【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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第47話 次へ

「ニュートとガストとの動画をみてからずっと弔くんが引きこもってるんだけど、どうしよう?」

 

 事の始まりは僕たちが帰ってきてからスピナーくんとジェントルさんの治療をし、ラブラバさんが早速と動画を編集してアップしたこと。スピナーくんとジェントルさんがかっこよくて、「何かのドラマ?」「こんなにかっこいいやつらが敵なわけないだろ!」などというコメントがつく中、弔くんがふとその動画をみたとき、更に言えばニュートとガストをみたとき、よく見ないとわからない程度に目を見開き、自分の部屋に引っ込んで行ってしまった。

 

 これが三日前のこと。あれから一歩も部屋からでてきていない。いや、黒霧さんを経由して色々してるみたいだけど、僕たちの前には現れていない。

 

「あいつらどう見ても強かったし、スカウトじゃねぇのか」

 

 円卓を囲んで座るほど重大にしていいのかということと、なんとなく円卓で席が空いていると寂しいからという理由でソファに寝転びながら言った僕に、荼毘くんがソファの空いたスペースに座りながら言った。

 

 荼毘くんは昨日レベルアップを終わらせていて、つい昨日帰ってきたときに炎で文字や綺麗な模様を描いてエリちゃんを喜ばせていた。戦う以外の優しい個性の使い方のお手本みたいなそれに、僕も大喜びで見学させてもらった。あとちゃっかりヒミコちゃんとトゥワイスさんも隣に座って歓声をあげていた。

 

「それはないと思うよ。強さだけがあっても仕方ないし」

 

 あれは相当な頑固者だと思う。自分のやりたいことを曲げないし、死ぬまであのスタンスでやるだろう。そうなると、僕たちの目的とはだいぶ異なるし、仲間にはなれない。自分の好きなこと、やりたいことを誰に何を言われても貫き通せるのはすごいことだと思うけど。周りを気にして縮こまっちゃう人っているよね。

 

「てなるとなんだ。恋でもしたのか?」

 

「ニュートかガストに?それならそれで応援するけど、今の聞こえてたら殺されるよ」

 

「でてくるならいいだろ」

 

「……なんか、いい方向に変わったね、荼毘くん」

 

 そうか?と首を傾げる荼毘くんの表情は前と比べて豊かだった。とはいってもとぼけたような表情は変わらないけど、なんというか喜怒哀楽がわかりやすくなったし、冗談も言えるようになった。冗談じゃなくて天然かもしれないが。

 

 念のため弔くんの部屋を見ると、物音もなく、出てくる気配はない。安心するとともにやっぱりそれは残念で、小さくため息を吐いた。

 

「調子狂うか?」

 

「うーん、そうだねぇ。なんだかんだいっつも弔くんと一緒にいたから、結構持て余すよ」

 

 エリちゃんは個性の反動なのか、しばらくお昼寝タイムが増えたし、じゃあ暇つぶしにとジェントルさんと交流しようと思ったら、レベルアップが終わったはずのスピナーくんと鍛錬に出かけるし。強くなるのはいいことだけど、仲良くするのも大事だと思う。だって僕が暇だ。

 

「俺たちも俺たちで調子狂うな。お前らが軽口叩きあってないと帰ってきたって感じがしねぇ」

 

 助けてーって言ってくることもないしな。と僕の額を軽く叩きながら言う荼毘くんに軽くパンチで返す。あれは悪かったと思うけど、僕だって好きでああなっているわけじゃない。いや、好きでああなってるのか?

 

「意外に騒がしいの好きなんだ?荼毘くん」

 

 クールな感じしといて案外かわいらしいところあるな、とにやーっとしながら聞いてみると、荼毘くんは僕と目を合わせて首を傾げた。

 

「それが俺たちだと思ったが、違ったか?」

 

「……違わないです」

 

 荼毘くんってこんなに口うまかったっけ。どういうレベルアップをしたんだ?実は炎でショーをやってたとかじゃないよね。マズい。このままでは荼毘くんが僕以上にモテてしまう。クールでかっこよくて口がうまいなんて、完璧かよ。僕が女の子なら求婚してふられちゃうね。

 

「そういや、トガとトゥワイスはいねぇのか?昨日見かけたから、てっきりレベルアップが終わってるもんだと思ったが」

 

 周りをきょろきょろして、僕に聞く荼毘くん。僕もそう思ってたけど、昨日聞いてみたらどうも違うらしくて。

 

「みんながいないと暇だから、適当に帰ってきたらしいよ。まだ終わってない」

 

「……あいつら」

 

「仕方ないよ。そういうモチベーションの維持って大事じゃない?」

 

 呆れたように言う荼毘くんにフォローをいれる。勉強もそうだけど、なんとなく身に入らないときってあると思うんだよね。そういうときにどうモチベーションを保つかっていう話で、それがヒミコちゃんとトゥワイスさんにとってはここに帰ってくるってだけだったんだから。むしろ、そうしないと遅れる可能性すらある。

 

「それ、モチベーションが目的のためじゃなくて、ここに帰ってくるためになってるってことだろ。目的よりここの存在のがデカいってのは、どうなんだ」

 

「ここの存在のための目的があるわけだし、あんまり変わんないよ」

 

「目的を達成したとしても、そこに俺たち全員がいるわけじゃないってことを理解してりゃいいが」

 

 それは、戦いの末誰かが捕まるかもしれない、死ぬかもしれないっていうことを言っているんだろうか。冗談が言えるようになったと思ったら、ふと現実的なことを言う。そりゃ、僕たちは敵で戦力が足りていない。全員一緒でっていう方が無理なように思える。

 

「いるよ」

 

 体を起こして、荼毘くんと目を合わせて言う。荼毘くんはどこか探るような目で僕を見ていた。

 

「全員、いるよ。だって、そうじゃなきゃ達成した意味がない」

 

「……それは、そうだが。そういう話じゃなくねぇか?」

 

「そういう話なんだ、これは」

 

「そういう話か」

 

 言って、荼毘くんは小さく笑った。あれ、からかわれてた感じ?それとも何かの確認?僕が困惑していると、荼毘くんが微笑んだまま柔らかい声で言った。

 

「いや、しばらく離れてたからな。少しは変わってるんじゃないかと思ったが、変わってなくて安心した」

 

「なにそれ。疑ってたってこと?」

 

「心配してたんだよ。お前が全員を大事にしているように、俺たちもお前が大事なんだからな」

 

 泣けることを言うな。そういうキャラじゃないだろ君。さては本当に人と触れ合ってレベルアップしてきたな?人間的に成長しすぎでしょ。それともこれが本来の荼毘くんってことか。どちらにしろいい人すぎる。一生ついてきてほしい。

 

 そのとき。僕らの背後から足音が聞こえてきた。今ここにいるのは僕と荼毘くんを除いてエリちゃんと弔くんしかいない。そして、この重さはエリちゃんじゃない。

 

「嬉しいこと言ってくれるな、荼毘」

 

「弔くん!」

 

 ソファの背もたれから乗り出して、久しぶりに見た弔くんを迎える。そのまま頭から落ちそうになったが、荼毘くんが引っ張って止めてくれた。申しわけない。ありがとう。

 

「よう、随分引きこもってたみたいだな」

 

「あまり言うなよ。俺も悪いと思ってるさ」

 

 言いながら、弔くんは僕と荼毘くんの間に座った。悪いと思ってる人の態度とは思えないほどどっかり座ったのは触れないことにする。絶対悪いと思ってないよね。

 

「あいつらのことを調べていてな。俺たち以外に組織が出てくると面倒だし、それに」

 

 弔くんが僕を見た。何もわかっていない僕を見て弔くんは小さく息を吐く。

 

「月無に関係のある敵だからな。警戒しておきたかった」

 

「僕に?」

 

 僕に関係する敵って、どういうことだろう。先生と過ごしていたときはほとんど人と会っていないし、敵連合に入ってからは心当たりがない。そもそも、ニュートとガストって個性が特徴的だから一目みたら忘れないと思う。

 

 首を傾げる僕に、弔くんはじとっとした目を向けた。そんな目で見られても、覚えがないものはないから仕方ない。

 

「お前が小さいとき」

 

 弔くんが背もたれに体重を預け、天井を見上げながら言う。普段人と目を合わせて話す弔くんにしては珍しいその行動に、引きこもってたから話し方を忘れたのかな?と呑気なことを考える。

 

「家が燃やされて、施設が巨大化する敵に潰された。ここまで言ってわからないお前じゃないだろ」

 

 それは、僕が個性を発現してすぐの記憶。家が燃やされ、預けられた親戚の家が強盗にあい、入った施設が巨大化する敵に潰された。そして、ニュートの個性は炎で、ガストの個性は巨大化。いや、そんなことないでしょ。何年前で、どんな確率だよ。

 

 弔くんを見ると、冗談を言っているような表情ではなかった。

 

「……まぁ、お前に執着しているわけではなさそうだ。あくまで矛先はヒーローだな」

 

「執着されてたらたまんないよ。ここが燃やされて潰されたら、何するか」

 

「おい落ち着け月無。なんの話か知らねぇけど」

 

 大丈夫。落ち着いてる。お父さんとお母さんを殺したのは僕だ。ニュートが燃やしていなくても結果的に僕が殺していただろう。施設のみんなだってそうだ。ガストがこなくても、結果的にはみんな殺していた。あれは、僕のせいだ。

 

「だからといって無視できるわけじゃないが。ヒーローに矛先を向けてるってことは、一番早いのが雄英だ。あいつらがヒーロー根絶を目的にしているなら、必ず狙う」

 

 あの二人は決着がつく前に消えた。ということは、少なくとももう一人仲間がいるということだ。そうなると、組織になっていてもおかしくはない。あの二人は一瞬で被害を出すことに長けてるし、集団を狙うのに適している。

 

「だからさぁ、しばらく雄英周りを警戒しておいてほしいんだよ。雄英がやられちゃ話にならないからな」

 

「雄英周りって、下手したらすぐに見つかるぞ」

 

「月無が一緒なら大丈夫だ。心配しなくていい」

 

 なぜか僕を過大評価する弔くん。でも確かに、僕の不幸と幸福があれば無敵な気がする。幸福を表面化するのはまだ慣れてないけど。

 

「だが、気を付けろよ。あの動画があがったことで、街中警戒してるからな」

 

「じゃあ時間空けるとかないの」

 

「ない」

 

 僕の言葉をばっさり切った弔くんは立ち上がって、笑いながら言った。

 

「俺があいつらなら、今暴れる方が面白いって考えるからな」

 

「趣味わりぃ」

 

 荼毘くんに言われた弔くんは気にした様子もなく、「次、荼毘と行けよ」と僕に言い残して去っていった。そういえば、僕のレベルアップって話あったな。色々あって忘れてた。

 

 雄英と言うと、轟くんと出久くんのことを思い出す。もしかしたら会えるかもしれないと思うと、なんとなく頬が緩んだ。


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