【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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 動きます。


第31話 結局

「おい、月無」

 

 朝起きて、やることもなくだらだら集まってごろごろしていた僕たちのところに、若頭がやってきて、上を指差しながら言った。

 

「ヒーロー、きたぞ」

 

 トップは落ち着きが大事だって言うけど、落ち着きすぎだと思う。ちょっと慌てた方がチャーミングでいいと思うよ?でも、かっこいいから僕も真似して冷静にいこうと思う。いいところは取り込んだ方がいいからね。

 

「みんな、仕事だよ」

 

「かっこつけるのはいいけど、ソファーに寝転んで緩み切った顔で言うのはどうなの?」

 

 マグ姉の指摘に顔を赤くした僕は「行きましょう」と若頭に敬語を使って促し、マグ姉を連れて部屋を出た。また会おう、ヒミコちゃん、トゥワイスさん。できればお互い、元気な姿で。

 

 

 

 攻めてこられたと言っても、予定では地下から逃げるだけだからそんなに緊迫した感じではない。僕が緩みすぎなだけかもしれないけど。普通の個性ではすぐに辿り着けないであろう地下を歩きながら、そんなことを考える。や、僕もいつもなら真剣に取り組むんだけど、本番は若頭が襲われてからだし。あれ、これって位置的に僕たちが先に襲われない?

 

 何か白い人にだっこされているエリちゃんに手を振りながら、マズイなぁと首を傾げた。ヤクザの家に突入するくらいだから、きっとものすごく強いに違いない。そうだった場合は交戦するフリもせず寝返ろう。でも寝返っても拘束されたりするのか?じゃあもう逃げるしかない。そうしよう。

 

「マグ姉、もしものときは磁力、お願いね」

 

「任せて。なんでも引き寄せちゃうわ」

 

 誰に対して、とは言わないけど。若頭頭良さそうだし、察してるとは思う。だって睨まれたもん。なんで睨むんだよ。ちょっとエリちゃんにマグ姉の個性を使ってもらうだけじゃないか。だけじゃないな、一大事だ。

 

「睨まないでよ若頭。ちょっと口を滑らしただけじゃないか」

 

「いや、お前じゃない」

 

 え?と言う前に。

 

 横からいきなり、僕の頭が蹴られた。

 

「お出ましね!ヒーローちゃん!」

 

「まさか、敵連合がいるなんてね!」

 

 痛い。ヒーローって普通お話ししてから手を出すものじゃないの?問答無用で人を悪者にして頭を蹴るなんて、ひどくない?いや、僕に対しては正しい対処なのか。やるじゃん!

 

「でもお仕事しないと。酒木さん、音本さん!」

 

 僕が名前を呼ぶと同時、僕を蹴ったと思われる、マントがイカしているヒーローがいきなりふらついた。天井のパイプにぶら下がっている酒木さんの個性『泥酔』。近くにいる人の平衡感覚を奪うそれである。

 

 そこを逃さず、黒のノッポの人、音本さんが発砲した。しかし、その銃弾はマントヒーローの体をすり抜ける。すり抜ける銃弾……?バカか。これは、すり抜けるのがマントヒーローの個性と思っていいだろう。

 

 なら、ここまでこれたのも頷ける。きっと壁や床すらすり抜けることができる。だから誰よりも最短距離でここにこれる。そして、銃弾がすり抜けたとき地に足がついていたということは、すり抜けは部分化が可能ってことで、つまり、マグ姉の個性も有効ってことか?

 

「個性はすり抜け……カッコ悪いから、透過にしよう。そんな感じ?音本さん、一応聞いてみて」

 

「わかってる。……お前の個性は?」

 

「透過!発動中はあらゆるものがすり抜ける……!?」

 

 ビンゴ。僕って天才?まぁわかったところで僕にはどうしようもないんだけど。でも、今の僕は喋れる。弔くん曰く、僕は喋れるだけで結構鬱陶しいらしい。ついこの前若頭からもそんなことを言われた。喋るだけで鬱陶しいって、なんだそれ。喋るなってこと?いや、僕らは敵だから喋れってことか。

 

「マグ姉」

 

「オッケー、任せて!」

 

 マグ姉は判断が早くて、僕の考えていることを理解してくれる。マントヒーローに磁力を付加させて、引き寄せる。が、当然マントヒーローは全身を透過して磁力を回避し、地面に沈んだ。

 

「離れるよ!マグ姉!」

 

「はーい。あとついでに、マントちゃんにプレゼント!」

 

 言って、マグ姉は音本さんを引き寄せて、ちょうどマントヒーローが沈んだ真上にくるように音本さんを放り投げた。

 

「お前っ……!」

 

「ごめんね。私たち敵連合だから」

 

「楽しかったよ。そんなに話してないけど!」

 

 直後、音本さんと酒木さんを襲う連撃。あのマントヒーロー、気絶させることにめちゃくちゃ慣れてない?鮮やかすぎる。というかマズイ、マントヒーローがあの二人をどうにかしている間に若頭たちとごちゃごちゃしとこうと思ったのに!

 

 僕の願いとは裏腹に、マントヒーローは僕たちの方に向かってきていた。そういや僕の人生裏腹ばっかだった!バカヤロウ僕!一度計画をたてたらその裏をつくのが確実な方法だっていうのに!

 

 あの精度の透過なら、ガードは意味がない。だとしたら、避けるしかない。

 

 マグ姉も同じ結論に至ったみたいで、くるであろうマントヒーローの攻撃をよけるために、その場から跳んだ。そんな僕らの間を走っていくマントヒーロー。着地した僕たちは無視。……あれ?

 

俺たち(ヒーロー)の勝利条件は、何よりもまず対象の保護!」

 

 マントヒーローは言いながら、若頭と白い人に攻撃をしかけた。若頭には避けられたが、エリちゃんを抱っこしていた白い人の顔面には、その鋭い蹴りが突き刺さる。僕、あれくらってたんだ。謝れマントヒーロー!

 

「今の一瞬でなんとなくわかった。お前らが純粋に協力しあってないことを!」

 

 だとしても、僕たちは倒しておくべきじゃない?何するかわからないやつらを放置しておくことほど、怖いことはないと思うんだけど。

 

 マントヒーローは宙に投げ出されたエリちゃんをお姫様抱っこして、キメ顔で言った。

 

「エリちゃんのヒーローになるのは、俺だ。お前たちじゃない!」

 

 マントヒーローの目は、僕を射抜いていた。いや、だからなんで僕たちを放置したのか聞きたいわけで、バカなの?倒せたであろう敵をわざわざ放置するなんて。それとも自信家?

 

「……ヒーロー失格かもしれないけど、助けたいって思ってる人の目は、何よりも純粋だ」

 

「は?」

 

「違ったなら笑っていい。そしたら俺は今すぐにまとめてお前らをやっつける。それが、この子のためだと思ってる」

 

 ……じゃあ何か、僕の目が誰かを助けたがってる目だって?いや違うよヒーロー。僕はエリちゃんを僕たちのところに連れて行きたいだけで、助けるとかそんな綺麗なものじゃない。そんなんじゃない。僕をバカにしてんのか。

 

 でも、うん。乗ってやってもいい。

 

「……ハハッ、笑わないよ、ヒーロー。バカな君に免じて、僕が協力しよう!君と!ごめんね若頭。僕、基本的にはヒーロー好きなんだ!」

 

「笑ってるわよ、凶夜くん」

 

 マグ姉が隣で微笑みながら、大きな棒磁石を担ぎ直した。

 

 マントヒーロー、君おかしいよ。僕たちみたいな人間を信用して、大丈夫だって安心するなんて。その判断基準が目?バカげてる。しょうもない。なんてヒーローだ。憧れる。いや、憧れない。でもきっと。

 

 こういうヒーローに助けられる人は、幸せなんだと思う。

 

「……英雄気取りの病人に、ゴミ臭い社会不適合者ども」

 

 若頭がボソッと呟いて、地面に手を触れた。

 

「全員まとめて今すぐバラす」

 

「マグ姉、抱っこ!」

 

「あらあら、甘えん坊ね」

 

 僕がマグ姉に片腕で抱かれると同時、地面が粉々に分解された。若頭の個性、オーバーホール。分解と修復が可能なデタラメ個性。ただ、若頭の修復はどっちかっていうと構築っぽくて、分解して粉々になったものを棘みたいな形に修復できる。

 

 それで突き刺そうとしても、僕たちには突き刺さらない。若頭が嫌がってるから。だって、今の僕はマグ姉とセットだから、殺そうとしたら不幸な僕が死ぬかもしれない。そうすると押し付けが発動する。万が一を考えると、僕たちには攻撃できないよね。

 

「マントくん!弾くるよ、個性破壊するやつ!」

 

「目がいいね、君!」

 

 白い人が起き上がったので報告しておく。棘の上に立つと下がよく見えて気持ちがいい。僕は立つというか、抱えられてるんだけど。

 

 個性破壊の弾を撃つということは、遮蔽物が邪魔になってくる。この状況で透過の個性を持つマントヒーローに当てるのは、至難どころの騒ぎじゃない。

 

 思った通り、棘が粉々に分解された。足場を失ったマグ姉は慌てることなく、静かに着地する。マントヒーローはというと、マントを翻して弾から身を隠していた。マントかっこいい!僕もつけようかな、マント。多分色々あって死ぬ原因になると思うけど。

 

「多分もうすぐ離れるよ、マグ姉」

 

「了解、エリちゃんに磁力ね」

 

 若頭を何かごちゃごちゃ言いながら殴っているマントヒーロー……もうマントないからヒーローでいいか。を横目に見ながら、マグ姉が磁力を使ってエリちゃんを引き寄せる。引き寄せたエリちゃんは、直前で僕を手放したマグ姉の腕に収まった。

 

「月無さん!」

 

「やっほ、エリちゃん。とりあえずおりて僕のとこにおいで」

 

 マグ姉がエリちゃんを優しく下ろして、そのエリちゃんを抱き上げる。めちゃくちゃあれてる場所で和やかな雰囲気を堪能しながら、僕はどうやって逃げようか考えていた、その時。

 

「音本!撃て!!」

 

 ガシャ、と何かが落ちる音がした。音がした方を見ると、倒れている音本さんが、僕……正確には、エリちゃんに銃の照準を合わせているところだった。なるほど、不幸な僕がエリちゃんを抱いているなら。僕はエリちゃんを欲しがってるから、結果的にどう足掻いても僕じゃなくてエリちゃんに当たるってことか。僕の個性のせいで。ということは、エリちゃんを守りにくるヒーローに当てたいってこと?

 

 でもダメだ。僕の個性が不幸だけじゃないってこと、知らないはずないよね?

 

 音本さんが銃を撃つ前に、不幸を音本さんに押し付ける。これで音本さんは不幸になって、音本さんの思惑とは外れた結果になる。

 

 僕の考えは正しくて、結果的に音本さんの思惑は外れた。僕の目の前には守りにきたであろうヒーローがいて、僕の腕の中にはエリちゃんがいる。

 

 そして、僕の隣には。

 

 肩を抑え、膝をついたマグ姉がいた。

 

 簡単で、当たり前とも言える話。音本さんが不幸で、結局、僕も不幸だったってだけのこと。音本さんの思惑が外れて、僕が不幸だったってこと。

 

「ごめんね、凶夜くん」

 

 マグ姉は苦しさを顔に出さず、心配させまいと笑みを見せた。なんで、マグ姉が謝るのさ。だって、それは、これは、僕の、個性が、不幸が。

 

 マグ姉の担いでいた大きな棒磁石が、音を立てて地面に落ちた。


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