第36話 チームアップ?
「緑谷、轟、常闇、爆豪。この後すぐ会議室にこい」
雄英高校とある日の放課後。1-Aの教室で、担任の相澤、ヒーロー名イレイザーヘッドから四人の生徒に呼び出しがかかった。学校において先生からの呼び出しというのは死の宣告に等しいものがある。それは雄英高校においても変わらないようで、緑谷は後ろの席に座っている峰田から、なぜか冷や汗を流しながら恐る恐る声をかけられた。
「おい緑谷、また何かしたのか?」
「またって……心当たりがあるような、ないような」
緑谷は前に、爆豪と喧嘩をして謹慎を受けたことがある。更に、つい最近はインターンで死穢八斎會という敵団体に乗り込み、現在誘拐された……という形になっているエリの関係でインターンの存続が不透明になっている状態。緑谷自身に何か悪いことをした記憶は今のところないが、呼び出されてもおかしくはないという自覚はある。
しかし、呼び出されたメンバーが問題で、どういう共通点があるのかわからない。緑谷と常闇はインターンに参加していたが、轟と爆豪はつい最近仮免講習でヒーローの仮免をとったばかりである。そして、死穢八斎會に行ったのは緑谷のみ。となれば、四人にどのような共通点があるのか。
緑谷は心配そうな目で見てくるクラスメイトに手を振りながら、相澤の後を追うように教室を出た。廊下には既に緑谷以外の呼び出されたメンバーが待機している。
「きたか。行くぞ、先生を待たせると怖い」
「悪鬼の如く……」
緑谷の姿を確認すると、背を向けてクールに歩き出す轟と、轟の言葉に怒った相澤の姿を思い出したのか、目を伏せながら同じくクールっぽく歩き出す常闇。「俺の前を歩くなや!」と二人を追い抜かす爆豪の三人に置いて行かれないよう、緑谷は慌てて小走りで追いかけた。そのまま追いつくと、今回呼び出された理由を話題に口を開いた。
「なんで僕らなんだろうね。インターンなら、切島くんたちがいないとおかしいし」
「あ!?んなもん少し考えりゃわかんだろ!」
それに対して、爆豪が間を空けずに怒鳴って返した。爆豪の声をうるさそうにしながら常闇が首だけを動かして緑谷を見て、恐らくの共通点を告げる。
「敵連合だ。恐らくな」
「あ」
敵連合という言葉を聞いて、納得した。確かに、その点で見れば共通点がある。緑谷と轟は敵連合の月無凶夜に執着され、常闇と爆豪は一度敵連合に攫われている。ただ、このタイミングで呼び出されるのはなぜか。その疑問を持つと同時、前を見ながら轟が言った。
「多分、敵連合に何か動きがあったんだろうな。そこらへんは、お前のがわかってるんじゃねぇのか、緑谷」
「……心当たりは、あるよ」
緑谷が考えるのは、エリのこと。ヒーローに助けられるチャンスがありつつ、その手を振り払って敵連合の下へ望んで行った子ども。そして、敵連合の月無をヒーローと言ったこと。あれは、月無の、敵連合の脅威がわかりやすく表れていた。極端に言えば、善悪の判断がつかない、あるいはついていても人を惹きつける魅力があるといえる。前に拡散された月無の演説動画にもそれは表れていた。
「ならすぐに気づけや!ふわふわしてんじゃねぇぞコラ!」
「うん、その通りだ。ごめんねかっちゃん」
「すぐに認めんなカス!」
「理不尽が過ぎる」
もはや何を言ってもキレるのではないかという爆豪の様子に、呆れた様子で常闇が呟く。非を認めてもキレられ、何も言えなくなってしまった緑谷は敵連合について考えながら黙り込んだ。死穢八斎會とつながりがあった敵連合。この様子では、他の敵とつながりがあってもおかしくない。いつかのUSJ襲撃事件でも、一人ひとりはチンピラレベルの強さではあったが、あの数を集めたのは事実。
「緑谷、考えんのは後にしろ。ついたぞ」
更に深く考えそうになった緑谷を現実に引き戻したのは、轟の声であった。教室のドアと同じく、様々な個性に対応するための大きな会議室のドアの前に立ち、緑谷が現実に戻ってきたのを見て爆豪が力強くノックした。その乱暴なノックに返ってきたのは、相澤の短い「入れ」という声。
失礼します、と言いながら四人が入ると、その会議室には相澤と、緑谷たちの先輩にあたる、緑谷と同じインターン先の通形ミリオ、ヒーロー名ルミリオンがいた。会議室の割には、参加する人数が少ない気がした緑谷はミリオに挨拶しつつ、疑問を口にする。
「僕たちだけですか?」
「みたいだよね!いや、実際には関係者がいっぱいいるみたいなんだけど、雄英関係者以外はあんまり入れたくないみたいで」
ちょっと失礼かもね!と快活に笑いながら告げるミリオに、緑谷は首を傾げた。関係者がいっぱいいるという発言。それは、これから話される内容を既に知っているかのような。
「通形には既に話してある。が、今回も時間を削ってきてもらった」
「あの合理性の塊の相澤先生が……!?」
「天変地異の予兆」
「俺らの仮免、手違いでも起きてるのかもな」
「あ!?だとしたらテメェのだけだよ半分野郎!」
「おい」
合理性の塊である相澤が、同じ話をわざわざ分けてするということに緑谷が驚きながら言うと、常闇が続き、とどめに轟が失礼をかますと、相澤の威圧が飛んだ。ここまで好き勝手言われるのは、それほどの驚きがあったということだ。その流れを見ていたミリオはやはり、快活に笑っている。
「ハハハ!元気がいいね一年生!ただ、ちょっと真面目な話するから座ろうか!」
笑いながら、先輩として話を進めるために後輩を誘導するミリオ。決して相澤の機嫌が悪くなっていくのを見たからではない。変な汗をかいてはいるが。
全員が席についたのを見て、相澤が早速と小さく口を開く。
「お前らを呼び出したのは、敵連合についてだ」
敵連合という名を聞いて、四人に緊張が走る。それぞれ考えることは違っても、名前だけで人に影響を与えるのが敵連合。直接関わったことのある四人にとっては、様々な意味を持つ名前だった。
「簡単に言うと、敵連合に動きがあった。それを捜索するために各ヒーロー事務所がチームアップして、捜査することになってな」
「すみません、俺らはインターンに参加していないんですが」
「それも説明する。緑谷と常闇はインターン先がチームアップに名前があがっているからだ。そして、轟は緑谷と同じ理由があり、爆豪は常闇と同じ理由がある」
その言葉に、それぞれが理解した。緑谷と轟はあの日、病室でのことを。常闇と爆豪は攫われた日のことを。それぞれの敵連合に対する記憶はそれらが一際強烈で、敵連合関連の共通点といえばそれしかなかった。
「緑谷、轟。お前らは月無と何かがある。それは間違いないな?」
「「はい」」
「常闇、爆豪。お前らは敵連合に一度攫われた。そして、それはスカウトの意味もあった。そうだな?」
「っス」
「はい」
「そういう理由があって、今回の敵連合捜査に参加してもらうことになった。敵連合が動いているとわかっている以上、下手に保護するより、すぐに力を使える状況、プロヒーローが近くにいる状況にいる方が安全だと判断した。……こういうのもなんだが、他の生徒も巻き込むかもしれないからな」
敵連合が動いているかもしれないという状況で、緑谷たちが雄英にいた場合。敵連合が雄英に攻めてくるという可能性もゼロではない。実際USJは襲撃され、林間合宿にも敵連合は現れた。USJ、林間合宿時点ではプロヒーロー数人に勝てる戦力があるとは思えなかったが、今はどこまで勢力を伸ばしているかわからない。雄英に勝てる戦力を持っている可能性もある。そうなると、一般の生徒にも被害が及ぶ。
「それで、敵連合の話だ。最近、敵連合のメンバーそれぞれが動いて、勢力を伸ばしている。捕まえた敵がそんなことを漏らしていた」
「勢力を……」
「お前たちも見たと思うが、月無の演説。そして、緑谷と通形が知っているように、敵連合……月無は人を救う才能もある」
「それは……」
緑谷は轟と爆豪の方を見た。話してもいいのかという視線だったのだが、それに気づいたミリオがぐっと親指を立てる。
「問題ないよね!今回の捜査に参加する以上、聞いておかなきゃいけないことだ」
「あぁ。簡単に言うが、緑谷と通形が乗り込んだ死穢八斎會に保護対象の子どもがいたんだが、そこに敵連合がいてな。その子どもが、通形の手を振り払って自ら敵連合のところへ行ったんだ。そして注目するべきなのが」
相澤は一拍溜めて、全員を一瞥してから言った。
「その子どもが、自分にとってのヒーローは月無と言ったことだ」
「……」
「お前ら、心のどこかで納得してないか?それが敵連合の怖いところだ。何かがあると思わせるところ。お前らが黙っている以上、何か感じるところはあるはずだ。特に、月無と触れた時間の多いお前らなら」
「考えたことは、あります」
俯きながら言った緑谷に、相澤の目が向く。緑谷はその視線を感じたのか、顔をあげてはっきりと言った。
「月無は、その個性が原因で救われない人の気持ちが誰よりもわかる。だからこそ、その、救われていない人が惹かれるのかもしれません。きっと、立場が違うだけで、月無は人を救うことができると、思います」
月無はその個性上、報われない、救えない。だからこそ、同じような境遇にある人間の気持ちが誰よりもわかる。そして、それは敵連合のほぼ全員にも言える。社会的弱者の気持ちがわかるもの、社会的少数派の気持ちがわかるもの、社会を生きにくいと感じるもの。それぞれに賛同する人間がいてもおかしくない。選り好みさえしなければ、勢力拡大はすぐだろう。
緑谷の言葉に相澤は頷いた。
「緑谷のような考え方が一般的だと思った方がいい。だからこそ、勢力が拡大しきる前に敵連合を見つけ出し、叩くことにした」
「それでチームアップ!サーはもちろん、常闇くんがお世話になっているホークスも参加する!気になるところは轟くんと爆豪くんだよね!なんと二人をお世話してくれるのは」
「エンデヴァーだ」
腕を振りながら意気揚々と言おうとしたミリオは、セリフを取られたため笑顔で数秒固まってしまった。
エンデヴァーは、オールマイトが引退した今、実質のNo.1。No.1になってから初の大仕事ということになる。そして、轟の父でもある。成績、実力的には雄英1-AのNo.1とNo.2を受け入れるにはここしかないという受け入れ先。
「敵連合は黒霧がいるから、どこにでも勢力を拡大できる。今回はそれを考慮して様々な地方のプロヒーローがチームアップする」
「規模が大きいですね」
「それほどの脅威だ。プロも本気になってる」
エリの情報は、既に各プロヒーローに回っている。敵連合が無視できない脅威である証拠ともなりうるそれ。それは、実際に見ていた緑谷とミリオ、相澤の記憶に新しい。
「詳細はちゃんとした場で説明されるが、今はそういうことがあると認識しておいてほしい。……こうは言ったが、敵連合は強大だ。参加しないという手もある。今返事しなくてもいいが、近いうちに教えてくれ」
「俺は行くよ。って、こういうの言わない方がいいんだっけ!」
アッハッハッハ!と笑うミリオに返せる者は、この場には誰もいなかった。