【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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 ごちゃごちゃしてます。


第51話 トップ現る

 今目の前にいる包帯で目を隠し、刀を構えて今すぐ僕らを殺そうとしている人は、間違いなく先輩だった。一般的な通り名というか、知られている名前はステイン。通称ヒーロー殺し。何人ものヒーローを偽物として殺したり、再起不能にしたりしていた敵の大先輩だ。

 

 でも、今ここに先輩がいるのはおかしい。先輩は結構前に捕まったはずで、その個性も自力で牢獄から抜け出せるような個性ではないからだ。いくら先輩でも、拘束された状態から血を経口摂取するのは難しいだろう。

 

 じゃあなんで、という話になる。実はこれ、もう大体は予測できている。先ほどのバリーの発言からすると、脳無三体は職場体験のもので、先輩も職場体験の時に捕まった。ということは同じ日、ほぼ同じ時間に暴れていたということになる。そして、脳無は別にその三体だけというわけではなく、性能ならUSJのときの脳無の方が上だ。

 

 ならなぜあの三体をチョイスして、今使っているのか。回収したというのはありえない。バリーが実演したように、生み出すのは一瞬だった。バリーの個性であることは間違いない。そして、生み出されたものがバリーの意思で動くということ。これは、先輩がバリーを攻撃していないことからわかる。先輩なら、バリーのようなやつは真っ先に攻撃するはずだ。

 

 予測として、知識として知っているものを生み出し、それを操る。そしておそらくそれは記憶に起因する。バリーは知っている脳無しか生み出せていないからだ。それは先輩を生み出したことで証明されている。先輩と同じタイミングででてきた脳無というのを知っているということは、少なくともその脳無を見たことがあるということだ。

 

「記憶かな」

 

 まず個性にあたりをつける。自身の記憶を具現化する個性。もしこれが合っているのならチートすぎて嫌になる。でも、相手の力は大きめに見積もっていて損はない。舐めるよりは断然いい。

 

「轟くん、出久くん。ここは共闘といこう。あの男、バリーっていうんだけどさ、あいつが意識を保っている限り脳無とか先輩とか無限に生み出すことができる。多分ね」

 

「今目の前でステインがいきなり現れたように?」

 

 出久くんが油断せず正面の敵を睨みながら言う。敵と言っても僕じゃなくて、先輩やバリーたちのことね。

 

 出久くんのことを詳しく知っているわけではないが、出久くんは分析に長けていると思う。出久くんが一番早く僕の言葉に反応したのがいい例だ。きっと出久くんも前にいる敵の個性について考えていたんだろう。相手が襲ってきていない以上、考えるのは当然だけど。ただでさえ雄英は体育祭で有名になってるから、先手は打ちにくいしね。

 

「隣の女の人の個性は?」

 

「多分、自分のところに呼ぶ個性かな。周囲か、それとももっと範囲が広いのか、そもそも生物以外は呼べるのか、色々わからないことはあるけど」

 

 これはわかりやすかった。さっき轟くんと出久くんがいきなり現れたこと、そして二人が僕たちのところにきたこと。バリーの個性によって生み出されたものっていう可能性がないでもないけど、僕の感覚がそうではないと言っている。僕が間違えるはずがない。

 

「あー、そろそろいいか?お喋り待ってるの暇でよ」

 

 バリーが脳無を見てへらへら笑う。あれはおもちゃを見る目だ。バリーにとってはすぐに生み出せるおもちゃだろうけど、僕らにとっては最悪の凶器だ。コンプレスさんは一瞬で無力化してみせたけど、バリーがすぐ生み出せることがわかっている以上、どこから出るかわかったものではない。

 

 そういうこともあって、余裕なんだろう。恐れもなにもない脳無はいい武器で、いい盾だから。

 

「月無、あのステインは偽物ってことでいいのか?」

 

 僕の肩を叩き、そう尋ねる荼毘くん。本人も理解しながら言っているんだろうけど、聞かれたから一応頷いておく。これで先輩本人だったらごめんなさい。

 

「とりあえず、あいつをやりゃ向こうの戦力は削がれるってことでいいんだな」

 

 バリーを見ながら言う轟くん。僕が言うのもなんだけど、共闘に関しては文句ないの?現状の危険度で言えば向こうの方が高いけど、一応僕も敵だよ?後ろからやられるかもしれないって考えたりしないのかな。

 

「人徳が成せる業さ」

 

 荼毘くんと同じように僕の肩をぽん、と叩いてコンプレスさんが肩を竦めた。仮面をしているからその表情はよくわからないけど、きっとウインクをしているに違いない。コンプレスさんは気取るのが得意なのだ。気取るのが得意って言い方するのかな?

 

「よし、みんな。行け!エリちゃんは僕のところにおいで」

 

 合図を出した僕にジト目を向けながら荼毘くん、コンプレスさん、轟くん、出久くんの四人が敵のもとへ向かう。一対一の形をとるのであれば向こうは脳無が三体、先輩が一人、バリーとサミーの二人だから六体四になる。数的には不利だけど、こっちは精鋭だ。先生にだって負ける気がしない。それは嘘。

 

 エリちゃんを抱っこしながら戦況を眺める。

 

 先輩が迫る四人にナイフを投擲しながら突っ込む。先輩の個性は凝血、血液の経口摂取によってその人の動きを止める個性だ。そのため、ナイフ等の血がでる武器を多用する。先輩の前で血を見せたらしばらくは動けなくなると思った方がいい。

 

 轟くんと出久くんは先輩との戦闘経験からか、いち早く反応した。接近してくる先輩の足をとるように凍らせると、先輩がそれを避けるために前方に跳ぶ。ここで前方に跳ぶのが流石先輩と言ったところだが、ここは雄英連係プレー。出久くんが先輩を追うように跳んだ。ただし接近はせず、デコピンの風圧で先輩を攻撃する。接近戦は不利だと判断したのかな?出久くんくらいなら大丈夫だと思うけど、路地裏での印象が拭いきれないのか。

 

 風圧を受けるかと思われた先輩は、受ける直前でふと姿を消した。どこに行ったのかと視線を動かせば、サミーの近く。どうやらサミーの個性で近くに呼ばれたらしい。アポートみたいなものか?何にせよ、倒すべきはバリーとサミーのコンビで決まりだ。

 

「少し下がってろ」

 

 荼毘くんが一歩前に出て、巨大な炎を放つ。そのまま行けばバリー達を燃やし尽くしていたであろうそれは、一体の脳無に吸収される。脳無の中で一番細い脳無。僕は脳無に詳しくないからよくわからないけど、見る限り吸収の個性だろう。

 

 だが、それだけではなかった。脳無は焼け焦げた体を震わせると、荼毘くんと同じ青い色をした炎を荼毘くんに向けて放った。

 

「吸収して放出する個性か」

 

 迫る炎に焦った様子もなく、冷静に呟く荼毘くん。そんな荼毘くんを見て助けに向かおうとする轟くんと出久くんを叫んで止めた。

 

「いいよ!荼毘くんなら大丈夫!」

 

 というか、そうやって一瞬でも足を止めたら、ほら。轟くんたちが先輩に、更に黒い脳無に襲われる。黒い脳無は恐らくパワータイプだ。相手が二人とも近接タイプだから、轟くんとは相性がいいだろうけど……。というか荼毘くんを助けに行こうとするって、共闘関係守ってくれるんだね。お人よしすぎない?

 

 荼毘くんは迫ってくる炎を、炎を噴出させることで飛び、空中に逃げる。ただ忘れちゃいけないのは向こうにも飛べるやつがいるってこと。翼の生えた脳無は荼毘くんの上をとり、叩き落とすために腕を振り下ろす。

 

 それでやられる荼毘くんではない。荼毘くんは炎を噴出させて急旋回すると、一瞬で空を飛ぶ脳無の上をとった。そして脳無の背中に両手を置いた。二対の脳無は直線上にいる。

 

 直後に放たれたのは、広がる炎ではなく拳ほどの大きさを持つ貫く炎。炎というよりレーザーに近いそれは、翼を持つ脳無と細い脳無をまとめて貫いた。

 

「おー、やるねぇ」

 

 僕の隣でぱちぱち拍手するのはコンプレスさん。他三人の動きを見て「あれ、俺いらないんじゃね?」と感じて戻ってきた、らしい。働けよ。や、僕もだけど。

 

 僕の思っていることを感じ取ったのか、コンプレスさんが肩を竦めると前方を指さす。つられてそちらを見ると、凍らされている先輩と、地に沈む黒い脳無の姿があった。荼毘くんを見ている間に倒してしまったらしい。あれ、轟くんと出久くん先輩に苦戦してたよね?なんで?

 

 戦力が一瞬でやられたためか、バリーは顔を手で押さえ天を仰いだ。僕だってそうする。あんなに余裕ぶって出した戦力がこうも簡単にやられるんだから。僕だってかっこよく個性を使って参戦するところまで妄想していたのに、拍子抜けだ。どうしてくれるんだよ。

 

「いやいや、予想外だって。ステインと脳無は強いもんだと思ってたが、記憶違いだったか?しゃあねぇ、サミー」

 

「はいはい」

 

 言葉とともに、出久くんがバリーの隣に現れた。今度はバリーの個性で生み出されたものじゃなくて、さっきまで先輩と戦っていた出久くん自身。恐らくサミーの個性で呼ばれたんだろう。でも、出久くんを呼び寄せるなんてどういうつもりだ?下手したら一撃でやられるぞ。

 

「こんにちは」

 

「えっ、ぶっ!!」

 

 そんな下手したらはなく、バリーの拳をモロに顔面に喰らい、面白いくらいに出久くんの体が吹き飛ばされた。出久くんは炎を放とうとしていた荼毘くんの下へ吹き飛ばされ、意外なことに荼毘くんが出久くんを抱えるようにキャッチする。共闘するって言って共闘するような律儀な人だったっけ、荼毘くん。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「礼言う暇あるなら前を見ろ」

 

 あれ、荼毘くん先輩ヒーロー?頼りがいしかない。レベルアップで善性という善性を身に着けてきたんだろうか。荼毘くんが柔らかすぎておかしい。

 

「おーおーおー。そうか、デクくんはこういう記憶か。いや、好都合。その個性誰かのに似てるなって思ってたら、そういうことだったのか」

 

「触れた相手の記憶を見ることができるのか。万能すぎない?バリー」

 

「月無の頭も万能すぎると思うけどなぁ」

 

 呆れたように言うコンプレスさんに、そうかな?と首を傾げる。だって、出久くんを殴って、その直後に出久くんの記憶に関しての発言をしたんだ。こういう結論になるのは当然のことだと思うけど。というより今攻めなくていいの?隙だらけに見えるよ。

 

「デクくん。お前の記憶、ちょっと借りるな」

 

 そんな隙だらけなバリーがその一言とともに出現させたのは、既に引退したはずのあのヒーロー。頂点に君臨し続けていたみんなの憧れ。

 

 僕らの驚きを代表して、まだ荼毘くんに抱かれたままの出久くんが裂けるように叫んだ。

 

「オールマイト!!?」

 

 僕らの前に現れたのは、オールマイト。先生が終わらせて、先生を終わらせたヒーローがそこにいた。


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