【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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第4話 社会見学

「絶対に離れないでね!絶対に離れないでね!」

 

 僕は今、USJの土砂ゾーンにいる。チンピラくんたちに囲まれるような形で。僕自身の不幸は他人を巻き込まないということは、こうしていれば土砂に襲われる可能性が低くなるということである。我ながら名案だ。こっちにきた子がすごい個性を持っていたら一網打尽になるけど。

 

 まぁそんなことはありえないだろう。僕は不幸だけど。……あれ、不幸だからむしろその可能性しかないのか?というか、そもそもここで何の事故も起きないっていうのはそんな事故よりもここにくる子の個性でやられる方がよっぽど不幸ってことかもしれない。

 

「あー、みんなごめん。なんかものすごい子がきちゃうかも」

 

「え?いやいや、所詮ガキでしょ。心配しなくても大丈夫ですって」

 

 あ、僕知ってる。そういうのフラグって言って、大体いい結果にならないんだよ。

 

 ほら、こんな風に。

 

 黒霧さんのワープゲートで移動してきた瞬間、みんな仲良く氷漬けにされるくらい、悪い結果になるんだ。

 

「あはは、チートだチート。生まれながらの勝ち組個性……羨ましいなぁ」

 

 どうか交換してほしい。僕の個性と半分頭の君。移動してきた瞬間にこの規模を一瞬で凍らせるって、どんな個性だよ。そりゃ僕もやる気になれば一瞬でこの施設をめちゃくちゃにできるけど、スマートさが違う。何よりクールでかっこいい。というか個性の持ち主もクールでかっこいい。

 

 あぁ、なんか、弔くんたちに影響を受けたのか、よくない考えが浮かんでくる。

 

 僕はこっちに向かってくる半分頭の子をしっかりと目で捉えながら、無理やり氷で地面と固定されている足を振り上げて、拘束をといた。その際に足がボロボロに崩れるが、気にしない。あ、足がないと歩けないじゃん。そのことに気づいた時には、前のめりに倒れて凍った腕が衝撃で折れてしまった。

 

「月無さん!?」

 

「な、なにやってんだお前!?」

 

 チンピラくんたちから、半分頭の子から、驚いたような声が聞こえてくる。腕と脚が欠損することは久しぶりだからちょっと感覚がおかしいけど、いいだろう。これで自由に動けるようになったんだから。

 

 それに、個性を使える余裕もできた。

 

「ねぇ君。名前なんていうの?」

 

 

 

 半分頭の子……と凶夜に心の中で呼ばれていた少年、轟焦凍は、腕と脚を無くしながらも笑顔で名前を聞いてくる凶夜に、身を震わせていた。明らかな異常。個性の影響で冷えた体からくる震えとは別の震えが轟を襲っていた。

 

 単純な恐怖。理解できない行動。

 

(これが、敵……)

 

「ねぇ、聞いてる?」

 

「……人に聞くときは、まず自分からだろ」

 

 轟の脳内で警鐘が鳴る。こいつと話すな、口を聞くな。関われば関わるほど、とんでもないことになる。だが、そう思っていても、目の前の異常から目を離せなかった。

 

 轟の言葉を受けた凶夜は「それもそっか」と納得したように頷くと、変わらない笑顔で自己紹介を始めた。

 

「僕の名前は月無凶夜!君と同い年で、個性は……言わない方がいいのかな?まぁ君とは違ってクソみたいな負け組個性だから、気にしないでいいよ!君は?」

 

「……とどろ「喋っちゃダメ!」」

 

 見えないところから聞こえてきた声に、轟はハッ、と我に返った。凶夜は「女の子の声?」と倒れながらきょろきょろと辺りを見回している。その目に宿る妙な執念に、轟はドン引きした。

 

 声の主は葉隠透。個性:透明を持つ透明人間で、基本全裸である。

 

「相手のペースに乗せられちゃダメだよ、轟くん。ヒーロー名があるならともかく、私たちが本名を名乗っちゃダメ」

 

「へー、轟くんって言うんだ!よろしく!」

 

「しまった!」

 

「葉隠……」

 

 おそらく凶夜の雰囲気にあてられたのか、葉隠がうっかりと轟の名前を伝えてしまった。それを聞いた凶夜はうれしそうな顔をして、「これから僕たち友だちだね!」と明るく言い放つ。凶夜からすれば、名前を交換すればそれだけで友だちなのだ。オープンな男を目指している凶夜の目標は、友だち百人である。

 

 腕と脚を失いながら、それも敵に対して名前を伺ったあげく「友だち」だと言い放つ凶夜に、理解できない何かに轟と葉隠の動きが止まった。それに不思議だと言わんばかりに首を傾げる凶夜だが、突如がくん、と首を落とした。

 

 それもそのはず、周りが冷やされ大幅に下げられた体温に、腕と脚の欠損。普通の人間なら間違いなく死ぬ。

 

 自分の個性で人を殺したことのない轟は、顔色を変えて凶夜に近寄った。流石ヒーロー志望というべきか、敵の死すら見逃せないようだ。それも特別気持ち悪い凶夜の死すら。

 

 轟の行動を心配と受け取ったのか、凶夜は消え入りそうな声で呟いた。

 

「心配しなくても、大丈夫」

 

 凶夜が言葉を紡いだ瞬間、バキン、と何かが割れる音が土砂ゾーンに響いた。何か、というより凶夜が氷を砕いた時と同じ音。見る人によってはトラウマになるような音が、再び響いたのだ。

 

 まさか、と思い轟が敵の方を見ると、敵のうちの一人が腕と脚を欠損させ、倒れていた。誰がどう見ても明らかに死んでいる。だが、轟が敵に目を向けているとき、葉隠は凶夜を見て、驚愕に目を見開いた。傍から目は見えないが。

 

 凶夜の腕と脚が治って、立ち上がろうとしている。

 

「と、轟くん」

 

 思わず、といったように葉隠が轟の腕をつかむと、轟も凶夜が立ち上がろうとしているのに気が付いた。無くなっていたはずの腕と脚が治っているのも。そして、今死んでいった敵の腕と脚が凶夜と同じ崩れ方をしていることにも。

 

(誰かを自分の身代わりにする個性……?いや、それなら俺たちのどちらかに発動するはず。個性の制御が利かない?だとすると、傷つければ傷つけるほどマズい!)

 

「葉隠、走れ!逃げるぞ!」

 

「え!?う、うん!」

 

 轟はこれ以上死人を出さないために、凶夜以外の敵に向けて炎を放ちつつ、駆け出した。凍っていた敵は既に気絶していた様子だったため、氷が溶けたところで問題ない。

 

 走りながら凶夜を見ると、完全に立ち上がっていた凶夜は、先ほどまで顔に張り付けていた笑みを消し、感情の一つも窺えない能面のような表情になっていた。

 

(なんだ、あいつ……!)

 

 それが轟の恐怖心を加速させ、思わずそこにいる(であろう)葉隠を抱え上げ、氷を使って一目散に逃げ出した。

 

 

 

 チンピラくんの腕と脚が割れたとき、僕はすべてを理解した。違う、心配しなくても大丈夫って言ったのはそういうことじゃなかったのに。理解するべきじゃない、これは、理解しちゃいけない。こんな取返しのつかない個性だったなんて、僕自身が理解したくない。

 

 でも、賢い僕は理解した。理解してしまった。何度も陥った死の危険。そのたびに綺麗さっぱり治る僕の体。そして今砕け散ったチンピラくんの腕と脚。治った僕の腕と脚。

 

 思えばおかしかったんだ。たった4歳の僕が、大人が死ぬほどの炎の中で生き延びたこと。だって、一緒に寝ていたんだ。甘えん坊の僕は、お父さんとお母さんと一緒に寝ていたんだ。いくら守ってくれたって、4歳の体力じゃ大人より生き延びられるわけがない。じゃあなんで?ならなんで僕は生きていた?僕が思い出さないようにしていた記憶の中で、お父さんとお母さんの最後の言葉はなんだった?

 

 俺より先に、私より先に死なないで。

 

 おかしくないか?もっと、こう、あの両親なら。そして僕が普通に生き延びていたとしたら。幸せになってとか、生き延びてとか、そういうことを言うんじゃないのか?死なないでって、まるで死に行く人にかける言葉みたいじゃないか。

 

 実際、僕は両親より先に(・・・・・・)死んでいた。そして発動したんだ。僕の不幸とは別の個性が。

 

 さっきの状況と今の僕の綺麗な体を見れば予想はつく。

 

 誰かに自分の状態を押し付ける個性。僕の個性、不幸は他人には作用しない。作用させていたのは押し付ける個性。そして、制御ができていないのにも関わらず、僕が死にかけたときに傷の押し付けが発動するのは、不幸が僕に死ぬことを許してくれないから。

 

 ということは、つまり、なんだ。

 

 事故(ふこう)で死んだと思っていた両親は、施設のみんなは。

 

 ぼくが、完全に、ぼく自身が殺していたっていうのか?

 

「あー、なんか、そうだな」

 

 いつの間にかいなくなっていた轟くんと女の子のことを残念に思いつつ、僕は轟くんが去っていた方を見つめた。

 

 なんとなく、なんとなく。こんな不幸でも、どれだけ報われなくても。いつかはかっこいいヒーローが、もう大丈夫だって言ってくれる気がしてたんだ。でも、誰が助けてくれるんだ。こんな死にたいと思えば思うほど死ねなくて、幸せな人を不幸にして、自分はきれいさっぱり無傷でのうのうと生きているやつのことなんて。僕がヒーローなら殺しちゃうね。こんなやつ。

 

「そうだ、そうだそうだそうだ。先生が言ってた。敵連合が僕の居場所だって」

 

 だって敵連合は僕の敵連合(アカデミア)。これも、それらしくなるための第一歩。ならそれらしくなってみせよう。そうすれば、いつかは死にたくないって思えるかもしれない。そうすれば死ねるかもしれない。あれ?そうなるとだめなのか、死んじゃダメなのか?

 

「まぁ、いいや」

 

 僕は敵だ。最高にかっこいいヒーローと対になる、最悪でかっこわるい敵。そりゃそうだ。死ねないし、みっともなく生きてるんだから。

 

 でも、先生曰く僕は先生のような敵になれるらしいから。そう考えると、悪くない。だって、悪は滅びるって、正義は勝つって決まってるんだから。

 

「そうだ。轟くんならいい感じに殺してくれるかな?」

 

 僕は轟くんが去っていった方へと歩き始めた。

 

 さぁ、始めよう僕。不幸(かわいそう)な僕が、幸福()を手に入れるために。




 終わりそうですが、続きます。

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