。いや、やめてほしくないけど。

 

「あら、らしくないわね。エリちゃんがいるからかしら?」

 

 あらあらまぁまぁ仕方ないわね、と言いたげなマグ姉は、少し嬉しそう。何が嬉しいんだろ。僕が悩むことが?何でだ。僕のことが嫌いならその理由で納得するんだけど。

 

「好きなことやんのが俺たちだろ?嫌いなこともやるけどな!」

 

 嫌いなことって、今ヤクザに縛られてるこの状況のことかな。確かに、自由を求めてるのにこの仕打ちはちょっときつい。ヤクザからすれば当然のことなんだけど。

 

 それはそうとして、好きなことをするのが僕たち、か。それはそうなんだけど、今回に限っては何か違う気がして、何も違わない気がする。多分、こう感じてる理由にはエリちゃんが絡んでると思うんだけど、詳しいことがわからない。ただ、なんとなく、敵である僕がブレるような何かを感じてる。

 

 僕はソファーに座って、三人を見た。ニコニコしながら不思議そうにしてるヒミコちゃん。目を合わせた瞬間手を振ってくれたマグ姉。見た瞬間に両手でサムズアップしたトゥワイスさん。

 

 僕から見たらいい人たちなんだけど、結局世間から見れば敵で、僕も敵。それは変わらない事実で、追われる立場。

 

 でも、エリちゃんはどうなんだろ。どっちかっていうと被害者じゃないかな。エリちゃんにとっての本当の幸せってなんだろ。僕にとって……や、これは違う。何考えてんだ僕。

 

 ……あー、もういいや。けど、これだけは言っておこう。

 

「マグ姉」

 

「何?凶夜くん」

 

 優しい表情で首を傾げるマグ姉に、僕は手を合わせながら言った。

 

「もし弔くんに怒られたら、一緒に謝ってくれる?」

 

 いきなり変なことを言い出した僕に、マグ姉はきょとんとしてまた首を傾げた。が、すぐに仕方ないわね、と言って笑ってくれた。

 

「凶夜くんだもの。仕方ないわ」

 

 本当に、マグ姉には頭が上がらない。こんないい人がなんで敵なの?社会が悪いから?どうなってんだ社会。ぶっ殺すぞ。

 

 ……本当は弔くんの言うこと聞きたいけど、好きなことするのが僕たちらしいから。弔くんの言うこと聞くのも好きだけど、今回は何か、譲れないって思っちゃったから、仕方ない。そう、簡単な話。

 

 僕らは敵だってこと。ヒミコちゃんとトゥワイスさんは僕が言った謝ってくれる?って言葉に不思議そうな顔をしてるけど、多分、近々その意味がわかると思う。

 

 僕らしいって、笑ってくれるといいな。

 

 

 

「ヤクザ、ナイトアイと接触。多分見られた(・・・・)な、あれ」

 

 凶夜たちがヤクザのところでゆったりしているその頃、チャーミングな仮面をつけたコンプレスは黒霧のゲートから少しだけ顔を出し、弔に連絡をとっていた。内容は、死穢八斎會のヤクザと、未来がみえる個性を持つというサー・ナイトアイの接触。

 

 実は、ヤクザのことをヒーローが探っていることを知り、自分たちの目撃情報を流すことで接触するように誘導していた。理由は簡単。

 

『これで攻めてもらえるかもな。敵に助けてもらうヒーローってどんなんだよ』

 

 コンプレスは通信を聞きながらゲートに身を沈め、本拠地に戻った。それと同時に自慢のハットを取って、仮面越しに苦笑する。

 

「そう言うなよ。ヒーローだってよくやってくれてるさ。実際、俺たちの目撃情報に猿かって思うくらい飛びついた」

 

「お前の方が言ってないか?」

 

 どうでもよさげに言う荼毘に、コンプレスは肩を竦めた。

 

「まぁ、いい。今回はヒーローに感謝しなきゃいけない立場だからな。これで、ある収穫とともにあいつらが帰ってくることがほぼ確定した」

 

 弔は詰将棋をしながら、愉快そうに笑う。待ち遠しいと顔に書いていると言っても嘘に聞こえないようなそれは、スピナーの失言を招く素材としては十分だった。

 

「最近元気がなかったのは月無がいなかったからか」

 

 直後、スピナーの額目掛けて歩の駒が投げられた。

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