【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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第49話 三シーン

「やー、今日も快晴快晴!パトロール日和だよね!」

 

 あれから二週間後、パトロール当日。

 

 緑谷は同じヒーロー事務所へインターンに行っている先輩通形とともにパトロールをしていた。敵隆盛の時とは思えないほど平和な街並みに安心感を覚えながらも、何か異常がないか最大限注意を払う。パトロールは敵のことだけではなく、困っている人を助けることも仕事の一つだ。

 

 緑谷は腕をぶんぶん振りながら隣を歩く通形の腕を体をそらして避けつつ、空を見上げる。確かに雲一つない快晴であり、そろそろ涼しくなってもいい季節であるというのに日照りのせいで暑く感じる日であった。パトロール日和というのには首を傾げるしかないが、とりあえず気分がいいということだろうと緑谷は一人納得する。

 

「サーがくるまで二人で頑張ろう!敵まみれになられるかと思うと不安だけどね!」

 

 俺たちに何かあればサー預かりになるから余計にね!と後ろ向きな発言とは逆に大きく笑って言う通形に、緑谷は苦笑した。

 

 緑谷と通形を受け入れているプロヒーロー、サー・ナイトアイは現在その個性を活用して敵連合を追っている。怪しい敵の未来を予知し、捜査を広げるというナイトアイにしかできない仕事。それの関係で、緑谷たちの下へ向かうのが遅れるらしいということを数分前に聞いていた。

 

「いえ、先輩がいると心強いです。不安なんてないですよ」

 

「そういうと思って言ったんだけどね!言わせちゃった!」

 

 タハー!と笑う通形に、またも苦笑する緑谷。通形は通形で緊張しているであろう緑谷を和ませるという狙いがあるのだが、どうやらその狙いは果たせなかったらしい。緑谷はどこかびくびくしながら周りを警戒している。

 

 その様子を見た通形は笑みを浮かべながら緑谷の頭を軽くチョップした。

 

「ヒーローが不安そうな顔してちゃいけないぜ!というかこの前はそんな感じじゃなかった気がするけど、何かあった?」

 

 通形と緑谷は死穢八斎會に乗り込む前にパトロールをしたことがある。その時緑谷は緊張はしつつもそれを周りに悟らせず、ヒーローらしく人助けをしていたのだが、今は緊張を隠せていない。

 

 通形の言葉に緑谷は痛いところをつかれたと頭を掻くと、言い出しにくそうに呟いた。

 

「敵連合がいるかもしれないと思うと、どうしても」

 

 敵連合は世間にとってもそうだが、緑谷にとっては普通の敵とは違う位置にいる敵であった。月無との関係もあり、ただ単に襲撃を受けたことも関係している。現れると何かを残していく敵連合のことを考えると、緑谷はどうしても身構えてしまうのだ。

 

 そんな緑谷を見て、通形は緑谷の頭をぐしゃぐしゃ撫で、自分を指さして快活に笑いながら言った。

 

「それこそ、俺がいると心強いってことさ。そうじゃなくてもエンデヴァーが近くにいるんだから、そんなに気負うことはないよ!適度な緊張感は大事だけどね!」

 

「……はい。ありがとうございます」

 

 白い歯を光らせて笑い、いいってことさ!と言う通形は緑谷にとって尊敬できる先輩だ。少しスベる癖はあるが。

 

 緊張を表に出すのはよくないと深呼吸しながら歩く緑谷。緑谷は困った人を見ると、敵を見るとすぐさまヒーローらしくなるが、それまでの振る舞いがおどおどしていることが多く、現在もそのパターンである。これは緑谷の人生経験に起因していて、とりあえずの課題であった。

 

 緑谷は自身の中にある緊張をとりあえず置いておき、周りを見渡す。今はちょうど人通りが多くなる時間帯であり、中には家族連れも見かけられた。ヒーロー科最高峰とも言われる雄英高校自体に抑制力があるためか、このあたりの住民は安心した顔で通りを歩いている。

 

「いいことだよね」

 

 通形は緑谷と同じ方向を見て、柔らかい口調で言った。

 

「だから、守らないと」

 

 通形とは逆に重く言う緑谷に、通形は「カッコいいな、ヒーロー!」と茶化しているのか褒めているのか微妙なラインで背中を叩いた。痛くもなく咳き込むこともない力加減は流石だと変なところで緑谷は感服する。

 

 そんなとき、緑谷はビルの下に人だかりができているのを見つけた。

 

「先輩、あそこ」

 

「ん?妙だね。何かイベントでも……」

 

 通形はビルの屋上を見て、そこで言葉を切った。それにつられて見上げた緑谷は同じく、一瞬息を詰まらせる。

 

「そういうわけじゃ、なさそうだね」

 

 ビルの屋上に、フェンスの外側に人が立っていた。ここから顔は見えないが、体格と服装から恐らく男であることがわかる。

 

「ここは俺が行った方がいいね。もし落ちたときはカバー頼むよ!」

 

 通形の個性は透過。息を止めている間は体が透け、物体を透過する。透過している状態で解除するとそこから弾き出される特性を持っており、それを利用して縦横無尽な動きを可能とする。

 

 緑谷は走り出した通形の後を追うように走り出すと、その瞬間。

 

 ビルの屋上に立っていた男が飛び降りた。ビルの下にいた人たちは悲鳴を上げて逃げていき、その場には走り出した緑谷と通形だけが取り残される。

 

 通形は飛び降りたのを見て途中で助けることにしたのか、ビルの壁を透過し、体の向きを調節して上へ上へと上がっていく。

 

「やった!」

 

 そして、落ちてきた男を掴み、救助に成功した。その成功に緑谷は思わず喜びを口にする。

 

 それが間違いであることも知らずに。

 

 今救助されたその男。いい大人であるが身長が伸びず、見下ろされること、踏まれることが嫌いであった。それとは逆に、好きなことは見下ろすこと潰すこと。そしてその男の個性は好きなことにおあつらえ向きな大化。自分と、自分から出るものを大きくする個性。

 

「ヒーローなら助けると思ってたよ」

 

 敵名はガスト。つい最近知れ渡った今警戒されている敵の一人。

 

 通形がその正体に気づいた瞬間、ガストは巨大化した。

 

 

 

 ガストが工夫してヒーローを襲撃している頃。

 

「アツそうなヒーローいるなぁ」

 

 ニュートは轟と爆豪を連れているエンデヴァーを見て、凶悪な笑みを浮かべた。燃やすのと燃えるのが何よりも好きなニュートにとって、エンデヴァーは好相性相手だった。

 

 そうと決まればとエンデヴァーの正面から堂々と近づく。エンデヴァーの後ろで言い合いをしている二人に凶悪な笑みを浮かべながら首を傾げるが、ニュートにとって上がるテンションの前ではさして気にならない要素である。

 

「クッソ、あの程度で泣きやがって……」

 

「あれはお前が悪いだろ。怖いんだよ、顔」

 

「あぁ!?怖がるなや!」

 

「俺に言うなよ」

 

 爆豪は先ほど類稀なる反射神経で事故に遭いそうになっていた子どもを救ったのだが、「危ねぇだろうが!」と叱ったところ、ものの見事に泣かれてしまったのである。反応からの助ける速さは完璧ともいえたが、助けた後がよくなかった。仮免講習の子どもとの触れ合いである程度マシになったはずだが、人間そう簡単には変われないようである。

 

「まぁ、助かったという安心感もあったのだろう。言葉遣いは褒められたものではないが、手際は見事だった」

 

 言い合う二人を見かねてか、エンデヴァーが爆豪のフォローに入る。とはいっても、最近まではファンへの対応が最悪だったエンデヴァーに言われてもというのが爆豪の内心であり、しかし基本的には優等生である爆豪は「っス」と言って頭を下げた。これでも優等生なのである。

 

 対して、エンデヴァーの実の息子でもある轟は微妙な表情で聞いていた。ここがプライベートな空間であれば、どの口がと噛みついていたに違いない。最近どこか変わったかもしれないと思いつつも、爆豪と同じく人間とはそう簡単には変われないもので、轟はいまだに父親との距離を測りかねていた。それはエンデヴァーも同じくだが。

 

 フォローを入れたエンデヴァーはそこで、前方から歩いてくる人物に気づく。真っ赤な髪に好戦的なつり目。凶悪な笑みを浮かべているのは、事実敵だからだろう。

 

「気を付けろ、敵だ」

 

 エンデヴァーは情報としてニュートのことを知っていた。そもそも、あの動画は一般人でも見ることができ、ニュースにも取り上げられたため知っていない方がおかしいのだが。

 

 エンデヴァーの注意に、轟と爆豪も身構える。二人もニュートのことを知っているため、そこに油断はなかった。

 

「こんにちは。俺の名前はニュート!エンデヴァーのファンです!」

 

 言って、握手を求めるニュート。それに応じず、エンデヴァーはニュートを見下ろして一言。

 

「目的は?」

 

「燃やして燃えること!上がってこうぜ、互いによ!」

 

 言葉とともにニュートは炎を放った。

 

 

 

 僕はエリちゃんと手を繋いで、荼毘くんと並んで雄英付近を歩いていた。とはいってももちろん変装はしていて、荼毘くんは目立つつぎはぎを隠すように、僕は伊達メガネをかけて長いウィッグを被っている。僕の顔は可愛らしい方らしく、一週間前にレベルアップを終わらせたマグ姉とヒミコちゃんにノリノリで仕上げられてしまった。「素材がいいから、あまり手を加えられないのが残念ねぇ」と言っていたのが恐怖ものである。

 

 レベルアップと言えば、既にみんな終わらせて帰ってきた。以外にも一番時間がかかったのがコンプレスさんで、曰く「地獄を見た」らしい。今日もついてきてるらしいけど、手を出さないに越したことはないと一緒に歩いてはいない。あくまで非常時のサポート、という名目でついてきている。のかな?気配がなくてわからない。

 

 僕が気になってきょろきょろしてコンプレスさんの姿を探していると、荼毘くんが僕を見てボソッと呟いた。

 

「お前、案外サマになってんな」

 

「女装が?服装は男ものだから、そこまでサマになってるとは思えないけど」

 

「いや、一目で月無だってわかんねぇって話だ。よく見りゃわかるが、それも俺たちくらいじゃねぇとわかんねぇだろ」

 

 それ、俺たちの絆は特別だってこと?嬉し恥ずかし。今ウィッグ被っていることがそもそも恥ずかしいんだけど。取っていい?取ったらバレるのか。

 

 うーん、と首を傾げていると、エリちゃんがくいくいと僕を引っ張るのでエリちゃんを見ると、くりくりした目で僕を見つめて言った。

 

「月無さん、かわいいよ?」

 

「ありがとー。エリちゃんも可愛いよ?」

 

「あれ、かわいいって言ったら月無さんが嫌がるからって弔くんが言ってたのに」

 

「え、今の嫌がらせだったの?ちょっと今の姿もいいかなって思っちゃったよ」

 

「ここまで想定して嫌がるって言ったんじゃねぇか、死柄木」

 

 それを聞いて歯ぎしりした。悔しい。弔くんの手のひらのうえで転がされている気がして気に入らない。一緒にいなくても遊んでくるってどういうことだ。僕がバカってことか。納得した。

 

 そんなことを言いながらぶらぶら歩いていると、前方に立ち止まっている一組の男女がいた。女の人は綺麗で、ヒミコちゃんというものがありながら目を奪われてしまう。ヒミコちゃんと特別な関係ってわけでもないけど。なんでだ?

 

 荼毘くんも気づいたのか、不審そうに目を細めた。不審と言えば僕たちもなんだけど、棚に上げるのが得意だからね、僕たち。

 

「おい、あれ、ナイトアイじゃねぇか」

 

 どうやら荼毘くんが見ていたのは男女ではなくその近くにいたサラリーマンらしい。ナイトアイって、確かヒーローだったか。そういえば一回会ったことあったっけ。会ったっていう印象はないけど、確かに覚えている。女の人に目を奪われすぎて気づかなかった。

 

 ナイトアイの個性上、僕たちを見られると非常にマズいのでルートを変えることにする。というか帰った方がいいのかもしれない。でも帰るって選択肢をとると下手をすれば拠点がばれるのか?厄介すぎだろナイトアイ。

 

 とりあえずルートを変えることにした僕たちは前に行くのをやめて曲がろうとすると、綺麗な女の人の隣にいた男が手をパン、と鳴らした。パフォーマンスかな?と内心わくわくしていると、わくわくできない存在が複数現れた。

 

 むき出しの脳、ちぐはぐな筋肉、身体、明らかな異形。

 

 僕らはそれを、脳無と呼んでいた。


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