【完結】僕の『敵連合』   作:酉柄レイム

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第38話 記憶

 エリちゃんが僕のところにきて、こう言った。

 

「最近、みんな構ってくれないの」

 

 今までの僕なら「なんだと!?僕が怒ってやる!」とぷんぷんしていたところだが、今回はなんとなく察するところがあった。

 

 あ、これまた何か仲間外れにされてるな?と。

 

 

 

 とはいえ、エリちゃんはみんなが構ってくれなくてしょんぼりしていることは事実なので、事の真偽を確認するべく僕はエリちゃんを抱っこして弔くんのところに向かった。今は部屋にいるはずなので、すぐ隣に移動するだけでいい。

 

 エリちゃんに髪の毛をぐいぐい引っ張られながらカーテンを開けると、弔くんが机に肘をついて、その机とは不釣り合いなカウンターチェアに腰かけながら僕たちを待っていた。僕たちがくることわかってたなんて、運命みたいだ!

 

「隣だから聞こえるんだよ」

 

「だよね」

 

 弔くんの隣にあるカウンターチェアを引っ張り出して座りながら、小さく笑う。今の隣だから聞こえるんだよって、僕の表情から思ってることを読み取ったってことだよね。運命を否定しながら肯定してるみたいでちょっと面白い。

 

 僕の膝の上にエリちゃんを乗せると、エリちゃんが不思議そうに弔くんを見た。弔くんの目がエリちゃんに向いているからだろう。弔くんは基本的に自分が話す相手を見るから、それを知ってる賢いエリちゃんは不思議に思ったんだろう。いつも僕と一緒にいるときに弔くんと会うと、決まって僕と弔くんが初めに話して、しばらくしてからエリちゃんと弔くんだから。

 

 エリちゃんに見られた弔くんはぽん、とエリちゃんの頭に五指で触れないようにしながら手を乗せると、「悪い」と切り出した。

 

「あいつらが構ってくれないのは、俺が頼んだことが原因だ。あいつらはあまり責めないでやってほしい」

 

「……責めるとか、責めないとかじゃないよ。ただ、ちょっと寂しいなって」

 

「そうか。月無だけじゃ不満だもんな」

 

「そうだけど、そんなことない!」

 

 そうだけど……?不満なのか。僕じゃ不満なのかエリちゃん!なんか別れ際のカップルみたいだ。いけない。今のエリちゃんの言葉は、僕と一緒でも十分だけど、みんなと一緒にいるときの楽しさを知ってしまっているから「そうだけど」って言ったんだろう。恐らく。ただ単に僕と一緒にいることが不満だってことだったら僕は拗ねる。

 

 弔くんは珍しくも優しく笑うと、僕に目を向けた。僕の番か。

 

「あいつらは今、各スキルのレベルアップをしている」

 

「レベルアップ?」

 

 前話した銃のことだろうか。そう思って首を傾げていると、弔くんが「それもあるが」と言って、

 

「戦術の幅を広げるために、個性の運用法の見直し、そもそもの身体能力の鍛錬、その他色々。個人個人と相談して、必要だと思ったことを伸ばしてもらっている」

 

「え、当たり前のように聞いてない」

 

「言ってないからな」

 

 弔くんがバカにしたように笑った。エリちゃんには優しく笑ったのに、扱いが違うくない?差別はよくないぞ。僕が拗ねたらどうするんだ。

 

「一応お前にも言おうとは思っていたがな……あいつらのレベルアップが終わらないとお前のは無理なんだ」

 

 ということは、僕のレベルアップ?にはみんなが関わるってことか。そしてレベルアップ後のみんなの腕試しの機会にもなるってこと。でも、僕の個性ってどう伸ばすんだろう。確か、理解することが重要だった気がするけど。

 

「エリ。お前にも手伝ってもらうぞ」 

 

「私も?」

 

 エリちゃんは僕を見た後、弔くんを見て首を傾げた。エリちゃんは賢いから、今の話で自分の出る幕はないと思っていたのか、急に自分の名前がでてきてびっくりしている。?が頭の上に浮かんでいるのが見えそうなくらいだ。

 

 そんなエリちゃんに弔くんが小さく笑うと、頷いた。

 

「当然そのときになると月無もいるし、あいつらの誰かもいる。もう少しで目一杯構ってもらえるから、そのときまで我慢してくれるか?」

 

「……じゃあ、そのときまでずっと月無さんと一緒にいる」

 

「そうしろ。と言いたいが、ちょっと席を外してくれるか。レベルアップのことで月無と話したいことがある」

 

「えー……わかった。あとで遊んでね」

 

「あぁ分かった。月無も連れて行く」

 

 エリちゃんは少しむくれて、僕の膝の上からぴょん、と跳ぶと、ばいばいと手を振りながら弔くんの部屋を出て行った。今は僕たち以外誰もいないので、最近できた自分の部屋に行ったんだろう。

 

「弔くん、子ども嫌いじゃなかったっけ?」

 

 気持ち悪いくらいエリちゃんに優しい弔くんに怖くなった僕は、恐る恐る聞いてみる。弔くんは自分でもいうくらい子どもが嫌いだったはずだ。ムカつくことをされればついつい殺しちゃうくらいに。

 

 僕が聞くと、弔くんは僕をじっと見て、ため息を吐いた。

 

「お前、何歳だ?」

 

「確か十六だっけ」

 

「そう、ガキだ。そんなお前が俺の隣にいる時点で、もうほとんど気にしてない。気づけ」

 

 そういえばそうだった。僕も弔くんからすれば子どもだった。そんな僕が弔くんと無二の大親友、運命共同体ともいえる一蓮托生の存在なんだから、子ども嫌いなんてあってないようなものだろう。

 

「まぁ、エリが賢いからってのもあるが」

 

 違った。まだ子ども嫌いだけど、エリちゃんは賢いしいい子だから、嫌う理由がないってだけだろう。あれ?僕自分で言うのもなんだけど、バカだしムカつくぞ?なんで嫌われてないんだろう。そういえば個性が好み、だったか。

 

「さて、レベルアップの話だ。もっと後にする予定だったが、この際だからな」

 

 弔くんが改めて言ったので、気持ち姿勢を正す。受け止める準備をしておかないと。みんながやってることだし、真面目に聞かないとね。こういうところで終始ふざけると、弔くんはものすごく怒る。当然だけど。

 

「お前の個性、伸ばすためには何が必要か覚えてるか?」

 

 それは覚えている。USJの前あたりに聞かされたんだっけ?時期は詳しく覚えてないけど、内容は覚えてる。

 

「確か理解だったよね」

 

 僕の言葉に、弔くんは頷いて肯定する。

 

「そうだ。お前の個性はまだわかっていないところが多すぎる。だから、できること、制約、発動条件、色々なことがわかるだけで脅威が増す」

 

 それはわかる。僕の不幸は意識ができるってだけで大分変ってくる。いつどんなことが起こるかわからないものより、いつでも何かを起こせるものの方が使い勝手がいいに決まってるからね。でも、僕の個性でそれは可能なんだろうか。迷惑な押し付け(サプライズプレゼント)ですら僕が耐えられないものしか押し付けられない、っていう警戒されたら終わりな制約があるのに。

 

 僕の考えていることを察したのか、弔くんは首を横に振った。

 

「そこで、お前には自分の個性の原点に帰ってもらう。お前の個性がなんなのか、なぜその個性なのか。それに気づいてもらう。そのためには……」

 

 言いながら、弔くんはファイルを取り出し、僕に手渡してきた。開いてみると、そこに書かれていたのは『僕』の記録。生まれた時から、敵連合に入るまで。

 

「これって……」

 

 僕が生まれた時からの記録があるのは、いくらなんでもおかしい。弔くんにそんなことができるわけがないし、そもそも生まれた時からなんて誰にでもできることじゃない。……一つだけ、こんなことができるかもしれない人を知っている。そうなると、その人は生まれる前から僕に目をつけていたってことになるけど。だから、なんとなく僕の個性を知った風だったのかな?

 

「先生の、だよね」

 

「あぁ。先生から然るべきタイミングでお前に渡すようにと頼まれていた」

 

 写真こそないが、僕がどういう風な家庭で、どういう風に育ってきたかということも書かれてある。どうやって見てたんだろう。怖すぎる。

 

「お前のレベルアップには、記憶が不可欠だ。そして、お前は無意識に記憶に鍵をかけている」

 

 ……?記憶に鍵って何?そんなつもりないけど。だから無意識なのか。といっても僕が覚えてないことなんてないと思うけど。

 

「お前に思い出してもらいたい項目は、あらかじめ抜いてある。ただの事実としてつきつけられるより、自分で思い出して実感を持った方がレベルアップできる。個性ってのは気持ちが大事だからな」

 

 このファイルの中に書かれていないこと、なんだろう。僕の生年月日、育った家、拾われてからの個性のこと、勉強の進捗、能力。色々なことが書かれていて、何も漏れてるものはないとは思うけど。

 

「気づかないのが無意識に鍵をかけてるって言ってるんだよ」

 

「そんなこと言ったってわかんないもん」

 

「拗ねるな気持ち悪い。……名前と個性だよ」

 

 ……?名前と、個性?僕の不幸の個性は書かれてるし、名前は月無凶夜って名前が……。

 

「月無凶夜になる前は?お前の両親の名前は、個性は?」

 

 言われて、数秒考えた。そういえば。僕の両親の名前も個性も、そして、僕が月無凶夜になる前の名前もない。そして、今の僕は、それらを思い出せない。普通なら誰でも覚えてる、なんでもないこと。いや、なんでもないわけない。親からもらった名前と、親の個性、親の名前。普通は忘れるわけがないんだ。なら、なんで僕は忘れてる?いや、忘れてるわけじゃなくて、思い出そうとしていないのか?

 

「それを思い出せ。意識さえすればすぐなはずだ」

 

 弔くんの言葉に、鋭い痛みが頭を襲う。僕の名前、両親、昔のこと。僕の原点。

 

 僕が不幸じゃなかった頃のこと。

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