【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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 お久しぶりです。忙しい期間が終わりました。


第41話 スカウト

「このジェントルってやつさぁ」

 

 弔くんは動画に映っている紳士的な男の人を見て、クスクス笑いながら言った。

 

「いいと思わないか?」

 

 後日、僕はジェントルさんとコンタクトをとるために、拠点から蹴りだされた。

 

 

 

 義賊、という言葉がある。お金持ちから色々貰って、貧しい人たちに分け与えるっていう意味……だったと思うけど、それに近い行動をしているのが今から会いに行こうとしているジェントルさんだ。商品のラベルの偽装とか、そういう小さいと言えば小さいことを見逃さず、制裁を与える紳士的な義賊。それだけで強盗するのは迷惑極まりないけど。まぁ僕たちが言えたことじゃない。

 

 そんなジェントルさんを「いい」と弔くんが言ったのは、その行動理念。おかしいと思ったことに制裁を加えるところ。正義とは何か、という問いをする僕たちにとって、仲間にしたい人であることは事実だ。いい人そうだし。動画は面白くないけど。

 

 ジェントルさんを見つけるには、最近不祥事があった店を探すのが一番早い。最近あったのはファミレスでの食中毒。明らかにその店の物を食べて集団食中毒になったのに、まだしらを切りとおそうとしているとんでもないところ。ジェントルさんが放っておくわけがない。

 

「というわけで、やってきました!せっかくだから何か食べる?」

 

「緊張感というか、そういうのはないのか……?」

 

「パフェがいい。パフェ!」

 

 腕を組んで呆れたように言うスピナーくんに、手をあげて元気に言うエリちゃん。スピナーくんは早々にレベルアップが終わったみたいで、今回ついてきてくれることになった。ファミレスに似合わない物騒な武器は、大きな布を被せて見えないようにしている。どうやら武器にも変更点があるらしいんだけど、スピナーくんは教えてくれなかった。なんでも、「その方が面白いだろ」らしい。確かに。

 

 エリちゃんのリクエストに応えてパフェを頼み、紅茶を二杯頼む。ジェントルさんはお仕事の前と後、そのお仕事の大きさによってブランドを選ぶらしいので、僕も気分的に飲むことにした。スピナーくんに紅茶でいいか確認するの忘れてたけど、別にいいだろう。

 

 ジェントルさんからすると、ファミレスを襲撃するのはどれくらいのお仕事なんだろう。僕は紅茶のブランドがわからないからそもそもブランドの名前を言われてもわからないけど、なんとなく気になる。多分ファミレスの紅茶じゃ釣り合わないんだろうな。

 

 届いた紅茶に砂糖をこれでもかと放り込んで台無しにしつつ、そんなことを考える。スピナーくんは一口飲むと、静かに砂糖を入れていた。紅茶って好き嫌い分かれるよね。

 

「紅茶はあんまり好かん」

 

「まぁまぁ。これから話す人の気持ちを少しでも理解するのは、悪いことじゃないよ」

 

「ルーティーンを真似てそいつの気持ちがわかるのか?」

 

「いや、わかんない」

 

「お前は……」

 

 小さくをため息を吐くスピナーくんに、パフェを食べて笑顔を浮かべていたエリちゃんと一緒に首を傾げた。レベルアップで疲れてるのかな?きっと僕のせいだけど。

 

 ゆったりと会話をして、エリちゃんがパフェを食べ終わった頃、店員さんのいらっしゃいませという声とともに、紳士的な服を着ている男の人が入店した。

 

 ジェントルさんその人である。

 

 いきなり行動を起こされても困るので、僕はスピナーくんに目配せをして席を立つと、懐に手を入れて何かを取り出そうとしているジェントルさんの腕をつかんだ。

 

「どうも、お久しぶりです」

 

「……なんだい君は?」

 

「紅茶、何飲んできました?」

 

 僕の言葉に、ジェントルさんがピク、と反応する。紅茶を飲んできたかとジェントルさんに言うということは、ジェントルさんのことを知っていて、今から仕事をするということを知っているということを伝える意味がある。ジェントルさんもそれがわかっているのだろう、少し目を細めた。

 

「お連れの方ですか?」

 

 おかしい雰囲気を感じながらも、店員さんが恐る恐る聞いてくる。僕とジェントルさんがあまり友好的じゃないからそうなっても無理はない。

 

 僕は店員さんに微笑みながら頷くと、ジェントルさんの腕を掴んだままスピナーくんとエリちゃんが待つテーブルへと連れて行った。後ろからはカメラを構えた女の人が慌てた様子でついてくる。アシスタントさんか何か?

 

 さっきはスピナーくんが一人、向かい側に僕とエリちゃんが座っていたが、今はスピナーくんとエリちゃんが並んで座っていたので僕がそちら側に座り、ジェントルさんと女の人を向かい側に座るよう促す。

 

 ジェントルさんと女の人が座ったのを確認して、エリちゃんが僕の膝の上によじ登るのを微笑ましく思いながら口を開いた。

 

「突然すみません。ジェントルさんであってますよね?」

 

「あぁ、確かに。そういう君は確か……」

 

「敵連合」

 

 女の人が忌々し気に呟いた。確かに僕らは社会に恨まられるようなことをしているけど、敵に恨まれるようなことはそんなにないはずだ。もしかしてこの人は敵じゃない?いや、ジェントルさんと一緒に行動してる時点でそれはないはずだ。じゃあなんで?

 

「敵連合の月無凶夜。転載動画でジェントルのお株を奪ったいやーなやつ!敵と言えばあなたたち。ほんとやな感じ!」

 

「……あぁ、そういう」

 

 ジェントルさんは動画界……って言い方でいいのか、そこで活躍する敵だから、あの僕の演説動画はとても邪魔な存在だっただろう。あれは反響が大きくて、ニュースにも取り上げられ、あれで月無凶夜という名前が世間に広まったから。知らない人なんて山奥に住んでいる人くらいなはずだ。

 

 だから、この女の人は僕を、敵連合を目の敵にしているのか。それで、ジェントルさんのことで怒ってるっていうことは、ジェントルさんに対して特別な気持ちがある?なんか、そんな感じがする。僕のこういう勘はよくあたる。何に役立つかはわからないけど。

 

「あれに関しては、まぁ確かに狙ったところはありますが、その影響力に負けないくらいの動画を作ればいいでしょう?」

 

「世間の目を向けるのは難しいことなの!中心にいるあなたにはわからないでしょうけど!」

 

「ラブラバ、外に原因を求めてはいけない。彼の言うことはもっともだ」

 

 ジェントルさんが渋く髭を撫でながら、ラブラバさん?を窘める。そのまま僕に目を向けて、落ち着いた声で言った。

 

「しかし、そういう話をしにきたのではないのだろう?わざわざコンタクトを取ったということは、何か目的があるはずだ。違うかい?」

 

 僕はスピナーくんをちらっと見た。いつでもやれる準備をするように。

 

「単刀直入に言います。あなたを、敵連合にスカウトしにきました」

 

 僕の言葉に、ジェントルさんは体を硬直させた。

 

 僕が言うのもなんだが、敵連合のスカウトは、ヒーローで言う雄英高校へのスカウトと同じ程度の意味がある。ラブラバさんが言ったように、敵と言えば敵連合。敵の象徴。そんな敵連合からのスカウトは、並の敵なら大喜びする。

 

 だが、それは並の敵ならの話。何か大きな信念、理想、意志がある敵は、敵連合とそれが一致しない限り頷かない。

 

「なら、単刀直入に言おう。ノーだ」

 

 ジェントルさんは、頷かなかった。

 

「過激で暴力的な行動は私の流儀に反する。それを行う集団に属することはできない」

 

「なんだかんだ言って、最後は暴力だろう」

 

「それはヒーローが捕まえにくるからだ。それさえなければ私は何もしないよ」

 

 スピナーくんの言葉を冷静に返すジェントルさん。なら最初から犯罪行為をするなと言いたくなるが、そういう話ではない。ジェントルさんはきっと、確かな信念があって敵になったんだ。

 

 だとしたら、信念には信念を。想いには想いを。

 

「ジェントルさんは、なんで犯罪をし続けるんですか?」

 

「何?」

 

「僕たちは、戦っています。生きにくい世の中と、理不尽な世の中と。正義とは何か、ヒーローとは何か。それを問うために。あなたは、どうですか?」

 

「……歴史に名を残す。そのためだ」

 

 歴史に名を残す。その割にはやることが小さいが、それはジェントルさんの人間性がそうさせるんだろう。本当に悪いことはできない。自分で義賊と名乗るくらいだから、それは間違いない。だから、僕たち敵連合という明らかに悪そうな集団に属するのはよくない。義賊として、ある種の正義として名を残すことに意味がある。

 

「なら、なおさら僕たちと一緒にきてください。僕たちには、僕たちの正義がある。内に入って見えるものもある。違ったなら抜けてもいいです。でも、歴史に名を残せることは約束します。だって、僕たちは社会に勝つから」

 

 ジェントルさんは、その資質がある。間違いない。敵であることが一番恐ろしい、そんな存在。言ってしまえば、敵連合向きな人。

 

「なぜ、そこまで私を勧誘する?」

 

「だってさ」

 

 僕はにこっと笑った。最初は弔くんに言われたからだったけど、話しててわかった。この人は、ジェントルさんは。

 

「あなたは、僕たちだから」

 

 社会から弾き出された人。優しいのに、他の人と何も変わらないのに。

 

 僕の言葉を聞いて、ジェントルさんはしばらく目を閉じてから、覚悟を決めた目で僕を見た。

 

「……わかった。行こう。世間が思っているような集団ではなさそうだ」

 

「ふふ。そう思ってくれたなら嬉しいです」

 

 さぁいこう。いつもの決め台詞。

 

「こいよ。ここが君の敵連合だ」

 

 僕の差し出した手を、ジェントルさんが固くぎゅっと握った。

 

 それと同時。

 

「動くな、敵!抵抗しなければ手荒な真似はしない!」

 

 入り口から四人のヒーローが現れた。敵、というのは間違いなく僕たちのことだろう。……そういえば、ここファミレスだっけ。普通の声であんなこと話してれば、そりゃ通報されるか。

 

 僕はエリちゃんをおんぶして、ジェントルさんとスピナーくんに目配せした。

 

「さ、いこう。初仕事だよ、ジェントルさん」

 

「やれやれ、飲んでくるブランドを間違えたか」

 

「カメラ回すわね!ジェントル!」

 

「お前と外にでると落ち着かないな……」

 

 人数だけなら四対五。ラブラバさんとエリちゃんを数に入れなければ四対三。

 

 新生敵連合、行きます!


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