【完結】僕の『敵連合』   作:酉柄レイム

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第56話 くんとさん

 帰ってきてからしばらく後。

 

 僕は正座していた。理由は言うまでもなく、嘘とはいえ一度突き放したことである。エリちゃんは椅子に座って足をぶらぶらさせ、口の先を尖らせて私拗ねていますアピールをこれでもかというくらい僕に見せつけてくる。今まで数多くの弾劾を受けてきたが、今回のはめちゃくちゃ効く。いや、僕が悪いんだけど。

 

「えっと、エリちゃん。ほんとにごめんね?同じ仲間なのに、ひどいことしちゃったって思ってる。反省してます」

 

「……」

 

 先ほどから何度も謝罪の言葉を口にしているが、エリちゃんは変わらずつーんとするだけだ。正直可愛いが、それを言うと尚更拗ねてしまうというか、怒ってしまうのでぐっと飲み込んでおくことにする。あとヒミコちゃん、エリちゃんの頭を撫でるのやめてほしい。更に可愛すぎて我慢できそうにない。僕は本当に反省しているのか?

 

 まったく動かないエリちゃんと小さな女の子に正座をして謝罪をしている僕を見かねてか、コンプレスさんが圧縮したものを整理しながら僕の味方についてくれた。

 

「月無もエリちゃんを想ってやったんだ。客観的に見れば敵にならない方がいいってのは常識だからな」

 

「でも、月無さんは敵だもん」

 

 エリちゃんは僕をじとっと睨んだ。それは、なんだ。僕が敵だから敵がいいってこと?己惚れてもいいのかな。というか僕の謝罪は無視してコンプレスさんには返事するのか。仕方ないとはいえなんとなく悲しい。

 

 エリちゃんの言葉にコンプレスさんは圧縮したものを懐にしまって、肩を竦めた。

 

「そこを履き違えちまったのさ。エリちゃんにとっての幸せは敵連合で、月無から見たエリちゃんの幸せは表で光に当たって生きること。ここはすれ違ってしまったってことで、許してやってくれないか?」

 

 優しい口調のコンプレスさんに、エリちゃんは俯いてしまった。エリちゃんは賢いから、今言ったこともわかっていたとは思う。それでも子どもだから割り切れないことがあるんだろう。理解はできても納得するのかと言われれば、そういうわけでもない。

 

 黙ってしまったエリちゃんに、今度は意外……といってもいいのかな?弔くんが僕の頭を小突きながら話しかけた。実は子ども好きになってるでしょ。

 

「こっちが不幸ってわかってるから言ったんだ。にしたってアレはないと思うが……オイ月無。例えば俺がお前に敵は向いてねぇって言って、ここから追い出したりしたらどう思う?」

 

「舐めんなって思う」

 

「そういうことだ。エリを舐めるな」

 

 見上げる僕に、弔くんはニヤリと笑ってみせた。何にか知らないけど負けた。エリちゃん好きすぎでしょ弔くん。親かよ。

 

 俯いていたエリちゃんは顔をあげて、椅子からぴょんと飛び降りて僕の下へ歩いてきた。ほぼ同じ目線で歩いてくるエリちゃんにどことなく違和感を覚えながら、許されたわけではないのでもはや感覚を失ってきている脚を意識の外に追いやりつつ、エリちゃんを待つ。

 

 僕のところにきたエリちゃんは背を向けて、僕の膝の上に座った。ほとんどいつも通りの光景だが、今はそれに脚のしびれがプラスされている。意識の外にやったはずのそれがすぐに僕の意識へただいましてきた。多分エリちゃんはわかっててやってる。こういうねちっこい攻めは誰に似たんだ。絶対弔くんだ。

 

 エリちゃんは完全に体重を僕に預け、僕の手をにぎにぎしながらぽつりぽつりと話し始めた。

 

「別に、そんなに怒ってない。でも、やっぱりヤなの。月無さんが一緒じゃないところを想像するの」

 

 きゅっと手を握る力が強くなった。そのままエリちゃんの意思に従って腕をエリちゃんを抱くように回す。

 

「私を敵にしたくないのって、万が一を考えてるからだよね。月無さんが、敵連合がなくなるっていう、万が一」

 

 本当に六歳なのか?賢すぎない?もっと子どもらしく考えてもいいのに。僕が言えたことではないだろうけど。僕がエリちゃんくらいのときは先生と一緒にお勉強の毎日だったしね。今のエリちゃんより子どもらしくなかったと思う。や、エリちゃんは十分子どもらしいけど。

 

「それが悲しいから拗ねてたの。私は、みんなと一緒の未来以外考えたくない。みんなと一緒がいい。だから、二度とあんなことは言わないって約束してくれるなら、いいよ」

 

「約束します」

 

「即答は嘘っぽいぞ」

 

 うるさいぞ弔くん。僕みたいな人間は差し出された手に弱いんだ。時と場合によるけど。

 

 僕の即答にエリちゃんはくすりと笑うと、腕を解き、膝の上から降りて振り向きながら言った。

 

「うん、信じるね。凶夜さん」

 

 花の咲いたような綺麗で可愛い笑顔にくらっときつつ、ふとエリちゃんの言葉を頭の中で繰り返してみる。

 

 ……、凶夜さん!?

 

「エリちゃん、名前!」

 

「距離が縮まったということを表現してみました。どう?」

 

「弔くんはくんづけなのになんで僕はさんなの!弔くんの方が距離近い感じがしてズルい!」

 

「そこは嬉しいとかありがとうとか言うもんだろ。ブレねぇなお前」

 

 呆れたように言う弔くんがムカついたので足払いをかけた。避けられて痺れている脚を蹴られた。どこまでも上を行くつもりか!喧嘩の勝ちくらい僕に譲れよ!

 

「幼くともレディはレディということか。やはり愛は偉大だね」

 

「エリちゃんが大きくなるのが楽しみね。その前に私が頂いちゃうかもだけど!」

 

 なぜか仲良さげに話すジェントルさんとマグ姉の会話は聞かなかったことにした。

 

 

 

 エリちゃんに許してもらった後。

 

 僕は弔くんの部屋にきていた。なにやら複雑そうな表情で呼ばれたので何事かと身構えているが、一体何の話だろう。多分ろくでもないことだ。

 

 弔くんは暇そうにしている僕を横目に、何かの資料を取り出した。難しい話はやめてほしいんだけど、見もせずに拒否するのはよくない。偉い僕はその資料を弔くんの許可を得ず覗き込んだ。見ちゃだめなことはないだろうし、まぁ怒られたらそのときはそのときだ。

 

 そんな軽い気持ちで見た資料には、最近知った人の写真が載っていた。ニュート、ガスト、バリーの三人である。

 

「あれ、この三人がどうしたの?」

 

 もしかしたらスカウトするという話だろうか。だとしたらもう捕まってるだろうから無理だと思うけど。黒霧さんが頑張ればまだチャンスはあるのか?でもどっちにしろ無理だ。黒霧さんのワープゲートから出た瞬間捕まる自信しかない。

 

 きょとんとする僕に弔くんはため息を吐いた。

 

「いや、一応だ。こいつら、お前に関係する敵だから妙なこと考えてないかと思ってな」

 

 ニュートとガストは前に説明してくれた通り僕の家を燃やし、僕がいた施設を潰した敵だってことは知ってるけど、バリーも?どんな確率だよ。世界は僕のことが嫌いなのか。……もしかしてバリーはあのときの強盗?あの頃の記憶はほとんど吹き飛んでるから覚えてないけど、だとしたら奇跡すぎる。

 

「妙なことって?」

 

「復讐とか、そういうやつだ。その様子を見る限り考えてないみたいだな」

 

 うーん、復讐といってもあんまりピンとこないし。あの頃の僕は本当に僕が悪いことがほとんどだったし、誰かを恨むこと自体がおかしい。僕がいなければみんな死ぬことはなかったんだから。というか、もう捕まってるから復讐も何もない。

 

「大丈夫だよ。前も言ったけど、あれは僕が悪いんだし。なんか僕より気にしてない?」

 

「もうそろそろデカいことやるって時に、精神が不安定になられちゃ困るからな」

 

 デカいこと?なんだそれ聞いてないぞ。また僕だけ仲間外れか?

 

「いや、これはまだ誰にも言ってない。やるとは言ったが計画段階だ」

 

「僕何も言ってなかったんだけど。思考覗く個性でも持ってるの?」

 

「顔に出やすいんだよ、お前」

 

 そんなはずはない。僕は演技派だ。僕以上にポーカーフェイスが上手な人はいないだろう。まぁ敵連合内でポーカーフェイスをやったことはないんだけど。だからバレたのか。納得した。

 

 納得した僕がバカそうな顔だったのか、弔くんは小さく笑って説明し始めた。

 

「お前の働きが思った以上によくてな。今世の中に多くの種が蒔かれている」

 

 僕働いた覚えないけど。何かしたっけ?大体みんなのおまけ扱いでちょこまかしていた記憶しかない。役立たずかよ。

 

「デカいことってのは、その種を蕾にすることだ。花を咲かせるのでもいい。そこで刻み付けるんだ。俺たちを、敵連合を」

 

「一発屋の犯罪者では終われないからね。何せ勝つんだから」

 

「あぁ、ヒーローは必ず勝つって言うからな」

 

 あれ、それじゃあ負けるじゃん。僕たち敵じゃん。向こうヒーローじゃん。弔くんはそんな簡単なこともわからなくなってしまったのか。

 

 そんな僕の考えを察してか、弔くんは小さく笑ってから僕を指さした。

 

「月無はヒーローらしいからな。勝てるだろ」

 

「……なるほどね」

 

 ヒーローが背負う負けられないっていう感覚は、こういうもののことを言うのか。や、ちょっと種類は違うんだろうけど、背負うっていう意味では一緒な気がする。何せ、大げさに言えば僕たちは未来を背負ってるんだから。

 

 僕たちの目的。正義とは何か。第二第三の僕が現れない社会に。

 

「詳細はまた全員で話し合おう。中心はお前に決めてるけどな」

 

「僕そういうの緊張するタイプなんだけど」

 

「嘘つけ。テレビ出演経験あるやつが言っても説得力ないぞ」

 

 出たくて出たわけじゃ……いや、出たくて出た記憶があるぞ。先輩のときは自分からカメラの前に行っていた気がする。そういえば今回もカメラきてたし。これ以上変な方向で有名になりたくないんだけど。敵になっているからそれは無理か。

 

 実は今回回されていたカメラの映像が放送された後、思っていたよりも意外なことになるのだが、それはまた少し後の話。

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