【完結】僕の『敵連合』   作:酉柄レイム

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第44話 デビュー

 ジェントルはガストの蹴りに対し、その線上の空気に弾性を付与した。それによりガストの蹴りは空気に弾かれ、バランスを崩すことになる。

 

 かと思われたが、ジェントルの動きを見ていたガストは瞬時に巨大化を解くと、蹴りの勢いのままその場で一回転した後、ジェントルに向けて拳を振るった。通常では到底届かないその拳は、ガストの個性によって届くようになる。拳を振るうと同時に個性を発動し、肩から先を巨大化させた。現れるのは、巨大な腕。ジェントルを襲うのは巨大な拳。

 

 まるで砲弾のようなそれを、ジェントルは足場に弾性を付与し、トランポリンのように跳ぶことによってギリギリで回避した。巨大な拳が眼下を通り過ぎるのに冷や汗を流すのも束の間、すぐに第二撃が襲ってくる。

 

 回避されることも予想済みだったのか、巨大化を解いたガストはすぐに走り出し、ジェントルへと接近する。そして、そのまま巨大化。ジェントルは目と鼻の先。

 

 ガストが何か行動を起こすよりも先に、ジェントルは空気に弾性を付与して、地面に向かって跳んだ。巨大化している相手を前にして空中にいるのは愚策。ガストと同じ目線にいれば、その巨大な手に掴まれることは想像に難くない。

 

 しかし、ガストは潰すのが大好きな狂人である。むしろ、ジェントルが地面に向かったのはガストにとって嬉しいことだった。

 

 ガストはその場で跳び、地面に背中を向ける。そして、更に巨大化。店の天井がそのまま落ちてきたかのようなそれを、ジェントルはまたも回避する。

 

 空気に弾性を付与し、前に跳ぶ。その先でも弾性を付与し、更に前に飛ぶ。それの繰り返しで、ガストが店内の床を壊し地に沈む直前にガストの下から逃れることに成功する。

 

 しかし、かなりの巨大さを誇るガストの落下は、近くにいるだけで大きな衝撃をもたらす。それはジェントルの足を止める地響きになって現れた。

 

 足を止めたその瞬間を、ガストは見逃さない。

 

 仰向けに倒れたまま巨大化を解くと、ジェントルがいる方向へ拳を向け、肩から先を巨大化する。ただ巨大化するだけで、人間にとっては高威力の砲弾。そして、それを避ける術はジェントルにはなかった。

 

「かっ……」

 

 体の全面を襲う巨大な拳。肺の空気が吐き出され、ジェントルの体が紙のように吹き飛んだ。幸い骨が砕けた様子はないが、それでもかなりの衝撃。受け身をとった後も膝をつき、視界が揺れるほどのダメージを負った。

 

 やはりその隙を、ガストは逃さない。

 

 吹き飛ばされたジェントルを追うように走っていたガストは、既にジェントルの目の前にたどり着いていた。ジェントルがそれに気づく前に大きく息を吸い、吠える。

 

「      !!」

 

 声にならない咆哮ともいえるそれに、ジェントルの耳は破壊された。隣で雷が落ちたような轟音。およそ人が放ったとは思えないその音に、ジェントルは膝を震わせる。

 

 ガストの個性は大化。自分と自分から発せられるものを大きくすることができる。自身の体から始まり、声、意味はないが血や涙なども大きくできる。今大きくしたのは、声。最大限まで大きくした声により、ジェントルの耳が破壊された。

 

「なんか、拍子抜けというか。お前、戦う気あるの?」

 

 働かない聴覚では聞こえないとわかりつつ、ガストはジェントルに目線を合わせるようにしゃがみこみ、問う。自分の勝利を確信したからこその余裕。油断と捉えられてもおかしくはないが、客観的に見ても勝敗は明らかだった。人間は、感覚一つ失うだけで想像よりも脆くなる。

 

「僕を攻撃しようと思えばできたはずだけど。僕の下敷きになりかけたとき、あの速さで移動できるなら、僕がお前の目の前で巨大化したときに目を潰すくらいはできたはずだ」

 

 それはジェントルが地面に移動する前。ガストが巨大化してジェントルの眼前に現れたとき。あの瞬間、逃げずに攻撃をしていればまた違う結果になっていたはずだ、とガストは言う。確かに、あの場でガストに攻撃していれば反撃をもらったかもしれないが、今のようにガストが無傷というわけにはいかなかったかもしれない。

 

「なんか、本気じゃない気がするんだよね。そう、必死じゃないっていうか、逃げ腰っていうか。潰しがいがない」

 

「何を言っているかはわからないが」

 

 聞こえないことをいいことに好き勝手言うガストに対し、ジェントルは不敵に笑いながら言った。

 

「全裸というのは、紳士的ではないね」

 

「……こいつ」

 

「それに」

 

 怒りに一瞬固まったガストの隙をつき、ジェントルは足払いをかけた。そして足場に弾性を付与し、前方に跳んでその勢いを乗せた拳をガストの顎にくらわせる。それは例えるなら弾丸。相手の急所を確実に撃ち抜くスマートな技。

 

「敵連合としてのデビュー戦だ。追い詰められてからの逆転、盛り上がると思わないかい?」

 

「言ってくれるじゃん……!」

 

 ジェントルは地味に回り続けているカメラに向かってキメ顔で言った。先ほどから心配で倒れそうになっていたラブラバは、別の意味で倒れかけていた。

 

 

 

 辛うじて息のある焼き焦げたヒーローたち。僕とエリちゃんはそのヒーローたちを前にしていた。こういうのもなんだが、あまり見ていて気持ちのいいものではない。僕は慣れてるけど、エリちゃんは気持ち悪そうにしている。あの時マズいと思ってエリちゃんには見せないようにしてたからのほほんとできていたが、流石にこのヒーローたちを前にすると、そんな気分も吹き飛んだらしい。

 

 死穢八斎會でも、なんだかんだ大事にされていたエリちゃんは、こういう生々しいものは見たことがなかっただろう。自分が傷を受けたことはあっても、誰かが傷を受けるのをみたことはあまりなかったはずだ。それに、ただでさえ小さな子どもなんだ。できれば見せたくなかったけど、僕の力ではどうしようもないから。

 

 それにこれは、エリちゃんのためでもある。言い訳くさいけど。

 

「エリちゃん、僕たちが実は悪い人たちだってこと知ってた?」

 

「うん。でも、月無さん優しいよ?」

 

 少し顔を青くしながら答えてくれるエリちゃんを、思わず抱きしめる。天使かよ。

 

「で、ヒーローがどんな人たちかわかる?」

 

「……人を助ける、お仕事をしてる人たち」

 

 お仕事と言ってしまうあたり、エリちゃんがヒーローにどういう感情を持っているかが推測できる。いや、僕の考えすぎかもしれないけど。でも、ヒーローという存在を知っていると、救われない、救ってほしい状況にあるときにどうしても期待してしまう。そして、救われなかったら勝手に裏切られた気分になって、よくない感情を抱いてしまう。実際僕もそうだったし。僕は個性の関係である程度割り切れたけど。

 

 でも、エリちゃんはそうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。まぁ、自分でいうのもなんだけど、ヒーローより先に助けちゃったからこうなってるんだけど。

 

「そうだね。だからさ、助けたいんだ、僕。基本的にはヒーローが好きだからさ」

 

 実際には殺したことがあるからどの口が言うんだって話だけど、あのときの僕は不幸一色だったから。だからといって仕方ないとは言えないんだけどね。

 

「悪い人なのに?」

 

「悪い人でも好きなものは好きなのさ。エリちゃんは、みんなのこと好きでしょ?」

 

「うん。大好き」

 

 録音してみんなに聞かせてあげたい。もっというと弔くんには直接聞かせたい。更に言えば「弔くん、大好き」と言わせてみて弔くんの反応を見てみたい。いや、そんな話をしてるんじゃないんだ。

 

「だから、おかしくないのさ。いい子のエリちゃんが悪い人を好きなように、悪い人の僕がいい人を好きになってもおかしくない」

 

 それに、僕たちの、敵連合の目的のためにはヒーローは多い方がいい。正義とは何か、それを問うたその後。ヒーローがいないなら話にならない。別にヒーローじゃなくてもいいといえばいいんだけど。そういう打算的な意味抜きでも好きだけどね。

 

「だから、助けたい。ヒーローを、ヒーローに救ってもらえるかもしれない人たちのことを」

 

「……私も。月無さんがいなかったらって思うと、やだ」

 

 それは僕をヒーローと思ってくれてるってこと?やだ、エリちゃんへの愛しさが止まらない。いやいや、そういう話じゃない。そういう話でもあるけど。

 

「うん。だから、助けちゃおう。エリちゃんの個性で」

 

「っ、私の、個性?」

 

「そう。ヒーローたちを怪我をする前まで巻き戻す。僕でも、スピナーくんでも、ジェントルさんでも、ラブラバさんでもできない。エリちゃんにしかできないことだ」

 

「でも、私の個性は」

 

 エリちゃんは、個性を発現してから訓練を受けていない。つまり、それは制御ができないということで、触れたものを際限なく巻き戻してしまう。人に触れれば有精卵以前まで。簡単にいうとふっと消えてしまうまで巻き戻してしまう。きっと、やったことがあるんだろう。だから「でも」という言葉が出てくる。

 

 僕は震えるエリちゃんの体を痛くないようにぎゅっと抱きしめる。

 

「大丈夫。エリちゃんの個性は優しい個性だ。自分を信じて、この人たちを助けたいっていう自分の思いを信じてほしい。エリちゃんは優しい子だから、大丈夫だよ」

 

 優しく語り掛けて不安を取り除く。エリちゃんが個性を使うには、巻き戻しを成功させるには明確なイメージと自信がいる。自分の個性に対する恐怖心があると、いつまでたっても個性をちゃんと使えない。ちゃんと使うには、個性に対して前向きにならないといけない。できること、やりたいこと、そのイメージ。学校の入試の時、受ける学校の校門の前で自分が映った写真を撮ると受かりやすいっていうあれと似ている。

 

 要は、恐怖心ではなく前向きなイメージ。人を殺すものから、人を救うものへという変化。

 

「エリちゃんならできるよ。思い浮かべて、エリちゃんがヒーローたちを元気にしている姿。助ける姿、優しい個性のこと」

 

 エリちゃんは、ゆっくりとヒーローへ手を伸ばす。個性を怖がっていたエリちゃんが伸ばす、前への第一歩。伸ばしてるのは手だけど。

 

 さて、ここからは僕の仕事だ。僕の中に眠る幸福の個性、そして今この状況。今、僕は幸福を自覚できている。まだ、あまりわからないけど。

 

 エリちゃんが成長する姿。エリちゃんと一緒にいる時間。みんなと一緒にいる時間。誰かがそばにいるっていうこと。多分、それが僕にとって幸せってことなんだ。

 

 だから、条件は整ってる。僕の中に眠る譲渡と幸福。お父さんとお母さんからもらった二つの優しい個性。その複合。迷惑な押し付け(サプライズプレゼント)が不幸に反応するなら、これは幸福に反応する。

 

 平等な幸福(for you)

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