【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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第43話 上がる炎

「上がるぜ、オイ!」

 

 鬱陶しいマンガの主人公のようなセリフを言いながら、身体から炎を吹き出す。なんとなくだけどこの炎、テンションに左右されてる?言動からすると、テンションが上がってるときに激しい炎を出している気がする。

 

 エリちゃんに当たるとまずいので、放たれた炎に向かって走り出し炎を受け止めた。炎相手にならあまり時間は稼げないが、この一瞬があればスピナーくんかジェントルさんが逃がしてくれるだろう。

 

 しかし僕の思惑とは逆に、僕を燃やしていた炎が掻き消えた。僕らの中で炎を吹き飛ばせるような個性はないはずだから、ニュートが自分で消したことになる。なんで?

 

「バカニュート!傷つけると押し付けられるだけだろ!」

 

「まさか自分から向かってくるとは思わねぇだろ!最高にホットだな!」

 

 そうか、迷惑な押し付け(サプライズプレゼント)。敵なら知っていてもおかしくない。あれをやられるとひとたまりもないからね。他人事みたいに言うけど。僕を相手にするなら、じわじわと削って気絶させるべきだ。

 

 まぁ、迷惑な押し付け(サプライズプレゼント)とか関係なく譲渡があるんだけど。

 

「ってぇ!なんだ!?」

 

 ニュートに僕が受けた火傷を譲渡する。個性上火傷に耐性があるかと思ったけど、そうでもないみたいだ。しっかり爛れて、苦しそうにしている。

 

 そのひるんだ隙を逃さず、ジェントルさんとスピナーくんが一気に距離をつめる。先に片づけるべきはニュートの方だと判断してのことだろう。あの火力を出されると、僕たちじゃどうしようもない。

 

 僕がスピナーくんたちと入れ替わるように後ろへ下がると、すぐさまガストが追ってきた。ニュートの加勢にいかないのは信頼の証か、それとも。

 

「っと!」

 

 ガストが踏み込むと、その足場が少し崩れてバランスを崩す。こんなに燃えてガストの巨大化で不安定になった店内で、足場が崩れないなんてことあるわけないよね。ピンポイントでそうなるなんて、不幸な人だ。僕のせいだけど。

 

 譲渡に関しては、コツをつかむのに苦労しなかった。元々迷惑な押し付け(サプライズプレゼント)で表面化していただけはある。こういう風に不幸と組み合わせて使えるし、さっきみたいに傷を押し付けることもできるようになった。僕ってもしかして最強じゃない?

 

 バランスを崩したガストを思い切り蹴って吹き飛ばす。巨大化されないか不安だったけど、やられなくてよかった。落ち着かないとできないのかな?

 

「ラブラバさん、ついてきて!ここじゃ燃えちゃう!」

 

「え、でもジェントルが!」

 

「こっちからの方がいい映像がとれるよ!」

 

「仕方ないわね!」

 

「エリちゃんも、ごめんね。我慢してね」

 

「うー、あついけど、いい」

 

 ぐったりとしているエリちゃんを背負って、店の入り口へ向かう。あの爆発のような炎の影響で火が燃え盛っているが、入り口には無視できない存在がいる。炎によって倒れたヒーローたち。打算はあるが、今の僕が無視しちゃいけない。

 

「頼んだよ、二人とも!」

 

「言われなくても!」

 

「できればすぐに戻ってきてほしい!」

 

 スピナーくんの頼もしい声と、ジェントルさんの弱音を背に、僕は走り出した。

 

 

 

 スピナーとジェントルがニュートに距離をつめたとき、ニュートは近づけさせまいと自分を囲うようにドーナツ状の炎を展開した。ニュートの周りごと二人を燃やすかと思われたその炎はしかし、ジェントルの手によって回避される。

 

「乗りたまえ、スピナーくん!」

 

「あぁ!」

 

 ジェントルが足場に弾性を付与させ、トランポリンの要領で跳びあがる。ニュートが見上げた時には、既にジェントルが空気に弾性を付与させ、跳ねた勢いを乗せた膝が眼前に迫っていた。回避が間に合わないと悟ったニュートは、両腕を交差させながら体から炎を放出させる。ただではやられないという抵抗。

 

 そして、直撃。顔面に突き刺さる膝と、ジェントルを襲う炎。その炎は強く燃え上がったが、次第に弱まっていく。

 

(なんだ?普通の燃え方をしていない?)

 

 ジェントルが疑問に思うのを他所に、スピナーが吹き飛ばされたニュートに追撃をしかける。武器をまとめている……いや、武器と武器をつないでいる鎖を解きバラけさせ、一振り。すると、連結刃のようになった武器がニュートを襲った。五本の連結刃が生き物のように蠢き、ニュートを貫こうとしたその時、ニュートを巨大な手が掴み、寸でのところで回避した。

 

 凶夜に飛ばされていたガストの仕業である。部分的に巨大化し、ニュートを掴んだその瞬間自分を軸にして元に戻ることによって、ニュートを自分のところへと引き寄せたのだ。本人は熱そうにしているが。

 

「何急にやられそうになってんの!」

 

「ガストが月無を逃がすからテンション下がっちまったんだよ!もっと粘れやバカ!」

 

「まずは助けていただいてありがとうございますと言え!」

 

「あ、助けていただいてありがとうございます」

 

「あ、いえいえ。そんなそんな」

 

「楽しそうだな」

 

 ふざけているとしか思えない二人の下へ、スピナーが二本となった武器を持って走ってきた。ジェントルはスピナーと横並びになり、いつでもサポートできる体勢に入っている。それを見たガストは舌打ちして、ニュートを横目にしながら言った。

 

「正直、スピナーは僕と相性が悪い。的がでかくなるだけで、ズタズタにされて終わりだ。だから、ニュートにはスピナーをお願いしたいんだけど」

 

「共闘っぽくてテンション上がるな、それ!」

 

 言って、爆発的に炎を膨れ上がらせたニュートは、スピナーとジェントルを分断するように、二人の間に炎を放った。そして、二人がそれを回避したのと同時に、ニュートとガストも動き出す。

 

 ニュートは地を這う炎を、ガストは五メートルほどに巨大化し、ジェントルへ蹴りを放った。

 

 

 

 スピナーは片方の武器の鎖を解いて天井に連結刃を伸ばして刺すと、ターザンのようにぶら下がって炎を回避した。そうしながらもう片方の武器の鎖も解くと、連結刃でニュートに攻撃をしかける。

 

 スピナーに足りていなかったのは、中遠距離での選択肢。武器の関係上距離が離れると選択肢がかなり限られてしまっていたため、レベルアップはそこを重点的に伸ばしていった。結果が、武器の改造。更に断然機械化されたその機能を扱いこなすための地道な反復練習。スピナーのレベルアップは至ってシンプルであった。

 

 だからこその厄介さ、隙のなさが生まれる。数本に分かれる武器、それによって増えたとれる行動の数、回避しながらの攻撃。選択肢が増えたスピナーは、戦闘において相手の選択肢を減らすことに重きを置いていた。

 

 その実、ニュートが連結刃を回避したその先では、天井から抜いた連結刃が襲い掛かってくる。金属と熱。そしてあれほどの火力を出せるニュートであればニュートの方が有利に思えるが、現状、個性の関係でそうでもない。

 

 ニュートは連結刃を避けながら、考える。この男、火を見るとテンションが上がり、戦っているとテンションが上がるタイプの危険な男であり、それが個性にも関係している。

 

 個性:炎上。テンションが炎になって表れる。炎の威力はテンションによって左右され、炎を放つごとにテンションを消費する。が、本人が火を見てテンションが上がるタイプなため、個性を使う限りテンションは上がりっぱなし。

 

(金属溶かすための炎をちまちま出してたら、テンション下がった瞬間にやられちまう。あのトカゲ、あんまり危険視してなかったが中々やるな……)

 

「上がるなぁ、オイ!」

 

「いちいちうるさい男だな」

 

 着地していたスピナーは、二本の連結刃を横に振るう。かなりの力を込めて勢いよく振られた連結刃は鞭のようにしなり、ニュートに襲い掛かる。跳んでも回避できない絶妙な高さで振るわれるそれを避けられないと判断したニュートは、胸の前でぎゅっと握りこぶしを作ると、真っ赤な髪をゆらめかせ、気合一番叫んだ。

 

「上がるぜ、オイ!」

 

 そのままスピナーに向かって走りながら、炎を放出させる。爆発的に膨れ上がったそれは、連結刃の中心を溶かして、中心から先を千切れさせた。しょんぼりした真っ赤な髪が、先ほどの炎の出力を物語っている。

 

 だが、ニュートは火を見るとテンションが上がる男。燃える店内を見てテンションを徐々に上げていき、スピナーへと走り出す。

 

「至近距離での大火力!やられたら困るから、ちまちまちまちま遠くからやってんだろ!?」

 

「あぁ、そうだな。だから待っていた」

 

 中心から先がなくなった二本の連結刃を一つにし、地を蹴って一瞬で距離をつめる。

 

 そのまま振りかぶり、一閃。

 

「デカい炎を使った後は、決まって行動が大人しい」

 

「……いってぇ」

 

 無数の刃によって生まれた、無数の切り傷。抉られた体からは、夥しいほどの血が流れ出ていた。

 

「テンションに身を任せ過ぎだ。それでは勝てるものも勝てん」

 

 傷を押さえて膝をつき苦しむニュートに、スピナーは上段に構えながら言った。

 

「せめてお前の好きな炎の中で殺してやろう」

 

 スピナーが武器を振り下ろそうとしたその時。

 

 ニュートから炎があふれ出し、膨れ上がった。

 

「ぐっ!?」

 

 その熱に危険を感じ、スピナーはニュートから距離をとる。スピナーが考察したのは、ニュートの行動から。大火力の後の大人しさを見て、大火力を放つのにはインターバルが必要だと判断した。

 

 しかし今。ニュートは大火力と遜色ない威力を持った炎を放っている。考えられるのは、テンションが爆発的に上がる何かがあった、ということ。

 

「……おぉおぉ、上がるなぁ、オイ」

 

 よろよろと危なげな足取りで炎をまき散らしながら立ち上がったニュートは、獰猛な笑みを浮かべていた。一目でおかしい人間だとわかる、危険を感じさせる笑み。狂気的なそれに、スピナーは目を細めた。

 

「俺が一番上がる瞬間、知ってるか?」

 

 ハァ、と口からも炎を漏らし、右腕を掲げる。

 

「俺が、俺自身を燃やすとき!焼いたぜ、お前につけられた傷!」

 

 現れたのは、巨大な炎の腕。燃え上がるテンションの象徴。

 

「さぁ上げてこうぜ!互いによ!」

 

「傷で興奮とは、変態か」

 

 生々しい傷跡に、獰猛な笑み。

 

 スピナーの前に立つニュートは、まさしく敵そのものだった。




 あ、ニュートとガストは全裸です。

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