【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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第35話 ただいま日常

 死穢八斎會から帰ってきて数日。僕はやることもなくだらだらしていた。あまりにも暇なので僕に傷をつけてもらってエリちゃんの個性の特訓をしようと思ったんだけど、やろうとした瞬間に泣かれてしまって断念し、その後自分の体は大事にしなさい、と怒られてしまった。なんで子どもに怒られてるんだ?僕。

 

 ただ、やることがなく暇だといっても、それはお仕事関係のことを言っているだけであって、日常でいえば暇なことなんて全然ない。死穢八斎會で暴れすぎたから街中で敵の動きが警戒され、勢力拡大ともいかなくなり、みんながでかけることはあまりなくなった。お出かけをまったくしないわけじゃないけど、一日帰ってこないっていうことはない。そして、どこから手に入れてくるのか、みんなは帰ってくるたびエリちゃんにプレゼントを持ってくる。いつまでも僕と一緒の部屋というわけにもいかないので、家具を持って帰ってきたり、可愛い服を持って帰ってきたり。採寸はトゥワイスさんがやってくれたから、サイズの間違いはない。

 

 そういえば、スピナーくんも服を持って帰ってきたのは意外だった。よっぽど荼毘くんがエリちゃんに愛想よかったのが効いたのかな?でも、ガッチガチの迷彩柄だったのはいただけない。実際、マグ姉とヒミコちゃんからめちゃくちゃに言われていた。しょんぼりするスピナーくんがかわいそうに見えたのか、エリちゃんがその迷彩柄の服を着て、スピナーくんに「ありがとう」と言わなければ今頃スピナーくんは引きこもりになっていたかもしれない。エリちゃんがいい子でよかった。

 

 コンプレスさんは出かける度にマジックのネタを仕入れてくるみたいで、いつもエリちゃんを喜ばせている。わかりやすく喜んでくれる相手がいるとやりがいがあるみたいで、コンプレスさん自身も楽しそうだ。かくいう僕も、エリちゃんを膝の上にのせて一緒に楽しんでたりするんだけど。すごいんだよコンプレスさん。個性関係なしにマジックしちゃうんだから。本当にタネがわからないやつも何個かあった。悔しい。

 

 黒霧さんとは、結構行動をともにしている。というのも、エリちゃんをずっと拠点にいさせるわけにもいかないので、散歩がてら外にでかけることがあるのだ。といっても、人の目につかないところで、テーマパークとかはいけないんだけど。でも、黒霧さんは座標さえわかればどこにでもいけるので、色んな自然を楽しませてもらっている。思わずはしゃぎまわって二人そろって泥んこになったときは、黒霧さんから「死なないでくださいね」と注意されてしまったけど。どんな注意だよ。

 

 最近僕の中で意外性の男という印象がつきつつある荼毘くんは、やはり意外にもエリちゃんとよく遊んでいる。この前なんてエリちゃんを喜ばせるために、炎で模様や文字を描く練習をしていたくらいだ。この前までその炎で人を燃やしていたのに、今はその炎でエリちゃんを喜ばせようとしているのだから、人というのは不思議なものである。というかなんで荼毘くんそんなにエリちゃんのこと気に入ってるの?と聞いてみると、「可愛げのある年下が初めてだから、気になっちまうんだ」と返ってきた。僕に可愛げがないって?

 

 マグ姉はといえば、エリちゃんがよく懐いている。僕が色々手を離せないとき、よくマグ姉の後ろをとてとてとついて行っているのを見かけるから、間違いない。マグ姉にはお仕事関連の話があまりこないから、一番手が空いているというのもあり、よくエリちゃんと遊んでくれる。何気にさんづけで呼ばない唯一の相手だったりするし、実は僕より懐いてる?ちょっと複雑だ。

 

 トゥワイスさんは面白い人なので、エリちゃんとはすぐ仲良くなれた。トゥワイスさんはエリちゃんが可愛くて仕方ないみたいで、度々頭を撫でたりほっぺをつついたりと鬱陶しいくらいに可愛がっている。エリちゃんが猫ならトゥワイスさんに一生近づかなくなるくらいに。でも、エリちゃんはその可愛がりが嬉しいのか、トゥワイスさんに可愛がってもらっているときはものすごく楽しそう。あれだ。親戚のおじさんと人懐っこい子みたいなあれ。

 

 ヒミコちゃんもものすごくエリちゃんを可愛がっている。僕からエリちゃんを奪い取って膝の上に乗せたり、一緒にお風呂に入ったり。エリちゃんの個性が発動した時は僕がいないとダメなので僕も一緒に入ろうとしたけど、割と本気で殴られてしまった。エリちゃんは心配してくれたが、ヒミコちゃんは怒ったままエリちゃんを抱いてお風呂に行ってしまったので、土下座しながら待機したのを覚えている。下からみるお風呂上りのヒミコちゃんは最高だったと言っておこう。

 

 弔くんは子どもが苦手……なりに、ちゃんとエリちゃんと接している。エリちゃんがおはようと言えばおはようって言うし、おやすみって言えばおやすみって言う。この前なんて僕と弔くんが将棋をしていたとき、エリちゃんが将棋盤をじっと見ていたからか、「……やるか?」と誘っていた。あとから聞いてみると「お前とやりたいのかと思ってな」って言ってたけど、結局エリちゃんは僕の膝の上に乗って将棋をしたので、相手は弔くんになっていた。わざと接戦に持っていく弔くんは見てて面白かった。だって僕とやるときより悩む時間長いもん。慣れないことしてます感がすごかった。

 

 そんなこんなで、僕たちは敵とは思えないくらい平和だ。エリちゃんが加わったことで前よりも大分ゆったりとした感じになっている。なんか家族みたいでちょっと楽しい。

 

「そうなるとみんなどういう役割になるんだろ?」

 

「なんの話だ」

 

 エリちゃんがヒミコちゃんにお風呂に連れて行かれて暇になったので弔くんに話を振ってみると、いくら無二の親友だとはいえ、何の脈絡もなかったら話を理解できなかったらしい。

 

「僕たちが家族だったらって話」

 

「は?なんだそれ」

 

 なんだそれって。そんなに不思議なことかなぁ。ほら、あるじゃん。なんかのグループがあったらみんな家族!みたいに言うあの鬱陶しいやつ。僕は嫌いじゃないけど。あーでも、弔くんは嫌いそう。スレてるからね。

 

「……暇つぶしなら他当たれ」

 

「えー、ノリ悪いなぁ兄さん」

 

「おい」

 

「あ、待ってごめん。許して」

 

 ふざけて兄さんって呼んでみたら首を掴まれた。四本の指が五本になる前に許してもらわないとボロボロになる。ということは近くにいる誰かが死ぬ。それはまずい。許して。

 

「気持ちの悪いこと言うんじゃねぇよ。とうとう気が狂ったか?」

 

「元々じゃないかな」

 

 離してもらった首をさすりながら言うと、弔くんが「悪かった」と謝ってくれた。でもこれ、「そういえばそうだったな」っていうバカにした感じのやつだと思う。だって顔が笑ってる。

 

「でもさ、エリちゃんから兄さんって呼ばれてみたくない?」

 

「みたくない。むしろ呼ばれたいって思うのか?」

 

「思うよ。だって慕ってくれる年下の子って初めてだもん。憧れない?」

 

「憧れない。大体、呼ばれたいならそう頼んでみればいいだろ」

 

 うーん、そういうんじゃないんだよなぁ。なんというか、頼んで呼んでもらうんじゃなくて、自然と言っちゃった!みたいな感じのやつがほしい。きっと可愛いから。よくあるじゃん。先生のことをお母さんとかお父さんとか呼んじゃうあれ。よくあるか知らないけど。あれって本人は恥ずかしいけど言われた方はその子の事めちゃくちゃ可愛いってなると思うんだよね。体験したい。気になる!

 

「というか、お前が憧れるってことは一生ないってことだろ。兄さんって呼ばれることが不幸なのか?」

 

「……弔くんきらい」

 

「おーおー、弟に嫌われちまった。兄さんショックだなぁ」

 

「何言ってんの?」

 

「よし、動くなよ」

 

 殺意に満ち溢れた目で僕を睨み、腰を上げた弔くんを見て僕はすぐに逃げ出した。絶対やられる。目がキレてる。

 

 僕は走って荼毘くんの部屋の前に行くと、紫色のカーテンを開けて助けを求めた。

 

「荼毘くん助けて!」

 

「どうした?ゴキブリでも出たか」

 

 ゴキブリ程度で僕が助けを求めるか!求めるとしてもゴキブリごと拠点を燃やしそうな荼毘くんには頼まないよ!

 

「弔くんが僕を殺そうとしてくるんだ!」

 

「?よかったじゃねぇか」

 

「よくないよ!このままじゃ僕以外の誰かが死ぬ!」

 

「あー、そういやそうか」

 

 僕は荼毘くんを盾にすると、顔だけをひょっこりと出して追ってきた弔くんに頭を下げた。カーテンを開けて現れた弔くんは、ものすごく冷たい目で僕を睨んできている。お茶目な冗談でそこまで怒る?怒らせた僕が言うのもなんだけど。

 

「落ち着け死柄木。このまま月無を殺すと結果月無以外全滅するぞ」

 

「殺さずに苦しめる。問題ない」

 

「だってよ。よかったな」

 

「なんですぐによかったことにしようとしてるの?実は僕のこと嫌いでしょ」

 

「前に嫌いじゃないって言わなかったか?」

 

 きょとんとしている荼毘くん。めちゃくちゃ天然っていうか、マイペースだよね。人のこと言えないと思うけど。もしかしたら助けを求める相手間違えたかもしれない。

 

「ごめんって弔くん。ちょっとふざけただけじゃん」

 

「駄目だ。イラついた」

 

「子どもみたいなこと言うなよリーダー。月無がイラつくことなんていつものことだろ?」

 

「いつものことだからだよ。そろそろ罰を与えないと調子に乗り続ける」

 

 罰って。子ども扱いするなよ、子どもだけどさ。ちょっとコミュニケーションがユーモアに溢れているだけで、何も悪いことなんてないでしょ。悪いことあるから弔くんが怒ってるのか。

 

 一歩も引かない弔くんに、荼毘くんは頭を掻いてから小さく息を吐いた。申し訳ないけど、もうちょっと守ってほしい。

 

「わかった。月無は今夜飯抜き。それでいいだろ」

 

「そんなぁ!?」

 

「……まぁ、それでいい。ついでに今日は豪華にするか」

 

 なんて嫌がらせだ!そんなことされるくらいならいっそボコボコにしてくれ!それで許して!

 

 そんな願いもむなしく、弔くんはどこか満足気な表情で去っていった。きっとマグ姉にご飯抜きを伝えに言ったんだ。僕はもうおしまいだ。

 

「……こっそりわけてやるから、そんな顔するな」

 

「荼毘くんすき!」

 

 僕が飛びつくと、荼毘くんに避けられて顔を床に打ってしまった。やっぱりきらいだ。きらい。


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