色々な地方の力のある敵が、いつの間にか敵連合の傘下に入っていた。そのことに気づいたのは、弔くんに「そういえばお前、勢力について把握できてるのか?」と将棋をうちながら言われた時だった。知らないと言えば、とんでもなくびっくりしていた。てっきり、僕がみんなからスカウト成功の報告を受けていたと思っていたらしい。こういうこと言うのあまり気が進まないけど、一応僕は敵連合内でNo.2的なところにいるから。
何やら敵連合を崇拝している敵が多いみたいで、僕のイメージだとそういう人は大体弱いと思ってたんだけど、どうもみんな当たり……っていうと失礼だけど、当たりを引いてきたらしく、スカウトに成功した敵が合わさると敵連合にも勝てるんじゃないかっていうくらいの戦力が集まりつつある、という話を弔くんから聞いた。
後でみんなになんで僕に教えてくれなかったの?と聞くと、僕に教えると勝手に会いに行きそうだから、とみんなが返してきた。別に会いに行ってもいいと思うんだけど。それを弔くんに言うとなぜか納得していた。なんでも、僕は敵からの人気が凄そうだから、らしい。パニックになるのを恐れたのか。いい気分。でもNo.2なのに、会わなくていいのかな?弔くんは会ったみたいだし、僕も会った方がいいと思うんだけど。
そんなこんなで平和な日常を送りつつ、不穏な動きを見せている僕たち敵連合は、今日も今日とて暇していた……わけではなく。
死穢八斎會からの戦利品、個性破壊弾についてお喋りしていた。
「これ、お前に撃ってみるか?」
「たぶんどっちかが死ぬよ。やめとこう」
そうなると死ぬのは俺だろ、と言いながら弔くんは銃をいじって楽しそうに笑う。弔くんは個性上銃を使うと個性が片手分使えなくなるので、銃を使うつもりはないと言っていたが、もしもの時のためにと感触を確かめている。
「銃を持たせて仕事してくれそうなの、誰だと思う?」
「ヒミコちゃんかなぁ。やっぱり。あの個性不意打ちにはちょうどいいし」
話している内容は、個性破壊弾の運用について。結構貴重なものだし、生産法もまだ確定してないから迂闊に使えない。最悪生産できないとなると今持っているものだけになってしまうので、できるだけ慎重に使いたい。その点、ヒミコちゃんなら変身して不意打ちしやすいので、慎重に使ってくれることだろう。ふと思ったけど、不意打ちできる状況なら殺せるんじゃない?
「そうだろうな。だが、これからのことを考えるとマグネに持たせたくもある」
「へー。弔くんマグ姉のこと考えてくれてるんだ」
「当たり前だ。俺たちの中で一番危険なのはマグネだろ」
組織的には、戦力にならない人は他の仕事をさせるのが一般的だけど、僕たちみたいな敵はいつ攻め込まれるかもわからないし、いつヒーローと会うのかもわからない。もしヒーローと会った時、個性がなくなったマグ姉はほとんど抵抗できず捕まるだろう。そして、抵抗できないということは銃を持っても撃つ前に個性で封殺されるかもしれないということだ。つまり、そんなマグ姉に貴重な個性破壊弾を渡すのは組織にとってはハイリスク。
でも、弔くんはマグ姉に銃を持たせたいと言った。マグ姉に抵抗する力をあげるために。僕は感動した。みんなの前で誰かを気遣う言葉なんてほとんど言えないのに、こんなにさらっと言えるようになるなんて。僕の前だからかな?それともエリちゃんのおかげで丸くなったのかな?どちらにせよこのことについて言うと多分怒られるので、黙っておくことにする。
「マグ姉に持たせてもすぐに捕まっちゃうかもしれないよ?いいの?」
「量産できることがわかればだ。できなければトガに持たせる」
「じゃあできなかったらマグ姉はどうするの?」
「黒霧がいる。安全な場所は確保してあるから、そこに逃げてもらうさ」
何それ聞いてない。安全な場所?本当に?バレてたりしないよねそこ。まぁそんなミスするはずないだろうけど。というかマグ姉だけじゃなくてみんなでそこに行けばよくない?
そのことを言うと、弔くんは首を横に振って少しイラつきながら言った。
「ただただ逃げるってのが気にいらない。逃げるのは何か嫌がらせしてからだ」
「ちっさ」
「何もせずに逃げたら脅威じゃなくなるだろ。俺たちのことを常に危ない存在だと思わせなきゃならない」
そういえばそうか。敵連合はいつの間にか敵のカリスマ的存在だから、そんなカリスマが相手から何もせずに逃げるなんてことしたら一気に人が離れていくに違いない。カリスマはカリスマらしい行動を求められている。何それ嫌だ。僕逃げたいもの。安全が一番でしょ。
「それに、いつも逃げるつもりだといざ交戦する時に気持ちが鈍る。基本的には嫌がらせだ。それは全員に伝えてる」
「僕それ聞いてないよ?」
「お前には言わなくても大丈夫だと思ったからな。お前はその場に流されるやつだ」
そう言われると肯定しかできない。僕はこの人生流され続けてるから。好き勝手してるけど、僕の個性を考えると結果的に流されてるってことになる。ムカつく。
「とりあえずは、一応全員に銃の練習をさせておく。そろそろまた勢力拡大に移るから、その時に銃を使わせるようにして」
「全員銃を使えるようにするってことだね。ブラフの意味も込めて」
僕の言葉に、弔くんがゆっくり頷いた。
誰が個性破壊弾を持っていようと、僕たちが個性破壊弾を持っているという事実があれば、それは僕たちの誰もが個性破壊弾を持っているかもしれないと思わせることができるということである。となると、僕たちが銃を構えると相手はそれを警戒しなければならない。銃を見せるだけで行動を抑止できるというのはものすごい武器だ。僕も練習したいが、恐らく僕が銃を持つとろくなことにならない。きっと暴発する。
この社会において、個性は重要な位置にある。個性がないだけでヒーローの道は諦めろって言われたり、いじめられたり。個性がなくてもやっていけると思うんだけど。実際先輩も身体能力を強化する個性でもないのに超人的な動きができていたし、十分無個性でも色んな道があると思う。もしかしたら、個性持ち特有の骨格とか、個性ごとに体の育ち方が違うとかあるかもしれないけど。
そんな個性を破壊されるかもしれないとなれば、かなりの警戒対象だ。ヒーロー側は若頭たちの誰もが個性破壊弾を持っていないのを見て、僕たちがそれを盗んだということがわかっているはずだし、当然警戒してくるだろう。銃を見せるだけでおびえるヒーローは滑稽に違いない。弔くんが喜びそうだ。
「あと、俺たちそれぞれの装備も作ってもらってる」
「あ、それ知ってる。前荼毘くんが空飛んでたもん」
あれはびっくりした。エリちゃんとのお出かけに荼毘くんがついてきたと思ったら、いきなりエリちゃんを抱えて色んなところから炎を出して空を飛んだんだから。降りてきたとき、荼毘くんはどこか得意気な表情で、エリちゃんはキラキラした目で喜んでいた。あとで荼毘くんに聞いてみると、空を飛べるようになるまで結構苦労したらしい。出力、バランス、その他色々。だから得意気だったのか。あれちょっとムカついたけど、そういうことならいい。
「荼毘は機動力が不安だったからな。その分なぜか炎の緻密な操作が得意だから、飛べるような装備を頼んだんだ」
文字書こうとしてたからだ。
「一応言うが、お前にはないぞ」
「知ってるよ!いちいち言わなくても!」
「怒るなよ」
まぁまぁと言いながら僕に手のひらを向ける弔くんを睨む。期待なんかしてないよ。ちょっとうらやましいけど。だってかっこよくない?自分専用の装備だよ?オンリーワンじゃん。どうでもいいけどオンリーワンっていうヒーロー名ありそうだよね。唯一ヒーローオンリーワン。なんか強そう。
話がそれた。何が言いたいかというと、とにかくかっこいいっていうこと。個性のサポートアイテムって、あるのとないのとじゃまったく違うっていうし。ヒミコちゃんは装備をつければ直接血をチウチウしなくてもよくなるし、荼毘くんはさっき言った通り空を飛べるようになる。空飛ぶのと飛ばないのとじゃ全然違う。縦の動きが加わるのって、大分厄介だ。
……まぁ僕に関して言えば仕方ないけど。だって、僕が何かしらの装備をすれば必ずと言っていいほど不具合を起こす。下手すれば僕が怪我をする。個性をサポートするから、ある意味正しい形だけど。僕の個性は不幸だから、不幸の原因を増やすのはサポートすることになる。悲しいな。
「んー、でも、なんか仲間外れみたいで寂しいなぁ」
「サポートする必要がないほど、お前の個性が強力なんだよ」
「バカにしてるの?」
「まさか、褒めてるんだよ」
弔くんは肩を竦めて、少し笑った。バカにした感じだけど、これは本当に褒めているやつだ。本当に褒めてるの?弔くんは褒めるポイントまで捻くれてるのか。弔くんの将来が心配である。敵連合のリーダーなんてやっている時点で心配もクソもないけど。
「まぁ、一応全員の装備は確認しておいてくれ。お前は現場判断に優れてるから、知っておくことに意味がある」
「初めて言われたかも。そうなの?」
「人を見る目は確かだからな。色んな意味で」
色んな意味ってなんだ。色んな意味って言うとちょっといやらしく聞こえるよね。聞こえないならごめんなさい。気のせいでした。
弔くんがそういうならそうなんだろう。となれば、みんなに見せてもらおう。ちょっとワクワクする。荼毘くんが空飛んだ時もすごいってなったし、かっこよかった。きっとみんなもかっこいいに違いない。ヒミコちゃんはかわいいだろうけど。
かわいいといえばそうだ。
「エリちゃんはどうするの?」
「あぁ、エリか」
僕の言葉に、弔くんは懐から何かを取り出した。そのまま机の上に置いたそれは、なんと。
「防犯ブザー?」
「らしいだろ」
「らしいけど」
とうとう弔くんはバカになってしまったらしい。防犯ブザーを引き抜く前に僕たちが助ければいいだけの話なのに。
僕のかわいそうなものを見る目にイラついたのか、弔くんが僕にデコピンしながら言った。
「ただの防犯ブザーじゃない。これは発信機で、これとは別に受信機がある」
「あ、それをみんなが持つってこと?エリちゃんの危険を知るために」
「こういうところ、本当に察しいいよな」
よく言われる。先生にもよく言ってもらってたし。先生の教育さまさまだ。
「あぁ、ちなみにこれもお前には持たせない。うっかり落とされたら死ぬほど困るからな」
「いけず!」
色々耐えられなくなった僕は、デコピンされた勢いそのままに弔くんのところから離れた。傷ついたので、スピナーくんのところで遊んでいるエリちゃんに癒してもらうことにする。
子どもに頼るなんて恥ずかしい気もするけど、気のせいだろう。きっと。