【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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第42話 敵ふたり

「クソッ、バレたか!」

 

 僕らが立ち上がって戦闘態勢に入った時、僕らとは違うところから声があがった。バレたか?それはつまりどういうこと?

 

 声がした方に目を向けると、真っ赤な髪を逆立てた釣り目の男と、僕より背の低いタンクトップの男がいた。そのうちの赤髪の男が立ち上がって、ヒーローを睨みつけている。もしかして、あの人たちも敵……なのかな?

 

「目立ったことはしてねぇはずなのに、なんでバレた!」

 

「バカ!僕らじゃないかもしれないだろ!いやでも、僕らかもしれない。だって敵だし、強いし、オーラからして違うし。そうか、僕らだ!おいヒーロー!四人だけとは舐めやがって!返り討ちにしてやる!」

 

 こういう二人組って大抵はどちらかが冷静なイメージがあるんだけど、あの二人組はどちらもバカだった。赤髪はわかりやすくバカそうで、背が低いのは自分を大きくするバカだ。正直、ああいう敵が同じ店にいて助かった。これでこっそり逃げられる。

 

「いや、お前らじゃないんだが……」

 

「は?そんなテンション下がること言うなよ。アゲてこうぜ、お互いに!」

 

 赤髪が言ったと同時にヒーローへと走り出し、赤髪の走ったあとがいきなり燃え上がる。炎の個性?なら走らなくてもよくないか。遠距離から攻撃できるんだから、わざわざ接近する意味ないでしょ。

 

 まぁいい。勝手にやってくれるならこそこそ逃げるまで!赤髪が暴れ始めたことによって客から悲鳴があがる中、僕はみんなを見て言った。

 

「みんな、あの人が暴れてる間に逃げよう!」

 

「しかし月無君!敵連合たる君が敵に背を向けていいのかね!」

 

「粛清……!」

 

「ジェントル!ド級のネタよ!やるしかないわ!」

 

「あつーい」

 

 バカが三人に緊張感ゼロが一人。こっちのパーティも絶望的だった。多分緊張感ゼロは僕たちの責任だけど。教育を見直すべきかもしれない。こんなところで学校に行っていなかった弊害がでるなんて思ってなかった。

 

「ここで暴れたら増援がくる!黒霧さんに連絡して、すぐに迎えに来てもらわなきゃ」

 

「や、そんなつまらないことするなよ月無凶夜」

 

 僕が言い切る前に、後ろから声をかけられた。バカと緊張感ゼロを前にして気が抜けていた。僕がこんな簡単に後ろをとられるなんて!僕の後ろをとることなんて容易いけど。

 

「ファンです。死んでください!」

 

 振り向くと、背の低い男が拳を振りかぶっていた。ファンかよ。嬉しい。ただ、嬉しがってはいられない。僕エリちゃん抱っこしてるし、派手な動きはできない。

 

 どうしようかと悩んでいる間に動いていた人が一人。

 

「無意味な暴力は、粛清対象だ」

 

 舌を出し、楽しそうに笑っている僕らがスピナーくん。スピナーくんは相手の脇に潜り込み、その勢いのまま武器を横なぎに振るった。背の低い男は寸でのところで反応し、大きく息を吸い込む。すると、

 

「なっ、にぃ!?」

 

「うわぁ!?」

 

「すごいわジェントル!巨人よ!」

 

「ハッハッハ!背が低いのに巨大化する個性とは!実にユニーク!」

 

「おっきぃー」

 

 背の低い男が巨大化し、近くにいた僕らは吹き飛ばされた。男は天井を突き破り、ついでに服も破けている。十メートルくらいか。あ、背の話ね?

 

「ジェントルさん、傘!」

 

「もうやっているよ。なぜなら私は、ジェントル・クリミナル!」

 

「かっこいいわ!ジェントル!」

 

 破れた天井の破片が落ちてくるため、ジェントルさんに傘を作ってもらうように頼むと、サムズアップとともに仕事ができる男アピールをされてしまった。どうりで上の方で何かがはじかれる音がするわけだ。

 

 ジェントルさんの個性は弾性。触れたものに弾性を付与することができ、それは空気にも付与させることができる。それを利用し、破片から身を守る傘を作ってもらったというわけだ。万能すぎて羨ましい。

 

「おいおい、おいおいおいおいガストちゃん!また破けてるぜ、刺激的だな!」

 

「うるさい!お前も出力間違えてよく服を燃やす癖に!」

 

「よせよ!燃やし上手だなんて!」

 

「褒めてないよ!」

 

「ごちゃごちゃうるさいぞ!大人しくしていろ!」

 

 赤髪がテンション高く、背の低い男……ガスト?を煽り、それに反論するガスト。ちなみに全裸。そして赤髪はヒーローに取り押さえられていた。どういうメンタルしてるんだ。

 

「……この気が抜ける感じ、覚えがあるぞ」

 

「奇遇だね、僕もだ」

 

「ジェントル、大変だわ!汚いものが映っちゃった!」

 

「こらこら、立派なものじゃないか!汚いの一言で片づけてはいけない」

 

「みんなと同じ感じがする」

 

 どこからどう見てもどう聞いてもおかしいこの光景に、僕とスピナーくん、そしてエリちゃんは敵連合を思い出していた。いや、戦闘中はこんな不真面目じゃないはずだ。そんな余裕ないし。日常はこんな感じだけど。少なくとも全裸になったりはしていない。

 

 ガストと同じくよく裸になるらしい赤髪は取り押さえられながら大笑いする。

 

「おいヒーロー!俺が炎を出せば、テメェが燃えるってことわかってんのか!?」

 

「俺の個性は吸収!炎なら俺の手の平で吸収できる!というかそれで吸収されたから今捕まってるってこと忘れたのか!」

 

「なんて馬鹿なやつだ……」

 

「捕まったらちゃんと教育を受けるんだぞ」

 

「大丈夫だ。お前はテンションが高くてウザいだけだ。更生できるさ」

 

 とうとうヒーローたちが赤髪を慰め始めた。ガストはといえば巨大化してナニをぶら下げていることに羞恥心を抱いたのか、元の大きさに戻って爆笑しながら赤髪のことを見ている。助けに行かなくていいのか。というかさっき僕を殺そうとしてたのに、今はいいの?

 

「似合ってるぞニュート!一生そうしてろ!」

 

「うるせぇ!お前こそ一生全裸でいろ!」

 

「好きでこうなってるわけじゃないんだよ!」

 

 懲りずにぎゃーぎゃーと騒ぎ始める二人。そんな二人を見て、僕たちを小さくを息を吐いた。

 

「……気が抜けた。帰るか」

 

「あぁ。敵という感じがしなくなった。早く敵連合に案内してくれ」

 

「今日ね、弔くんと遊ぶの」

 

「んー?いつから弔くんって呼ぶようになったの?ズルくない?」

 

「燃える店と全裸しか映像に残ってない……」

 

 黒霧さんに連絡して、それぞれが疲れたように呟きながら裏口から出ようとすると、赤髪……ニュートが大声で待ったをかけた。

 

「おいおい、おいおいおいおい!待てって敵連合!ファンなんだよ、お話しようぜ!」

 

「できるか!おい敵連合!貴様らも逃がさんぞ!あとそこの全裸!」

 

「ヒーローのくせに雑な呼び方するなよ!全裸だけども!」

 

 ニュートが言って、ガストが怒るが、僕たちは足を止めない。きっと気が抜け続けちゃうから。こういう空間は僕たちの中だけでいいんだ。他人がああいう感じだとこうも疲れるなんて初めて知った。次からは控えるようにしよう。絶対無理だけど。

 

「あーあー、ファンの声を無視するのかよ。いや、今この状況の俺が不甲斐ないからか!?この程度をどうにかできねぇようなやつとは話さねぇってか!?テンション上がるなオイ!」

 

「炎を出すな!吸収できるってことを理解していないのか!」

 

「吸収ってことはさぁ!」

 

 あ、バカなくせに気づくんだ。まずい、早くしないとあのバカ二人に捕まるかもしれない。

 

 ニュートは真っ赤な髪を逆立ててゆらゆらと揺らしながら、声にならない叫びをあげた。

 

 その瞬間、ニュートを中心に真っ赤な球状の炎が燃え上がった。一瞬だけ弱まったのは吸収したからだろうけど、それも一瞬。球状の炎の勢いは例えるなら爆発で、その炎が収まった後には、辛うじて生きているレベルで焼け爛れたヒーローたちと、案の定全裸のニュートがそこにいた。

 

「限界があるってことだよな、ヒーロー」

 

 カッコよく言っているが、全裸で台無しになってしまっている。僕たちのようにアイテムを作ってくれる人がいないんだろうか。燃えない服とか、巨大化に合わせて伸びる服とか作ってもらえばいいのに。

 

 ここで足を止めないと何をされるかわからないので、立ち止まる。あの威力を見せられたら、大人しくするしかない。一瞬であの火力っておかしいでしょ。というかなんで自分自身は無事なの?熱で倒れるでしょ普通。

 

 そんな疑問を解消してくるわけもなく、全裸のニュートが炎をまき散らしながら近づいてきた。途中で合流したガストからは距離をとられている。そりゃそうだ、熱いもの。

 

 そうして僕の目の前に立つと、ニュートがにっこり笑いながら握手を求めた。

 

「まずは名前から!俺はニュートで、こっちはガスト!敵名で、本名じゃねぇ!悪いな!」

 

 僕は炎を出し続ける手を見て、ニュートの顔を見て、もう一度手を見た。……燃えてるなぁ。でも、握手なら応えないとダメだよね。それが礼儀ってやつだ。

 

 僕はスピナーくんにエリちゃんを預けて、ニュートの手を握る。肌が焼ける感触に顔をしかめそうになるが、それは失礼だからにっこり笑って、答えた。

 

「僕は月無凶夜。知ってるみたいだから言うけど、敵連合です。よろしく」

 

「ハハッ!俺の握手に応えてくれたやつ二人目だ!テンション上がるなオイ!」

 

「噂通りの変な人だ……殺すべきかな?」

 

 なんでガストはちょくちょく殺戮衝動にかられるんだろう。ただ単に僕のことが嫌いなのかな?ファンって言ってたけど。

 

「あー、んで、俺が話したかったのは、そう!ちょっと力貸してほしいんだよ。かの有名な敵連合さんに」

 

「僕たちの力を借りたいってことは、ろくなことじゃないよね」

 

 火傷した手を見ながらいう僕に、ニュートが首を傾げた。あぁそうか。世間から見ればろくなことじゃないけど、敵を名乗る人間がまともな感性を持ってるわけがなかった。

 

「いや、ただ単にさ。燃やしたいんだよ、ヒーロー」

 

「僕は潰したい。ヒーロー」

 

 あっけらかんと言う二人に、スピナーくんがピクリと反応した。スピナーくん先輩のことが大好きだから、こういう信念がないように見える殺意とか、大嫌いなんだよね。エリちゃんを抱いていなかったら既にとびかかってると思う。多分。

 

「なんでかって、聞いてもいい?」

 

「窮屈だからさ!」

 

 体からあふれ出る炎で店内を燃やしつつ、ニュートが言った。

 

「俺は燃やすのが好きだ!でも好きなことをしていると、必ずヒーローがやめろって言ってくる!だから燃やす!」

 

「僕も同じ。潰すのが好きだから、それを止められたくないから」

 

「要するに、好きなことを邪魔されるのが嫌だからってこと?」

 

「そういうことだ!」

 

「合ってる」

 

 なるほどなるほど。つまり無差別にヒーローを殺せば邪魔されないじゃんってことか。それはそれは。

 

「却下」

 

 僕が頷きながら口を開こうとすると、その前にエリちゃんをゆっくり下ろしながらスピナーくんが言った。我慢できなくなったのか。

 

「俺たちの戦いは、問いだ」

 

 スピナーくんが武器の布を取って、そのまま構える。見た目はそこまで変わっていないが変更点のあるらしい武器。色々な刃物が鎖でひとまとめにされているそれは、見るからに殺傷能力が高い。

 

「正義とは何かという問い。無論、殺すこともあれば、生かすこともある」

 

 その武器を床に突き刺し、二人を睨みつけた。エリちゃんはいつの間にか僕の膝にしがみつき、じっとスピナーくんを見ている。

 

 その場にいる全員の視線と、カメラを向けられながら、スピナーくんは意志のこもった目で二人を睨みながら言った。

 

「無差別にヒーローを殺す貴様らとは、相容れない」

 

「それは、やりあうってことでいいんだよな?」

 

「放っておくわけにはいかないからな」

 

「チャンスよジェントル!加勢するの!」

 

「私は今日、何をしにきたのか忘れてしまったよ」

 

「僕もさ。ジェントル」

 

「月無さん。外いこ、外。あつい」

 

 獰猛な笑みを浮かべるニュートを前にして、僕はエリちゃんに引っ張られながらへらへら笑っていた。


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