【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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第54話 エンターテイメント

 コンプレスは懐に忍ばせてある何かを圧縮させた小さな玉を数個手で転がしながら、正面にいる敵を見た。記憶を現実に呼び出す個性。記憶さえあれば何の準備もいらず、特にわかりやすいモーションもない規格外の個性を持つのが、コンプレスの正面にいるバリーだ。

 

(勝利条件は気絶させることかね。エリちゃんがいるし、できるだけ殺しはナシだ)

 

 コンプレスは転がしていた玉を数個取り出し、指の間に挟んでバリーに見せるように掲げた。不意打ち気味にやってもいいのだが、エンターテイナー気質のコンプレスは「わざと見せつける」というマジックらしい行為が好きなのである。

 

 仮面の下でにやりと口歪め、手始めに二個高く放り投げた。

 

「さぁご注目!稀代のエンターテイナーMr.コンプレスの、種も仕掛けもあるショーをご堪能あれ!」

 

 コンプレスが指を鳴らすと、現れたのは二輪の青いバラの花。何がくるかと身構えていたバリーは目を丸くして、二輪のバラを見つめる。

 

「青いバラの花言葉って知ってるか?」

 

 コンプレスは尋ねながら銃を取り出し、バリーに向けて引き金を引いた。銃声とともに放たれたそれを、バリーは記憶から自分の正面に大岩を呼び出して防ごうとする。

 

 しかし、それは意味がない。コンプレスの銃はオーダーメイドの特別製。撃ちだしたものはコンプレスが圧縮した何かである。そして弾としてこめる以上、コンプレスは単純な強度を基準として選び、弾丸にしていた。

 

 今回現れたのは、巨大な鉄球。その鉄球は撃ちだされた勢いそのままに大岩へ直撃した。砕ける大岩に冷や汗を浮かべたバリーは回避するために走り出すが、その先にも銃が放たれる。舌打ちして記憶から呼び出すのは、突風。

 

「来る前に逸らせば関係ねぇだろ!」

 

「岩に風まで出せんのかよ。向いてるぜ、エンターテイナー」

 

 銃をくるくる回してへらへら笑うコンプレスに、バリーは笑って「お前には負けるよ」と返した。個性として優秀なのはバリーには違いないが、実際戦ってみるとあっという間にあと一歩のところまで追い詰められてしまったのだ。バリーとしては、その上手さを称賛する以外ない。

 

「そういやさ、もう一回オールマイトとかださねぇの?もしかして呼び出せる記憶には限界があるとかなのかね」

 

「どうだろうな。お前程度に出す気はないってだけかもしれないぞ」

 

 それに、とバリーは地面に落ちている二輪の青いバラを見た。

 

「バラが二輪なら、この世界は二人だけって意味だろ?お前が嫉妬しちまうかと思ってな」

 

「オシャレだな。知ってたのか?」

 

「男の子なら一度はあるもんだろ。そういうのがカッコイイと思っちまう時期がさ」

 

 所謂恥ずかしい時期である。思春期の頃にそういう時期が訪れ、神話や星、今のような花言葉など、あらゆるものをオシャレ、またはカッコいいと思い込み、更には妄想の世界に浸るまである一種の病気ともいえるもの。なまじ記憶のいいバリーは、その時期を思い出して苦い表情を浮かべた。

 

 その言葉にコンプレスは肩を竦め、銃をしまって新たに玉を取り出し、一言。

 

「俺は今でもカッコいいと思ってるぜ」

 

「そりゃ悪かった。遅めの思春期なんだな」

 

 放り投げたのは五つの玉。コンプレスの個性は重さすら小さくし、そのため所持するのにほとんど苦労がない。あるとすれば、見た目からは中身の判別ができないため、ポケットを複数用意して種類ごとにわけるしかないというところか。

 

 放り投げた五つの玉を見てバリーは再び突風を起こそうとするが、その前にコンプレスが指を鳴らした。ちなみに、指を鳴らす必要は全くなく、単なるかっこつけである。

 

「は?」

 

 現れたのは、五本のボウリングのピン。バラの時と同じようにぽかんとするバリーだったが、コンプレスがもう一つ投げたのを見てすぐに我に返るが、それより早いのがコンプレスの個性。投げ出された玉はボウリングの玉。ボウリングの玉は一本のピンに当たり、それによって弾き出されたピンが別のピンに当たり、そのピンがバリーに向かって弾き出された。

 

「お、スプリット」

 

「バカかよ!」

 

 遊びとも見えるそれに苛立ちながら、突風でピンを吹き飛ばすバリー。しかし、バカにしているように見えてコンプレスは意外に考えていた。

 

 記憶を呼び出すインターバルを狙い、バリーに向かって走り出す。走りながら玉を前方に転がし、それを解放した。現れたのは、トランポリン。

 

「また遊ぶ気かよ!」

 

「最近知ったんだ。トランポリンの楽しさを!」

 

 コンプレスは軽い身のこなしでトランポリンに飛び込み、勢いよく宙へ跳んだ。華麗に宙返りを決めてみせ、上空から玉をバラまいた。コンプレスが両腕を広げて指を鳴らすと、無数の玉が岩の雨となってバリーに降り注ぐ。

 

「いきなり真面目な攻撃してんじゃねぇよ!」

 

 バリーはコンプレスがトランポリンで跳んだ瞬間に走り出しており、間一髪のところで岩を回避する。砕けた岩の破片が脚に突き刺さるが、潰れるよりはましだと己を奮起させ、いまだ宙にいるコンプレスに向けて炎を放った。記憶から生み出される炎は、かなりの熱を誇っている。喰らえばひとたまりもないだろう。

 

 その炎を見て焦ることなく、コンプレスは圧縮させていた人が入れる大きさの真っ黒な電話ボックスのようなものを取り出し、その中に入る。見た目は脱出マジックのようで、バリーはそのふざけた見た目に頬をひきつらせた。

 

 だが、このボックスはふざけたものではなく、あらゆる衝撃や熱などから身を守れる核シェルターに近いものである。作られた経緯は「ショーに使えるボックスが欲しい」というふざけた理由からだが、その性能は抜群。死柄木に「お前が強くなったんじゃなくて、アイテムが強いんだろ」とまで言わせたほどだ。これにはコンプレスも頷いてしまった。

 

 コンプレスがボックスに入った直後、炎が襲い掛かる。ボックスがその性能を最大限に発揮し燃えることはなかったが、扉から少しだけ漏れてきた熱と、落下の衝撃を受けてコンプレスは苦痛に顔を歪めた。

 

 いつまでも入っていてはいつの間にか追い詰められてしまう事態になりかねないので、コンプレスはすぐにボックスから脱出した。普通に出ては脱出ショーっぽくないので、ボックスの中に数個玉を転がし、圧縮させていた発煙筒を出して煙とともに脱出する。

 

「そろそろ種も無くなってきたんじゃねぇか?」

 

「冗談。エンターテイナーの種は尽きないのさ」

 

 言いながらコンプレスは距離を詰める。色々遠距離から攻撃をしていたが、なんだかんだで一番手っ取り早いのは直接触れて圧縮することだ。そのことを理解しているバリーは種が少なくなってきたからだとあたりをつけ、愉快そうに笑いながら炎を呼び出す。コンプレスの種が有限なのに対し、バリーは意識か記憶を失わない限り武器は無限に用意できる。

 

「反則だよな、それ」

 

 炎に晒される寸前、なおも笑いながらコンプレスは地面に手をつけた。コンプレスの圧縮は、壁や地面などに対しても例外なく使用できる。触れた地面は個性によって圧縮され、それによってできた穴に飛び込んだ。

 

「モグラかよ」

 

 バリーは鼻で笑って、コンプレスが出したボックスに向かって走り出した。足音をごまかすため拳と同程度の大きさの石を落としながら、煙を吐き出し続けているボックスの下へ向かう。触れられてはひとたまりもないため、目くらましにはちょうどいいと考えての事だった。途中でボロボロにされているオールマイトが目に入り、少々驚きながらも個性で元に戻す。

 

 傷がない状態のオールマイトの記憶があれば、その再現によって元に戻すことが可能なのだ。バリーは雄英生と月無の絶望する表情を想像しながら悪そうな笑みを浮かべた。

 

 そんな中、コンプレスはモグラのように移動はしておらず、穴からスタングレネードを放り投げた。様々なものが出てくるその様は、さながらびっくり箱である。

 

 スタングレネードを見たバリーはコンプレスが出したボックスの中に逃げ込み、扉を閉じた。炎を防ぐならば閃光や音も防ぐはず。その考えは当たっており、音は聞こえるものの閃光は完全に遮断されていた。外の音があまり聞こえないのは出るタイミングが難しいためそのあたりが欠陥だな、と煙で咳き込みながらどうでもいいことを考えつつ外に出ると、目の前にはコンプレス。

 

「軽くホラーだな、オイ!」

 

 伸ばされた手をはじき突風でよろけさせた後、蹴りを放ってコンプレスを吹き飛ばす。今までの身のこなしを見ていたバリーはあっさり攻撃を受けたコンプレスに違和感を覚えるが、成功したからいいかと違和感を振り払い、炎を呼び起こそうとした。

 

「敵の手を借りるのは気が進まないが」

 

 その時。背後から聞こえた声に思わず振り向くと、目の前には押印。

 

「感謝しよう、Mr.コンプレス、そして敵連合。私だけではやられていた」

 

 サー・ナイトアイ。数分前にコンプレスが圧縮したプロヒーロー。ボックスで煙をたいた時、圧縮していたナイトアイをボックスの中に転がしていたのだ。

 

 バリーの頭が押印によって弾かれ、強い衝撃に脳が揺れる。遠のきそうになる意識をなんとかつなぎとめ、無事な自分の姿を思い出して揺れる脳と遠のく意識をリセットしたときには、視界が暗くなっていた。

 

「人は考えているときと安心したときに油断するものさ。エンターテイメントはその緩急が大事なんだ」

 

「覚えておくよ、Mr.コンプレス」

 

 圧縮したバリーをナイトアイに投げ渡し、得意気に語る。別に最後バリーに蹴り飛ばされたあの時に圧縮はできたのだが、面白さを優先してナイトアイを解放した。プロヒーローを解放するのは敵であるコンプレスにとってはマズいことでしかないのだが、このあたりがコンプレスの悪い癖である。

 

「よかったのか?私を解放して。お前たちなら私の個性くらい把握しているだろう」

 

「予知だろ。別にいいさ。何かを変えようとしている俺たちが、未来を見られんのを怖がってどうするんだよ」

 

 それにさ、とコンプレスはいつの間にか回収していた二輪の青いバラの花をナイトアイに見せた。

 

「青いバラの花言葉は奇跡なんだぜ」

 

「……なるほど、洒落ている」

 

 ナイトアイは薄く笑みを浮かべると、押印を取り出した。今までは協力していたが、その相手がいなくなった以上完全なる敵同士。見逃すはずがない、が。

 

 ナイトアイはオールマイトが消えてなぜかハイタッチしている敵同士なはずの月無、緑谷、轟の三人、正確には緑谷が背負っている少女を見て押印をしまった。

 

「おや、やらないのか?」

 

「あぁ。保護対象がいて、月無凶夜という脅威がいる以上焦って戦う意味もない。行動はともかく、話がそこそこ通じる相手でもあるようだしな」

 

「……なるほどね」

 

 コンプレスはナイトアイとともに三人の下へ歩きながらぽそりと呟いた。

 

「俺たちがすぐに逃げなきゃいけないってわかって言ってんだろ、それ。やだなぁもう」

 

 コンプレスは空を飛んでくるエンデヴァーと爆豪、なにやら不思議な高速移動をする通形を見て大きくため息を吐いた。ポケットの中の携帯で黒霧に「いつものピンチ。頼む」と連絡しながら。




 ちなみに、ナイトアイを解放したのは『この世界は二人だけ』への裏切りというエンターテイメントも理由の一つです。

 ついでに、ニュートとガストの戦闘シーンは書きません。恐らく。

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